皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第24話 「戦争目的、戦略、戦術」
前書き
無駄な裏設定。
若い頃のミューゼル家御当主はラノベのへたれ主人公ポジション。
奥方はヤンデレぽかったりする。
事故の真相は?
第24話 「い・や・が・ら・せ」
リヒテンラーデ候クラウスである。
ミュケンベルガー元帥から例の准将達を、少将に昇進させたいとの希望が皇太子殿下に出された。
どうやらあの連中に、戦力を持たせる事によってイゼルローンでの戦闘を、有利にしたいのかも知れぬ。
「宇宙艦隊総司令長官は卿である。卿の見識に任せよう。他の長官達と相談した上で決めよ」
皇太子殿下の返答は実にあっさりしたものであった。
あまり軍の職権に横槍を入れるのは、まずいとのお考えなのであろう。
確かに皇太子殿下が強権を振るってばかりじゃと、帝国宰相のみならず、帝国三長官をも兼任する事になってしまう。
前例がない訳ではないが、今の状況ではまずかろう。
そうこうしているうちに第五次イゼルローン攻略戦を前に、両回廊周辺を警戒していた艦隊が、同盟側と遭遇したという報告が届いた。
皇太子殿下曰く。
「流星群のふりして逃げる奴が出てくるかもしれない。注意するように」
との命が下り、帝国軍は十分に警戒しつつ包囲殲滅せんとしたらしい。
「叛徒達の指揮官が死兵となって、帝国軍に襲い掛かり、自らを盾にエル・ファシル住民を逃がした模様」
「なん……だと……」
その報告を聞いたときの皇太子殿下の愕然とした表情は見物じゃった。
いやいや、そうも言ってられん。
皇太子殿下はなにやら、必死に考え込んでおられる。
「いかが致しますか?」
「追撃は無用。艦隊はイゼルローンに帰還し、兵を休ませよ」
「御意」
しばらくそっとしておく事にしようかのう。
思考の邪魔をしてもいかぬ。
■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■
エル・ファシルというから、指揮官はアーサー・リンチだと思ったんだが、違ったのか?
それとも同じ人物が、違う動きをしたのだろうか?
状況が変われば、気持ちが変わる。気持ちが変われば、考えも変わる。考えが変われば、行動が変わる。壮大な思考のドミノ倒しだな。
これでヤン・ウェンリーが来るかもしれん。
いや、その前にどこぞの収容所に向かう事になるのか?
それとも第五次イゼルローン攻略戦に参加してくるか。もし仮に参加するとなれば、総旗艦に乗り込むだろう。参謀の一人としてな。
今度はザ○による旗艦狙撃はできんだろう。
やつらも警戒しているはずだ。
同じ手が二度も通じるとは思えん。
ザ○の狙撃が前回ではなく、今回だったら……。
いやいや、そんな事を考えてはダメだ。思考が後ろ向き過ぎる。彼らはよくやった不満に思う事などない。
平行運動による攻略など、しないだろうな……。
したらバカ丸出しだ。
艦隊と艦隊の距離が近いほど、ザ○が有利になる。こっちはワルキューレにプラスしてザ○があるからな、単純に考えても、戦闘機としては二倍の戦力だ。スパルタニアンだけでは不利だ。
増援艦隊を増やすか……。
だが狭い回廊内では大軍は自由に動けんか?
