lineage もうひとつの物語
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序章
出逢
「ありがとうございました」
後ろから声がかけられる。
振り返って件の人物を見て驚いた。
年の頃は自分と同じくらい。身の丈は160センチあたり。少し汚れは目立つもののエルフしか精製できない胸部を守る鎧をつけ見たことがない盾、短めの剣を持った少女。
何を驚いたかといえば街を歩けば10人中9人は振り返るであろう美少女ということだ。
あまりの美しさに言葉が出てこず顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。
時間にして数秒。ようやく口に出したのは
「こ、これ使って」
レッドポーションを差し出す。
笑顔で受け取ってくれる少女。
スケルトンの剣がカスッた太股に傷がありそこにポーションを垂らす。
あまりにも大胆にスカート部分をまくりあげ露になった太股にさらに真っ赤になる。
固唾を飲んで見守る中女性の太股を凝視している自分に気が付き急いで目をそらす。
目をそらした先に見たものは先程一体目を仕留めた場所。
おかしい
「どうかしました?」
様子が変わった男に対し怪訝な表情を浮かべ身を守るようにし声をかける少女。
その問に答える代わりに身振りで動くなと伝え一歩踏み出す。
よく見ると先程の一体目の屍が無いうえ地面に丸い影がある。
スケルトンじゃなかったのか
徐にシルバーソードを影に突き立てる!
すると叫び声を上げながら地面よりその姿を現したのは先程のスケルトン。
いや、スケルトンの上位にあたるスパルトイだ。
ちっと舌打ちをしシルバーソードを構える。
こいつは危なくなると地面に潜り回復を待って再び現れるというアデン全土でも特異な戦い方をする。
攻略法は至って単純。潜られる前に仕留めればいい。
仕留められる実力がないと延々と続くやっかいな相手であり逃げるしかなくなるが。
腰の袋からブレイブポーションを出し一気に飲み干す。
すると全身から生気が溢れ体全体が軽くなるのを感じる。
そして向かってくるスパルトイの剣撃を受け止めることなく避け、すれ違い様に斬りつける。
「すごい」
これが少女が今の彼を見て持った感想だった。
助けられたときももちろん自分では仕留められなかったスケルトンを一瞬で倒したのを目にしている。
しかし今出た言葉は一言だが深みが違う。
全く動きが違うのだ。
まるで先程までは重い足枷でもついていたのかと思わせるくらい今の彼は早い。
戦いに見とれているとすぐに勝負はついたようだ。
倒したのを確認し近付いてくる彼に気が付きお礼の言葉をかける。
「度々ありがとうございます。」
「いえ、ご無事でなによりです。」
剣を振るうことによって緊張から脱したのか笑顔で答えた。
「俺はアレン。冒険者のナイトです。どうしてお一人でこのような場所に?」
「あっ、申し遅れました。私はナターシャ。シルバーナイトタウンに向かう途中仲間とはぐれてしまって」
そう言うと頭を下げる。
「先程は危ないところを助けて頂きありがとうございました。」
この可愛い生き物は同じ人なのか?
やばいぞこれは。
己と格闘しながらアレンはここよりは安全な河原へと移動を促す。
「ここよりあちらの河原のほうが安全です。自分の荷物も置いてきてしまったので移動しましょう」
滞りなく移動を果たした二人は適当な大きさ岩に腰を下ろす。
「お仲間とはどの辺りではぐれたかわかりますか?」
「それがわからないのです。砂漠から森に入ってすぐスコーピオンと大きい蟻、小さい蟻3匹に遭遇しまして 仲間の二人が対処していたのですが後から先程のスケルトンに襲われてしまいまして・・・・」
「戦っているうちに離れてしまったということですね」
「はい・・・」
落ち込む少女に対し明るく答える
「大丈夫!今の話を聞いた限りではそう離れてなさそうです」
「それにお仲間さんはそのモンスターにやられることはないのでしょう?だったらあなたのこと探してるでしょうしすぐ合流できますよ」
大きな蟻といえばジャイアントアントソルジャーだ。余程腕が立つ者でない限り勝つことは難しい。そこにスコーピオンもいたというから目も当てられない。
仮に自分が出会ったとして生還は絶望的だ。お仲間の腕に期待するしかない。
ナターシャは少し驚いた表情を浮かべつつ次第に笑顔になり
「そうですね!彼らが負けるはずはありません」
柔らかな笑みを浮かべ
「ほんとうにありがとうございます。私一人だと例えモンスターをどうにかできても寂しさで泣いてたかもしれません」
惚れた!!!
