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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第五十二章 その場所へ想い走らせたならば《3》

 
前書き
 セーランvs実之芽
 第2ラウンドスタート! 

 
 一歩を確実に歩き、確かに距離を縮める。
 セーランは開いた実之芽との距離を縮めるように歩き、腕を伸ばせば届く距離にまで来た。
 そして、実之芽の襟元を掴んだ。
「う……!」
 掴まれ、漏れる息が声となって外へと出る。
 何故、身体が動かなかったのかは実之芽は分からなかった。
 抗いの行動を取らなければと、あがこうとするが、その前に身体を後ろへと突き飛ばされた。
 日来の長は何がしたいのか、意味が分からない。
 だがお陰で身体に自由が戻った。
 何故に身体が動かなかったのかは分からなかったが、別にどうでもいい。
 今は日来の長を倒す、または解放場に近付けさせなければいい。
 構え、何時でも行けるように体勢を整える。
 ため息に似たものを吐き、再び距離を詰めようとするセーランに対し、実之芽は今度は打撃を放った。
 素早い移動は一瞬にして距離を詰め、無理矢理縮められたバネが勢いよく跳ねるかのように腕が伸びる。
 利き手である右手の打撃。
 当たった衝撃と共に、雷撃が起こるようにした。
 それも容赦の無い、本気の本の字くらいは付くぐらいの。
 狙いは容赦無く顔面。
 食らえばかなりの痛手を追う。
 柔な盾では防げない。
 避けられるものなら避けてみなさい!
 拳は確実に顔面を捕らえる軌道に入っており、一方のセーランは目の前の拳には目もくれていなかった。
 今、セーランが見ているのはこの場所ではないからだ。
 目のやる場所は拳の向こう側ではない。
 彼が見ているのは未来だ。
 だから、拳がこう来ることも予想の範囲内である。
 避ける必要など無い。
 ただ攻撃を受けるだけだ。
 一切の動きを見せないセーランに疑問を持ちながらも、実之芽は攻撃を続行した。
 秒も経たずに打撃は当たり、拳から一気に雷が流出するように現れた。
 閃光が放たれ、眩しい光が辺りを照らす。
 通り過ぎる形でセーランの背後に行った実之芽は反転し、振り向いて見た。
 当たった時の感触が、人のものではなかったからだ。
 防がれたのだろうか。
 まさか。
 拳と顔との距離は拳一つ分すらもなかった。
 防がれる筈がないと、自分に言い聞かせるように思う。
 しかし、現実は違った。
 目の前には、一人、立っていた。
 それも無傷でだ。
「どうして……」
 まさか防がれるとは思っていなかった。が、防げたとしても無傷などありえない。
 あの攻撃は本気の一撃に近かったものだ。
 ただの打撃だが、まとう雷は現実空間に起こる雷の比ではない。
 多分、この世にある全ての抵抗を無視出来るであろう雷だ。
 神雷とまではいかずとも、言うならば超雷か。
 見た目とは釣り合わない強さの筈が、相手に傷一つ付けられないなどおかしい以外の何ものでもない。
 振り向くセーランを、実之芽は確かに見る。
 セーランが振り向き、口が開くのも。
「簡単なことだ。流魔は思いが強ければ強い程活性化する。お前の雷よりも、活性化した俺の流魔によって創られた盾の方が強かったってことだ」
「そんな、ありえない。目に見える流魔の変化は狙って起こせるものではないわ。それに流魔の活性化だけで、神化系術の攻撃を止めたっていうの。無茶苦茶だわ」
「ちょっとした細工はあるが、それ無しにしても不思議じゃないだろうよ。想い人が殺されるんだ。助けたい、て気持ちで流魔が活性化する。誰でもそうだと思うけどな」
「ほんと、気に障る人ね」
「俺の方がお前よりも今は強いってだけの話しだ。今の俺は誰にも負けねえ。人だろうと魔物だろうと神だろうと、定められた運命気に入らなかったらぶち壊すだけだ。
 ただ単に運命に流されるのか、お前は」
 なんであんなにも強いのだろう、実之芽には理解出来無かった。
 何も変わっていない。
 彼は何も変わっていない。
 なのに、こんなにも強い。
