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八条学園怪異譚

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第四十二話 百物語その九

「それ全部」
「はい、全部駄目でした」
「そうでしょうね、和食や中華にはね」
「チーズはどうも、ですね」
「乳製品自体がね」 
 チーズだけでなくそれ全般がだった。
「合わないわよね」
「そうでした、やる前から家族皆で多分、とか言いながら作ってみましたけれど」 
 そしてその結果、だったというのだ。
「どれもお店に出すことは諦めました」
「賢明ね、そのまま出したら違う意味で話題になってたわよ」
「そうですよね」
「和食にチーズは合わないわよ、とはいってもね」
「とはいっても?」
「和食にもあるけれどね、チーズ」
 ここでこう二人に言った茉莉也だった。
「実はね」
「あっ、蘇とかですね」
 聖花は茉莉也の今の言葉にすぐにこの名前を出してきた。
「あと酪とか醍醐とか」
「知ってるのね」
「名前だけは」
 それはというのだ。
「聞いてます」
「食べたことは?」
「ないです」
 いささか残念そうに茉莉也に答える。
「具体的にはどんなものかも」
「知らないのね」
「多分チーズかバターみたいなものですよね」
 聖花の予想ではだ、その蘇や酪、醍醐といったものは。
「牛乳から作りますし」
「まあね、それはね」
「やっぱりそうですか」
「一応蘇もあるわよ」
 茉莉也はチーズの中にある小さな茶色いものを指し示して二人に言った。
「これね」
「あっ、これですか」
「これが蘇ですか」
「最近奈良で売ってるのよ」
 同じ関西県であるそこでだというのだ。
「それで取り寄せてみたのよ、うちのお兄ちゃんがね」
「お兄さんがですか」
「そうされたんですか」
「そうなの、お兄ちゃんがね」
 そうしたというのだ。
「面白そうだって言ってね」
「それでお兄さんもですか」
「蘇と一緒にお酒を」
「そうよ、とはいってもお兄ちゃん日本酒より焼酎だけれど」
 そちらを好んでいるというのだ、茉莉也の兄は。
「おつまみに面白そうって言ってね」
「それでなんですか」
「取り寄せられたんですか」
「そうなのよ、ただね」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「その小さいのだけで七百円だから」
 それだけするというのだ。
「高いでしょ」
「これで七百円ですか」
「確かに高いですね」
「そうでしょ、けれどどうやらこれがね」
 この辺りは今一つはっきりしないといった感じだ、だがそれでもだという調子で二人に話していく茉莉也だった。
「大昔のチーズなのよ」
「あっ、蘇ってチーズだったんですか」
「そうみたいね」
 茉莉也はその蘇等に興味を見せる聖花にこう答えた。
「どうやらだけれど」
「ふうん、そうなんですか」
「何か蘇っていっても色々説があって」
 その蘇の話になっていく、もっと言えば酪や醍醐のこともだ。 
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