私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?
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第14話 降って来たのは雨。現われたのは黒い男ですよ?
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第14話を更新します。
次の更新は、
11月6日、 『蒼き夢の果てに』第75話。
タイトルは、 『夜の森』です。
その次の更新は、
11月13日、『私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?』第15話。
タイトルは、 『今度は黒き死に神が相手だそうですよ?』です。
天を埋め尽くしていた赤き天井に対して、地上から放たれた金色の矢が貫いた瞬間。
一瞬、垣間見える蒼穹。
しかし、その一瞬後に、鮮烈を極める強烈な光が、陰火に支配された世界を徐々に凌駕して行く……。
そう。それは灼熱を支配していた邪鳥ヒッポウよりも強い輝きを示し、瘴気と火気と狂気。そして絶望に支配されて居た世界を貫いた金色の矢。
伝説に語り継がれる炎の烏を一瞬に葬り去った英雄の矢が、再び世界を火気から救い出したのだ。
そうして……。
ポツリ。
矢を放った姿勢のまま固まっていた美月の白衣に、ひとつ小さな染みが発生した。
「……?」
白猫のタマが天を見上げて声に成らない声を上げる。
白娘子が、そして、破壊神の少女シノブが手の平を天に向けて開いている。その手の平に、そして彼女ら自身をポツリ、ポツリと濡らして行く小さな粒。
黒く焼け焦げ、未だ大きな熱を持った状態の大地からは、落ちた途端に再び短い音と共に白い蒸気へとその姿を変えて行く蒼穹から降り来るそれ。
間違いない。これは……。
「……雨」
固まった姿勢からようやく動き出した美月が掲げたその手の平の上にも、ポツリ、ポツリと天からの雫が落ちて来る。そして、それは差して待つまでもなく雨脚は強く成り……。
やがて……。
それまで赤き邪鳥ヒッポウにより隠されていた大空に、何時の間にか厚く垂れ込めて来て居た雨雲から猛烈な勢いで――――
「雨が降り始めた!」
両手を大きく広げ天から降り注ぐ雨を全身で受け止める美月。これで、このギフトゲームも勝利。後はコミュニティの美月の家に帰って、今日は御供え物として集めた物の残りが有るから豪勢な夕食となるはず。
危険なゲームが終了し完全に弛緩した雰囲気。これで、美月が率いる白き光に覆い被さって来ていた危機はすべて祓われた。
後は――――
――ゆっくりと自分も含めて皆の実力を付け、色々なゲームで経験を積んで行けば、コミュニティはかつての、いや、かつて以上に豊かなコミュニティと成る。……と美月が勝手な想像を始めた瞬間。
雨音に混じってパチパチと言う妙に乾いた軽薄な音が混じる。これは明らかな異音。間違いなく人為的に発生させられる音。
そして、
「流石は三娘さまですね。自らが神籍に帰る道を閉ざしてでも、民を護る方を選びますか」
僕には真似が出来ませんよ。……と最後に付け足す聞き覚えのある若い男性の声。
「その昔、太陽の子供と言われた九羽の火烏を撃ち落とす事に因り、日照りの害から民を護った。
しかし、その為に神籍を追われ、死すべき運命を天帝より賜ったと言われていましたか、貴女はね」
声の発せられた方向に振り返った美月の瞳に映ったのは――――
「アンタは――――」
蒼穹からは雨が。そして、大地からは蒸気が上がるその中で立つ長身の影。
見た目は東洋人。身長は百八十センチメートル程度。頭髪は黒。その黒い髪の毛が額に掛かる部分を、バンダナで持ち上げて瞳に掛かるのを防いでいる。十人中、八人から九人までは美男子だと表現するであろう容貌。