 前に闘った時は正直生温いような感じがして、自然と手を抜いてしまった。
 強いとは到底言えない、ただの人族だと思った。
 だが、今この場にいる彼はなんだ。
 睨み付けるようき目尻を尖らせ、口調も前のような緩い感じではない。
 本当に、前に自分が闘った日来の長なのか。
「なんとかくだけどさ、お前……色々背負い過ぎなんじゃねえの。頑張らなきゃって、自分に言い聞かせてるみたいなんだよな」
 表情を緩ませ、
「本当は宇天長、救いに行きたいんじゃねえのか」
「分からないわ……貴方なんかに……」
「なら教えてくれよ。もし嫌ならさ、前みたいにぶつかって来いよ。どんな攻撃を食らっても、俺はお前の目の前に立ってるからさ」
 なんで笑える。
 先程までとは違う、笑みを得た表情をした。
 読心術でも会得しているのか。
 変わっていない。
 表情は変わっても、彼自身が変わったわけではない。
 直感で解る。
 今の彼は確かに自分より強いかもしれないと。
 力は上、戦闘経験も上な筈なのに何故かそう感じた。
 ならば彼の強さとは、一体なんなのか。
 踏み込み、無言の乱撃を行う。
 認めたくはなかった。
 あんなへらへらした者に、自分が劣るなど認めたくはない。
 実之芽は思考が動くよりも先に、行動で思考を吹き飛ばす。
 腕を、足を、身体を動かし、無双と言える攻撃をセーランに対して行った。
 風を割き、身体を動かし。雷鳴と共に雷撃は走り、昼間の地上に光が眩い照らされる。
 一方のセーランは防御のみで、一切の攻撃はしなかった。
 代わりに時たま流魔操作によって創った棒を、地面に刺していった。
 組手を行うように一撃一撃を避け、素早い足さばきで移動する。
 実之芽は戦闘艦が背に来るようにセーランに攻撃を行うが、理解しているセーランはそうならないために動いていた。
 攻撃は当たっているが、手応えはない。
 思いが流魔を活性化させるのならば、何故自分のは活性化しないのかと実之芽は思った。
 自分は奏鳴を守るためここに立っている。
 解放されることを奏鳴は望み、最後の約束を交わした。だからせめて、最後まで奏鳴を守ると決めた。
 消えることが怖くて、泣いていたあの時に、なんて世界は理不尽なのだと思った。
 運命を壊せるのならばやっている。
 こんな運命などいらないと、言って運命が変わるのであれば言っている。
 しかし現実は違う。
 定められても定められていなくても、運命と言うものはやって来る。
 嫌な運命だろうと、やって来てしまうのだ。
 これから来る運命に対して対処は少なからず出来るだろう。だが、既に目の前に来た運命は受け入れるしかない。
 目の前に来て変えられる程、現実と言うものは甘くない。
 容赦無く非情な選択を迫り、心身共に疲れさせる。
 努力など容易く消し飛ばされ、その上で過酷な現実を突き付ける。
 こちらをあらゆることから諦めさせるように、ここぞと言う時に。
 どうしたらいいか分からない。
 奏鳴を守ることを貫いている今も、果たしてこれが正しいのかと心が揺れ動く。
 日来の長は心を見透かしているようで、気に食わなかった。
 彼の笑みには、裏があるような気がして嫌だ。
 こうして攻撃している時も、こちらの目を見てくる。
 拳を掴まれた時とは違い、直視するように。
 何がしたい。
 勝つ気はあるのか、倒す気はあるのか。
 問いを拳に込め、流れのなかで放つ。
 セーランは拳を身体から逸らすだけで、それだけだった。
 蹴りも同じだ。
 自分からは何も仕掛けない。
 こうしている間にも、解放の時間は迫って来ているというのに。
 至って冷静に、セーランは実之芽に向かって言う。
「本当に倒す気はあるのか」
 心を見透かされた。
 嫌だったから、一度距離を離した。
 離れれば、心を見透かされることもないと思って。
 しかし、それは間違いだった。
「前の方が、お前を倒すぞって感じがあったんだよな。でも今はそれが無い。むしろ時間を掛けて、ここに留めておくような戦い方だ」
 だからセーランは間違いに気付いた。
「間違ってたわ。俺は強くなってんじゃなくて、お前が弱くなったんだ。倒す気が湧かなきゃ、本気なんて出せるわけないもんな」
