Element Magic Trinity
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ルーシィ・ハートフィリア
「魔力が・・・ワシの魔力が・・・」
「じっちゃん!」
「マスター!」
「ちぇっ・・・もうお楽しみは終わりかよ」
突然上から落ちてきたマスターを見て、その場の戦いが止まる。
「マスター!しっかり!」
「ど、どうなってんだ!?あのマスターから全く魔力を感じねぇ!」
「お、おい・・・それじゃ、ただのじーさんになっちまったのか」
「何でだ!?」
そんな話をしている間にも、マスターは苦しげに息をしている。
「有り得ねぇ!どうやったらマスターがやられるんだ!」
「いけるぞ!これで奴等の戦力は半減だ!」
「一体・・・上で何があったんだ・・・」
「じっちゃーーーーーーーん!」
ナツが着地し、マスターに向かって走っていく。
が、それが油断を生んでしまった。
「今だ!ぶっ潰せ!」
「うおっ!」
「くあっ!」
それを好機と見たファントムは一気に妖精達を追い詰め、先ほどとは一転、ピンチに陥った。
(マズイわ・・・戦力だけではなく、士気の低下の方も深刻ね・・・マスターがやられるとは誰も考えていなかったから、皆冷静さを欠いている・・・)
ティアは素早く全てを脳に入れ、エルザの方を向く。
ピッと涙を拭うと、エルザはティアに頷いて見せた。
「撤退だーーーーー!全員ギルドに戻れーーーーー!」
そう命令する。
が、当然納得のいかないメンバーがいる訳で。
「!」
「バカな!」
「漢は退かんのだーーー!」
「俺はまだやれるぞ!」
「私も!」
「俺とルーも行けるぞっ!」
いや、その場にいる全員が納得していない。
が、エルザは命令を変える事なく、もう1度命令を出した。
「マスターなしではジョゼには勝てん!撤退する!命令だ!」
それを聞いて、全員仕方なく撤退を始める。
その様子を天井に張り付いているガジルと組み木に座るシュランが見ていた。
「あらあら、もう帰っちゃうのかい?ギヒヒ」
「まぁそうでしょうね。彼等は1番失ってはいけない駒を失った・・・とでも言うべきでしょうか。マスター・マカロフなしで私達と戦ったところで結果は火を見るよりも明らかですわ」
そんな会話をしていると、スゥッと目隠しをした大男・・・アリアが現れる。
「悲しい・・・」
「アリア様、突然現れないで下さい。心臓に悪いです」
シュランがキッとアリアを睨む。
「よくあのじじぃをやれたな」
「全てはマスター・ジョゼの作戦。素晴らしい!」
「いちいち泣くな」
ぐもっと大量の涙を流すアリア。
ガジルはくるん、と組み木に座った。
「で・・・『ルーシィ』とやらは捕まえたのかい?」
「『本部』に幽閉している」
「あら、相手は女の子なのですから、手荒な真似だけは禁止ですよ」
そんな3人の会話を聞いている人間が2人いた。
「っ・・・何だって!?」
「ガジルーーーーーーーー!」
ルーとナツの2人だ。
「いずれ決着をつけようぜ、火竜」
そう言い残し、ガジルとシュランはアリアの魔法で消えていく。
消える前にシュランは誰かを見つめていたようだが、誰か確かめる前にその姿は消えた。
「ルーシィが捕まった?」
「え!?」
「撤退だ!退けぇ!」
慌てるナツ達とは別に、エルザは撤退命令を下す。
「逃がすかぁ!妖精の尻尾!」
撤退する妖精の尻尾を追いかけるファントム。
すると、その中で1番近くにいた男の襟首をルーが掴んだ。
「お?」
「来てもらうよ」
「行くぞ!」
「ナツ!ルー!どうするの!?」
「決まってんだろ!」
「ルーシィを助けに行くっ!」
嫌がる男を引き摺り、ナツとルーはルーシィ救出に向かった。
「こんな所で退けるかよ!レビィ達の仇をとるんだ!」
撤退命令を出されたにも拘らず、グレイは戦おうとする。
そんなグレイの前にティアが立ち塞がった。
「撤退するの!」
「ティア・・・」
「私だって退きたくないわよ。ギルドごと・・・いいえ、街ごと吹っ飛ばしてやりたいくらいイラついている。でも、マスターが抜けた穴は大きすぎる・・・今このギルドに、マスターの穴を埋められる人間はいないの・・・」
