無の使い手
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ブルー編
能力
前書き
ついに主人公の能力が明らかに(一部
入学式が終わると、各々の教室に向かって移動することになる。
僕の教室は1-1-1。
最初の数字が学年を表し、次が組みを表す。
最後の数字が何階にあるかを示している。
だから、教室移動で1-1-2となれば、2階の1年1組みというわけだ。
そして、和葉の教室は1-3-3。
別々の組になってしまった。
友達がいれば心強かったのだが、こればかりはしょうがない。
「それじゃあ、頑張ってね。休み時間になったら遊びに行くから」
「それは助かる。 初日で友達が出来るか不安だから」
そう言って玄関で別れた。
1-1-1の教室は玄関から最も近い。
普通だと思うかもしれない。
しかし、玄関から最も近くにあるのは職員室や校長室などといったものである。
どういうわけか、職員室や校長室などは別の建物として離されている。
この学校を建設した人が設計ミスをしたんじゃないかと思ってしまった。
「この学校は謎が多い」
もちろん僕は事前に調べてから入学してきている。
でも、こういう部分は謎のままなのだ。
教室に入ると7人の生徒が椅子に座っていた。
(あれだけ広い空間だと、前にいた生徒は遅くなるんだろうな)
僕は幸い後ろの方にいたので早く教室に到着できた。
「あの~、ごめんなさ~い」
ふと、後ろからのほほんとした声がかかる。
振り返ると150前後の女子生徒が立ち尽くしていた。
「あ、邪魔になってたね。 ごめん」
「いえ、ありがとうございます」
女子生徒は黒板に貼られている紙を見ると自分の席に向かった。
ただ、気がかりだったのは
(あの子、ちょっとだけ声が震えてた?)
多少の違和感ではあったが僕にはそう感じられた。
しかし気にしたところで答えが出るわけでもない。
「……僕も座るか」
鞄を机に置いて、時計を見る。
予定よりも20分早かった。
僕はどうしようか少し考え
(さっきのことをきっかけに話しかけてみようかな)
勇気を振り絞って女子生徒に近づいた。
「あの、今ちょっといいかな?」
「うん? いいよ~。 何かな?」
「えと……さっきはごめんね」
軽く頭を下げて謝った。
「え? そんな、頭を下げなくていいよ。 些細なことだし」
あたふたしながら「気にしないで」という女子生徒は可愛く思えた。
「ありがとう。 僕は櫻井 神無」
「私は三島 恵。 恵みと書いて恵です」
クリーム色の短い髪。
クリッとした可愛い目。
星がプリントされたリボンで髪の両サイドを括ってある。
そして、襟には黄色いバッチが着けられていた。
「イエローか……すごいね」
「そんなことないよ~。 私なんてたいしたことないから」
苦笑いを浮かべた三島さんに多少の違和感を覚える。
(怖がられてるのかな?)
そんなことを考えていると、右手を掴まれ
「これ、お近づきの印に」
チョコレートがのっていた。
ポケットに手を入れるような仕草はなかった。
袖に隠しているわけでもなさそうだった。
つまりこのチョコレートは、なんらかの能力によって創られたもの。
何かを創る……創造?
