とある星の力を使いし者
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第93話
刀を持ち直すと、麻生は五メートルの距離を一瞬で詰める。
麦野達はその動きの速さに驚きの表情を浮かべる。
そのまま、触手の身体を横一線に斬りつける。
切り口から大量の血液のような赤い液体が大量に出てくる。
しかし、その切り口から数本の触手が麻生の顔に向かって飛び出てきた。
「ッ!?」
咄嗟に横に跳ぶ事でかわす。
「もう少しで素敵なオブジェが完成する所でしたが、そうも簡単には殺らせてくれないみたいですね。」
切り口は再生したのか既に赤い液体は出ていなかった。
それどころか触手の数が増えている。
身体から出ている触手が一斉に麻生に向かって襲い掛かる。
麻生は襲い掛かる触手を斬ったり、時にはかわし、時には刀を上手く使い触手を受け流す。
だが、触手は斬っても斬っても再生して何度も麻生に襲い掛かる。
それも普通に再生するのではなく、何本も増殖してくるのだ。
触手の数はもはや数えきれないくらいまで増えている。
そんな数の中でも、麻生は傷一つなく防ぎ、時には反撃をしているのだ。
それも全て、星の力によるものだ。
周囲には全方位の探知結界、持ち前の直感や刻まれた戦闘経験など使える技術や魔術などを片っ端から使っているのだ。
これらのおかげで、後ろからの攻撃も対処する事が出来る。
しかし、それにも限界がある。
「はぁ・・・はぁ・・・」
この時、麻生は初めて息を切らし始めていた。
人間離れした能力の持ち主である麻生も上条達と同じ人間だ。
疲れなどを感じる事はある。
今の麻生は複数の魔術や超能力などを使用している。
身体で避ける事が出来ないのなら、魔術を使って風の刃で触手を斬り裂く。
それも駄目なら、今度は超能力で触手の周りの空気を燃焼させ焼き尽くす。
それも駄目なら、とこういった行動を常に繰り返している。
普通の人間がこんな事をすれば脳が処理速度が追いつかず、破裂してしまう。
星のバッアップを受けて成り立っているのだ。
だが、それでも先ほど言ったように限界がある。
星の力で傷などを治療できても、体力や精神的疲れなどは治療する事はできない。
麻生が完璧に星の力を扱える事が出来れば、これらを治療する事はできるかもしれない。
しかし、麻生はこの能力をまだ二割から三割程度しか扱えない。
せいぜい、疲れなどを緩和する程度しかできないのだ。
それも長くは続かない。
それに能力使用時間もある。
このままこの状況が続けば、いずれ麻生の方が自滅、もしくは敗北してしまう。
(この触手は前に戦ったスターヴァンパイアほど恐ろしさを感じない。
だが、こいつらを操っているこの女がこいつらの強さを何倍にも引き上げている。)
戦争の時もそうだ。
例え兵士が雑魚でもそれらを率いる将や軍師などが優秀であれば、各上の相手に勝つ事だってある。
現に麻生の周りには触手で囲まれている。
麦野達の姿も確認する事が出来ない。
(この女、強い。)
麻生は間違っていない、と思った。
あのスーツの男は麻生と戦えるのは幹部クラスか教皇くらいしか戦えないと。
今までどんな相手でも完封してきた麻生が初めて、互角の戦いをしているのだ。
(とにかく、再生能力を止める。
その為にも。)
一瞬だけ眼を閉じる。
次に眼を開けた時は黒い瞳が蒼い瞳に変わっていた。
直死の魔眼。
モノの死を見る事が出来る魔眼である。
この触手の恐ろしい所はその再生速度だ。
斬っても斬ってもすぐに倍以上に再生するのだ。
身体の周りに風の刃や炎の壁を作って迎撃しても意味がない。
だからこその直死の魔眼だ。
触手の死の線を捉えると、それになぞるように刀を振るう。
切断口から触手は再び生えてくる事はなかった。
「斬られた触手が再生しませんね。
なるほど、モノの死を見る魔眼ですか。
面白い眼を持っていますね。」
女性はとても興味深そうな声をあげる。
麻生の眼を変えたのを今の一動作で見抜いたのだ。
「それならこういった対処を取らせてもらいます。」
すると、死の線で斬り裂いた部分ではない所から何本の触手が出現する。
それを見た麻生は鬱陶しいそうに舌打ちをした。
(幻想猛獣と同じだな。
直死の魔眼は死の線に沿って斬り裂かないと意味がない。
これじゃあ、再生速度を少し遅らせるだけで何も状況が変わらない。)
一旦距離を開けようにも、触手が取り囲んでいるので簡単には抜けられない。
そもそも、襲い掛かってくる触手を対応しているだけで精一杯なのだ。