その笑顔は反則だ!
いや!冷静になれ俺!!
「こ、ここならお仲間も見付けやすいでしょうから待つほうがいいでしょう。」
「そうですね。闇雲に動くよりいいかもしれませんね。気長に待ってみます。」
「もちろんご一緒しますよ」
よし!仲良くなるチャンス到来だ!
とりあえずナターシャに食事を分け与えてからはアレンが一方的に訓練所での失態や冒険にでるまでの経緯などを語り、ナターシャは笑顔を持って答えるという場所が場所なら仲睦まじいカップルに見えたかもしれない雰囲気を醸し出していた。年齢が違ったならその日の出来事を子供が母親に話す親子のように見えたといっても変わりはないだろうが。
段々口数も減り随分と陽が傾いてきた。
あれから三時間は経ったであろうが未だに仲間の姿は見えない。
少女の顔にも不安が見てとれる。
マズイ
非常にマズイ
夜になるとアンデッドは強力になりモンスターの活動が活発になる。ましてや森の中といってもおかしくない場所である。
ここで一晩過ごすのは危険過ぎる。
この少女ナターシャは果たして動いてくれるだろうか。
こうしているうちに影が濃くなっていく。
勇気を出して移動を促そうと口を開いた瞬間
「あの・・・街道まで移動しましょう」
天の助けとはまさにこのこと!
ナターシャから移動の提案があったのだ。
大きく頷くとアレンは立ち上がり剣を持ち荷物を背負う。
「随分薄暗くなってしまいました。急ぎましょう」
自然を装って手を出すとナターシャは恥ずかしそうに手を取る。
もう死んでもいいかもしれない。
嬉しさのあまり飛んでいってしまいそうになるがそこはナイト。自分を抑えゆっくりとした速度で森へ侵入していく。
そこからのアレンは強かった。
活動が活発になり次々と襲いかかってきたモンスターを一刀のもと斬り捨てナターシャと繋がっている左手を離さず森を切り抜けた。
途中、「少し痛いです」と言われて力が入りすぎていたことに気付かされるのだが。
街道より海側で岩に囲まれた場所を見つけ夜営の準備にとりかかる。
ナターシャもそれを手伝おうとするが顔に疲労が見てとれたので休むよう促す。
いつもの半分の時間で設営が終わったが本人は気づくことなく夕食を袋から取り出す。
「すみません。干し肉とパンしかないのです。」
「頂けるだけありがたいです。はぐれた仲間が荷物を持ってたので」
ナターシャには最高級の肉で作ったものを渡す。
ウッドベック到着記念に食べようと手間暇とお金をかけて作ったスペシャル干し肉だ。もちろん一つ限りの品である。
ここでアレンに衝撃が走る!
水。
水筒はひとつ。
しかも直接口を付けて飲むタイプだ。
水筒を握り締め固まってしまう。
か、か、か、間接キス?
ダメだ!
何を考えてるんだ!
落ち着け俺!!