その頃、ナツ達は男を引きずり街の外れを歩いていた。
「教えて・・・ルーシィはどこにいるの?」
「し、知らねぇよ・・・誰だ、それ・・・」
「・・・そう」
ルーが呟き、「カチャッ」と何かをセットするような音が響く。
その音を聞いた瞬間、ナツとハッピーは顔を見合わせた。
そしてその赤い銃・・・タスラムの矛先が男の脳にぴったり当たる。
「ひっ・・・」
「言え・・・ルーシィの身に何かあったら、貴様の命を奪ってしまいそうだ」
ティアにも負けない冷たさでそう呟く。
いつもの笑顔は消え、それこそ氷の様だった。
「ひっ・・・し、知らねぇ・・・そんな奴は本当に知らねぇ・・・けど・・・俺達の『本部』がこの先の丘にある・・・そ、そこかも・・・」
そこまで言うと、男は恐怖で気を失った。
用済み、というように男を放り、銃を腰に戻す。
そしてくるっとナツ達の方を向き、笑った。
「だ、そうだよ。早く行こう」
その笑顔はいつも通りなのだが、どこか恐怖を感じさせる。
ルーは1人、先に走って行ってしまった。
「ル、ルーの第2の人格・・・マカオ助けに行った時以来だけど・・・やっぱ怖ェな・・・」
「あい・・・」
そう呟いてから、置いてけぼり状態だという事に気づき、慌てて2人はルーの後を追った。
ここは幽鬼の支配者の本部。
「・・・ん?え?え!?ちょ・・・何これ!?どこぉ!?」
ルーシィは両手首を縄で縛られた状態で、独房のような場所で目覚めた。
「お目覚めですかな。ルーシィ・ハートフィリア様」
すると、そこに1人の男が現れる。
「誰!?」
「幽鬼の支配者のギルドマスター、ジョゼと申します」
そう。
この男こそが全ての元凶・・・『ジョゼ・ポーラ』だ。
「ファントム!?」
ルーシィは漸く、自分がエレメント4に捕まった事を思い出す。
「このような不潔な牢と拘束具・・・大変失礼だとは思いましたが、今はまだ捕虜の身であられる。理解のほどをお願いしたい」
「これ解きなさい!何が捕虜よ!よくもレビィちゃん達を!」
「あなたの態度次第では『捕虜』ではなく『最高の客人』としてもてなす用意も出来ているんですよ」
「何それ・・・」
理解のほどをお願いしたい、と言われて、はいそうですかと答える人間がいるだろうか。
ジョゼの言葉に疑問を覚えたルーシィの太ももを、ムカデが這う。
「ひぁっ!」
「ね?こんな牢はイヤでしょう。大人しくしていればスイートルームに移してあげますからね」
「な、何であたし達を襲うのよ。仲が悪いとは聞いてたケド・・・」
「あたし達?あぁ、妖精の尻尾の事ですか」
そう言うと、ジョゼは顎を撫でながら怪しげな笑みを浮かべた。
「ついでですよ、ついで」
「!?」
「私達の本当の目的は『ある人物』を手に入れる事です。その人物がたまたま妖精の尻尾にいたので、ついでに潰してしまおう・・・とね」
「ある人物?」
「あのハートフィリア家のお嬢さんとは思えないニブさですねぇ」
先ほどルーシィの太ももを這ったムカデを、ジョゼは踏み潰した。
「あなたの事に決まってるでしょう。ハートフィリア財閥令嬢、ルーシィ様」
ジョゼがそう言うと、ルーシィは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「な、何でそれ知ってんの?」
「あなた・・・ギルドでは自分の身分を隠していたようですねぇ。この国を代表する資産家の令嬢がなぜに安く危険な仕事をしているのかは知りませんがね」
「誘拐・・・って事?」
「いえいえ、滅相もございません」
ルーシィの言葉にジョゼは両腕を広げる。
「あなたを連れてくるよう依頼されたのは、他ならぬあなたの父上なのです」
それを聞いたルーシィの顔が驚愕一色に染まる。
「そんな・・・ウソ・・・なんで、あの人が・・・」
「それはもちろん、可愛い娘が家出をしたら探すでしょう。普通」
「しない!あの人はそんな事気にする人じゃない!」
断言した。即答だった。
「あたし絶対帰らないから!あんな家には帰らない!」
「おやおや、困ったお嬢様だ」
ジョゼが溜息まじりに呟く。
「今すぐあたしを解放して」
「それは出来ません」
ルーシィの申し出をジョゼは即答で却下する。
