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第二章

「そうしまして」
「それでなんですか」
「私はあの人と共に」
「一生ですか」
「そう考えています」
 穏やかで優しい笑顔での言葉だった、かくして喜久子は新島の妻となるのだった。だが。
 当の新島はある日行きつけの居酒屋、駅前の赤提灯のそこでだ、同期であり営業部長である間宮佑樹にこう漏らしたのだった、その漏らした言葉とは。
「結婚は嬉しいけれどね」
「おいおい、社内で噂になってるんだよ」
 二人はカウンターで飲んでいる、間宮は焼酎を飲みながら新島に言う。
「よくあんな結婚を出来たってな」
「だから嬉しいよ」
「じゃあ何でそこでしかし、なんてことを言うんだ?」
「いや、実は僕はね」
「君は?」
「もう終わってるんだよね」
 新島も焼酎を飲んでいる、それで焼き鳥を肴にしながら言うのだ。
「赤い弾丸が出たっていうかね」
「本当に出たのかい?」
「いや、それは出ていないよ」
 この赤い弾丸が本当にあるのかどうかはわからない、都市伝説の一つと言われている。
 だが、だ。新島はこう言うのだ。
「けれどね」
「そうか、まあ僕もだからな」
「君もなんだ」
「男は三十までだよ」
 元気なのは、というのだ。
「最近は二十代からの人もいるらしいけれどね」
「五十五を超えるとね」
「大抵はだね」
 終わるというのだ、男として。
「そうなるね」
「そうだろ、だから僕もね」
「しかし南野さんは凄い美人さんじゃないか」
 間宮は同期の桜である彼にこう返す。
「それでもない」
「うん、二十代の頃の僕ならともかく」
 五十八になった今では、というのだ。
「とてもね」
「そうなんだね」
「そうだよ、もうね」
「結婚は受けても」
「実は今まで言えなかったんだよ」
 告白してきた喜久子にだ、このことはとてもだというのだ。
「だから困ってるんだよ」
「夫婦は夜も大事だからね」
 むしろこちらがメインかも知れない、夫婦となったなら。
「そこはどうにかしないとね」
「そうだろ?どうしようか」
「大蒜はどうだい?」
 間宮は新島にまずはこれを勧めた。
「元気が出るからな」
「大蒜だね」
「そう、チーズもいいね」
 それもだというのだ。
「あれもね」
「大蒜にチーズねえ」
「とにかく色々食べてみたらどうだい?精のつくものを」
 こう彼に勧めるのだ。
「そうしたらどうかな」
「上手くいくかな」
「高麗人参もエキスもいいし」
 漢方薬、それも挙げる間宮だった。
「スッポンとかまむしもね」
「色々あるね」
「色々したらどうだい?幾ら何でも再婚して若い綺麗な奥さんを迎えたのに」
 それで夜何も出来ない、それはというのだ。
「幾ら何でも悲しいだろ、君も」
「それはね」
 だから相談しているのだ、彼にしても。 
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