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ハーブ

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第一章


第一章

                         ハーブ
 アイルランドの首都ダブリン。ここで今奇怪な事件が起こっていた。
 アイルランドに多くあるパブだがどのパブでもこの話題でもちきりだった。
「またか」
「ああ、まただ」
「また起こったぜ」
 誰もがビールを片手にひそひそと話す。その話す口ぶりはまさに事件、しかもかなり陰惨なものについて話すものだった。そしてそれはその通りであった。
 今ダブリンでは連続殺人事件が起こっていた。それも立て続けにである。
「もう何人死んだんだ?」
「七人だ」
「またそれは多いな」
「そうだな」
 こうひそひそと話をする。
「それで殺された奴は誰なんだ?」
「ダブリンの日雇い労働者のおっさんだよ」
「何だ?前はパブの親父だったよな」
「それで今度は労働者か」
 その殺された被害者もまちまちだった。その職業はだ。
「それも殺された現場にいつもハーブの音が鳴り響くんだろ?」
「それもわからないよな」
「殺してる奴は何者なんだ?」
 とにかくあらゆることが謎であった。
「ハーブを奏でてるってよ」
「それがわからないしな」
「何者なんだか」
 誰もが首を傾げる話だった。それはダブリン市警でも同じであり捜査の担当を依頼された刑事達も頭を捻っていた。彼等にしてもだ。
「ハーブの音だけで犯人は何処にも見えない」
「じゃあ人間じゃないのか?」
「そうじゃないのか?」
「死霊か?」
 刑事達は密かにこんな話もしていた。
「それが殺してるんじゃないのか?」
「それか妖精か」
「妖精か」
「少なくとも人間じゃないだろ」
 結論の一つとして出て来たのだった。
「どうもな」
「じゃあ我々では事件の解決はできないのか?」
「じゃあ人を呼ぶか」
「魔術師かそういうのをな」
 こうした話をしてであった。まずは二人の男が呼ばれたのだった。彼等は遠い東の国から来た。
 一人は黒髪を短く刈りジャケットにジーンズという精悍な顔立ちの筋肉質の背の高い若い男である。もう一人は地味な緑のスーツにクリーム色のトレンチコートを着た薄茶色の髪を左右に分けた男だ。涼しげな顔をしておりその目には深い叡智がある。
 その二人が今ダブリンのあるパブの中にいた。そこのカウンターに座って二人で話をしている。飲みながら並んで座っているのだった。
 その中でだ。若い男がスーツの男に声をかけてきた。二人共若い東洋人である。ジャケットの男の方が幾分若い感じである。
「美味いですね」
「そうだな、アイルランドのビールはな」
「幾らでも飲めますね」
 実際にジャケットの男はそのビールを次から次にと飲んでいる。
「こんなに味がいいとは」
「うん、確かにな」
 スーツの男もその言葉に頷く。
「さて、それでですけれど」
「そろそろだな」
「ああ、どうも」
 そしてであった。ここで二人の横に初老の男がやって来た。目の色は灰色でくすんだ金髪を角刈りにしている。かなりがっしりとした身体つきの男である。
 その男が二人のところに来てだ。まずはこう尋ねてきたのだ。
「本郷忠さんと役清明さんですね」
「ええ、そうです」
「その通りです」
「ダブリン市警のアルバート=レーガン警部です」
 男はこう二人に名乗ってきた。
「事件の捜査を担当しています」
「話はおおよそ聞きました」
「連続殺人事件ですね」
「はい、そうです」
 まさにその通りだというのだった。そしてさらに話してきた。
 
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