カンピオーネ!5人”の”神殺し
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クトゥグアとの戦い Ⅰ
『ん?』
エトナ火山の山頂付近。最も火の精が強いこの場所で力を蓄えていたクトゥグアは、空間への異常を感知した。
「よっしゃビンゴ!今回はズレなかったね!」
空間が歪み、人影が現れる。そこに出現したのは、鈴蘭と護堂だ。二人を見てクトゥグアは、その可憐な少女の見た目からは想像も出来ない程、獰猛で威圧感のある声で叫んだ。
『来たか神殺し!我が敵よ!!!』
「来たぞクトゥグア!お前がやったことのツケを支払わせにな!!!」
クトゥグアの威圧は、既に常人ならば即死していてもおかしくない程の圧迫感を伴っていた。しかし、護堂はそれを怯むことなく受け止める。こちらも、獣のように獰猛な顔で口角を上げながら答えた。
それに気を良くしたクトゥグアは、攻撃を始める。
『それでこそ、我が宿敵を弑逆した神殺しよ!そうでなくては、我が直接相手をする意味がない!!!』
今までは力を抑えていたのか、彼女が神気を開放すると、彼女の身体は眩い程の炎に包まれた。彼女本来の姿へと戻ったのだ。これはつまり、彼女は護堂に対して、ほんの少しの手加減すらするつもりが無いことを示していた。
『それでは、これを受けてみよ!耐えられるか!?』
彼女のその叫びと共に、地面が脈動する。ゴゴゴゴゴゴ・・・という、地面が悲鳴を上げるような音と共に、立っていられない程の揺れが、鈴蘭と護堂を襲った。
その攻撃の正体を看破した鈴蘭が、悲鳴のような叫びを上げた。
「嘘・・・!?噴火させるつもり!?」
「な・・・!?こんな場所で噴火なんてさせたら・・・!?」
元々、エトナ火山は常時噴火していると言ってもいい程の活火山である。むしろ、それによって吹き出る、栄養価たっぷりの火山灰を利用して果樹園などを営んでいるのだ。多数の死者が出るほどの噴火をしたのは凡そ800年前と300年前であり、そんな昔のことなど誰も覚えてはいない。今も、この火山の近くには数千人の人間が暮らしているのだ。かなりの人数を避難させたが、クトゥグアから発せられる狂気の権能により、既に大多数が会話すら不可能な状態になっており、一向に避難作業が進まなかった。これ以上時間を掛けるのも危険という判断から、避難が終わるのを待たずにクトゥグアの排除を始めたのである。
今この瞬間も、この付近で、救助活動に勤しむ魔術結社の魔術師たちもいる。
「く、クトゥグアぁああああああ!!!」
怒りのあまり、護堂が叫ぶ。そのまま特攻しそうになるが、それを驚異の精神力で押さえつけた。それを見て、鈴蘭とクトゥグアは内心で驚きの声を上げる。
よもや、神殺しになったばかりの人間が、ここまで戦いに順応しているとは、と。
本来なら、無謀な特攻をしてもおかしくない程に彼は怒り狂っていたのだ。そんなことをすれば、クトゥグアにカウンターを合わせられ、一瞬にして彼が敗北していたかもしれない。戦闘時に我を忘れるというのは、それ程の危険性を含むのだから。
そして、本能的にそれを理解した護堂は、自身を止めてみせた。沸騰しそうな頭を、無理矢理クールにしてみせた。これは、熟練の戦闘者でも中々出来ない芸当であった。
それに驚きながらも、それで思考を停止するような愚かな真似を鈴蘭はしない。頭の中では、この攻撃をどうやって防ぐかを考え続けていた。
(私なら、この程度の攻撃なら防ぐことができる・・・けど、そうしたら、クトゥグアの追加攻撃に対応出来ない。どうする・・・?)
鈴蘭の思考をかき消したのは、護堂の叫び声だった。
「鈴蘭さん!俺とクトゥグアを隔離世に送ってくれ!アイツは俺が倒す!鈴蘭さんは、ここで溶岩をどうにかしてくれればいい!!!」
つまり、元々の作戦に変更はなし、と彼は言っていた。鈴蘭とクトゥグアがいつまでも同じ場所にいることは出来ない。どうせ彼女は現世に留まらなくてはいけないのだから、溶岩流をどうにか止めろ、というのが彼のオーダーであった。
(・・・どうする?)