服装に関しては、濃い緑色のブレザーに白のシャツ。そして、ワインレッドのタイ。スラックスは黒。
何処にでも居そうな、しかし、簡単に出会う事のないレベルの容姿……まるで古代の王の如き整った容貌を持つ青年。
但し、西の街道の事件の際には黄泉比良坂に黄泉津大神を呼び寄せ、
北の森の事件の際には、リューヴェルトの耳元に甘い言葉を囁く。
彼が纏う妖気を感じなくとも判る。其処には非常に危険な敵の姿が有ったのだ。
「あんた、未だそんな使いっ走りのような事をしているの?」
降り始めの雨の中、傘も差さずに胸の前で腕を組み、相も変わらず不満げな形で口を結んでいた破壊神の少女シノブが、彼女に相応しいかなり棘のある口調でそう問い掛ける。
その問い掛けに対して、件のバンダナの青年はこれまでと同じ表情。顔に完全に同化したような薄ら笑いで応えた。
「すみません。僕は所詮、下っ端で、使い走り程度の仕事しか熟せないモノですから」
それでも、貴女方。ここに居る皆さんの事をお慕い申し上げているのは変わらないのですよ。
……と、そう続けるバンダナの青年。但し、その態度の何処か奥深くに、何故か揶揄しているような雰囲気を感じる。それもすべての物に対する嘲笑……。
そう。まるで、その下っ端で、使い走りと自称している自分自身に対しても嘲笑しているかのような雰囲気を纏いながら、徐々に雨脚の強く成って居る世界の中心ですぅっと立ち尽くしていたのだ。
「特に三娘さまに関しては、夜ごと貴女の事を思っているのですよ。多分、貴女はお気付きではないと思いますが」
恋を語るに相応しい口調で、少し危険な台詞を口にするバンダナの青年。見た目だけならば、彼に好意を寄せられたと知ったのなら、大半の女性が気分を良くしたとしても不思議では無い言葉を。
しかし……。
しかし、今までの彼の行動や態度。それに、彼が纏って居る雰囲気などから、美月が感じたのは嫌悪のみ。決して、甘やかな気分になど陥る事はなかった。
その美月の反応を楽しむように見つめたバンダナの青年が、更に哂った。
いや、嗤った。
その彼の背に感じる果てしない黒。正に終焉を司るに相応しい色。
黒く、黒く、黒く塗り固められている闇。
そう、それは正に深淵。深き故に色など存在せず、見た者は黒としかイメージ出来ない黒。
目を瞑り見えるのは黒。正体が判らぬ故に黒。そして、すべてに終わりをもたらすモノならば、それも黒以外に存在していないように思われる黒。
彼の背後に現れた黒が、ゆっくりと優しき雨音に支配された世界を黒く塗りつぶして行く。その緩慢な動きはただただ不気味で、ひたすら生ある物を呑み込もうとして居る闇のように思われた。
そう。それは簡単に言い表して良い物ではない。
ただ……。
ただ、決して生ある者は触れてはならないモノ。何故かその部分だけは、はっきりと判る代物で有った。
刹那!
暗闇を斬り裂くは蒼銀の閃き。
しかし、ハクの手にする輝ける霊刀は、バンダナの青年の肉を捉える事は出来なかった。
「ハクちゃん?」
何が起きたのかさっぱり理解が出来ない美月が驚きの声を上げた。
そう。確かに何かが目の前で起きて居るのは間違いない。一瞬、何モノかが目の前を通り過ぎた気配は感じた。そして、光が闇を斬り裂いたのも判る。
但し、ハクの動き……どころか、彼女の姿さえ今の美月にははっきりと捉える事が出来なかったのだ。
「当たり前よ。あいつや、あたしたちの戦いは大気さえも物理的圧力として感じる世界での戦い。あんただって、この雨の中を神速で戦って居るあいつらの余波を受けていない以上、ちゃんと見たら見えるはずよ」
あんたはあたしと対になる存在なんだから。意味不明の呟きと共に、そう話し掛けて来る破壊神の少女シノブ。
……ちゃんと見る?
