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SecretBeast(シークレットビースト)

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本編 第一部
三章 「真心の隣に友情はあったりする」
  第十三話「授業風景 『力比べ』」 

 この学校は、夏休み、自己管理ができてないで遊びほうけてる生徒に渇をいれるために毎年実施されている夏休みの一回だけの登校日というのがある。
それだけじゃない。
 このゆとり教育の時代にいまだに詰め込み式の勉強をしている数少ない学校だ。
 教科書は参考書のように分厚く。参構文的で、必読が指定されている著作が、各教科に三十冊はある。ノートをとるといえば一つの強化ごとに十冊のA4ノートが自然と出来る。この高校は高校の勉強範囲にさらに大学の入門講座まである。
 学校側は、大学がどんなところかもしらずに大学入試をさせるなど、先生として責任のとれない行為だ、と主張するからだ。
 しかし、だからこそ勉強には厳しい。この学校の初めの一学期は小学一年の勉強から始まる。まあ、勉強スピードは恐ろしく早い。一年で小学一年から、高校一年まで、とにかく反復練習で頭より体で覚えていく。
 この学校では分からないという言葉は使わせてくれない。
 なぜなら、学校は二十四時間体制で生徒の補習を受け持っている。さらに低い成績を隠している小賢しい生徒には、ランダムで手痛い抜き打ちテストがある。これにA判定という学校が定めた水準をいかないものは強制的に補習をさせられる。
 もちろん親御さんには電話がしっかり入ってるし、付近の生徒の下校は、学校が推進している、登下校ルートのパトロールが各派出所から、二時間交代で30分刻みで行われている。逃走は無駄なのだ。
 逆にそのおかげで学校に入学と同時に第一期で各クラスすべての生徒の平均点は上昇している。これに一つの例外もないからすごい。しかし入学試験はかぎりなくゆるい、たとえ一点しかとれなくても第二次試験、第三次試験、それぞれ一ヶ月の猶予が与えられ、合格点数もだんだんに低くなる。第三次試験などは小学一年生の問題しか出ない。学校は入学試験などしたくないのだ。
そして、どの生徒も塾にいくということを必要としないせいか、自然と、生徒の間で友達ができやすく。放課後かえって部活に打ち込めたり、友達と楽しく遊びの約束などしながら楽しげに下校する。制服はけっこうしっかり選ばれた、かっこいいというのが学校の特徴で入学したいと思う生徒はあとを絶たない。
 入学意思さえあれば校長との面接で一発で通ってしまうこともある。それもそのときの成績は、面接となると高ければまあ、校長にほめられるくらいだが低くても校長はちゃんとその生徒を見てくれる。親が、どうしてもとかそういうふうに親にながされて来た子もここで少し心が変わる。校長は、親など眼中にない。面接というよりは談話だ。好きなゲームは?なんて質問さえとびだす。この学校は厳しいが自由なのだ。

賢治と伊佐のクラスはいつにもまして活気があった。
「はーい、女子と男子は別れて、グループを作ってください。種目は重量挙げです、一人がバーベルを上げて、一人が記録係をします。交代で、三セットやりましょう。みなさん、重量上げはとても危険度の高い競技です。ですが、夏休み前の準備期間で相当みなさんのレベルは上がっているはずです。本校は体育教科を、青少年の健全な育成に当ててるから、体力はある程度の水準まで上げてもらいます。大丈夫です。こう見えても私はスポーツインストラクターですから、指示にちゃんと従っていれば事故は起きません」
体育の石塚先生は、とてもスタイルのよい美人の先生なのだが、怒るとめっちゃ怖い。
「なあ、賢ちゃん、コンビ組もうや」
「ああ、漫才の勧誘じゃなければな」
「ちっ、さすがは賢ちゃんや察しがいい」
「それにしてもおまえ、体操着着てると結構体なよなよしいな、まるで狐みたいだぞ」
「えっ、賢ちゃんまさか、わてのこと覚えてて・・・・・・」
「なに言ってるんだ、同じクラスメイトなんだから覚えてて当たり前だろ」
「賢ちゃん、わてはな、賢ちゃんに恩返ししたいんや。豊村はんのことでなにやらもめてるなら力かすで?」
「え、お、おいなんで伊佐のことを」
「さーて、重量挙げかーわては瞬発力はあるんやが、どうもパワーが足りないやなー。まーもともとそういう動物なんやけど」
「は、高ちゃん、動物?」
「あー、気にせんでな、ほら、言葉のたとえやから人間かて動物やろ?」
そんなときだった。女子のほうで喚声が上がった。
大橋 明日香が、この学校の一番重い300kgを片手で木の枝でも持ち上げるように持ち上げてるのだ。
