とある星の力を使いし者
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第99話
上条当麻は不幸な人間だ。
この大覇星祭の七日間を振り返ってみるだけでもそれは分かる。
誰でも分かる。
大覇星祭とは能力者同士がぶつかり合う体育祭のようなものなのだが、何故か初日から上条は魔術師との戦いに巻き込まれたり、学園都市が制圧されるかされないかの大勝負に出たりと、何だかとんでもない状況に追われている有様だ。
その問題が片付いた後の二日目以降にしたって不幸だった事に変わりはない。
麻生が突然消えたとなると、その代わりとして競技に強制的に参加させられたり、小萌先生の着替えを目撃したり、完全回復した運営委員の吹寄制理に硬いおでこで頭突きされたり、インデックスに噛み付かれたり、車椅子に乗っていた姫神秋沙にゴムボールをぶつけられたりと、何だかもう色々とボロボロなのだった。
たとえどれだけの不幸を目の当たりにしても決してへこたれず、むしろ笑顔で這い上がってくる辺りがこの少年の特殊な体質だったりするのだが、とりあえず「不幸」である事に変わりはない。
もう一度繰り返すが、上条当麻は不幸な人間だ。
スーパーの特売の時間をほんの数分の差で逃したり、コンビニで買った漫画雑誌の真ん中辺りのページがグニョと曲がっていたりというのは当たり前、スクラッチカードを擦れば出てくるのは全てハズレ、アイスの棒やジュースの自販機についている液晶画面でも当たりが表示されるなど絶対にありえない。
さらに繰り返すが、上条当麻は不幸な人間だ。
「えー、来場者数ナンバースの結果、あなたの指定数字は一等賞、見事ドンピシャです!
賞品は北イタリア五泊七日のペア旅行、おめでとうございます!」
何だそりゃ、と平凡な高校生・上条当麻はガランガラン鳴り響くハンドベルの音を聞きながら、むしろ肩を落とし呆然とした様子でその声を聞いた。
彼の黒くてツンツンした髪が風を受けて間抜けに揺れる。
ここは東京西部を占める学園都市、時期は超巨大規模の体育祭・大覇星祭最終日。
どこでもあるような大通りに面した歩道の一角に彼は立っていて、その目の前にはベニヤ板と角材と釘で作った、いかにもお手製な屋台がある。
店番をしているのは霧ヶ丘女学院とかいうお嬢様学校の女子高生。
ここは学生主導で行われる「来場者数ナンバース」の会場なのである。
やり方は簡単だ。
お金を払って紙でできた専用カードを買う。
それに大覇星祭の総来場者数を予想して書き込み、受付に渡す。
後は実際の記録に近い者から順位が決まる、というものだ。
当然、テレビなどでは「ついに一千万人突破!」とか大雑把な情報が出る為、期間後半の方が当てやすい。
しかし同数の場合は早く提出した方が優先されるというメリットもある。
半袖のTシャツに赤いスパッツというスポーツ少女な店番は、屋台のカウンターの下にある物置スペースから設計図でも収まりそうな馬鹿でかい封筒をごそごそ取り出し、営業モードのにっこり笑顔で言う。
「本来は学生向けではないんですけど、大覇星祭終了後の振り替え休日期間を利用して参加するプランでして、旅行に関しての詳しい日程、観光予定、必要書類などは全てこちらにありますので、後で目を通しておいてください。
なお質問がある場合は当女学院ではなく旅行代理店の方にお願いします。
ささ、どうぞどうぞ。」
ずずい、と巨大封筒を向けられたが、この期に及んで上条当麻はこの降って湧いた事態に、とんでもない落とし穴がないかと勘繰っていた。
上条は両手を組むと、うーんと首を斜めに傾けて、聞いた。
「あのー、ちょっと聞いても良いですか?」
「旅行に関するご質問にはお答えできない場合があります。
それでもよろしいなら。」
「一等賞って、あの一等賞ですよね?」
「ご質問の意味が分かりかねますが。」
「一番運の良い人が当たるあの賞なんですよねッ!?」
「ええと、もう行っても良いですか?」
「いや待った!これは北イタリアの旅なんですよね?」
「これぐらいなら答えられるので答えますけど、書面にそう書いてあると思うのですが。」
「気がついたら飛行機が得体の知れない科学宗教の私設空港に向かっていたりとかっていう壮絶展開はありませんよね?」
「・・・・・あ、分かった。
もしかして海外旅行はこれが初めてですか?」
呆れたというよりも、むしろ何だか優しげな目で見られてしまった。
どうも霧ヶ丘お嬢様視点では、上条がまだ見ぬ外国の光景に恐れをなしている困ったちゃんに見えているらしい。
「とにかく二等賞以下の発表もありますので、質問は旅行代理店にお願いします。」
「あっ、ちょっと!いや俺も分かってるよ、十中八九そんなイレギュラーは起きないって事ぐらい!
