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久遠の神話

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第五十四話 富の為にその四

「是非な」
「そうね、それじゃあね」 
「俺も農家になるか」
「酪農家だけれどね」
 広義の意味で入るというのだ。
「そうなるのよ」
「牛や馬と一緒に暮らすか」
「私ともね」
「いい生活だな。しかし」
「しかしって?」
「それを確かなものにしたいな」
 ここでこう言う広瀬だった。
「是非な」
「?何か」
 由乃は広瀬の今の言葉を聞いてこう言った。
「それが確かじゃないみたいね」
「絶対ということはないからな」
「何か不吉なこと考えてる」
「少しな」
「そんなこと考えることないと思うけれど」
 生まれた頃からその家に住んでいて農家を営んでいる由乃から見ればそうだった、何しろ彼女は迎える立場だからだ。
 だが迎えられる立場はというのだ。
「そうだといいがな」
「微妙なこと言うわね」
「そう思うからな。とにかく今は」
「美味しいもの一杯食べようね」
「そうしようか」
「後中華料理だと」 
 由乃は今から行く店以外の店のことも話した。
「大阪だけれど」
「あの街か」
「そう、難波にも食べ放題で美味しいお店一杯あるわよ」
「あの街は食い倒れだからな」
「そう、だから凄いのよ」
 元々食道楽の街である、このくいだおれという言葉は大阪は台風が多くそれで壊れた橋の普請の金を出して傾く豪商も多かったので『杭倒れ』と書くという説もある。
「あそこはね」
「大阪はいい街だからな」
「食べることについてもね」
「特に難波か」
「そう、あそこがいいのよ」
「蓬莱の本店があったな」
「あと難波パークスにもあるし」
 そうした店が一つではないのが大阪のよいところだ。
「他のジャンルのお料理の食べ放題も多いからね」
「飲み屋に串カツにか」
「あと焼肉ね」
「肉となると」
「大阪に出してもいるのよ」
 由乃の家の牛肉をだというのだ。
「やっぱり契約してね」
「そしてか」
「そう、取引してるから」
「大阪にもそうした相手がいるんだな」
「そうなの。よかったら今度その焼肉さんにも行こう」
 由乃はにこりと笑って話す。
「二人でね」
「いいな。大阪もか」
「二人で行こうね」
 由乃はにこりと笑って広瀬に話した、彼女にしてみばそれは普通に訪れる幸せだった、だがそれは広瀬にとっては。
 次の日彼は大学の食堂にいた、そこで定食を食べていると。
 前から中田が来た、彼は自分が食べる料理を上に置いたプラスチックの盆を両手で持っていた、その彼がこう言ってきたのだ。 
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