すると、ルーシィの表情に焦りが出始めた。
「てか、トイレ行きたいんだけど」
「これはまたずいぶん古典的な手ですね」
「いや・・・マジで・・・うぅ・・・助けて~・・・」
「どうぞ」
そう言ってジョゼが指さしたのは、独房の隅に置かれたバケツだった。
かなり古い物の様で、潰れている箇所がある。
「ほほほ・・・古典ゆえに対処法も多いのですよ」
「バケツかぁ・・・」
「するんかいっ!」
もぞもぞとするルーシィにジョゼは驚く。
ただのハッタリだと思っていたのだろう。
「な、なんてはしたないお嬢様なんでしょう!そして私はジェントルメン!」
しばらく表情を変えた後、後ろを向くジョゼ。
それを見たルーシィはニヤリと笑う。
そして・・・。
「えいっ」
「ネパァーーーーーーー!」
なんと、男の急所を蹴りあげた。
これにはさすがの聖十のジョゼも倒れ込む。
「古典的な作戦もまだまだ捨てたもんじゃないわね。今度小説で使お♪」
「ぬぽぽぽぽぽぽ!」
「それじゃ!お大事に♪」
苦しむジョゼにウインクを1つの腰、ルーシィは出口に向かう。
・・・が、出口の前でピタッと足を止めた。
「え?」
「はは」
ルーシィの視線の先にあるのは、はるか遠くにある地面。
ここから落ちたら確実に死ぬだろう・・・ナツのように頑丈だったり、ルーやハッピーのように空が飛べたり、ティアの様に体が水にでも変えられたら話は別だろうが。
「残念だったねぇ・・・ここは空の牢獄・・・」
腰をトントン叩きながら起き上るジョゼ。
「よくも・・・やってくれましたねぇ・・・」
「う・・・」
前には聖十のジョゼ、後ろは断崖絶壁・・・逃げられる訳が無い。
自分に向かってくるジョゼが在りし日の父親と重なる。
「さぁ・・・こっちへ来なさい・・・お仕置きですよ・・・幽鬼の怖さを教えてやらねばなりませんね」
そう言ってジョゼは一歩一歩ルーシィに近づく。
すると、ルーシィは何かを決心したような表情になり・・・。
たんっと、飛び降りた。
「な!」
当然ジョゼは驚く。
(声が聞こえたんだ!絶対・・・いる!)
ルーシィは頭を下に真っ逆さまに落ちていく。
そして聞こえた声の主を・・・頭に浮かんだ人物の名を、叫んだ。
「ルーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「大空鎖乱・拘束!」
その瞬間、ルーシィの身体に細い鎖と化した風が絡みつく。
包むように絡みついた鎖は声のした方へと引き寄せられ、ぽすっとルーシィは何かに着地した・・・というより、乗せられた。
ルーシィが目を開けると、エメラルドグリーンが揺れる。
「全く・・・無茶しないでよ。あと少し待っててくれたら、僕が助けに行ったのに」
そこにいるのはルーシィに名を呼ばれた人物・・・ルーだった。
ルーシィを姫様抱っこにし、ニコニコ微笑んでいる。
「やっぱり・・・いると思った・・・」
「僕も、ルーシィがここにいると思ってたよ」
男に銃を突き付けて脅したのはルーシィには内緒だ。
「ルーシィが降ってきたーーーーーーーー!」
「無茶苦茶だな!おい!で、大丈夫か?」
「うん・・・何とか」
駆け寄ってきたナツとハッピーにそう答え、ルーに解いてもらった縄のあった手首をさする。
「良かった!オイラ達もギルドに戻ろう!」
「はぁ?ここが本部だろ!だったら・・・」
「エルザは撤退って言ってたよ」
「ビビってんだよ!俺はこんな奴等ちっとも怖くねぇ!」
「マスターだって重傷なんだよ」
「じっちゃんの仇もとるんだよ!」
「ナツ1人じゃ無理だよ!」
「何だと?」
「無理だよ」
「2回言うな!」
「皆怪我してんだよ!」
「俺はしてねー!」
「ナブなんか骨折して」
「弱ェんだ、アイツは」
「ウォーレンだって・・・」
ナツとハッピーが激しく口論する。
そんな口論を聞いていたルーシィの顔が、徐々に暗くなっていった。
「ごめん・・・」
「「「?」」」
突然の謝罪に口論が止まる。
「ごめんね・・・」
そう呟くルーシィの脳裏に、様々な光景が浮かぶ。
ボロボロになったギルド。
傷だらけになったレビィ、ジェット、ドロイ。
戦争じゃ、と怒りの表情で言うマスター。