(違う)
何を創造できるかにもよるが、なんでも創造できるとなると、それはもうブラックの領域だろう。
しかも、このチョコレートは能力で編まれた感じがしない。
つまり、このチョコレートは紛れもない本物。
そして、能力を否定する能力をこのチョコレートに使っても消えて無くならないだろう。
(何なんだろう……三島さんの能力)
そんなことを考えていると
「少しいいか?」
後ろから声をかけられた。
体育館で演説をしていたとき、一際目を引いた生徒がいた。
(あれが和葉の言っていたヤツか)
異様、としか言い様がない。
己の能力をもってしても何も知ることのできない生徒。
(和葉が興味をもつのもわかるな)
俺たちブラックをあしらえるとすれば、同じブラックだけ。
俺たちブラックは確かに全能の存在だが、全能の及ぶ範囲を競っている。
例えば、ある作品で全能のキャラクターAは一つの宇宙で全能の力を使っていた描写なり、設定があったとしよう。
そして、別の作品で全能のキャラクターBは2つの宇宙で全能の力を使っていたとしよう。
この時、戦えば勝つのはキャラクターBである。
全能なら全能の及ぶ範囲も変えられると思うかもしれない。
しかし、例え変えたとしても勝つのはやはりキャラクターBである。
もともとの世界観が違うのだからその作品の最大の世界観でしか考えられない。
俺たちは同じ宇宙にいるが、別々の作品のようなもの。
そういう論理でできている。
話がそれたので戻そう。
演説を終えた俺は、1-1-1の教室へと向かっていた。
とある女子を生徒会へと勧誘する目的と、和葉が興味をもっていると言っていた男子に会うためだ。
教室に入ると目的の男女が何やら話し合っていた。
都合がいい。
「少しいいか?」
「生徒会長!」
女子がびっくりして声を出していた。
男子の方も声には出していないが驚いているように見える。
「三島 恵さん……であってるな?」
「あ、はい!」
「そう緊張しなくてもいい。 深呼吸すれば落ち着くぞ」
「お言葉に甘えて」
スーハー、と大きく深呼吸を一度して
「もう大丈夫です」
「話を途切れさせてすまない」
「いえ……そんなことは」
まだ、緊張しているようだが多くは突っ込まない。
「単刀直入に言おう。 生徒会へ入ってみる気はないか?」
「え?」
「君の能力で書記をやってもらいたい思ってな」
普通の書記とは全く違う仕事なのだが、余計なことまで説明はしない。
「返事は1週間ほど待つ。 それでも返事が貰えなければ潔く諦める」
「こんな言い方はアレですけど、生徒会長一人でどうにかなるんじゃないですか?」
「確かに俺一人いれば事足りる。 しかし、学校とはそういうところではない。 団体行動は必要不可欠だ」
「……考えてみます」
「いい返事を期待している」
周りがうるさくなってきた。
この教室の生徒の半分以上は戻ってきている。
早くもう一つの目的をすませてしまおう。
「君は櫻井 神無くんだね?」
「そうだけど?」
「君は非常に興味深い。 できることなら君とは仲良くしたいな」
頭を撫でようと手を伸ばすが、横から腕を掴まれ阻止された。
「私の幼馴染みに触らないでくれない?」
「和葉か」
和葉から触れられたのは初めてだった。
いつもはやる気を見せず、実力も未知数。
わかっているのはブラックということだけ。
だから"3階を任せている"のだが……。
「悪い。 興味本位でな。 人も多くなってきたし今日はこれで失礼する」
まるで蜃気楼のようにそこから消えた。
「和葉……きて「素晴らしい!」」
僕の言葉は誰かの声でかき消された。
「あぁ、あなたはどんな世界の宝石よりも美しい。 この世にここまで絶世の美女がいるとは……お名前を伺っても?」
「美和 和葉だけど」
「和葉さん……なるほど素晴らしい名前だ。 私は「解ってる」」
和葉が話を遮った。
「あなたは東 武大くんだよね」
「流石和葉さんだ。 私のことはなんでもお見通しと見える」
何やら東という男は感心しているが、普通にプライバシーの侵害である。
「しかし、素晴らしいものをお持ちで。 何カップか伺っても?」
東は和葉の胸を凝視してそんなことを言った。
(お巡りさんこの人です)
セクハラ発言している東に脳内で突っ込んだ。
「Iだけど?」
「I!? 15でそんなものをお持ちとは……! いや、ブラックということを忘れていました」
「体はいじってないけど?」
「なんと!? つまり天然の発育でそこまでのものを?」
「そうだけど」
普通に受け答えしている和葉に羞恥心はないのだろうか。
今朝もあんなことがあったので羞恥心があるとは断言できない。
「素晴らしい! 是非、触れてみたい! よろしいでしょうか?」
「おい、やめろ」
「なんだね? 今は和葉と会話している。 ゴミクズには黙ってていただきたい」
挑発になっていると思っているのだろうか? 甘すぎる。
こんな煽り文句には付き合っていられない。
「僕はやめろと言っている。 触りたいとか度が過ぎるだろ」
「ならばどうする? 私は聞く耳を持たない。 決まっている。 戦うしか道はない。違うかね?」
あんまり僕は戦いを好まない。
しかし、幼馴染みを助けるためだ。
和葉はブラックだけど女性なんだ。
なら、男の僕が助けないでどうする?
