ゲルググSEED DESTINY
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六十一話 デスティニープラン
レイ・ザ・バレルという男にとって自身の人生は総て枠に収まったものでしかない。デスティニープランがどういったものかを知っている彼にとって遺伝子は絶対のものであり、また、自身がその定めから逃れることが出来ないことを理解している。
そんな彼は現在、プラントでようやく得た休息を楽しんでいた戦友たちと共に、流されている放送の様子を見ていた。
『今私の中に、皆さんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いています。何故こんなことになったのか――――』
「いつだってギルは正しい――――」
彼にとってデュランダルの言葉はいつも正しいのだ。正しくなくてはならないとさえ思っている。きっとレイは、黒であったとしてもデュランダルが白だと言えば喜んで白だと同意を示すことだろう。小声でつぶやいたその言葉は誰にも届かない。だが、確かな意思を感じさせるものだった。
『――――愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは。一つには先にも申し上げた通り、間違いなくロゴスという組織の存在由縁です。敵を作り上げ、恐怖を煽り、それを食い物にしてきたものたち――――長い歴史の中に蔓延んできた死の商人たちです。だが我々はようやくそれを滅ぼすことが出来ました。だからこそ、我々は今度こそ、もう一つの敵と向き合い、そして我々はそれにも打ち勝たねばならないのです』
辺りが騒然としだす。当然だろう。折角これで人類最大の敵が滅び、戦いが終わったと思っていたにもかかわらず、まだ敵がいるというのだから。この放送を聞いていた殆どの人達は突然の議長の発言に戸惑うばかりで未だにその意図を理解しきれていない。
『皆さんにも既にお分かりのことでしょう。有史以来、人類の歴史から戦いの無くならぬわけ。常に存在する最大の敵。それが一体何なのかという事を――――』
人類が絶えず自らの欲望の名を元に、理屈も解せぬままに続けようとするその傲慢な無知によって――――そういった出来事で生まれた自分やシンの近くにいるエクステンデット、そしてラウも……その多くが犠牲となり、こうして不幸が与えられた。レイの心の内は暗く、しかしながらも同時に平和への鍵となるこの議長のメッセージに心躍らせる。
『それは、いつになっても克服できない、我ら自身の無知と欲望だということを。地を離れて空を翔け、その肉体も能力も、様々な秘密までをも手にいれた今でも、人は未だに人を分からず、自分を知らず、明日が見えないその不安――――』
人は何時だって不透明な未来に対し、不安を抱え生きている。故に人は今を生きる上で他者を蹴落とし、少しでも前へと向いていく。愚かとしか言いようがないとレイは思う。デュランダルの言葉はレイにとって自分を縛る鎖であり、そして何より得難い自身の絶対的なアイデンティティの形成に欠かせない存在であった。そのデュランダルが発言する言葉に間違いなどない。少なくとも、レイ自身はそう思っている。
『より多く、より豊かにと、あくなき欲望に限り無く延ばされる手。それが今の私達です。争いの種、問題は、すべてそこにある!だが、それももう、終わりにする時が来ました。終わりに出来る時が。我々はもはや、その全てを、克服する方法を得たのです』
役割を演じることの何が不安なのか。だが、社会を生きる上でそれは必要な事だ。誰しも自分の不得意なことを率先してこなそうなどと思うまい。適材適所――――その言葉がさす通り、己の長けた方向に能力を使っていけばいい。寧ろ何故それを厭うのか?