 返事は返ってこなかった。だからセーランは続けた。
「本当は迷ってんじゃねえの? これで本当にいいのかって、疑問に思ってんじゃねえのか。
 自分が選んだ答えはこれでいいのか、悔いは無いのか。それを選んでよかったって、胸を張って言えるのかよ」
「私は……」
「どうなんだ。もう一度、自分に聞いてみろって」
 こんなことで心が揺らいでどうする。
 決めた筈だ。奏鳴を守り抜くと。
 ここで揺らいだら、約束は果たせない。
 自分は既に決めた筈だ。
「宇天長の側にいたお前が今取るべき行動は何か」
 取るべき行動。
 それは日来の長を解放場へ向かわせないこと。だから今自分は、彼の前に立ち塞がっている。
 いい筈だ、これで。間違って無い筈だ。
「ここでお前は何をしているんだ。俺を止めて、何を果たす?」
 約束を果たすのだ。
 奏鳴との、最後の約束を。
 苦しみから解き放ち、奏鳴がこれから得る筈だった幸せを得て、語り笑う。
 約束した筈だ。
「お前はあいつを“見殺し”にするのか」
「見、殺し……? 違う。私は、私は守ると……守る? でも、それは奏鳴様を結果的に殺す。……あれ? 守ったら、死んじゃうの?」
 駄目だ、考えたら。
 これ以上、精神を傷付けるのはよくない。
 考えるな。
 糸が巻き付くように、実之芽の思考は混乱し始めた。
 考えては駄目だと言い聞かせているが、思考は命令を無視し考えさせる。
 現実に目を向けさせるかのように。
「なら助けに行く? そしたら約束は、奏鳴様の意思が……。助け出せたとして、苦しみを与え続けるの……? 駄目、そんなのは。なら解放させ……嫌! 死なせたくない! 生きてもらいたい。ずっと笑っていてほしい……」
 崩れ落ちる実之芽。
 冷たいコンクリートの地面に、彼女は落ちた。
 約束を守るためには奏鳴を殺さなければならない。だが奏鳴は殺したくない。
 彼女の意思と、自分の意思。
 全く逆の結果を生む意思を二つ持つ彼女のなかで、混乱が起こった。
 実之芽がこんなにも悩む理由は、草野芽家、つまり彼女の家系にあった。
 草野芽家は代々、委伊達家を護る護衛を担当する家系だ。
 だから実之芽は幼い頃から委伊達家を第一に考えるようにと、そう教育されたきた。
 真面目な彼女は真っ直ぐ、教育されたことを忠実に守ってきた。
『私は……遣える者なんだ……』
 奏鳴を護るようにと遣わせれた中等部二年生の頃から、ずっと奏鳴の側にいた。
 家族を殺してしまい、誰であろうと拒絶した彼女の側に、黙って側に居続けた。
 黙って彼女の、誰にもぶつけることの出来ぬ怒りを、この身一つで受け止めた。
『どうしてなの! どうして、こんな力が! こんな力さえ無かったら――!』
 口調がまだ女らしかったあの頃の奏鳴。
 怒りを受け止め、泣き崩れた奏鳴を優しく抱いた。あの時ただ、それだしか出来無かったから。
 その頃からか、実之芽は奏鳴を委伊達家の者として、自分の大切な者として見るようになったのは。
 彼女には自分が必要だと、思い、何時でも何処でも彼女の側にいて、彼女のために尽くした。
 遊び盛りな年の時も、自分は彼女を護ることが役目なのだからと、言い聞かせ側に居続けた。
 そんな実之芽に気が付いてか、奏鳴は彼女なりの気遣いとして実之芽のことを存分に頼った。
『実之芽さん、三つ編みってどうやるの?』
『それでは三つ編みは出来ませんよ。まず髪を二つではなく三つに分けなければ駄目です』
『あ……』
『ふふ、おっちょこちょいですね奏鳴様は』
 年上だからとさん付けで呼び、もう一人の姉代わりとなってくれた実之芽に奏鳴は感謝していた。
 自分の時間を潰してまで尽くしてくれることが、ありがたかったから。
 だが実之芽も意思を人間だ。
 奏鳴に対して気に入らないところはあったし、うっとうしいと思う時もあった。
 しかし、時折見せる奏鳴の笑顔が彼女には眩しかった。
『何時もありがとな、実之芽』
 彼女が大きく変わったのは、高等部に入った時だ。
 彼女は草野芽家の長女として、役目を果たすことを選び、気に入らないところは気に入るように、うっとうしいと思う前に自分がうっとうしくなるようにした。
