ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
八十五話:ラインハット城地下通路
「……あのさ。なんでまた、こうなったんだっけ?」
ヘンリーの髪を乾かしながら、私がピエールににじり寄るに至った経緯を、問い詰められていたはずが。
いつの間にかまたヘンリーの膝に乗せられて、抱き締められてるんですが。
ちなみに、スラリンはもう寝てます。
「……嫌か?」
「嫌では無いけど。でも今回は、ピエールが鍵持ってるし。いつ帰ってくるか、わからないし」
「ノックもせずに入るとか無いだろ。アイツに限って」
確かにそうだが、そう言えばヘンリーはノックしてたんだろうか。
してなくても、鍵や扉を開ける音くらいはしてたはずだが。
ピエールの可愛さに集中し過ぎて、どれも全く記憶に無い。
……それはともかく。
こうなったからには。
「……ヘンリー。なんか、私に言っとくことある?」
さっき、言いかけてたこととか。
「……側に、いてくれ」
「いるじゃない。これ以上無いほどに」
べったりくっついてますが。
「……そうだな。……このまま、いられたらいいのに」
「うーん。無理かな、それは」
このままピエールを迎えようものなら、どんな教育的指導を受けることやら。ヘンリーが。
そうでなくてもこのまま動き回るとか、完全に不可能ですし。
まあ、でも。
「大丈夫だよ。このままは無理でも、ヘンリーが一番辛い時には。ちゃんと、側にいるから」
流れでこの体勢に入ったので、一方的に抱き締められてましたが。
安心させるように抱き返して、また頭を撫でます。
この国が、城が、ヘンリーの大事な人たちが。
どうなってるか確認して、必要なら戦いもする時には。
その時には側にいて、辛かったら抱き締めてもあげるから。
それくらいなら、ピエールだって見逃してくれるだろう。
そして、ちゃんと取り返したのを見届けてから。
私は、行くから。
「……俺は。お前の側にいられれば、本当に辛いことなんて、無い」
「そっか。なら、大丈夫だね。私は、いるから」
「……ああ」
本当に辛いはずのその時には、まだ、いるから。
「一緒に、頑張ろうね。太后様とデールくん、助けようね」
「ああ。そうだな」
というところで今回はタイミング良く、扉が叩かれます。
「戻りました。入っても?」
ノックどころか、入室の許可まで求めてくるとは!
流石、騎士!或いは、武士!
別に気にするなと言うところかもしれないが、例えばヘンリーがいなくて私が着替えてるとか、可能性としては無くは無いからね!
今回はヘンリーも捨て犬の目になることも無く、それなりに大丈夫そうな感じで私を離し。
「いいよ。入って」
ピエールに声をかけ、部屋に迎え入れます。
「只今戻りました」
「お帰り、ピエール!……兜、被ってるんだ。髪は?乾かそうか!?」
「お心遣い、忝ない。しかし心配ご無用。よく拭いた後に軽く振れば、直ぐに乾きますゆえに。もう、乾いてござります」
ええ!?
なに、その便利機能!
ドライヤーとか、完全に不用なの?
乾かすついでに頭ナデナデとか、そんな役得は有り得ない話なの!?
「そ、そっか。……もう、寝るよね?寝る時も、兜は被ってるの?」
「無論。睡眠中こそ、最も無防備になる時にござりますれば。スライムナイトたるもの、装備を整えた状態で眠りに就けるよう、当然に訓練されております」
「そ……そうなんだ……。すごいね……」
「なんの、これしき。人間はそのような体の作りにはなって居らぬと聞き及んでおりますゆえ、ドーラ様もヘンリー殿も、どうかお気遣い無きよう」
「う、うん……。じゃあ、私、もう寝るね……。おやすみ、ピエール、ヘンリー」
「は。おやすみなさいませ、ドーラ様」
「ドーラ……お前……。まあいい、おやすみ」
ヘンリーが、すっかり残念なものを見る目でこちらを見てますが。
そんなことより、あわよくば頭ナデナデとか、寝顔を堪能とか、できるかと思ってたのに!
そんな上手くはいかないだろうと、心のどこかで思ってもいたけれども!