大丈夫だ。さっき川で洗ってから口はつけていない。
俺が我慢すればいいだけだ。
大丈夫。
深呼吸をし、水筒を差し出すとナターシャはお礼を言って口を付けた。
さっきまでの動揺を隠すように干し肉にかぶりつく。
ナターシャは少しずつかじって食べていく。
「すごくおいしい」
その言葉を聞いて得意気な顔になり
「そりゃそうさ。丹精込めて作ったんだから」
「自分で作ったのですか?!すごいです」
アレンは舞い上がり作成工程を聞いてもいないのに語りだしナターシャは楽しそうに受け答えしていた。
ナターシャにとってアレンの話は飽きることなく心底楽しかった。
幼い頃に両親を亡くし話せる島に渡ってからは箱庭で育てられた。
単独での外出は禁じられ外部との接触はご法度だった。
知るものといえば育ての親と一緒に旅をしている仲間の二人、学問や魔法を教えてくれる先生だけだ。
旅の間も仲間の二人が守るよう行動していたためほとんど接触はなかった。
初めての会話はとても楽しくもっと交流したいと感じていた。
話に夢中になってしまい気が付かなかったがアレンは水を飲んでいない。
干し肉やパンは必ずといっていいほど喉が乾く。
それくらい私でもわかる。
「アレンさん、お水ありがとう」
そう言って水筒を差し出す。
「俺は川でいっぱい飲んだからから全部飲んでくれてもいいですよ?それにほら水袋にはいっぱいありますので」
と、アレンは水袋をパンパンと叩く。
やっぱりだ。
一つしか水筒がないから我慢するつもりなんだ。
水袋から飲むなんて愚行以外何物でもない。
小出しにしないと腐ってしまうから。
アレンの手を取り水筒を渡す。
「アレンさんが飲んでくれないと私も飲めません」
真剣な表情で迫られてはアレンには断りきれない。
「わかりました。では頂きます。」
水筒の飲み口を凝視するアレン。
ええいままよ!と喉を潤す。
うまい!嗚呼、いつもとは違うぞこれ!
「次はナターシャどうぞ」
水筒を受けとるとすぐにナターシャも一口飲んだ。
「おいしい。喉乾いてたけどアレンさんが飲まなかったらどうしようかと思ってたんですよ?」
ほっぺたを膨らませて怒ったような表情を作る。
それがまた可愛い。
「ナターシャがずっと持ってたじゃないですか」
「あ、そうでした」
と恥ずかしそうに顔を伏せたナターシャを見てアレンは声を出して笑う。
それに釣られてナターシャも笑いだす。
静かな夜に二人の笑い声が響き渡っていた。
笑いが収まったところでアレンが尋ねる
「これからは・・・・明日はどうしますか?この辺りで待ちますか?」
この辺りで待つというのならナターシャの気が済むまで付き合う覚悟はある。
家に帰るというのなら家まで送り届ける。
とことんまでナターシャに協力するつもりだ。
「明日はシルバーナイトタウンに向かおうと思います」
「んじゃ2日ってとこですね。食糧は十分あるし大丈夫。来るときは一人だったけどナターシャがいれば寂しくはありませんね」
アレンの言葉を聞きナターシャは
「アレンさんが戻ることになってしまいます。ここからは一人でも平気ですので、そのお言葉だけでも嬉しいです。アレンさんには何度お礼を言っても足りません。」
深々と頭を下げ謝罪とお礼を述べる。
するとアレンは自分の境遇を語りだした。
「俺には身寄りがありません。子供の頃にグルーディオ戦争に巻き込まれ天涯孤独の身となりました。」
地面を見詰めながら話すアレンは寂しそうに続ける
「とある冒険者に助けられたのですがその人はナイトだったのですよ」
ナターシャは黙って話を聞いている
「それから俺はそのナイトに憧れ訓練所を経て人々の力になるため旅立ちました。」
「恩人は俺が訓練所に入る前から戻ってませんが」
言葉を選ぶように間をあけ
「人助けが恩返しに繋がればと思っています。」
アレンはナターシャに向き直り目を会わせてこう言った。
「この手で国を救えればいいんですけどね」
照れ笑いを浮かべたアレンはナターシャの正面に立ち
「俺はナイトです。守るべき人を守るため訓練を積んできました。」
真面目な表情で話すアレンは十分美男子で通用するであろう顔つきになっていた。
「お仲間と合流できるまでかまいません。貴女を護らせてもらえませんか?」
そう言い終えるとナターシャの前で膝まづき腰の剣を捧げる。
ナターシャは最初は困惑したものの
「よろしくお願いします。私を守ってください。」
と、慈愛に満ちた目でアレンを見つめると剣を受け取った。
この人なら迎えてもいいかもしれない。
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