ハーブ
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第三章
第三章
「かなり厄介な相手の様ですね」
「だからですか」
「はい、ですから」
「俺達は構いません」
本郷も答えた。これで話は決まった。そうしてであった。
警部は最後にこのことを話したのだった。
「そのアンジェレッタさんですが」
「はい」
「もう来られたのですか?」
「いえ、それはまだです」
二人にそれはまだだと答えるのだった。
「今別の事件の解決にあたっておられるそうで」
「それで、ですか」
「まだなのですね」
「はい、だからです」
それでまだ来ないというのである。
「ですから」
「わかりました。それでは」
「今は」
こうして話は終わった。二人は警部に別れを告げてからホテルの中に入った。ホテルの中は質素で頑丈な造りである。イギリスのそれと比べると垢抜けておらず地味であるが古風で趣きのある造るである。その中に入ったのである。
大きく頑丈なベッドにそれぞれ腰掛ける。本郷はそのうえで役に問うた。
「とりあえずはどうしますか?」
「これを使う」
言いながらであった。数枚の白い札を出して来たのである。
「これを出してそれでだ」
「ダブリンの中を見回りますか」
「八人も殺した相手だ」
役の言葉は強いものになっていた。
「かなりの強さだ」
「はい、そうですね」
それは本郷も感じ取っていた。その顔が険しいものになっている。
「それは」
「ハーブを鳴らす。しかし姿は見えない」
「亡霊か妖精の類ですね」
「どちらにしろ尋常な相手ではない」
だからだというのである。役は話すのだった。
「何かあればすぐにそこに向かえるようにしておく」
「それじゃあ今は」
「そうだ。こうしてダブリンの中を見回っておく」
その為の札だというのである。白い札である。
「それではだ」
「はい、それで御願いします」
役がその札を投げるとだった。札達は数羽の小鳥になった。そのうえで壁や窓を通り抜けそのうえでダブリンの街中に出たのだった。
それを見届けた役はだ。あらためて本郷に言ってきた。
「それではだ」
「ええ、もう寝ますか」
「シャワーを浴びてからだな」
「そうですね。ただ」
「ただ?」
「いえ、ここじゃ普通なんですけれど」
苦笑いと共の言葉だった。
「だから嫌に思う方が変なんですけれどね」
「ユニットバスか」
「俺はあれがどうも」
バスとトイレが一緒の部屋にある造りである。欧州ではそれが普通である。
「好きになれないんですよ」
「シャワーだけなら問題はないだろう」
「いえ、それでもですよ」
その苦笑いと共の言葉だった。
「慣れなくて」
「欧州に何度も来ているのにか」
「いや、それでも慣れません」
どうしてもというのだ。その言葉はぶれてはいなかった。
「本当に」
「そうか。なら入らないか」
「いや、シャワーは浴びます」
それでもだというのだ。
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