どうにかしてこの状況を切り抜ける方法を考えている時だった。
シュポン、という音が聞こえた。
次の瞬間にはドゴオオン!!!、と大きな爆発がした。
「何ですか?」
女性の注意が一瞬だけ外に向いた。
その隙を見逃す麻生ではない。
一点に力を集め、触手の包囲網を脱出する。
「うわ~、結局生きているって訳。」
「未だにあの気持ち悪いのが動いているのでまさか、かと思い携行型対戦車ミサイルの弾頭を超発射しましたが、本当にあの中で生きているなんて。」
「少し無茶なやり方だが、助かった。」
「これでさっきの借りは返したからね。」
「大丈夫?」
「まぁ、今のところは大丈夫だな。」
麦野達のいる所まで下がる麻生。
あの爆発は麦野達によるものだと判断した女性はため息を吐いた。
「失敗ですね。
先に貴方達を食べていればよかったですね。」
「絶対にあんたみたいな気持ち悪い変な生物に食べられてたまるか!」
「フレンダの意見に超賛成です。」
敵意剥き出しにするフレンダと絹旗。
それらを見た女性はふふふ、と小さく笑った。
「それじゃあ、すぐに食べてあげますよ。」
触手の身体から出ている触手が一斉に麻生達に向かって襲い掛かる。
麦野はポケットから一枚のカードを取り出す。
それには三角形のパネルが組み合わさったカードの形状をしている。
そのカードに「原子崩し」の電子線を当てる。
すると、パネルが分散して光線が拡散される。
「原子崩し」は性質上、連射出来ず、面制圧や飽和攻撃を苦手だ。
だが、それを克服したのが先程投げたカード、「拡散支援半導体」だ。
拡散された光線は接近してくる触手を次々と撃ち落していく。
例え、撃ち落したとしてもすぐに再生してしまう。
それでも少しの時間稼ぎにはなる。
出来た時間に麻生は刀に星の力を集める。
すると、刀身が蒼い炎に包まれ、それを一気に振り下ろす。
蒼い炎に呑まれた触手は一瞬で跡形もなく消えてしまう。
(やはり、こいつらの弱点は星の力。)
ラファルが襲撃に来た時、スターヴァンパイヤを消滅させたのはこの星の力だった。
麻生はその事を思い出し、もしかしてと思い星の力を使ったのだが、麻生の考えは当たっていたようだ。
魔術や超能力などに対して、あの触手はいくらかの耐性は持ってあまり有効ではなかった。
だが、星の力を受けた時は耐性を持っているようには見えなかった。
刀に星の力を込め、本体に向かって走り出す。
それに迎撃するように触手も何本も襲い掛かってくる。
麻生はそれを紙一重でかわしていく。
その時、女性の声が聞こえた。
「かわしていいのですか?
後ろの雌達、食べてしまいますよ?」
「ちっ!」
舌打ちをして後ろへ戻ろうと、後ろを見た時だった。
触手は麦野達の所には向かっていなかった。
次の瞬間、右肩と腹部の方に強烈な痛みが走った。
麻生は自分の身体を見下ろすと、先端の尖った触手が右肩と腹部の二か所を貫いていた。
「ふふふ、まさかこんな初歩的な罠に引っ掛かるとは思いませんでしたよ。」
とても愉快な声をあげる女性。
麻生の口から血が流れる。
麻生の身体を貫いている触手は麻生の身体を持ち上げると、そのまま本体の身体に近づける。
大きな目玉が麻生の顔をじっくりと見つめる。
「おいしそうですね。
星の守護者を食べたらどうなるでしょうか?」
「む、麦野!
あれ、何とかならない訳!?」
「距離が遠すぎる。
それに麻生を貫いている変な触手は麻生の身体と重なっているから狙えない。」
「さて、星の守護者を頂くとしましょう。」
巨大な目玉が半分に割れると、そこから小さい触手がうじゃうじゃと麻生の身体を取り込もうとした時だった。
麻生の眼がカッ、と見開く。
そして、その目玉の中を左手で殴りつける。
「な、なにを・・・」
「これを待っていた。
お前が自分から急所をさらけ出す時を。」
麻生は左手に星の力を流し込む。
すると、触手の目玉は内側から蒼い炎で燃え上がっていく。
「サU垠Zアュアウアツアアレアオ!!!」
今まで話していた女性の声とは別の叫び声だった。
この世のモノとは思えない叫び声。
おそらくこの触手自身の叫び声なのだろう。
瞬く間に蒼い炎は触手全身に燃え移り、麻生を貫いていた触手も蒼い炎で燃え尽きてしまう。
この炎は麻生の星の力で創られているので麻生自身には何の影響もない。
麻生は腹部を左手で押えながら呟いた。
「本当に面倒な事に巻き込まれた。」
後書き
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