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久遠の神話

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第五十五話 刃の使い方その十八

「これで消えさせてもらう」
「機会があればまた会うがな」
「今はこれで終わりだ」
「なら消えろ」
 加藤は怪物に素っ気無く返した。
「看取ってはやる。潔く消えろ」
「看取るのか」
「倒した相手を看取るのは戦った相手へしなければならないことだ」
 それは絶対にだというのだ。
「礼儀と言うつもりはないがな」
「それでもか」
「看取ってやる、早く消えろ」
 こう言ってそしてだった。
 ゲーリュオンは加藤が見るその中で全身から割れ目から噴き出す様にして白い光を放った、それが瞬く間に全身に及び。
 その姿を消した、そしてだった。
 後に残ったのは黄金の棒の束だった、王はその黄金を見て二人に言った。
「三分の一ずつだね」
「富の為に戦っているのではなかったのですか?」
 スペンサーは王の今の言葉に対して問い返した。
「それでもですか」
「私一人で倒した訳ではないからね」
 だからだというのだ。
「ここは三分の一ずつでね」
「山分けということですか」
「私は確かに富の為に戦っているよ」
 このことは王も否定しない。
「けれどそれだけにこうしたことはしっかりとしないとね」
「後に残りますか」
「お金はしっかりとしないと余計な揉め事の種になるから」
「それはですか」
「守るよ。私の今の取り分は三分の一だよ」 
 それだけでいいというのだ。
「それで十分だよ」
「ここで最低でも半分と思いましたが」
「労働に相応しい分でいいよ」
 それで満足すべきというのだ。
「それ以上取ると後に残るからね」
「富を欲するが故にその厄介さもご存知ですか」
「金銭絡みのトラブルは多いからね」
「わかりました。ではここは三分の一ずつですね」
「そうだね。それじゃあね」
「貴方もそれでいいでしょうか」
 スペンサーは加藤にも顔を向けて問うた。
「三分の一ずつで」
「俺は金のことは二の次だ」
 戦い倒す、それからだというのだ。
「だからいい」
「そうですか。それでは」
「ではな」
「はい、それでは」
 こうして黄金の取り分は決まった、三人で三分の一ずつ取りこの話はこれで終わった、そしてそのうえでだった。
 王は二人を見てこう言った。
「再戦は無理だね」
「三人共力を使い過ぎましたね」
 スペンサーが応える。
「でしたら」
「なら今日はこれで終わりだね」
「はい、それでは」
「ならこれでいいよ」
 王は淀みのない笑顔で述べた。
「ではもう解散だね」
「解散ですか」
「後日再戦と言おうかな」
 とにかく今は戦わないというのだ。
「とにかく三人共力が尽きたら後は剣での殴り合いだけれど」
「下らない戦いだな」
 加藤はそうした戦いには興味を見せずこう言った。
「どうでもいいものだ」
「君は戦えればそれでよかったんじゃないのかな」
「戦い方がある」
 美学めいたものを出しての言葉だった。
「そんな戦いには興味はない」
「そういうことなんだね」
「そうだ、では俺は帰る」
 また踵を返してはいないがもう心はそうなっていた。
「今度の機会にだな」
「会えばその時に」
「倒す」
 こう言ってそうしてだった。
 加藤はその場を後にした、後の二人も。
 スペンサーもこう王に言った。
「では私もこれで」
「今はだね」
「はい、これで失礼します」
「何か予定とは随分j違ってるけれど」
「帰って夕食にします」
 微笑んで言うことだった。
「日本の食事を楽しみます」
「日本の食事ね。あれもいいね」
「和食はお好きですか」
「美味しいものなら何でもね」
 好きだと答える王だった。
「だから和食も食べるよ」
「そうですか」
「料理人だしその研究は欠かしていないよ」
 そうした意味でも食べているというのだ、料理人にとっては食べるということ自体が仕事の一環になるのだ。
「そうしてるからね」
「料理人ですか」
「広東料理のね。よかったら今度店に来るといいよ」
「丁度収入も入った」
 加藤は黄金の棒を持ちながら言った。
「店の名前を教えてくれるか」
「子美というんだよ」
「杜甫の字ですね」
 スペンサーはその店の名前からすぐに答えた。
「いい名前ですね」
「そうだよね。中華街にあるからね」
 来るといいというのだ。
「待ってるよ」
「では時間があれば」
「行かせてもらう」
 二人はそれぞれ王に言った、そしてだった。
 今は黄金の棒をそれぞれ持って戦場を後にした。何時の間にかスフィンクスも姿を消しており後には誰も残っていなかった。


第五十五話   完


                     2012・1・7 
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