八条学園怪異譚
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第四十四話 学園の魔女その二
それで昼食の後すぐに大学に入った、そしてそこに行くと。
美術学部の校舎は文学部の校舎の隣にあった、場所は普通だ。
だが愛実はその校舎の前で聖花に真剣な顔で言った。
「青木先輩から今連絡があったけれど」
「携帯のメールね」
「ええ、すぐに行くって」
「先輩部活は?」
「今日ははじまるのが遅くて」
時間があるというのだ。
「行けるっていうから」
「じゃあ先輩も入れて」
「混ぜるな、危険ね」
まるでトイレの洗剤の様な扱いだった、二人になると。
「まさに」
「ええ、だから気をつけてね」
「行くべきね」
「本当にどんな先輩なのか」
「凄く不安ね」
聖花も真顔で愛実の言葉に応える、そしてだった。
茉莉也を待って彼女が来たところで校舎の中に入った、茉莉也は校舎に入ると二人にこう言って来た。
「その人声楽科だから」
「あっ、歌手なんですか?」
「そちらの人なんですか」
「そうなの、元々華道の家元の娘さんで」
二人にその魔女の話をするのだった。
「茶道もやっておられて」
「お嬢さんなんですか?」
「ええ、そうよ」
茉莉也はにこりと笑って愛実の問いに答えた。三人で歩く美術学部の校舎の中は他の学部と同じである。特に何の変哲もない。
だが時折歌声や演奏の音が聴こえてくる、茉莉也はその中を進みながら自分の左右にいる二人に話すのだ。
「着物の着付けも出来るね」
「それで大学では声楽科ですか」
「何かイメージと違いますね」
「そうそう、お茶もお花も華道も免許皆伝よ」
このことも言う茉莉也だった。
「どれもね」
「けれど絵は」
「凄いって聞いてますけれど」
「それだけはね」
ここで少し難しい顔になる茉莉也だった。
「あれだけれど」
「大学の美術部ですよね、それで」
「そこに所属しておられるんですよね」
「そうよ、まあそのことと性格は覚悟してね」
その二つは、というのだ。
「残念な美人だから」
「残念、ですか」
「その話今日愛実ちゃんから聞いたんですけれど」
聖花はこう茉莉也に述べた。
「どんな人か」
「本当に想像が」
「悪い人じゃないっていうか性格自体は凄くいい人だから」
茉莉也は怯えさえ見せる二人にこのことは断った。
「まあそれでもね
「覚悟して、ですか」
「行かないといけないんですね」
「そのことは覚悟してね。いい人でも残念な人はいるから」
人生においての難しさの話にもなった、そうしてだった。
茉莉也は二人を美術部の部室に連れて行った、その中に入ると。
普通の、高尚と言っていいルネサンス期のそれを思わせる油絵にシュールリアリズムの絵、風景の水彩画に古代ギリシアのそれを思わせる彫刻の中に。
何か変わった絵があった、それはというと。
「?これ何かしら」
「絵?」
黒と赤のやたらと細く波がかった線で手も脚もわからないものが描かれていた、それが幾つも重なって存在していて。
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