かなりの疑問符を表情に浮かべながらも、それでも少し瞳に力を籠めるようにして、一瞬一瞬に所を変えている戦いの気配を発する方向に瞳を凝らす美月。
その彼女の周囲に浮かび上がるキルリアン光にも似た淡い燐光。
そう。それは精霊が活性化した証拠。彼女もまた精霊を友と出来る存在で有る事の証。
此の世と彼の世。その境界線上に生きる存在の証。
その美月の瞳に映ったのは――――
蒼穹から重力の法則に従い落ちて来るはずの雨粒さえ停止する世界の中で、淡い燐光を身に纏い軽やかに舞うハクの姿と、昏き闇を纏い舞うバンダナの青年。
彼、彼女の淡い燐光に当たった雨粒が、儚くその生命を散らして行く。
いや、雨粒の落下するスピードさえも停止するような超高速下の戦闘で有る以上、その雨粒でさえも身体を穿つ凶器へと変わるはず。
おそらく、その超高速下の世界での戦闘を可能にしているのが、彼が纏う闇で有り、彼女が纏う蒼い光なのであろう。
そう、その姿は正に光と闇。二人が動く度に巻き起こる風が。飛び散る雨粒が。まるで終わらない輪舞を舞い続けるかのような二人の周囲に渦巻いていた。
究極の黒。闇を纏う青年と。
彼女を……青龍を指し示す蒼白き光輝を纏うハク。
彼と彼女が動く度に、乱舞する光と闇。
世界を異世界に侵食して行こうとする黒と、それを押し止めようとする蒼。
喉元すれすれにまで迫った切っ先を軽やかな、ヒラリと言う形容詞が一番しっくり来る身のこなしで躱して仕舞うバンダナの青年。
但し、ハクもその程度の事で手を休める事などなく、返す刀で脛を払いに行く。しかし、それすらも紙一重で青年の影を斬り裂くのみ。その黒のスラックスに届くことはない。
「貴方と事を構える心算など、僕にはなかったのですけどね」
その青年の端整な横顔に浮かぶのは普段通りの嘲笑か。それとも冷や汗か。
しかし、声や口調にも焦りの色はなく、普段通りの雰囲気で話し掛けて来るバンダナの青年。
今、この瞬間にも、一般人の目では捉えられない刹那の時間の中に身を置いているとは思えない非常に落ち着いた雰囲気。
その瞬間、青年の両手に現れる黒き玉。手の平をいっぱいに広げた程度の大きさから考えると、直径は三十センチメートル足らず。
巫女服姿のハクが雨により一気に冷やされ、蒸気を上げつつ有る地面に草履の形を深く刻みつけるように踏み込み、右上段から霊刀を振り下ろす!
彼女の霊力の活性化に伴い、一際強い輝きを霊刀が発し、大気の斬り裂かれる悲鳴さえ聞こえて来るかのようで有った。
しかし、そう、しかし!
残心……上段からの一撃を放った後にも心を緩める事もなく、一瞬の内に身体の軸をずらすかのように、僅かに上体のみを右に動かすハク。
刹那。彼女の顔前の大気を貫いて繰り出された黒き一撃が、僅かにハクの長い髪の毛を散らせた。
そう。必殺の間合いで放たれたはずの彼女の右上段の一撃を、バンダナの青年はいとも容易く左手に発生させた黒き玉……いや、ハクの振るう蒼銀の光輝を受けて普通の物質で受け流す事など出来はしない。それは、おそらくバンダナの青年が纏う闇そのものの凝縮された存在。その昏き闇で受け流し、一連の流れから同じように闇を纏わせた右腕を繰り出して来たのだ。
普通の人間。いや、例え達人クラスの人間で有ろうともその動きを瞳に捉える事も、彼らの交わす言葉さえ理解出来ない神の領域での戦い。
但し、何故か美月には今のハクとバンダナの青年の動きをしっかりと確認出来ていた。
現実の時間にすると刹那の時間。美月の感覚で言うと、軽く百は数えられる時間の交戦の後、一度離れてから対峙するハクとバンダナの青年。
ハクの表情は普段とは違う非常に真剣な表情。逆にバンダナの青年の方は、今までと変わらない薄ら笑いを浮かべるのみ。
そして、
「僕は本来、肉体労働には向いていないのですけどね」
かなり人を喰った台詞を口にするバンダナの青年。しかし、その頬は僅かに上気し、ごく自然な雰囲気でひとつ息を吐き出した。
しかしこれは、急激な運動で身体が酸素を求めた者が行う呼吸ではない。
これは明らかに戦いを楽しんでいる者の雰囲気。彼の顔に張り付くのは相変わらずの表情だが、心の奥底から、この少女との戦いを楽しんでいるように美月には感じられた。
「それならば、これ以上は何も為さずに立ち去りなさい」
表情は真剣なまま。更に、普段の優しい春の日だまりにこそ相応しいその声にも、かなり強い緊張の色をにじませながらそう口にするハク。
但し、彼女の方に疲労を感じさせる事も未だなし。
彼女がどのような修行を、元々暮らして居た世界で行って居たのか美月は聞いて居なかったが、それでも、この人間の限界の遙か向こう側の世界で戦い続けられる状況から推測すると――――
いや、今の美月には人間の瞳に映らないレベルの戦いを繰り広げる為の修業の方法など知り様は有りません。
苦笑とも、嘲笑とも付かない嗤いを浮かべるバンダナの青年。
但し、軽く首を振ってハクを見つめる。それまでと変わらない薄ら笑いを表情に張り付けたままで。
「そう言う訳にも行かないのですよ。これでも下っ端には下っ端なりの役割と言う物が有りまして」
……と言った瞬間、十メートルほどの距離を一瞬にしてゼロにしたバンダナの青年がこれ見よがしに大振りの上段回し蹴りを放つ。
そう。彼の纏う闇と同じ色の旋風が、ハクの側頭部を蹴り砕こうと迫り来たのだ!