「大橋 明日香やな、あいつ、よう分からんけどめちゃくちゃ怪力なんや水泳部で運動神経は、いいんだがあれはなんか人智を超えとるよ、なあ賢ちゃん。ま、でもあのスポーツウーマンなショートヘアに背の高い巨乳で水泳のおかげで日焼けして黒豹みたいな美人やからな、あれは男としてたまらへんわー」
「おい、いいからおれの記録とってくれ」
「はいはい、えーと、ふむ、夏休みまえまでは180キログラムかなんやけっこうすごいやんけ」
「いいか、一度しかやらんぞ、おれはあまり実力を他人に見せたくないからな」
「うん、って、それは300kgの!」
藤沢は、明日香ほどではないが、両手でうまく重さを制御して上げてしまった。
「よし、記録したな」
するとそっとバーベルを置く。
「恐ろしい男やな、そういやなんかやけに筋肉質やなと思ったらなんや夏休み、なにか鍛えてたんか?」
「まあな。あれは地獄だったよ」
つづいてまた女子の方で喚声が上がる、豊村伊佐が250kgを軽々と上げたからだ。
「おいおい、まあ豊村はんなら、あれくらいやるとはおもったやけんどなー、内の女子は筋肉質でもないくせになんであんな怪力なんや?」
「まあな、それにしても大橋だっけ、あいつすごいな300kgでもまだまだ余裕って感じだったぜ?」
「あいつは、体が中国雑技団並に柔らかくて、怪力なんや、アトムなんか目じゃないんだぜ?」
 豊村伊佐のグループのほうでも結構盛り上がっている。
「伊佐さん、すごいですね、なにか体を鍛える運動をしているんですか?」
「ああ、家は天拳流古武術の道場なんだ」
「て、天拳流といえば武術界において無敵とされる流派じゃないですか」
「へえ、友ちゃんは、武術にくわしいんだな」
「これくらい常識ですよ。私も同じ武術家ですからもっとも私のは剣道ですが」
「へえ、どれくらい強いんだ」
「段位9段、もうすこしのところで伝説の十段になれたんですがね。わたしは少し甘いところがあって」
「へえ、それって凄いていうか十段なんて歴史上数えるくらいしかいないぞ?」
「私、片手上段が得意なんです、とっても難しい構えって言われるんでけど、私はそう構えると肝が据わるっていうか」
 桜花 友恵は、日本的な美少女である。おかっぱの前髪に後ろで髪を一まとめにしてサムライ風の髪型、姿勢がよく身長も高い。つつましく凛とした日本女子である。
「おーい、豊村―、おめえ、すげえじゃん。250㎏だぜ?それもあんなかるがるとその体でどうやってんだ」
「おお、明日香か、おまえだってすごいじゃないか300kgだって?おまえこそ、なんだか桁外れな怪力じゃないか」
「あんまり怪力怪力いわないでくれよ。なんか、男子に話しかけると引かれるんだよ、まあ、なんつーかおまえは仲間だ」
「お、おお」
「そして、入学当初からのライバルだな」
「え、なに?」
「知らないのか、宿敵と書いて親友と呼ぶじゃねえか」
「いや、入学当初はというか明日香にライバル心を抱いたことなんてないぞ」
「おい、入学当初の初の体育でマラソンで接戦したじゃねえか。って覚えてねえのか」
「すまんな、わたしは周りにあまりに執着しないのでマイペースにただ走ってただけなんだ」
「なん・・・・・・だと・・・・・・?じゃあ、あのマラソンでの私を追い抜いての一位入賞は意識してやったことじゃないというのか?」
「ああ、マラソンなんて、要は自分との戦いだろ?私は、いつも毎日一万キロは走ってるから、あれじゃ、運動したうち入らなくてな、つい、百メートル走のように走ってしまった」
「馬鹿・・・・・・な・・・・・・?一万キロだと?どんな体力してるんだ」
「だが、明日香が私をライバルというなら、いいだろう。私に打ち勝って見せろ。いっておくが、私は、運動でもなんでも妥協をしたことがないぞ?」
「ぐ、ぐう!今わたしの前にいる。この女がとてつもなく大きく見える。わたしは倒せるのか?こんな魔王を?」
「はっはっは。やあ、明日香よ。ただ勝負したのでは面白くないなあ?なにか賭けてみるか?」
「く、面白い。じゃあ今日のお昼代をかけて勝負だ」
「ほう、すまないな。わたしは弁当を自分で作ってくるのでお昼代なぞ、もちあわせていないぞ?」
「なにーこいつ完璧超人かー。じゃあ、あんたは弁当。わたしはお昼代を賭けよう」
「いいだろう。種目は?」
「ふふ、もちろん。重量上げに決まってるじゃないか?さて、大口叩いた割りに250kgなんて貧弱だな」
「ああ、私は、自分でも力の加減をしないとどこまでもいってしまうのでな?じゃあ、ちょっと本気をだそう。先生、300kgにもう300㎏乗せたいのですが?」
「おいおい、だから300㎏のしかないって」
「大丈夫です、300㎏を二つ用意してくれれば」
