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第六章

「全然、日本人の選手が活躍出来るなんて」
「思わなかったのか」
「そうだったのね」
「はい、ダルビッシュにしてもイチローにしても」
 こう言う優樹だった、キッチンのキャロルをちらりと見ながら。
「想像も出来なくて」
「イチローも凄いだろ」
「四千本よ」
 日米合わせてである。
「そこまで討つ選手はそうはいないぞ」
「そう、立派なものでしょ」
「ですからそんな選手が出るなんてとても」
 こう返す優樹だった。
「想像も出来なかったんですよ」
「日本の野球はレベルが高いと思うがね」
「そうだったのね」
「それが今やこうですからね」
 海を渡って大活躍している、それがとてもだというのだ。
「僕が生まれる前の日本の野球を知ってる人が言うには夢みたいだって」
「調子のいい時のダルビッシュこそ夢みたいだけれどな」
「どうしようもないからね」
 速球と七色の変化球だ、これではメジャーの強打者達も調子がいい時の彼にはどうしようもないのも道理である。
「それでもか」
「そう言うのね」
「ええ、本当に」
 今度はテレビのダルビッシュを観つつ言う彼だった、そして。
 まあキッチンのキャロルを見るとだ、彼女はというと。
 悪戦苦闘が続いていた、今も何とかレシピを見てだった。
 やっと作ったパイをオープンに入れていた、その彼女を見ていると。
「大丈夫かな」
「大丈夫かって?」
「オープンで焼くことが?」
「はい、いよいよ焼きますけれど」
「あんなの誰でも出来るだろ」
「オープンに入れて焼くだけよ」
 二人もそのキャロルを見た、しかし彼等は至って落ち着いている。
「わしだってするしな、それ位は」
「失敗したことないわよ」
「そうなんですか」
「というか日本じゃオープンは使わないのかい?」
「使うでしょ」
「使います」
 それはとだ、優樹も答える。
「とはいってもアメリカ程多くはないと思います」
「ふうん、そうなのか」
「そこがまた違うのね」
「そうだと思います、けれど」
 キャロルはキッチンにあったミトンで手を守っている、それも見て言う彼だった。
「ものものしいですね」
「だからあれで普通なのよ」
 デボラさんは今も落ち着いている、その顔での言葉である。
「アメリカだとね」
「そうですか」
「そう、じゃあね」
「安心して見てていいんですか」
「いい感じじゃない」
 全く以てだと言うデボラさんだった、そしてアルバークさんも。
 娘を見てだ、温かい目で言うのだった。
「はじめてにしてはいいだろ」
「そう思うわよね」
「ああ、あんなものだろ」
「そうよね。というかレシピをちゃんと見てね」
 それでだとだ、デボラさんは夫に言うのだった。
「慎重にしてるから」
「いいよな」
「はじめてはあれでいいのよ」
 全く大丈夫だというのだ。
「怪我をしないとね」
「そうだな、じゃあまたテレビ観るか」
「そうましょう」 
 二人は本当に安心している、しかもその目は温かい。そうした話をしてだった。 
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