でもなんかありそうじゃね?
飛行機がいきなりハイジャック犯に乗っ取られたり、目を覚ましたらそこは南極のど真ん中だったりとか!
分かってるよ考えすぎだって事ぐらいでもなんか落とし穴がありそうな気がするけどこれ本当にペアで北イタリアに行けるんだよな!?ねぇってば!!」
「って、事があったんだけど。
これを聞いて恭介はどう思う?」
「そんなくだらない事を聞かせる為にお前らはわざわざ俺の部屋に来たのか。
しかも、ついでにご飯も作れ、と。」
「とうまが勝手に来ただけだもん。
でも、きょうすけのご飯は食べる!!」
場所は変わり麻生の部屋。
上条は大覇星祭最終日に起こった不思議な出来事を麻生に相談しに来たのだ。
ついでに、昼頃だったのでご飯を作ってもらう事にしてもらった。
珍しくも麻生も昼ご飯を作ろうとしていたので、渋々もう二人分作る事にした。
上条とインデックスはリビングの床に座り、麻生は台所で料理を作っている。
上条が体験した出来事を麻生は料理しながら聞いた。
「だが、お前のこれまでの不幸を考えると疑いたくなる気持ちも分かる。
俺もその封筒を見るまでは信じてなかった。」
ザクザク、と野菜を切りながら率直な感想を述べる。
「だが、お前の不幸の事を考えると、どうせパスポートか何かが無くて結局行けないってのがオチだろ。」
「それが・・・・」
申し訳なさそうに言う上条の声を聞いた麻生は一旦作業を停止させ、リビングの方を見る。
上条の手には赤い合成革の表紙を持つ小さなノートみたいなものだ。
よく見ると、表紙には金文字で「日本国旅券」と箔押しされている。
それはパスポートだった。
麻生は信じられないような表情を浮かべる。
「ちなみにインデックスもパスポートを持っている。」
「・・・・・・・・」
それを聞いた麻生は唖然とする。
そして、携帯を取り出す。
「うん?誰かに電話するのか?」
「とりあえず、学園都市統括理事長に電話して全生徒の避難を申請する。
もしかすると、今から巨大な隕石が降ってくる可能性があるからな。」
「待て待て待て!!!
