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lineage もうひとつの物語

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序章
  黒騎士

翌朝アレンはナターシャにシルバーソードを手渡した。

「安全な道程だとは思いますがダガーでは心許ないです。これを持っててください。」

頷き受けとるナターシャ
鞘より抜き構えてみせるとなかなか様になっているようだ。

「私の腕力でも使えそうですね。ありがたくお借りします」

そう言うと丁寧に鞘へ戻し腰に下げてあったダガーと取り替える。
ダガーをどこに装着しようか考えていると

「ダガーは預かりましょうか?袋に入りますので」

とアレンはダガーを受け取り袋へ収納する。

「ここからシルバーナイトタウンまでは約二日かかります。今日は明るいうちにここまで行ければいいと思います」

と、地図を広げ指差して説明する。
そこは丸標が付けてあり、よく見ると他にも色々な標がしてある。

「この丸標は何ですか?」

ナターシャが不思議そうに尋ねると

「あぁ、これは丸標が水場で水の補給ができる処になります。×標が来る途中に果物の木を見つけた処です。そして三角標が俺が夜営をした場所ということです」

そう言うと現在地点に三角標を書き込むアレン。

「で、昨日からの夜営場を書き込んでっと」

標を入れ再度地図で説明に入る

「見ればわかると思うのですが街道を真っ直ぐ進めば街に行けます。途中の給水はしっかり取っていきましょう。」

ナターシャはふむふむと頷いている。
で、一番近くの×標を指差し

「ここにリンゴの木がありましたのでリンゴを食べながらお昼休憩となる予定です」

ナターシャがリンゴという単語に嬉しそうな反応を返したのを見て

「それでは行きましょうか」

と袋に地図を入れ歩き出す。
ナターシャの速度はアレン一人よりは幾分か遅いがその歩みに不安はなくしっかり大地を踏みしめていた。

太陽が真上に上がって少し経った頃リンゴの木に到着した。
そこで昼食を採り、リンゴをほうばりながら出発する。

アレンはこのままではマズイと感じていた。
ナターシャは美しく女性的な魅力に溢れているため目立つ。
最初のうちは感じてはいなかったのだがすれ違う旅人達の反応をみてやっと気が付いたのだ。
これでは野盗に狙ってくれと言っているようなもの。
野盗はモンスター以上にやっかいな相手だ。
数が多く組織的な戦法で襲ってくることも少なくない。
アレンはナターシャに声をかけ立ち止まると袋を漁り大きめの布を取り出す。
広げて見せるとフードの付いた薄手のマントのようだ。
砂漠横断に日除けとして使う予定だったらしいもの。
それをナターシャに渡しながら言う

「肌が焼けるといけません。これを使ってください。」

不安にさせてはいけないと取って付けた理由を述べる。
ナターシャは素直に受け取り羽織ってみせる。

「お気遣いありがとうございます」

フードを深めに被り歩き出す。
これはこれで怪しいがウィザードだと似たような感じの人がいたりするので大丈夫だろう。
アレンは深くつっこまれなくてよかったと思いながら横を歩いていた。

