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久遠の神話

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第五十四話 富の為にその一

                    久遠の神話
               第五十四話  富の為に
 広瀬は中華街で由乃と共にいながら目の前に新たな剣士を見た。ラフなジーンズと上着を着た黒髪を
七三に分けた細い目の男だ。
 背は百八十を超えている、百八十五はある。その長身の彼は何でもないといった顔で広瀬の方に歩いてきた。そしてだった。
 すれ違い様にこう耳元で言ってきたのだった。
「聞いているよ」
「剣士ということかか」
「そう。私は中国から来ていてね」
「大陸の方か」
「広州出身だよ」
 生まれはそこだというのだ。
「名前は王神極」
「そうか」
「料理人をしているよ」
「広東料理だな」
「日本に来たのは色々と手続きをしてね」
 そしてだというのだ。
「そして来たけれどね」
「旅行客ではなくか」
「料理人として来たよ」
 彼のその仕事からだというのだ。
「それで来たけれどね」
「成程な」
「私は戦うよ」
「戦いを止めないのかな」
「欲しいものがあるからね」
 だからだというのだ。
「戦うよ」
「そうか、わかった」
 広瀬も彼に対して返した。
「それなら倒してやる」
「お互いに恨みはないけれど」
「剣士だ、俺達は」
 それならと言う広瀬だった。こう王にも返す。
「降りるならよし、戦うならだ」
「倒すだけだね」
「それだけだ。またここに来る」
「今度は一人で来るんだね」
「彼女がいる。今は戦えない」
「私がその娘を巻き込むとは考えないのかな」
 王は陰のある笑みを浮かべて広瀬にこう問うた。
「そうしたことは考えないのかい?」
「あんたはしないな」
 広瀬は追うの今の言葉にこう返した。
「絶対にな」
「そう言う根拠は何だい?」
「目だ」
 それだというのだ。
「あんたの目を見た。あんたは欲は深そうだが」
「確かに欲は深いよ」
 王自身そのことは認める。
「それはね」
「そうでもだな」
「私は関係ないものを巻き込む趣味はないよ」
「戦う相手は剣士だけだな」
「その通り、もっと言えばね」
「戦わないに越したことはないか」
「戦わないで目的を達せられる」
 彼もまたこうした考えだった。この辺りは広瀬や中田と同じだった。
「それが一番じゃないかな」
「確かにな。俺も戦わずに願いを適えられるなら」
「それが最もいいね」
「そういうことだよ。私が戦うのは剣士だけだよ」
「倫理観はあるか」
「倫理観のない人間は人間ではない」
 王は言葉にシニカルな笑みも入れて言った。
「違うかな」
「その通り、俺もそう考えている」
「だからだよ。私も私の倫理観があるのだから」
「俺とは今は戦わないか」
「彼女なしで来るんだね、今度は」
 二人が今擦れ違っているこの中華街にだというのだ。 
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