『全ての答えは、皆が自身の中に、既に持っている――――それによって人を知り、自分を知り、明日を知る。これこそが、繰り返される悲劇を止める、数少ない方法。私は、人類存亡を賭けた一つの防衛策として、デスティニープランの導入実行を、今ここに宣言いたします!!』
辺り一帯がざわつく。シンやルナマリア、ショーンといった共にミネルバから出てプラント市内で休息を楽しんでいたレイの戦友たちも戸惑いを露わにしていた。
「デスティニープランって……なんだよ、それ?」
「議長……こんなことを本気で」
「でも、プラントには婚姻統制だってあるし、そう考えたら――――」
「何を迷う必要があるんだ?」
困惑している三人を前にレイは冷静な様子を見せながら自身の信じる事を口にする。
「お前たちが、いや――――人類が望んだ『戦争のない世界』の実現、その唯一の方法だろう?」
その言葉に三人は困惑を続けながらも衝撃を受けたような表情となる。レイからしてみれば何故彼らがそこまで悩むのかが分からない。確かに反発や不安もあるだろう。だが、世界は変わらなくてはならない。誰もがロゴスという組織を通してそう思ったはずだ。
「確かにそうかもしれないけど……こんな急に言われても」
「それに、これって本人の意思は考慮されないんじゃ――――」
確かに、おそらくこの政策は本人の意志というものを無視したものとなるのだろう。才能によって定められる世界。例えば人生をかけてスポーツ選手を目指してきた人間に、スポーツの才能はないが文学の才能はある。君は執筆者になった方が良いなどと言われても納得など出来る筈もないだろう。
「確かにそうだろうな。いつの時代でも、変化は必ず反発を生む。それによって不利益を被れば、明確な理由はなくとも、ただ不安から異を唱える者が必ず現れる。議長のおっしゃる通り、無知な我々には、明日を知る術などないからな……だが人はもう、本当に変わらなければならないんだ。でなければ、救われない」
所詮、本人の意志というものも一代限りのものだ。何故なら、それらの政策に対し、不安を呼び起こすのはこれまでの世界を享受してきた人間にとっての変化による不安であり、未知に対するものだからだ。だが、逆に言ってしまえばそれを一度享受すれば不安など生まれようはずもない。
次代以降の人間は才能に適応した環境だって整えられるはずだ。そうなれば、誰も見えぬ先の未来に不安を抱くことなど起きるはずもない。人は、あるべき姿としてそこに新たな世界を受け入れるはずだ。
「だ、だけどさ――――実際、こんなの急に受け入れられる話ってわけでもないだろ?コーディネーターとナチュラルの差とかがあるんじゃないか?」
ショーンが政策に対する不安を口にする。事実、遺伝子を事前に操作して才能ある人間としたコーディネーターに有利で、ナチュラルには不利な政策にも見える。だとすれば、相対的に人口の多いナチュラル側に不満が高まるのではないか?
「なんだ、そんな事か?」
「そんな事って――――レイ、でも実際……」
「何故、人はコーディネーターの方が優れていると言い切れる?」
そもそもなぜ、そしてどういった面でコーディネーターが優れているのかというのを多くの人間は理解しきれていない。確かに基本的な水準に優れているコーディネーターの方がナチュラルより優れているというのは事実だ。
しかし、それらの才能は総てナチュラルを上回っているかと言われればそれは違うと言える。ナチュラルでも優れている人間はいくらでもいる。そもそも母数が違うのだ。コーディネーター百人に一人しか出来ない事があったとしてもナチュラルは数十万人に一人が出来れば自然と数の理屈によってナチュラルの方がその才能を持つ人間は多くなる。
そもそも、コーディネーターであっても万能ではない。己にとって優れていることの方向性が僅かに増えるだけであり、寧ろそういった意味ではナチュラルの方が初期に与えられる選択肢の幅が狭い分、時間が多く与えられ努力の差によってその差は覆されるだろう。
「お前たちもこの戦争が続いて分かっただろう?ナチュラルの乗るMSが決して俺達ザフトに劣っているわけではないという事が」
デスティニーやレジェンド、そしてセカンドシリーズやその同等の性能を持つ機体に乗っている上で技術の卓越している自分たちはともかく、一般兵士の多くは連合のMSと互角の或いは僅かに勝っている程度でしか成果を見せていない。
ナチュラル用のOS――――これ一つでコーディネーターの操縦技術の優位をあっさりと覆したのだ。
運動神経が良いから、頭の回転が早いから人はトップに立てるわけではない。他者より立場の上となれるのはその人間の本質が上であるからだ。だが、今の世界はその本質を見極めれない無知ゆえに立場を誤り、その結果不毛な戦争がおこる。
ならば、そのデスティニープランは遺伝子によってそれを定め、そのボタンのかけ間違いを無くす。それの何が間違いだと、誰が間違いだと言えるのか?
