『曹徳の奮闘記』改訂版
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第百三話
「伝令ッ!! 第一防衛線は持ちそうにありませんッ!!」
「主ッ!!」
「……第一防衛線の部隊は直ちに第二防衛線に後退だッ!! 海岸付近にいる四斤山砲部隊も後退だッ!!」
「大砲も下げる気なの?」
曹操が俺に聞いてきた。
「後方に後退して支援砲撃してもらう。今、四斤山砲が北郷の元に渡ればかなりマズイ」
「……それもそうね」
「数は向こうが上、何処まで耐えれるかだが……」
俺は戦況を見ながらそう呟いた。戦況はかなり仲には怪しかった。
第一防衛線は蜀軍に突破されてしまい、蜀軍は第二防衛線に突撃していた。
しかし、第二防衛線手前には所々に落とし穴を構築して蜀軍の侵攻を遅らせていた。
「くそッ!! 何処に落とし穴があるんだッ!!」
「てんで分からねぇよッ!! ぐはッ!!」
「おい、しっかりしろッ!!」
「負傷兵は後方に下がれッ!! 突き進むのだッ!!」
関羽が陣頭指揮をとって蜀兵の士気を高めていく。
「く、紫苑はまだなのかッ!!」
関羽はそう叫んだ。そしてそれは直ぐに答えた。
「伝令ッ!! 後方より黄の旗ですッ!!」
「黄……黄忠だとッ!?」
伝令からの報告に俺は驚いた。まさか穏達は……。
「穏達はやられた……のか?」
実は、後の報告で穏達はやられておらず、後方から此方に向かっていた蜀軍と交戦していた。
北郷は部隊を三つに分けて、張任は穏達と交戦して黄忠の三万の部隊はひっそりと上陸して今まで待機していたのだ。
「フフフ、御主人様もやりますわね。全軍突撃ッ!!」
黄忠軍の騎馬隊が突撃を開始する。
「王双ッ!!」
「判っているッ!! 全軍退却だッ!! 真桜ッ!!」
「呼んだ?」
「作戦橙を発動する」
「よっしゃッ!! 準備は完了してるでッ!!」
「作戦橙? それは何なのよ?」
雪蓮が俺に聞いてきた。
「予てから予定していた退却方法だ。これを使えばある程度は蜀軍の侵攻も停止するだろう」
「判ったわ。長門を信じるわ、ほら全員退却するわよッ!! 後方の黄忠軍に戦力を回すのよッ!!」
雪蓮が指示を出し始めた。さて……北郷は見事に飛び付くだろうな。
そして仲軍は関羽軍の攻撃を防戦しつつ兵力を黄忠軍に移動させて中央突破の血路を開かせた。
「今だッ!! 全軍退却だッ!!」
俺は馬に乗り込んで兵士達に叫んだ。
「土産は置いたな真桜ッ!!」
「置いたで隊長ッ!!」
真桜のその言葉を聞きながら混乱する黄忠軍を突破した。
結局、戦は後退した仲軍の敗北となり仲軍の陣地は蜀軍に占領された。
「……これが大砲か」
「何だか小さいですね。本当にこれで弾とやらが飛ぶんでしょうか」
「飛ぶよ愛紗。飛ぶのは愛紗も見ているだろ?」
「それはそうですが……」
蜀軍は仲軍から大砲一門、それと砲弾が入った弾薬箱六箱を捕獲していた。
「それに仲軍に突破されるなんてごめんなさい御主人様」
「良いよ紫苑、大砲が手に入っただけでも大戦果だよ」
謝る黄忠に北郷はそう言い、北郷一行はその場を後にした。
そして後にしてから数分後、爆発音が響いた。
「い、今の音はッ!?」
「敵襲かッ!?」
「報告しますッ!!」
慌てる北郷達に伝令が駆け込んできた。
「何事だッ!?」
「は、捕獲していた大砲の砲弾が突然爆発しましたッ!! 更に付近の砲弾にも被害が飛び移って誘爆して手の付けられない状況ですッ!!」
「……やられた……そういう事だったのか」
伝令からの報告に北郷は何かが判った。
「御主人様、一体何が……」
「……王双は初めからあの大砲を置き去りにする気だったんだ。俺達を此処で進撃を停止させるためにね」
蜀軍内では漸く爆発音が収まったが、被害は大きかった。捕獲した大砲を一目見ようと集まった約五百名の兵士の死傷者を出した。
この結果、蜀軍内で慎重派が増え出して北郷が予想していた進撃予定日は遅れる事になった。
――建業――
「済まない美羽。数日しか持たなかった」
「仕方ないのじゃ。長門でも負けてしまうのじゃから今回は北郷が一枚上手だったのじゃろう」
健業に帰ると俺は美羽に玉座で報告していた。
「ま、厄介になってきたのは間違いないだろうのう。荊州方面に向かった劉ソウ殿も豪族の裏切りで戦線が崩壊したようじゃな」
祭がそう言った。荊州方面の防衛に向かった劉ソウ殿の派遣軍も国境付近の豪族による裏切りの夜襲をかけられてボロボロになって帰還途中だった。
「防衛線を再構築するのじゃ」
「けど、美羽。防衛線を再構築すると言っても何処に再構築するのよ? 既に長沙は取られているし、武昌も蜀軍に占領されているわよ」
美羽の言葉に雪蓮が反論した。対する美羽は判っていたかのように頷いた。
「防衛線の再構築は時間稼ぎのためじゃよ雪蓮」
「時間稼ぎ?」
「そうじゃ。七乃、地図を」
「はい美羽様」
七乃が地図を広げた。
「此処建業から撤退して本陣は呉まで後退するのじゃ。そして建業は無防備宣言をして民の不安を和らげる。防衛線は太湖付近とする」
「建業を放棄するのは判るわ。それで美羽、勝てる要素はあるのかしら?」
「勝てる要素じゃと? フフフ、そんな物は最初から無いのじゃ」
「な、何ですってッ!?」
美羽の言葉に玉座にいた軍師と俺以外の全員が驚いた。
「ど、どういう事よ美羽ッ!! まさか最後の一兵まで戦うというのッ!!」
「それは違うのじゃ雪蓮。まだ話は終わってない」
美羽はそう言って呉を指指した。
「我が仲は呉にて解散とするッ!! そして……長門と雪風の故郷である倭国へ行くのじゃッ!!!」
美羽はそう宣言したのであった。
後書き
明日も更新します。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m
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