 彼女が頼れる者は自分だけなのだと、気付くまでは嫌々やっていたことにも気付いた。
 自分を恥じ、新たな決意を持って今まで遣えてきた。
 これからも側に遣えさせてもらえるのだと、思っていた。
 だが、“これから”は無かった。
 彼女は黄森の者を殺したことにより、解放されることとなった。
 どうにかしようと、黄森に何度も交渉しにいったが答えは何時も同じ。
『お前は人殺しを庇うのか』
 反論は出来無かった。
 確かに、人を殺した。それは人殺しだ。
 悔しかった。反論出来無かった自分が。
 悔しくて、握っていた掌から血が滴る程に。
 そして今へと至る。
 実之芽のこれまでの生涯にとって、委伊達家は、奏鳴は深く関わっている。
 遣える者として、委伊達家の唯一の生き残りである奏鳴のために全てを捧げた。
 だからこそ、誰よりも実之芽が苦しんだ。
『どうするのですか。我々はどうしたら』
 周りの者からは草野芽家の者として、どうするのかを問われ、逆にこうしろと言われもした。
 両親は実之芽に代わってその対処で忙しかった。
 まるで実之芽から両親を引き離すように、辰ノ大花の者達は草野芽家に答えを求めた。
 余計に分からなくなった。
 草野芽家として判断をしているのか、それとも実之芽という個人として判断をしているのか。
 家系に苦しむ者のみが得る苦しみが、彼女にも襲い掛かったのだ。
「ああ……こんなにも苦しむのだったら、産まれなかった方がよかった……」
 諦めの言葉にも似たものを、口からぼそりと吐いた。
 もう彼女には考える気力すら、今にも消えそうな火のようだった。
 尽くす側として全てを尽くして、見返りを求めることもなくずっと尽くしてきた。
 家系のことにも苦しんで、弱い自分を見せたくなかったから誰も頼らなかった。
 彼女のプライドゆえの結果だ。
 だが、火が消えるその前に、
「――っ!?」
 崩れ落ちた身を無理矢理起こされて、頬を拳で殴られた。
 痛かった。
 本気の打撃だった。
 数秒間、疑問だけが思考を支配した。
「え」
 の一言だけしか、口から出なかった。
 痛みの後から言葉が来た。
「お前がいたことで両親はどれ程嬉しかったか理解して言ってるのか! そりゃあ、家族でも理解されないことぐらいあるだろうけどさ、お前が産まれた時は両親めちゃくちゃ嬉しかったに決まってんだ!」
「な、何を……」
「産まれなかった方がいいなんて、そんな悲しいこと言うなよ。俺は生まれてよかったよ。苦しいことも悲しいこともあったけど、それでもよかったよ。俺にはまだ仲間がいたからさ」
 ならば、
「お前だっているだろ、仲間! 産まれてこなかったらその仲間にだって会えなかったんだぞ。あいつにも、会えなかったんだぞ……」
 殴られた右頬に触れ、混乱のなかで実之芽は聞いた。
 自分に向けられた言葉を。
「産まれなければよかった、死んだ方がマシだとか。命を軽視し過ぎるなよ……。今すぐ自分で自分の命捨てられる程、命ってのは軽く出来ちゃいない」
「うるさい……」
 抗いとして、口から出た言葉。
 痛みからなのか、頬に涙が流れた。
 繋げていた糸が切れたような。急に涙が溢れ出て、情けない。
「関係無いでしょ。なんで貴方は、色々と口出ししてくるのよ。いいじゃない、他人事なんだから」
「他人事でも突っ掛かることぐらいあるさ。それがあるから他人を今まで以上に理解出来るし、分からなかったことも分かるようになる。
 突っ掛かんなかったら他人は他人のままだ。よく言えば理解することなんだ。突っ掛かりも理解するための手段なんだよ」
「そんなの、いらないわ」
「ならお前は理解されなくてもいいってことなんだな。別に構わないけどさ、俺はお前に用は無いわけなんだし」
 眼中に無いと言うことか。
 く、と実之芽は悔しさを感じた。
 日来の長を見ているだけで、心の奥底から怒りに似たものが込み上げる。
 彼女自身がセーランを拒絶しているだけなのかもしれないが、ならば何故セーランを拒絶していいるのか。
 宇天の長を救出しに来た彼に手も出さずに行かせれば、勝手に宇天の長は救出される。
 委伊達・奏鳴の死が嫌なのならば、むしろ今の彼女の行動はおかしい。