いくらここまで事が順調に進んでいるとはいってもそれは待て!!」
上条の全力の静止に麻生はとりあえず携帯をしまう。
一般生徒が統括理事長に電話などかけられる筈がないが、生憎この男、麻生恭介は普通の生徒ではない。
本当に電話をかけられそうで怖い。
「不気味だな、そこまで順調に進んでいると。
突然、乗っている飛行機が墜落する可能性を考える必要があるぞ。」
「・・・・・・・・やべぇ、ちょっと想像してしまったじゃねぇか。」
「とうま、飛行機が墜落するの?」
インデックスの素朴な質問に上条は苦笑いするしかなかった。
今の今まで、そう昨日まで不幸な出来事しか出会っていない上条にとって、今回の旅行は何かの前兆ではないのかと勘繰ってしまう。
「まぁ冗談はここまでとして、そんなに気にすることはないだろう。
それが何か不幸の前触れだとしても、北イタリアに行けることは確かだ。
現地で何かあってもそれを解決して、観光を楽しめばいい。」
「何か、妙に優しくないか?」
「そうか?いつもと変わらないが。」
麻生の態度の変化に上条は首を少し傾げる。
上条の疑念は間違っていなかった。
麻生は上条が旅行に行けば、面倒な出来事に巻き込まれることは無くなるだろうと考えている。
なので、ここで上条が旅行を行くのを止めればそれはそれで面倒なのだ。
この休日くらいはゆっくりとしたいのだ。
「ほら、ご飯も出来た。
これを食べて、さっさと用意して来い。」
「・・・・・・・・・やっぱり、何か優しい。」
ちなみにインデックスはお箸を持って、正座をして麻生の料理が来るのを待っていた。
二人が料理を食べ終わり、自分の部屋に戻った。
麻生は皿を洗うとベットに寝ころび、自分の胸に手を当てる。
あの刀傷は傷痕もなく、完治した。
海原が上手く情報操作してくれたのか、麻生が怪我している事は他の生徒や教師、麻生の親も知る事はなかった。
それはそれで麻生は良かったと思っている。
もし、知られれば心配してお見舞いにくるだろう。
今は大覇星祭なので余計な心配をかけたくないのだ。
ともかく、上条が旅行に行くという事はその旅行期間中は麻生も不幸な出来事に巻き込まれる事は確実に少なくなる筈だ。
すると、麻生の部屋のインターホンが鳴り響く。
麻生はベットから起き上がり、扉に近づき開ける。
「郵便です。
麻生恭介さん宛てにお手紙が届いています。」
麻生はその手紙を受け取る。
郵便の人は手紙を渡すと、去っていく。
中に入り、宛名を見ると天草式十字凄教教皇代理・建宮斎字と書かれていた。
封を開けた瞬間、中から突然何かが飛び出す。
それは人の形をした紙で、麻生の顔の位置で止まる。
その紙には何やら記号が書かれていた。
「ああ~、ちゃんと声は届いているよな?」
「何の用だ、建宮。」
「おっ、感度良好。
ちゃんと手紙は届いたみたいだな。
今回、お前さんにちょっと用があって手紙を出したんだよな。」
その言葉を聞いた麻生は何か面倒な事件に巻き込まれるのか?、と思った。
「お前さん、前に我ら天草式を助けてくれたよな。
その礼をまだしてないって事に気がついてな。
そこで我らはお前さんをこっちに招待しようという訳よな。」
「どういう事だ?」
「簡単に言えば、我らがいる街にお前さんを招待する。
つまり、お前さんから見ると旅行に招待するって訳よな。」
どうやら面倒な事件に巻き込まれる事はないようだ、と麻生は少し安心する。
「それで場所は?」
「それは来てからのお楽しみよな。
まぁ、お前さんに時間があればの話だが。」
建宮の話を聞いて麻生は少し考える。
上条に続いて麻生も旅行。
何やら、妙に重なっているのが気になった。
(考えすぎか。
折角の休日だし、行ってみるか。)
そうと決まれば、と麻生は建宮に通じている人型の手紙に話しかける。
「幸い、今は休日だ。
そう長くなければ大丈夫だ。」
「それは好都合よな。
なら、必要な物を用意して現地集合だな。
詳しい情報は封筒に入っているからそれを見てくれよな。
それじゃあ、現地で。」
そう言い終えると、紙に書かれた文字が消えるとヒラヒラ、と紙は床に落ちる。
封筒の中を覗くと、中には数枚の紙と現金が入っていた。
どうやら旅費もあちらが持ってくれるらしい。
封筒に入っている手紙を取り出して、内容を読んでいく。
それを読んでいると麻生は一つの文章で視線を止めた。
マルコポーロ空港に集合。
マルコポーロ空港とは北イタリアでも有名な空港の一つでもある。
その文字を見て、麻生は上条が向かう所も北イタリアと言っていた。
詳しい場所は聞いていないがそう言っていた。
(まさか、な。)
少し不安を抱えながら、麻生は旅行の準備をするのだった。
後書き
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