「終わらせなくてはならない。これ以上、犠牲を増やさぬためにも――――悲劇を繰り返さない為にも。だからこそ、議長は決断したんだ。戦争と悲劇を永遠に繰り返さない為に」
レイのその言葉を聞き、三人はそれぞれ自分たちの考えを思い描く。三人とも、未だに迷いはあったが世界がこれで本当に救われるなら――――そんな思いが渦巻いていた。
◇
「こ、こんな政策を認めるわけにはいかんぞ……」
ロゴスという自身を傀儡としていた組織が消え去っても未だ自らの席を失ったわけではない大西洋連邦大統領であり、現在名実ともに実質的な連合のリーダーでもあるジョゼフ・コープランドはデュランダルの唱えたデスティニープランを聞き、恐怖していた。
ロゴスに担ぎ上げられていた人物とはいえ、曲がりなりにも地球圏最大の組織のトップであるジョゼフにはこの政策がどれほどの波及を生み出すかを理解していないわけがない。彼はごく一般的な政治能力と自身の保身には長けた人間だ。そんな彼だからこそ、自身の安寧の立場を脅かすであろうこの政策は無視できるものではなかった。
「クッ、ロゴスを滅ぼして満足していれば良かったものを……」
ジョゼフは自身に組織を纏め上げる様な才能が足りないことなど重々承知している。にも拘らず彼が今の立場に就いているのは生まれ、ロゴスの担ぎ上げ、恵まれた幸運、そして自身なりの多大な努力によるものだ。無論、それらはただで手に入れたわけでなく、多くの犠牲を払ってでも得た一つ限りの席。それをあっさりと譲るなど許容出来ようはずもない。
「そんな政策を断じて認めるわけにはいかん」
この政策は上に立つ人間ほど反発が強くなることだろう。殆どの人間は例え自分に才能があると確信するほどの自信家だとしても、それが一番だとは思っている筈もない。絶え間ない努力、そして運。それらによって自身の立場を形成してきたのだ。例えば、医者の子が医者を目指し、向いていないと思いながらも人を一人でも助けたいと思い、親のコネと努力によって医者の立場に立った人間が、この政策によって兵士の方が向いているなどと言われればどうだ?
無論、精神面や環境を考慮しないというわけではないのだろう。だが、それでもこれらの政策を無視できるほどジョゼフは自信家でもなければ楽観的でもない。すぐさま連絡を取り、連合の部隊に命令を発する。
「今すぐアルザッヘル基地に連合艦隊を集結させるんだ!あんな計画を放置するわけにはいかん!和平交渉?向こうからあんなものが提示されたんだぞ!止めん限りは無理に決まっているだろう!私もでる!!とにかくどんな名目でも私の名前を使ってでも構わん――――部隊をかき集めるんだ!!」
彼は焦りを見せながらも必死の抵抗しようとしていた。
◇
「やっぱり、あのデュランダル議長っていう人はこんな政策を考えていたんだね……」
月都市のコペルニクスに無事辿り着くことの出来たアークエンジェルのクルーは神妙な面持ちでデスティニープランに対して難しい顔をしていた。
「決められたことに従って行動すれば平穏な人生が得られる……一見、皆幸せに成れそうな気もするけど――――」
才能ある人間がその才能に向いていることを行い、自身の本当の能力を発揮する。確かにこれだけ聞けば素晴らしい政策にも聞こえるだろう。しかし、彼らからしてみれば胡散臭いことこの上ない。
「こいつは確かに戦争がなくなるかもしれんが、どうもキナ臭いってやつだな。これにそぐわないって人間は一体どうする気なんだか?」
バルトフェルドも詳細を知らされていない部分に対し、疑念を放ち、どうする気なんだと問いかける。
「さあ、でもあんまり良くないことは確かなんじゃないかしら?少なくとも、今教える気はないってことはそうとられても構わないって事なのかもしれないし――――」
「でも、未来を決めるのは運命じゃないよ。いつだって僕たちは迷って、それでも自由を得たいと思ってるんだ」
キラはデスティニープランに対して反発的な意見を取る。成功すれば、確かに戦争はなくなるかもしれない。けど、それは戦争がなくなるだけであって決して幸福を意味するわけではないだろう。そんな世界はきっと未来へとつながる人間の笑顔を失わせ、幸せという言葉の意味すら分からなくなってしまうに違いない。
「だから、止めなくちゃ――――勝手な言い分だろうし、平和を目指している気持ちは一緒なのかもしれないけど、誰も不幸にならない代わりに誰も幸せになれない、そんな未来は嫌だから」
キラは自分たちの行いが正しいことだなどと己惚れてはいない。だけど、議長の行う未来が正しいとも思えない。だからこそ、今は止めなくてはならない。それが覚悟なんだと決意して。
後書き
今更だけど大西洋連邦大統領の彼ってジョゼフorジョセフ、コープマンorコープランドの名前で見る資料によって全部組み合わせが違っているんですよね。仮に国ごとの発音の問題にしても資料位は統一してほしいものです。
公式サイトと電撃データコレクションですら噛みあってませんし(;一_一)
ページ上へ戻る