多けりゃ良いってもんでもない。
ラインハルトに聞いてみようか、いや、ガキに頼っているようじゃダメだな。
「フェザーン回廊を使うか、理由はバカな貴族ということで」
よし、これでいこう。
■軍務省 帝国軍統帥本部長シュタインホフ元帥■
軍務尚書エーレンベルク元帥と私そして、宇宙艦隊総司令長官ミュッケンベルガー元帥の三名は、顔を付き合わせていた。
「宰相閣下から、増援艦隊は四個艦隊との命が下った」
「四個か、多いな」
「よほど警戒なされているのだろう」
「それとは別に、さらに別の四個艦隊でフェザーン回廊を通り、イゼルローン回廊の出口を塞げとの命もある」
「計八個艦隊の動員か、よくぞそこまでなされる」
「しかし大丈夫なのか、奴らも警戒しよう」
「皇太子殿下には、フェザーンにはバカな貴族をまとめて派遣する事になっているそうだ。そいつらを降ろした後、イゼルローンに向かえとの事だ」
「なるほど、大規模な挟撃かっ!! しかも理由がバカな貴族が駄々をこね、艦隊で送らせたという事にするのか……」
「送るリストを見せてもらったが、連中ならさもやりかねんと思えるところがみそだな」
「イゼルローンに攻め込んでくるというのに、戦力を削ぐような真似をするバカな貴族。しかも自分の見得のためだけに……」
「かつての帝国ならば、あっておかしくない理由よ」
「さぞ叛徒どもも、迷うであろうな」
■宰相府 アンネローゼ・フォン・ミューゼル■
「ラインハルト、戦争目的と戦略と戦術の違いが分かるか?」
「戦争に勝つための作戦と戦闘に勝つための方法の差だろう」
皇太子殿下がラインハルトとジークを相手に話しています。
おそらく皇太子殿下は、ラインハルトに話しながら、ご自分の考えを纏めているのでしょう。
「それじゃあ今一、分かりにくいな。それではたとえ話で説明してやろう」
「うむ。聞いてやろう」
こくんっと頷く、ラインハルト。かわいいー。
「例えば行きたい学校がある。こいつが戦争目的。その為の大事なテストがある。それに受かる事、これが戦略目的だ。そして問題を解く事、これが戦術になる。ところがな、テストの途中で難しい問題に当たる事がある。解くために時間を掛けすぎると、必要な得点が得られなくなるかもしれない。問題は解けるかもしれないが、テストには落ちる。こうなるとどうなる?」
「つまり戦術的には勝利したが、戦略的には敗北。戦争目的は達せられない」
「その通り。そして補給は戦術的に勝利を得るために必要な物資だ。この場合、テスト勉強だな。必要なだけの勉強をして、戦術的勝利を得るために準備する。補給を軽視する事は、テスト勉強をせずにテストに受かるさと嘯く事だ。バカバカしいだろう?」
「確かにな」
「この当たり前な事が分からん奴らが多すぎるんだ」
補給もそうだが、同盟の奴ら、何を目的にイゼルローンが欲しいんだ?
原作で、ヤンがイゼルローンを落としたら、和平交渉ができると思っていたがそんなの無理だろ?
「それでな~。同盟は何が目的で、イゼルローンに攻めてくるんだろうな?」
「戦争に勝つためだろう?」
ラインハルトが何言ってんだ? という表情で皇太子殿下を見つめています。
むしろ、ジークの方があれっ? ていう表情を浮かべていますね。
「ああ~」
「おっ、ジークは気づいたか?」
「えっ?」
なんとなくラインハルトが悔しそうな目で、ジークを見ましたよ。こういうところは、まだまだこどもですねー。う~んう~んっとラインハルトが考え込んで、ハッと顔を上げました。
おお~気づいたようです。わたしには分かりませんが。
「フェザーン」
「そうだ。帝国はフェザーンを手に入れた。二つある回廊を二つとも手に入れてるんだ。イゼルローンを落としても、両方から攻められると、戦力的に劣る同盟では支えきれん」
「もし仮に皇太子殿下が同盟の指導者ならどうしますか?」
「ほっとく」
「はあ~っ?」
二人の声が綺麗に揃っちゃいましたよ。
どうしたんでしょうね?
「フェザーンに置いた弁務官に、散々帝国のやり方をぼろくそに罵りさせつつ、自分からは絶対攻めない。迎え撃つだけだ。それも三倍の戦力でな」
「それは消極的では?」
「そうかー。三倍の戦力で、ふるぼっこしちまうとな。二、三回も会戦すると帝国は戦力を整えるのに時間が掛かって、攻め込む力を失うぞ」
「フェザーンは?」
「フェザーンは、帝国軍の戦力増強のための金を使わされて、内部で反乱が起きるだろうな。そうなると鎮圧のために、軍を派遣するようになる。これでまた外征の余裕がなくなる」
「それじゃあやっぱり、イゼルローンを落とした方が良いんじゃないか?」
「なんで? 落とすと両方から攻められるぞ。イゼルローンがあるから、フェザーンは金を生み出す場所として保護する必要ができるんだ。無駄にフェザーンを潰す必要はないだろう?」
う~ん。わたしも今一皇太子殿下の仰る事が分かりません。
