転生者が歩む新たな人生
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第39話 修学旅行-2日目- その1
さて、木乃香の誘拐未遂が起きた夜も明け、修学旅行2日目である。
清水寺で酒を飲まされた生徒達にも元気が戻り、中学生の集団らしい朝食を班別で摂っている。
なお今日の予定は一日奈良で班別の行動だ。
事前に提出されてある許可された範囲内で、各々生徒達が自由に行動することになる。
オレ達先生達は統括の新田先生を除き、それぞれの班が見学する施設などを時間を決めて見回ることになる。
決して目の前のネギのようにどこかの班と一緒に行動して見学するようなことはしないんだ。当たり前だが。
生徒達と同じ行動するのではなく、あくまで生徒達を見守るのが先生にとっての修学旅行なのだから。
もっとも今のネギは先生でも教生でもない休暇中の同僚でしかないので、他の先生方も含めてネギの行動はスルーしているが。
☆ ★ ☆
事前に他の先生方と計画したとおり観光名所を廻る。
若干寂しいと思わないでもないが、そこそこに顔が知れているオレは「先生、一緒に廻ろう」と現地でよく誘われるので、そこの観光名所だけだが誘われたら一緒に廻り、楽しいひとときを過ごす。
そんなことを繰り返し、若干騒がしいという程度で特に問題もなく昼も過ぎる。
問題があったのは生徒ではなくオレの方だった。
「で、そろそろ出て来ないかい?」
昼飯を食べ、少しまったりする時間を取ってあったので、人目のつかない場所でそう声をかける。
ちなみに声をかけたのはどこにでもありそうな水たまりだ。
そう声をかけただけで十分通じたのだろう、その水溜りからオレと同年代の子供が姿を表す。
上下灰色の詰め入りを着込み、真っ白な髪、ハイライトが抜けた瞳をした少年は、オレをじっと見据えていたが、やがて口を開く。
「よく、僕の居場所がわかったね」
「いや、さすがにあれだけわざとらしく気配を出されれば誰でもわかるよ。さて、まずは自己紹介からか。オレは遠坂暁。中部魔術協会所属の魔術師だ」
「くくくくっ。君のお兄さんは朝から見てたがまったく気付かなかったようだけどね。一応フェイト・アーウェルンクスと名乗っている」
「アーウェンクルスね………」
といかにももったい付けたような振りをしているが、心臓の方はバクバクしている。今回遭遇するかと思っていたがどうやら本当に遭遇してしまったらしい。
オレの死亡フラグに。
不幸中の幸いと言えるのは周囲に迷惑をかけそうな人がいないということか。
「で、魔法世界でご活躍中の「完全なる世界」のエージェントさんが何用で?」
「き、君は?」
どうやらフェイトの正体をいきなりばらすことで意表はつけたらしい。原作知識に感謝だ。
「とりあえず、午前中ネギの所にいたと言うことはバカ親父の血を引く者の監視と偵察ぐらい? それともオレの母の血でも気になるのかい?」
「っ。君はどこまで知っているのかい?」
「どこまで? さぁ、知っていることは知っているだけさ」
「フフ。面白いね、君は。魔法学校で首席をとった君の兄よりも余程手強そうだ」
「いや、あれと比べられても………」
うーん、ネギと比べられても何とも言えん。
「まぁ、今回は本当に君らの監視と言うよりも只の観察ぐらいだな。たまたま君に声をかけられたので顔を出しただけさ」
「ではまぁ、お近づきの印として一つお願いしたいことがあるんだが?」
「お願い?」
「そう。お ね が い 。 まぁ恐らくあなたも気になっていることじゃないかな?」
「なんのことだい?」
「まぁこういうことさ」
そう言っておもむろにデバイスから採血セットを取り出し、左腕から血を吸い出し、いわゆる病院での血液検査に用いる小さな密閉した試験管2本分を溜める。
その後回復魔法を使い一応出血を止め、不要になった採血セットを仕舞い、改めて事前に採血してあった試験管2本を取り出す。一応ラベルには約1年前の取りだした日付をつけてあるので、今回採った血と間違えることはないだろう。
「さて、ウェスペルタティア王国に連なる者の血だ。なお、後から取りだした方は1年前に採血した物なんだが、これだけあればオレにお望みの力が継承されているか調べはつくはずだ」
そう言ってあっけにとられているフェイトに4本のオレの血が入った試験管を渡す。
「君はいったいどこまで知っているんだい?」
かろうじてそう言ってきたフェイトにはこう答えておく。
「とりあえず、君らの目的にウェスペルタティア王国に連なる者の固有能力が必要であり、それがないとわかればオレに興味を抱く必要が無くなることぐらいかな」
ちなみに当たり前だがオレにウェスペルタティア王国王家固有の「完全魔法無効化能力」が無いことはずっと以前に調べてある。じゃなければこんなことはしない。
まぁ、原作でも母アリカ・アナルキア・エンテオフュシアがバカ親父を殴る時に使うぐらいで、ネギにも継承されていないことから、何らかの理由でオレにも継承されていないのは必然なのだろう。まぁ、女系にしか継承しないか、旧世界の血が混じったことでけいしょうしなかったのか、或いは血として限界だったのか。
何にしろ重要なのは「完全魔法無効化能力」がないことで、「黄昏の姫巫女」のスペアとしてオレは役立たずということだ。
当然血を渡したのはこちらで調べた結果を話しても相手が信じるわけもないので、相手に調べさせ納得させるためだ。
わざわざ1年前の血と目の前で採集した血を渡したのも、2つを調べることによってより精細な結果を出させるためだ。
まあ無駄なパフォーマンスに終わるかも知れないが、一応念のためという奴だ。
俺が言った意味を理解したのかフェイトは
「ふむ。ならついでに君が調べたという結果ももらえれば嬉しいね。それを信じるかどうかはともかく」
そう要望してきた。
むろん、データについてはスサノオにも入っているし、USBメモリにも入れてあるので、ついでに渡す。
「ほら、これだ。ただしこっちの世界の形式だぞ」
「ああ、無論かまわないよ。で、これだけのことをして君は何を望むんだい?」
「何も。あえて言うなら不干渉を。と言ってもこの件でオレの血が役に立たないとわかればわざわざオレに干渉する必要もないはずだが」
「わかった。ここはよいお土産をありがとうと言っておこう。早速君の望み通りこちらで調査しよう。それでは」
そう話すとフェイトは改めて水たまりの中に消えていく。
「円」を使ってフェイトが完全にここから離れたことを確認してようやく息をつく。
どうやら最大の死亡フラグは7割ぐらいは折れたようだ。なんにしろ問答無用で襲いかけられなくて本当に助かった。一撃で殺されることはないだろうが、勝てるかどうかと言えば勝てないな。全ての能力を使って何とか逃げれるというレベルだな、あれは。
こちらから情報を提供するという奇策でなんとか言いくるめれた感じだな。
まぁ、とにかく今回の交渉? は上手くいった。
願わくば以後の旅行中も上手くしのぎたいものだ。
後書き
フェイトとの初遭遇です。
なお、この世界では血液を調べれば血筋固有の能力の有無ぐらいはわかることになってます。
それと「完全なる世界」の目的には「完全魔法無効果能力」が必要であるとしています。
ご都合主義でごめんなさい。
ちなみにナギのせいで前回計画に失敗し、そのせいでフェイトらに恨まれているかもという考えは暁にはありません。これは暁がナギをバカ親父と見ており、大したことをしていないと考えている弊害です。
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