しかし!
八相に構えた霊刀の輝きに因り、やや死角に成る右側から正確に側頭部を蹴り砕こうとした左脚の一撃を、すっと本当に身長が縮んだかのような自然な動きで左脚を頭上に躱し、その場でバンダナの青年の軸足と成って居た右脚を横薙ぎに払うハク!
その動きもまた神速。まして、今度の攻撃は身体の軸を狙った一撃。簡単に躱せる物ではない。
神の領域内の交錯。その刹那の時間の間に、青年の周囲で再び濃くなる闇。
その青年を包み込む昏き闇が、再びハクの放つ蒼銀の光輝を阻んで仕舞う。
そして……。
「こちらは終わったぞ」
その昏き闇から人の声が放たれた。
いや、違う。新たに現われた人物。黄泉比良坂の事件の時にも顕われた目立たない顔立ち、革手袋の青年がまた現われたのだ。
そう。彼の纏う気もまた、人ならざるモノの気配。
もしかすると、最初から存在したバンダナの青年よりも危険な気配を纏って居るようにも感じる。
「こちらの方は、後はみなさんに多少の説明を行うだけで終わりですよ」
完全に左脚を失ったかに思えたバンダナの青年が、それまで立っていた場所。ハクと一瞬の攻防を行った地点から、何時の間にか新たに現われた革手袋の青年の傍らに移動してそう答える。
対してハクは元より、タマや白娘子。そして当然、美月も動く事は出来なかった。
何故ならば、新たに現われた青年が纏う闇がウカツに動く事を許さなかったから。
そう、それはおそらく威圧感。黄泉比良坂で千引きの大岩の向こう側から感じた威圧感。神の威圧感に等しいそれを、この目立たない雰囲気の青年は備えて居たのだ。
「それでは、三娘さま。何故、貴女の率いているコミュニティが滅びに瀕して居たのかの説明をして置きましょうか」
相変わらず緊張した戦場に相応しくない、非常に長閑な口調及び声で話し始めるバンダナの青年。但し、その台詞の何処か奥深くにすべての存在を嘲笑するかのような雰囲気と、何故か狂気にも似た色を隠しているかのように感じられる。
「それは、アンタの上司とやらが決めた事なんじゃないのさ」
北の森で出会った青年。リューヴェルトから伝えられた内容をそのまま投げ返す美月。
その瞳は怒りに燃え、語気も普段の彼女に比べるとかなり荒い。本心から言えば、今すぐにでもこの弓に矢をつがえて目の前のニヤけたバンダナの青年に対して射かけたい、そう言う衝動を抑え切れずに居たのだ。
それが出来ないのは距離の問題。神速で動く事の出来る相手に、この双方の距離が美月の歩幅で十歩も必要のない距離に居る相手に矢を放っても、当たらないドコロか、あっさりと懐に入り込まれて生命の危険さえ存在して居るから。
そんな、今にも弓に矢を射かけて来そうな雰囲気の美月を、こちらは苦笑混じりのニヤけた表情で見つめながら軽く肩をすくめて見せるバンダナの青年。
小さな雨粒が降り頻る中、青年のその仕草はあまりにも自然で、そして視線を彼に集めるのには十分な力を持って居た。
「確かに、上からの命令で動いて居るのは事実ですから否定はしませんが、それでも、どのような方法でこれ程の悪い状況が訪れたのか、その方法ぐらいは知りたいと御思いでしょう?」
相変わらずの薄ら笑いを継続させながらのその一言。そして、それは確かに、美月ならずとも知りたい内容では有る。
バンダナの青年の言葉に続くのは優しきショパンの音色のみ。すべての人物がバンダナの青年の次の言葉を待つ雰囲気。
少し満足げに首肯く青年。
「白い光。確かに悪い名前では有りません。しかし、もしその対極……黒い闇と言う存在が居たとしたならばどうでしょうか?」