「……」
「……」
お互いに睨み合う。
「まったく、じゃあ二人で戦いなさい」
世界が創り変えられた。
そこは青い草原の大地。
邪魔するものは何もない。
「君はMetaverse(メタバース)を知っているかね?」
発音から察するにUniverse(うちゅう)の一種だとは思うが……。
「どうやら知らないみたいだね。 ならば特別に教えよう。 既知の集合する宇宙のことだ」
既知とは、言い換えるならデジャヴュのようなもの。
この匂いは嗅いだことがある。
この人と会ったことがある。
それが既知。
「私は道しるべを見つけたよ。 故に君にはここで和葉の糧となっていただく」
それは既知の集合であった。
東が今まであってきた既知の数々。
「おぉ!」
僕は負けるわけにはいかない!
必死に僕の能力を発動した。
『無』それこそが僕の能力。
といっても、未だに何かを無に還すなんて芸当はできない。
いや、できないのではなくやらなかったという方が正しいだろう。
誰かを傷つけるのが怖くて、誰かを失わせることが怖くて……。
それでも、今だけは勝たなくてはいけない!
「くらえ!」
東を無に還した……はずだった。
「なんだそれは? もうその攻撃は何度もくらったぞ。 そんな既知で私を倒せるものか」
冷や汗が流れる。
東の能力は『既知』なのだろう。
東は『未知』によってしか倒せない。
「超新星爆発」
東の赤色のバッチが光ったような気がした。
僕はなすすべもなく飲み込まれた。
「生きていたか。 運のいい」
摂氏2兆度を軽く超える既知の「超新星爆発」を食らっているとき、やつは「無意識」に能力を体の周りに展開し、温度を防いでいた。
といっても爆風までは全て防げているわけではなかった。
しかし、温度だけは完全に防いでいた。
Multiverse(多元宇宙)くらいなら掌握している「既知」の「超新星爆発」をだ。
つまり、やつの能力は私の知らないモノ。
私を無に還す攻撃で"無"でも操るのかと思ったが、根本的な本質の能力は別だろう。
「面白いぞ」
この学校にはまだまだ私の「未知」がありそうだ。
だからこそ私は「レッド」なのだろう。
さて、戻ったら本来の教室1-3-2に戻らないとな。
「あらら、ボロボロだね」
世界を元に戻して、初めに発した言葉がそれだった。
「やっぱり、初戦レッドは厳しかったかな」
「あなたも人が悪い。 私にこのようなことをさせて」
「私は神無のことが解りたいと思っている。 そのためならなんでもする」
「体を売ったりも?」
「それで神無のことが解るのなら」
それは知的好奇心からくるもの。
神無という完全な未知数にこそ和葉は興味を持つ。
それ以外はどうにでもなれという危険な思考も持っている。
そんな思考が許されるのは和葉が"この世界の一番上"にいるからだろう。
「あなたは、あなたの教室に帰りなさい」
「和葉の言うままに」
こうして、学校で初めての戦いは神無の黒星で終わった。
後書き
お久しぶりです
作者です
早速、チートの塊のようなやつが出てきました
多元宇宙のを掌握し、「既知宇宙」全てを操る能力者
「未知」は操れないので残念ながらレッドどまり。
といっても、未知を操れたところでこんなキャラじゃ"3階"にすらたどり着けない
1階と2階の差も大きいですが、2階と3階の差はもっと大きい。
このあたりの意味ありげな言葉は後々本編で回収される……はず。
では次回
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