一瞬の思考。この作戦をこのまま実行したときのメリットとデメリットを瞬時に考え、彼女は決断した。
(・・・うん!護堂君がクトゥグアを倒せば、何の問題もなしだね!)
護堂を信じると。この場からクトゥグアが居なくなれば、彼女は溶岩を止めることだけに集中出来る。それなら、自身の能力を十全に発揮することが可能である。何しろ、既に噴火は始まろうとしているのだ。クトゥグアは噴火の切っ掛けを作っただけである。それ故に、二人で協力してクトゥグアを倒せたとしても、この噴火を止める手立てはない。この付近の住民を守る為には、これしか方法が無いことを彼女は分かっていた。
「・・・頑張って護堂君!・・・いいや、【混沌の王】草薙護堂!!!」
「・・・・・・おう!任せてくれ!!!」
パチン、と彼女が指を鳴らすと、護堂とクトゥグアは隔離世へと取り込まれた。
「・・・さて、これで後は、この溶岩を止めるだけ・・・。」
彼女の呟きと同時に、ゴッ・・・!!!という激しい音と共に、過去最大級の噴火が始まった。天高く吹き上げられるマグマと煙、そして火山岩。
今にも彼女を飲み込まんと迫るそれらに対して、彼女は些かの恐怖すらも感じていない。
「今更、こんな物でビビるわけがないじゃん。」
地を埋め尽くす程の魔獣の群れを見たことがある。それを消滅させる程の攻撃を見たことがある。新しく世界を創造しようとする神と戦ったことがある。
それらの、最大級の驚異に比べれば、今更噴火程度が何だというのか?
「我は万物の父であり母である。この世の全ては我に由来し、我が支配出来ない者など存在しない。我は至高の存在也!」
聖句を唱える。
「止めてみせる。【聖魔王】の名にかけて!!!」
ズオッ・・・!という風切り音と同時に、彼女の足元から白銀に輝く金属の壁がせり上がる。それは留まることを知らず、その体積も上限知らずであった。
「要するに、下にまで流れて行かなければいいんでしょう!?」
遠くから見れば、それは異様な光景だっただろう。事実、救助活動を行っていた魔術師たちは、作業も忘れて口をポカンと開けながら空を見ていた。
「・・・アレが、【聖魔王】様の力か・・・!!!」
エトナ火山に、蓋が掛かる。
エトナ火山の山麓部の直径は、凡そ140kmにも及ぶ。まず、その山麓部から一斉に壁が出現し、どんどんと山頂部までを覆っていった。数十秒後、エトナ火山ほぼ全ての姿を、お椀型の金属の壁が隠しきっていた。吹き上がる熱も、煙も、溶岩や火山岩も、その全てを受け止め、外に出さない為の覆いが成されたのだ。更に、山脈の中腹に存在する村などにも、被害が及ばないように同じような覆いが掛けられた。
勿論鈴蘭は、その中に閉じ込められるという愚行は侵さない。彼女はさっさと転移の術で逃げ、隔離世の中の状態を認識出来るみーこと一緒に、護堂の戦いを見守っていた。
「・・・頑張れ、護堂君。」
その言葉が、宙に溶けた。
✩✩✩
一方、クトゥグアと共に隔離世へと送られた護堂は。
『ほらほらどうした!?防ぐだけでは何もできんぞ!?』
防戦一方であった。
「く、そ!近づけねぇ・・・!!!」
クトゥルフ神話のクトゥグアには、複数の配下が存在する。
彼女が先日呼び出した、まつろわぬアフーム=ザーもその一柱であるし、その他にも、フサッグァや炎の精といった存在がそうである。
現在護堂は、彼女に召喚されたフサッグァと、それに率いられる炎の精の集団攻撃に晒されていた。
これらは、正確にはまつろわぬ神ではない。神獣と呼ばれる存在である。
『無数の炎を従える生ける炎の姿』。クトゥグアの真の姿が顕になった状態だといえる。
「ぅ、おおおおおおおおおおおおお!!!」
護堂の周囲には、直径10mほどの巨大な火の玉が一つと、1m程の小さな火の玉が数百浮いていた。
炎の精と、それらの司令塔であるフサッグァである。
炎の精は、まるでガンダムの代表的な兵器である、ファンネルのように縦横無尽に飛び回り、強力な熱線を護堂に浴びせかける。その高速移動について行けず、彼はただただ耐えるしか無かった。