「全部・・・あたしのせいなんだ・・・」
そう言うルーシィの声は湿っていく。
そしてルーシィは振り返った。
「それでもあたし・・・ギルドにいたいよ・・・妖精の尻尾が大好き」
そう言うルーシィの頬には、大粒の涙が零れていた。
「オ、オイ!どした!?何の事だ!?」
「ルーシィ?」
「いればいいって!何だよそれ・・・」
ルーシィの涙は止まらない。
そんな様子を見たルーはルーシィに手を差し出した。
「帰ろう、ルーシィ。ほら、ナツも」
「お、おう。しゃあねえな・・・」
マグノリアの東の森の木の家には、マスターの昔からの知人が住んでいる。
ポーリュシカは人間嫌いで、森の奥に1人でひっそりと暮らしている。
だけど魔法による傷を癒すスペシャリストだ。
マスターはそこに運び込まれた。
そしてさっそく、ポーリュシカはマスターの頬を叩く。
「ちょ、ちょっとォ!」
「マスターに・・・いや、怪我人になんて事するんですか!」
「フン」
マスターを運んできたアルザックとビスカが叫ぶが、ポーリュシカは全く動じない。
「年甲斐もなく無茶をするからこんな事になるんだ。全く・・・バカな男だね」
そして2人に目を向ける。
「アンタ等もいつまでいるんだい!とっとと帰りな!」
「いや・・・しかし、マスターの容体が・・・」
「看病させてください」
ポーリュシカの剣幕に若干ビビりながらも、看病も申し出る。
が、ポーリュシカの言葉は変わらない。
「帰りな」
「!」
「辛気くさい顔は病人にとって1番の毒だよ」
2人は顔を見合わせる。
「これは『風』の系譜の魔法だね。枯渇・・・対象者の魔力を流出させてしまう恐ろしい魔法だ。流出した魔力は空中を漂い、やがて消える。漂っているマカロフの魔力を集められたら回復も早いんだけどね。もう遅いね、こいつは長引くよ」
「そ、そうですか・・・」
「皆に伝えておきます」
・・・と、ポーリュシカの口から予想もしていない言葉が飛び出した。
「アンタ等、まだいたのかい!」
「えぇっ!?『聞いてくれ』みたいな空気じゃなかった!?」
「とっとと帰りな!人間くさくてたまらん!」
「「ひィ~!失礼します!」」
さすがに今度は耐え切れず、家を飛び出す。
そんな2人の背中を見送ってから、ポーリュシカは溜息をついた。
「昔から世話のかかる男ね・・・魔導士にとって魔力は生命の源にも等しい。魔力が強大な者ほど枯渇は苦痛を伴う。アンタ・・・頑張らないと、このまま死ぬ事もあるんだよ。本当に・・・バカなんだから・・・」
その後、ギルドに戻ってきた妖精の尻尾は。
「痛て・・・」
「あー、くそっ!」
「まさか俺達が撤退するハメになるとはな!」
「悔しいぜえ!」
「ギルドやレビィ達の仇もとれてねぇ!」
「ちくしょオ!」
ファントムに勝てなかった事を悔しがる者。
「奴等の本部はここだ」
「南西の高台から遠距離魔法で狙撃すれば」
「今度は爆弾ラクリマありったけ持っていくんだ!」
「所持系魔導士用の強力な魔法書を倉庫から持って来い!」
今度こそファントムを潰そうと奮起している者がいた。
その様子を浮かない顔で見るルーシィ。
「どーした?まだ不安か?」
そんなルーシィにグレイ、エルフマン、ルーが歩み寄る。
「ううん・・・そういうのじゃないんだ・・・なんか・・・ごめん・・・」
「まぁ、金持ちのお嬢様は狙われる運命よ。そしてそれを守るのが漢」
「そういう事言うんじゃねぇよ」
エルフマンの発言をグレイが注意する。
「でもオイラも驚いたな。ルーシィ、何で隠してたの?」
ハッピーの問いに、ルーシィは俯いて答える。
「隠してた訳じゃないんだけど・・・家出中だからね、あんまり話す気にもなれなくて・・・1年間も家出した娘に関心なかったくせに・・・急に連れ戻そうとするんだもんな・・・パパがあたしを連れ戻す為にこんな事をしたんだ・・・最低だよ」
そう言うルーシィをナツは真っ直ぐ見つめる。
「でも、元を正せばあたしが家出なんかしたせいなんだよね・・・」
「そ、そりゃ違うだろ!悪いのはパパ」
「バカ!」
「あ、いや・・・ファントムだ!」
グレイに言われ、慌てて言葉を訂正するエルフマン。