翌日、陽が沈みかけた頃シルバーナイトタウンまで残り5キロメートル辺りにいた。

「あと五キロほどでつきます。陽が沈みきる頃には街に入れそうです。」

「もう少しなのですね。仲間が待っていてくれるといいのですが。」

フードの隙間から顔を除かせてアレンを見る。
少し疲労が浮かぶのを見てとったアレンは

「街についたら宿をとりましょう。宿の隣の建物に俺の使ってる部屋があり何かあれば直ぐに駆けつけることができますので。晩御飯は豪勢にいきましょうか!」

と、ライカンスロープの牙を取り出す。

「立派な牙ですね。良い値がつきそう。」

ナターシャは手を前で組合わせて目を見張っている

「ギラン料理とかどうですか?」

「それはどういったものなのですか?」

よかった。
ナターシャの顔に笑顔が張り付き嬉しそうにしているのを見ながら街にある料理店を説明しながら一歩一歩進んでいた。




「あの方達は?」

前方から5人組がこちらに向かってきていた。
真っ黒な鎧を纏い、円錐ランスを持ったブラックナイト。
治安維持という名目でラウヘルより派遣されているものの実態はシルバーナイトタウンの偵察。
シルバーナイトタウンは当初ラウヘルに対抗するためナイト育成所の隠れ簑として作られた。
人が集まれば噂となる。
街として名前が広まれば当然国王にも知れてしまう。
現在国王が恐れているのは民の反乱。
以前派遣されたブラックナイト隊と冒険者の間で争いがありブラックナイト隊を殲滅してしまったことがある。
街はラウヘルを恐れ、はぐれモンスターによってやられたことにしたのだが次々とブラックナイト隊が送られてくるようになってしまった。
治安維持と言うものの体のいい監視人である。
彼らは危険分子がいないかどうかをみて回り発見すれば排除する。
ちなみにブラックナイトは感情が排除されているというが定かではない。

「やつらはブラックナイト隊。治安維持が目的のはずです。危険はないと思いますが念のため俺を盾にするように動いてください。」

アレンは言葉では安全と言ったものの不安は拭えず庇うように半歩前を並んで歩く。

「顔が隠れていて表情がわからないので恐いですね。」

ナターシャはフードを深く被りなおしながら呟いた。
近付いていてくるブラックナイトに緊張しながらも平静を装いすれ違おうとする。

「まて。」

後ろから声がかかる。

「なんでしょうか」

アレンはナターシャに身振りで止まるよう伝え振り返る。
顔は普通だがその背中からは汗が吹き出ている。
戦いになれば5人組からナターシャを守りきる自信はない。
アレンはナターシャの手をとりいつでも逃げ出せるようにする。
アレンは牽制するように言葉を出す

「何か用でしょうか?」

ブラックナイトはナターシャをランスで指し示しながら

「おまえではない。その女に用がある」

ナターシャが体を固くして震えているのが伝わってきた。
アレンはその手を強く握り

「どのような要件かその場で言ってもらいたい。」

「フードを取って顔を確認する。場合によっては拘束する。」

アレンは意味がわからなかった。
ナターシャの顔を確認する?確認してどうするのか。
こいつら慰みものにしようというのか。
馬鹿馬鹿しい。

「寝言は寝て言えよ。話が終わったなら行かせてもらう。」

「逆らうならおまえも危険分子として排除する。」

ブラックナイト隊がランスを構える。

迂闊に動けなくなった
ナターシャを先に逃がし隙を見て自分も逃げるしかないか

アレンは素早くブレイブポーションを飲み干し背中のツーハンドソードに手をかける。
すると

「まってください。」

ナターシャが一歩前に出てフードを取った。

「ほう、美しい。陛下に献上するか」

ブラックナイトは近付きながらナターシャを観察する。
アレンはいつでも飛び出せるよう剣から手を離すことなくブラックナイトを睨み付ける。
そしてナターシャの胸には紋章が刻まれたペンダントが揺れているのを見てとったブラックナイトは

「おまえは先代の娘ナタリシア!そこのナイトと共に国王の御前に引き出してくれる。」

冒険者から話には聞いたことがある。先代の善王の忘れ形見。その人物が旅だったと。
ナターシャがまさかの人物だったとは。
アレンは嬉しさで心が震えた。
自分が仕える主君を守護するために存在するナイト。
その主君に相応しい人物に旅立ち早々出会っていたとは!

「私はこのまま拘束を受けましょう。この方はお金で雇った護衛であり関係ありません。」

凛とした表情で述べ両手を差し出すナターシャは震えていた。

その微かに震える肩を持ち、手に小さな袋を握らせるとアレンは

「ナイトとして訓練した甲斐がありました。ナターシャは先に街で待っててください。」

ナターシャは首を振り否定する。

「俺の部屋の場所はわかりますよね?」

と小声で言うとブラックナイトに斬りかかる!
こいつらをここで食い止めねばナターシャに、いや、国に未来はない!
ナターシャはアレンを止めようと手を伸ばすが届かない。

「だめーー!」

拘束しようと前に出て油断していた敵を切り伏せ叫ぶ

「ここはいいから行ってくれ!」

「だめ!あなたを置いていけない!」

泣きそうな声で一緒に逃げようと促すが
アレンはブラックナイトのランスを捌きながら

「あなたを護るという約束を果たさせてくれ!国を守らせてくれ!」

アレンの悲痛な叫びを聞きナターシャは走り出す。
その目に泪を浮かべアレンの無事を祈りながら走る!
先に街で待っているから・・・と。 
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