「ば、馬鹿をいうな!二つ一緒なんてどんな危険なことか分かっているのか、それはもう重量上げという種目ではないぞ」
「まあ、見ててください。石塚先生は、もとオリンピック選手ですよね。教えてあげますよ。ほんとうの体の使い方を」
カチーン!石塚の中でなにかが切れた。
「ほう、豊村はスポーツなどお遊びに過ぎないというのか?いいだろう。あげてみせろよ。いっておくがその程度では私は驚かん。わたしは、選手を辞めてからも鍛錬をし続けた。いっておくが私の専門の体操では、おまえでも敵わない自負がある」
「ふふ、見ていてくださいよ」
豊村は、300㎏を二つ、一つづつ片手で軽々と上げて見せた。それも、人差し指と親指ではさんでいるだけだ。
「おい、明日香これよりも凄いものを見せてくれるんだろうな」
「ああ、おまえがここまでやるとはな、だがまだ私のほうが上だ。私は専門家に調べてもらったとき、普通の人間の筋肉構造をはるかに超越した強度を誇るらしい。でそれでわたしも、頂上を目指したとき、自分でも果てしなすぎて、止めたんだ。みろ、これが私の80パーセントの力だ」
そのしなやか黒豹のような日焼けした肉体が、校舎のそこに手を入れた。すると校舎は、基礎をそっくりくっつけたまま、垂直に浮き上がった。ふつう、こんな重量のものを持ち上げたなら、掴んだ間逆のところは、浮き上がらず、物体は傾くはずだ。だが校舎は平行のまま、垂直に持ち上がっていく。
「おお!校舎が持ち上がった!」
「よっと!」
ズズーン!校舎は、明日香の肩まで上がったとみるとそれをひょいともと合ったところに下ろした。造作もないという感じである。アクションが巨大すぎて、彼女の体が運動系女子と言ってもありえない。このしなやかな肉体美をほこる女の子のどこにそんな力が。
「どうだ、私は、これでまだ80パーセントだ。だが、本気になったら自分でもどこまで行くかわらねえんだ。さて、勝負を続けるか?豊村?」
しかもこれで80パーセントとかどこかの妖怪みたいなことをいってても彼女の体は女性らしいしなやかさをたたえている。
「うん、すごい、まるで漫画をみてるみたいだ。私以外にもこんな凄い奴が、よし今日のところは、私の負けだ。だが私もまだ本気はだしてない。あらためてライバルと認めよう」
「はっは、なんだ、結構素直に負けを認めるんだな。よしだがこれでお昼代が浮いたな。みんな、帰りになんかおごってやろう!」
「あれえ、明日香。水泳部はいいの?今夏だから追い込み凄いんでしょ?」
「あ、やっべえ。豊村、すまん私、水泳部なんだ。まあ、おごりはまた今度で」
「ああ、いいぞ。楽しみにしてるよ」
「あ、あの伊佐さん。帰りに私の部活覗いて行きませんか?」
「ん、友ちゃんは剣道部だっけ。なんで?」
「その、あのたぶん、わたしの勘なんですか、伊佐さん、剣道でも私と張り合えるくらい強い気がしてきたんです。わたし、今、わたしと互角か、それ以上の相手との真剣勝負を相手がいなくて、しにくくて。もう、わたしと力量の互角のひとは少なくなっちゃって」
「私でいいのか?うーん剣道か、やってみたことないからな」
「他流試合でもいいんです。私と試合してください」
「よし、いいだろう!存分にやろう」
「はい!」
「はー、女子はいいのー。なあ、賢ちゃん、でも高ちゃんはあの豊村はんと恋人同士なんやなー、なんかわて、昔のことを思い出すわー。神社に来てくれた。可愛い女の子がわての寂れた神社に結構上等なお稲荷はん差し出してくれてなー、あん時は、涙がぽろぽろでたもんだよー」
「へーなんだ、高ちゃんは、実家が神社なのか?」
「えー、ああー!いや、ま、まあな、でも実家は大阪やし、賢ちゃんを招待できないのが心苦しいやわー」
「お稲荷さんってことは稲荷神社だよな?それにしてもおまえって狐みたいな、顔してるよな。細目でニコニコしてて、妙に鼻が高いんだよなー。なんか昔助けた。狐のこと思い出すんだよなー」
「へへー、狐かいな、どこで助けてやったんや?」
「ああ、あの時、ちょうど大阪の方に親父が出張で家族で引越ししたんだよ。一時的にな。だから関西弁はけっこう懐かしいんだよなー」
「そうかー、きっとその狐さんは、ものすごく恩に思ってるでー、しってたか?狐ちゅーのは、けっこう義理がたいんや。人間に恩を作ったなら化けてでも恩返しするもんなんやでー。最近では数もめっきり減ってのー。じゃから、命を助けてもらったらどこまでも着いてって恩返しするんや」
 そうして体育は終わった。石塚先生は最後の号令の時、真っ青になっていた。明日香がやらかしたことがいまだに信じられんのだ。
 校舎のほうでも大きな地震があったと騒ぎになっていたくらいだ。

 
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