今の状況でもフェザーンから回廊を抜けて、同盟に攻め込めますよね? 事実皇太子殿下は今回、フェザーンを抜けてイゼルローンに回り込もうとしていますし。
「すまない。よく分からない」
「すいません。わたしもです」
ごめんなさい。わたしも分かりません。
「あのな。二正面作戦をするって事は、フェザーン回廊が戦場になるってことだ。そうなるとフェザーンに被害が出る。抜けるのと戦場になるのは違うぞ」
「いや、それは分かるんだ。でも現状では同盟にも戦力に余裕があるだろう?」
「もちろん」
「だったら、どうして?」
ラインハルトがほっぺたを膨らまして、皇太子殿下に詰め寄ります。
肩を掴んで揺さぶってます。
駄々を捏ねてるようでかわいいー。
「だから、最初に言った戦争目的はって話になるんだ」
「戦争目的?」
「そっ、戦争っていうのは、手段であって目的じゃないぞ。何を目的に戦争するんだ?」
「そりゃあ~帝国を倒そうと?」
「倒してどうする?」
「併合するんだろう?」
「同盟にそんな余裕はない。国力の違いってやつだな。帝国には貴族の私兵というもう一つの宇宙艦隊がある。なりふりかまわず戦争するとな。正規艦隊十八個に貴族の私兵が十八個艦隊。これら全てを相手にする事になるぞ。そこまで相手にはできんだろう? だから同盟は総力戦では勝てないんだ。だったら防衛戦をするしかない」
皇太子殿下の言葉にラインハルトとジークが悩んでいます。
確かに総力戦では同盟は帝国に勝てません。防衛戦しかないのも分かります。ですがそれとイゼルローンを落とさない方が良いというのが、繋がらないんです。
「やっぱり、よく分からない」
「すいません。わたしもです」
「しょうがねえ。答えを言うとな、たいした話じゃないんだ。これは心理的なもんだ。イゼルローンを落とされると、帝国では取り戻すかそれともフェザーン回廊を使うかという選択を迫られる。イゼルローンがそうそう落ちないのは、同盟が証明している。なら金の卵を産むガチョウであるフェザーンを潰してでも、同盟の首都を落とすしかないんだ。そして今なら、最大三十六個艦隊を動員できる。イゼルローンに向けて、十八個艦隊。そしてフェザーンから十八個艦隊で攻める事が可能になる」
「け、桁が違いすぎる……」
「うわ~」
「たった一年で、同盟を占領できる。その後イゼルローン回廊を塞ぐ。それで終わりだ」
「だったら今まで、どうしてその手を使わなかったんだ?」
わたしも同じ事を思いますよ、皇太子殿下。
「貴族達の戦力を吐き出させることができなかったからだ」
「ああ、そうか。でも今ならできる」
「……宰相閣下のご威光」
「皇太子の命令で全ての貴族を動員させることができる」
「ま、そういう事だ。だからな、無駄にフェザーンを潰す事を躊躇わせるようにしときゃ~。戦場はイゼルローンに固定される。そこでふるぼっこしときゃいいんだ」
「帝国を支配できない以上、防衛戦しかなく。その為には戦場を固定しておく方が良い」
ラインハルトが呟いています。
ジークの目がどことなく虚ろになりました。
「戦争目的ですか……」
「そして帝国も戦争目的を変える必要がある。俺は同盟の人間を農奴に落とすつもりはないからな。農奴にしても意味がないんだ」
「意味がない?」
「農奴は生産者ではあっても、消費者ではないんだ。パイは増えない」
「ああ、消費者というパイか……」
皇太子殿下がコーヒーに口をつけました。
ラインハルトとジークも目の前に置かれてあった、ホットチョコレートをがぶ飲みし始めました。
もう~二人とも。お行儀が悪いですよ。以前よく作ってあげた時は、そんな風に飲まなかったのに。
「いま俺が同盟に対して、嫌がらせじみた事をしてるだろ?」
「確かに嫌がらせだと思う」
「ラインハルト様」
「いや、構わん。確かに嫌がらせだ。それら全ては同盟の人間から権利を取り上げるための布石だ」
「布石になるのか?」
「なる。選挙のたびに遠征してくるのも、麻薬の事も。お前らに統治を任せて置けない。一人前扱いして欲しければ、もう少しマシになってからだ。と言って取り上げる」
「そんな事したら反乱が起きるぞ」
「起きるだろうね。だがそれがどうした。甘ったれたガキに阿る必要は感じない。罰を与えるたびにそう宣言する。もう少しまともになってから物を言えってな。自分達がまともにならない限り、一人前扱いはされない。自業自得だと」
うわ~。やり口がひどい。
完全に子ども扱いする気ですね……。しかも一人前になった事を自分達で証明させる。
そんな事できるのでしょうか?
「それがアーレ・ハイネセンの説いた。自主・自律・自立だろう。それが向こうの自己主張じゃないのか? 自らの主張を証明しろと言ってるだけだ」
意外と皇太子殿下って怖い人なんですね。
後書き
皇太子殿下はひどい男なのです。
こんなの絶対無理な無茶振りですー。
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