……はー。
まあ、いいや。
どうせ無理だって、わかってた、うんわかってた。本当は。
明日はマリアさんに会えるだろうことを楽しみに、今日はもう寝よう。そうしよう。
そんなこんなで、失意と期待のもとに眠りに落ちた、翌朝。
起きたら、一人でした。
ヘンリーもピエールもスラリンも、誰もいなかった。
……あれ?
昨夜は過保護にも常に誰かが付いてたのに、朝はいいの?
まあ、いいけど。
と、思ってると。
「ドーラ様。お目覚めですか?」
扉の外から、声がかかりました。
「ピエール。おはよう。……なんで、外にいるの?」
気配で、私が起きたのを察したらしいのはわかるが。
「おはようございます、ドーラ様。ヘンリー殿とスラリン殿が、お出掛けになりましたゆえ。スラ風号が居るとは言え、お休み中の女人が居られる部屋に、一人居座るわけにも。さりとてドーラ様をお一人にする訳にも参らず、見張りに立って居りました」
そんな、気を使わなくてもいいのに。
ていうか、一時は二人部屋になる案も無かったっけ?
それは、それなの?
……まあ、元々は同室になること自体に葛藤してたしな。
一晩外にいたわけでも無いんだから、それで気が済むなら、別にいいか。
「ありがとう。着替えるから、もう少し外にいてくれる?」
「畏まりましてござります」
今日は、不穏なお城に乗り込むわけだからね!
イケメン修業とか、悠長なことを言ってる場合じゃないよね!
変に絡まれる危険を避けるためにも、ここはやはり!
男装でしょうね!!
着替えて身支度を整え、ピエールを部屋に呼び入れたあたりで、ヘンリーとスラリンも戻ってきて。
「……男装か」
「今日は、安全策でいこうかと」
「……そうだな。今日は、それがいいな」
男装にあまりいい顔をしないヘンリーからも、賛同が得られました。
朝食を済ませて荷物をまとめ、宿を引き払って城に向かいます。
試しに正面から行ってみて追い返された後に、予定通り筏で水路を移動して、城の地下道に入ります。
魔物を倒しながら、先に進みますが。
「ここってさ。なんで、魔物が出るんだろうね?一応、城の一部なのに」
「……元々は、出なかったはずだ。昔、教えられて通った時には出なかった」
おお!
ヘンリー王子様の立場ゆえに、知り得た情報ですね!
「……て、ことは。やっぱり、魔物が入り込んでるのかな?」
「……かもな」
宝箱もしっかり開けて、鋼のキバと貝殻帽子をゲットして。
「わー!スラリン、可愛い!スライムつむりみたい!」
「ピキー!」
「……おい」
「ドーラ様。スライムつむり、とは?」
「え?えーと。……想像上の生き物です。こんな感じで、貝殻のようなものを生まれつき被った、スライムの一種」
「ほほう。そのようなものが、人間の世界に。人間の想像力とは、興味深いものにござりますな」
「そ……そうだね!この鋼のキバは、どうしよっかなー?今の守備力だとスラリンに前に出てもらうの、不安だし。まだ、いいよね?」
「ピキー」
「そうにござりますな。今のままでも、パーティの攻撃力に不足はありませぬゆえ。無理をされることも無いでしょう」
牢屋に囚われてた、働き盛りなお年頃のおじさんに話を聞き。
「私は、聞いてしまったんだ!太后が、魔物と話をしているのを!この国を、操る相談をしているのを!」
やっぱり、魔物はいるらしい。
「相談とはなんだ?具体的に、何を話していたかわかるか?」
「はっきり、聞こえたわけでは無いが。どんな無茶をしてでも資金を集めろとか、やり過ぎたら逆効果だとか。魔物の要求に、太后が意見をしていたような。他にも、人間に化けた魔物を潜り込ませる算段だとか。とにかく、あの女が魔物と通じていることは間違い無い!どうか真実を暴き、この国を救ってくれ!」
後書き
このダンジョンの正式名称は『ラインハットの洞窟』というらしいですが、知らなければアレを洞窟とは認識しないだろうということと、いくらドーラちゃんでもこんな地味なダンジョン名は覚えてないもしくは知りもしないだろうということで、こういうタイトルです。
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