 止めることが出来無かったと言い張れば済む話しであり、例え誰かが見ていたとしても、セーランと口裏を合わせれば自分が負けたように見せるのは簡単な筈だ。
 しかし、今、実之芽の行動を妨げている最大の原因はセーラン自身を認めていないところにあるのかもしれない。
 最後の約束など、奏鳴が真の意味で救い出されれば自然と消滅する。
 だが、消滅するためには奏鳴の心が救われなければならず、心の傷を実之芽は日来の長であるセーランでは癒せないと思っているのだ。
 なんの根拠も無いが、自分でも癒せなかったのだからと決め付けている。
 その決め付けが、拒絶の最大の理由だった。
「だけどな、お前に用は無くても委伊達・奏鳴には用はあるんだ」
「行ってどうするの」
「告るに決まってんだろ」
「成功すると思っているの? 馬鹿みたいだわ。そこまでして、一体何になるっていうのよ」
「知らねえよ、んなもん」
「失敗するに決まってるわ。もう手を引きなさいよ……。そうすればまだ、日来にはマシな未来が待ってるわ」
「気にすんなって、これが最後の告白だ。成功しても、失敗しても。もうこれが最後の告白になる。だから悔いの残らねえようにしてえんだわ」
 流魔操作によって創り出した棒を地面に突き立てるセーランは、語り掛けるように言う。
 理解出来無くてもいい。だが、他人を理解することを拒むことは他人との距離を更に引き離す。
 そんななかで生きていて、セーラン自身は楽しいとは感じない。
 だから他人を理解しようとするし、馬鹿をやって距離を縮めようとする。
 苦労もせずに生きてきたわけではない。
 今回もまた、苦労して何かを掴むのだ。
 面倒なのは嫌だが、昔のように逃げていても始まらない。
「もしよかったら、お前も来ないか。本当は救いに行きたいんだろ。無理すんなって。他にもやる奴いるんだからよ」
 手の差し伸べた。
 片手を出して、もう片方の手は無くて。
 本来腕を通す筈の袖は、弱い風に揺れていた。
 差し伸べられた手は実之芽の方を向いているが、当の実之芽はその手には触れなかった。
 認めない。
 彼が奏鳴を救い出せるなんて、そんなの認めないわ。どんなに私が苦労してきたと思ってるの。それなのに、たった一日会っただけの人に奏鳴が救われるなんて、冗談じゃない……。だったら私の今までの苦労はなんだったのよ。
 無駄だったなどとは言わせない。
 必死になって救う方法を考え、実行し、打ち破られた悔しさ。
 日来の長に救われてしまったのならば、今までの自分は何をしてきたというのだろうか。
 存在そのものを否定される気がして嫌だった。
 だから差し伸べられた手を叩き、払う形で拒否した。 
 

 
後書き
 今回は八千文字と頑張りました。
 「神葬世界×ゴスペル・デイ」を書き始めた当初は五千文字でいいや、と言ったがところがどっこい。
 最終的には六千文字ぐらいになってしまったという。
 ですから、大体六千文字くらいで描き進めております。
 と、そんなことは置いていて。
 草野芽家について、今回は説明がありましたね。
 委伊達家の護衛を務めるのが草野芽家ということでした。
 やっぱり辰ノ大花を治める一族ですからね。護衛を務める人がいなくては。
 まあ、その一族=委伊達家というわけですが。
 一人しかいないので、今回は存在理由が薄れ気味。
 そんな草野芽家の娘である実之芽ちゃんは真面目な姉ちゃんをイメージしてます。
 イメージなだけで、実はとんでもないキャラだったり……。
 真面目な人は細かいところを気にしちゃいますからね。イライラし過ぎには注意です。

 牛乳を飲むのです。
          ~ミルクゴッホ様より~

 なんて言ってみたり。
 あれ? 後書きってこんな感じでしたっけ。
 こんな感じで…………間違いない!
 話しが脱線し、事故になってしまったのでこれにて終了。
 いやあ、警察から事情聴取されるよお。
 以上、想像のお話でした。
                   ~完~ 
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