雨の日独特の匂いと、バンダナの青年の独白。その姿はまるで一人芝居を続ける舞台俳優の如き。
そう。彼自身が何かの役を演じて居ると言う雰囲気が強い。
「そしてもし、その白い光と黒い闇と呼ばれる神が、永遠に争い続ける運命を神話の中で与えられて居るとしたのならば、一体、どうなるのでしょうか。
それに、この世界は様々な種族や修羅神仏が実在している世界。それなら、白い光と呼ばれる神と、黒い闇と呼ばれる死に神が実際に居たとしても不思議でも有りませんからね」
周囲には差して強い勢いと言う訳ではないが、それでも細かな雨がすべての物を濡らしつつ有る中で、二人だけ。バンダナと革手袋の青年。この二人だけが雨に濡れる事もなく佇む。
そう、まるで雨自体が彼ら二人を避けて降り続けるように。
そして……。
そして、バンダナの青年の語った内容。コミュニティの名前に掛けられた呪い……。可能性としてなら存在する、美月はそう考えた。
更に、彼の言うようにここは様々な修羅神仏が存在して居る世界で有る以上、美月が知らない悪しき神が何処かに存在して居る可能性も高い。
そう美月が考えた瞬間、世界が変わった。
この感覚は、ハクを召喚してから嫌と言うほどに感じる事となった危険な出来事が起きる前触れ。
警戒をしながら周囲の確認を行う美月。
足元にはこのメンバーの中では一番古い友人。白猫……いや、本当は虎族のタマが存在する。
そして、何時の間にか注連縄に囲まれた結界の内側から美月の傍らに寄って来ていた白蛇の化身、白娘子。
自らの背後には口をへの字に結び、何が気に入らないのか、かなり強い瞳で前方に視線を送って居る破壊神の少女シノブ。
その破壊神の少女が視線を送る先に存在しているのはハク。
そして、彼女から更に前方に存在して居る二人の男性と……。
……一人の黒い影。
今の美月にならば……判る。あの黒い影は危険。
大きさは二人の青年と同じぐらいに見える事から普通の人間ぐらいの大きさ。体型も人間と同じ。黒いローブの如きズルリとした衣装。目深に被ったフードからその表情をこちらから窺う事は出来ない。
立ち姿だけでは男性なのか、それとも女性なのかさえも判断出来ない存在。
ただ……。
「それでは我々に命じられたのは彼の実体化まで。後の事は貴女方にお任せ致します」
ただ、その黒い影が放つ気は尋常な物ではなかった。
そう。その黒い影から放たれた何かを感じただけで美月の両足が震え、肺が酸素を求めるように喘ぎ、心臓は不規則に脈打ち、思考は千々に乱れる。
この新たに現われた黒い影に比べると、先に存在していた二人の青年など取るに足りない存在だと思えて来る。
「それでは皆さん。またお会い致しましょう」
後書き
かなり難産だった第14話でした。
尚、本来ならこの第14話がこの『私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?』の最終話とする予定でした。
ただ、そうすると最終話が二万文字オーバーと言うトンデモナイ文字数の物と成って仕舞いましたから……。
……と言う訳で、次回に引きます。
それでは、次回タイトルは『今度は黒き死に神が相手だそうですよ?』です。
う~む、その内に美月と邪鳥ヒッポウの関係の解説をつぶやきに上げる必要が有りますか。
私の物語ですから、其処に有る程度の神話的な裏付けは存在しています。
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