「あたしの身勝手な行動で・・・まさか皆に迷惑かけちゃうなんて・・・本当にごめんね。あたしが家に戻れば済む話なんだよね」
「そーかなぁ」
すると、ずっと黙っていたナツが口を開いた。
「つーか『お嬢様』ってのも似合わねぇ響きだよな」
「うん、そう思う」
ルーも同意し、ルーシィの前に座った。
「さっき、ここにいたいって言ったでしょ?戻りたくない場所に戻る必要なんてない。ルーシィがここにいたいなら、いていいんだよ。だってルーシィは妖精の尻尾の魔導士なんだから。ここが君の帰る場所なんだよ」
ギルドの一角で、カナはタロットカードと睨めっこしていた。
「ダメ!ミストガンの居場所は解らないっ!」
「そう・・・残念ね」
「ルーシィが目的だとすると、奴等はまた攻めてくるよ。ケガ人も多いし・・・ちょっとマズイわね」
カナの言葉にミラが残念そうな表情を浮かべる。
その後ろに立つアルカが、通信用ラクリマに向かって口を開いた。
「マスターは重傷、ミストガンの行方も解らねぇ」
「頼れるのはあなたしかいないのよ・・・ラクサス」
『あ?』
そのラクリマに映っていたのは、ラクサスだった。
「お願い・・・戻って来て。妖精の尻尾のピンチなの」
『あのクソじじぃもザマァねぇなァ!はははっ!俺には関係ねぇ話だ。勝手にやっててちょうだいよ』
その言葉にカナがキレた。
「ラクサス!あんた!」
『だってそうだろ?じじぃの始めた戦争だ。何で俺達でケツを拭くんだ』
「ルーシィが・・・仲間が狙われてるの」
『あ?誰だ、そいつァ。あぁ・・・あの乳のでけェ新人か。俺の女になるなら助けてやってもいいと伝えとけ。それとじじぃにはさっさと引退して俺にマスターの座をよこせとな』
「アンタって人は・・・」
『オイオイ・・・それが人にものを頼む態度かよ?とりあえず脱いでみたら?俺はお色気には弱』
ラクサスの言葉を最後まで聞かず、通信用ラクリマが壊れた。
いや、粉々に砕かれた。
「ミラ・・・」
「信じられない・・・こんな人が・・・本当に妖精の尻尾の一員なの・・・?」
ボロボロと涙を流すミラ。
アルカは今度ラクサスに会ったら殴り飛ばしてやろう、と密かに決めた。
・・・が、その思考を砕く様な言葉が耳に入る。
「こうなったら、次は私も戦う!」
「な、何言ってんのよ!」
「そうだぞミラ!お前は確かに・・・」
「だって、私がいたのにルーシィはさらわれちゃって・・・」
泣き叫ぶミラを、耐え切れずアルカは抱きしめた。
「お前の気持ちはよく解る・・・だけどな、今のお前じゃ、はっきり言って足手まといになっちまうだけだ・・・例え、元・S級魔導士でもな」
「ルー・・・」
「えへっ、ちょっとカッコつけすぎたかな?」
いつもの子犬を連想させる笑顔に戻る。
ルーシィの目に再び涙が溢れた。
「な、泣かないでよルーシィ・・・とにかく、ギルドにいてもいいんだよ。誰もルーシィのせいだなんて思ってないから」
ルーが若干慌てた様にそう言う。
と、地上への出入り口が開いた。
「あぁ・・・シュトラスキーの言う通りだ」
テノールボイスが響く。
その場にいた全員が入口の方を見つめると、複数の足音が聞こえてきた。
「ギルドのピンチだと聞いて来てみれば、まさかこんな事になっているとはな・・・皆、大変だっただろう?力になれなくてすまなかったな」
降りてきた集団を見て、全員が唖然とした。
「だが、もう大丈夫だ」
1人は黒髪にアラベスク風エスニック調の服を着た男性。
1人は桃色の髪をツインテールにし、クラシカルロリータに身を包んだ少女。
1人は黒髪の混じった銀髪に肘丈膝丈のジャージを着た男性。
1人は藤紫のスリークヘアにブッファンスタイルの女性。
そしてその中央に立つのは、群青色の髪に群青色の瞳、バロンコートの男性。
「俺達もギルドの為に、力になろう」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
いやー・・・一回文章が全部消えて書き直したら時間が・・・。
次回、この最後に出てきた5人の正体が明らかになる!ってか、明らかにする!
感想・批評、お待ちしてます。
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