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第十六章
第十六章
「ですから」
「ではそれで宜しいのですね」
「ビールはありますか?」
「勿論」
またその厳しい顔を綻ばせてきた。その対比が実に愛嬌あるものにも見えるから不思議なものである。その顔で話してきているのである。
「ここはアイルランドですから」
「ではそれでなのですね」
「はい、それでは」
こう述べてであった。そうして。
四人の席に座ってそのうえでだ。テーブルに来た中年の太った女に声をかけるのだった。
「おかみ、それでだ」
「はい、それで何だい?」
「適当に美味いものを頼むな」
「ちょっと待つんだよ」
しかしここでおかみは言うのだった。
「うちの店はね」
「何でも美味いんだな」
「そうだよ」
むっとした顔を作っての言葉だった。
「その通りだよ」
「じゃあその美味いものをどんどん持って来てくれ」
「こっちのお勧めメニューでいいんだね」
「ああ、しいよ」
まさにそれでいいというのである。
「それでな」
「少し待っておきな。早速持って来るからね」
「とりあえずビールな」
「わかってるよ」
おかみは笑いながら彼に応えた。
「それは欠かせないわよね」
「まずはそれだよ」
警部は気さくに笑って話をしていた。
「それからだからな」
「アイルランドではね」
「ああ、やっぱりビールだよ」
イギリスでもこれは同じでそれこそ朝には朝食代わりに飲まれていたりする。飲むパンとさえ呼ばれている。しかしそれはあえて言わないのはやはりアイルランドだからだった。
「それを飲んでからな」
「はいよ。じゃあね」
こうしてまずはビールが運ばれてきた。四人でそれを飲んでジョッキを一杯空けたところでその食事が運ばれてきたのであった。
「あっ、来ましたね」
「へえ、これがですか」
本郷はそのアイルランド料理を見て声をあげた。
「アイルランド料理ですか」
「どうでしょうか」
微笑んでその彼に問う警部だった。
「これは」
「そうですね」
本郷はスモークサーモンにジャガイモを煮たもの、それとビーフシチューを見た。その他にはフィッシュアンドチップスやスコーンもある。そうしたものが運ばれて来たのである。
「感想を言っていいですよね」
「是非共」
これが警部の返答だった。
「御願いします」
「家庭料理って感じがしますね」
こう述べるのだった。
「まさに」
「ははは、そう仰ると思っていました」
「そうなのですか」
「尚このシチューはです」
警部はそのシチューのスプーンを手に取りながら話す。
「アイリッシュシチューといいます」
「アイリッシュの」
「特徴はじっくりと煮込むことです」
そうだというのである。
「ですから肉もとても柔らかいです」
「成程」
「そしてです」
彼の説明は続く。
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