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第十七章
第十七章
「味ですが」
「どうなのですか?」
「これまたいいものですのね」
明るい笑顔での言葉だった。
「是非共です」
「はい、それでは」
「私も」
本郷だけでなく役もそのシチューのスプーンを手に取った。無論アンジェレッタもである。そうしてそのシチューを食べてみると。
「確かに」
「これは」
「見事ですね」
思わず三人のそれぞれの母国語が出てしまった。
「しっかりとした味ですね」
「肉も野菜もよく煮られていて」
「味がよく出ています」
「それがこの店なのですよ」
警部はさらに上機嫌に話した。その顔はビールのせいでもう少しばかり赤くなってきている。
「家庭の味を実によく再現しています」
「そうですね。これは」
「その通りです」
本郷だけでなく他の二人も微笑んで頷いていた。
「じゃあこのスモークサーモンとかもですね」
「はい、本物のアイルランド料理です」
警部はさらに話した。
「家庭の味です」
「アイルランドは家庭の味を大事にするのですね」
「まあそれには実情もありまして」
アンジェレッタへ返した言葉だった。
「何しろ我が国は元々貧しい国でした」
「だからなのですか」
「昔は麦も食べられませんでした」
ここで暗く忌々しげなものを思い出す顔になる警部だった。
「イギリスに召し上げられていましたから」
「ジャガイモ飢饉ですね」
「その時は千万はいました」
警部は語るうちに暗鬱な顔になっていた。
「それがです。飢饉でどれだけになったかというと」
「半分でしたね」
「はい、それだけです」
そこまで減ったのである。
「恐ろしい話だと思いますか?」
「普通では考えられるものではありませんね」
今度はそのジャガイモを煮たものを食べながら応える役だった。
「そこまで減るというのは」
「百万が死にました」
まずは餓死者から話すのだった。
「ジャガイモが採れなくなってです」
「百万も餓死者が出たんですか!?」
本郷も話を聞いて唖然となっていた。
「あの、救済策は」
「イギリスですよ」
警部の言葉は今度は敵愾心が剥き出しになっていた。
「そんなことをするとでも」
「といいますと」
「麦は採れていました」
要するに食べ物はあったというのだ。
「しかしです。奴等はその麦を全て年貢として召し上げたのです」
「つまり一切の救済策を採らなかったのですね」
「それどころかアイルランドは人口が多過ぎるから減ればいいと」
要するに死ねということである。
「こう言ってくれました」
「そんなことがあったんですか」
「その結果です」
彼はまた言った。
「我が国の人口は今に至るのです」
「減ってそのまま戻っていないのですね」
「餓死者も多く出ましたし」
警部は俯いていた。そして暗い顔になって述べていた。
「それ以上に多くの人間がアメリカに渡りました」
「アイルランド系アメリカ人ですね」
役がここで言ってきた。
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