灼熱、という言葉でさえも足りない程の熱量。生物であるならば、近づいただけで蒸発するような炎を前にして、しかし護堂は重傷を負っていなかった。服は所々が焦げ、破れているが、彼の体にはカスリ傷程度の傷しか存在しない。
これには、流石のクトゥグアも、目を細める。
『貴様は、我が宿敵を弑逆した筈。アレは、我とは最悪の相性だったのに、何故貴様はその程度のダメージしか受けんのだ・・・?』
確かに、カンピオーネの権能とは、元々の神が持っていた権能の性質から外れることもあるのは彼女も知っていた。その人間の性質に引っ張られ、権能自体が変質するのだ。例えば、彼女たちは知らないが、ドニの第三の権能いにしえの世に帰れも、かなり変質した権能である。なにせ、発明の神とも呼ばれるウルカヌス神から簒奪した権能が、『半日ほど文明を中世レベルにまで後退させる』という、全く真逆の権能に変化したのだから。
倒した神が分かっても、権能の詳細までは分からないという代表的な例であった。
そのことから考えても、護堂の権能は随分と変質しているようである。原作で天敵とされているクトゥグアの攻撃を、ほぼダメージなく防ぎきっているのだから。
『だが、だからといってここで止めるわけにもいかん。どれ、我も攻撃してみるか。』
「チィ・・・!」
クトゥグアが始めて、自らによる攻撃の意思を示したことで、護堂は舌打ちをした。
クトゥグアが右手を空に掲げると、瞬時に直径1kmにも及ぶ巨大な炎の塊が出現した。その塊の色は・・・蒼。彼女の手から、蒼炎とも呼べる色の炎の塊が投げられたのだ。色温度に当てはめれば、蒼炎は16000k・・・つまり、約18000度である。
そもそも、ファンの間では『クトゥグアはフォーマルハウトに封印されている』、という説が一般的ではあるが、『フォーマルハウト自体が、姿を変化させられたクトゥグアである』というファンもいる。
つまり、クトゥグアは恒星と同程度の質量を保有しており、その大きさは、クトゥルフ神話の中でも五本の指に入るほどだという説だ。そんなぶっ飛んだ設定を持つ彼女にしてみれば、蒼炎を出すことなど容易い。太陽の三倍以上の熱量。出現した瞬間に世界を滅ぼしそうなその蒼炎が、護堂に迫っていた。
「クッ・・・!」
護堂は焦る。流石に、今の状態でアレを喰らえば敗北は必至。だとすれば、避けるのが最良であるのだが・・・炎の精とフサッグァがそれを許しはしない。
ならばどうするか・・・?
「我は無貌なるもの。何者でもなく、全ての闇に潜むもの。混乱と恐怖、怒りと絶望。全てを糧として我は嘲笑う。全ての人の子よ我を畏れよ。我は無貌の神。混沌の支配者也!」
聖句を唱えた。権能を十全に使用するための準備を整えた彼が、迫る蒼炎に対してした行動は・・・
「ォ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
腕を交差させ頭を防御。それだけしか出来ず、蒼炎へと飲み込まれた。
ボッ・・・!!!
瞬間、世界から音が消失した。それはほんの一瞬。地面へと落ちた蒼炎は、凄まじい音を立てながら地面へと埋まっていく。・・・地面を、溶かしながら落ちているのだ。
神気が混じった蒼炎は、地面の分子まで消滅させながら突き進む。威力が下がる素振りすら見せず、蒼炎は火山に大穴を開けていったのだ。
『・・・これで終わりか。呆気ないものだ。』
避けるのでもなく、迎撃するのでもなく、護堂が選択したのは防御だった。彼女にしてみれば、それは一番の悪手であると言わざるを得ない。アレは、防御出来るような物ではなかったのだ。いかなる防御をも突き崩し、消滅させるという絶対の自信がある。それ程の攻撃だった。
その証拠に、巻き込まれたフサッグァたちが消滅している。例え神獣とはいえ、炎を司る彼らが、格の違いすぎる力に対抗出来なかったのだ。
『・・・詰まらぬ。我が宿敵は、このような男に破れたのか・・・。』
クトゥグアの、若干寂しそうな声が隔離世へと響き渡った。
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