ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
戦場の跡
ぐあぁー、とレンは呻く。呻くように、唸る。
後頭部に当たる正体不明のコケのひんやりと、ふわりという感触が心地がいい。
視線の先の、幾重にも重なる梢の先に見える夜空が美しい。
綺麗で可憐で、美しい。
儚いようで、美しい。
忘れていた仕事を思い出したように、虫達のさざめきが再び鳴り響き出す。
その静かな旋律の調べが、これまた静かに、まるで死んだように横たわっているレンの耳朶を打つ。
「…………………」
黙ったまま、沈黙したまま、レンはゆっくりと緩慢な動きで右手を上空に伸ばす。
手のひらで半分だけ割れた夜空の闇。その半分から、ゆっくりと舞い降りてくる一つの影。
「ん?」
ヴァサッ、と薄墨をぶちまけたようなコウモリ型の翅を震わせながら空から降りてきたのは、《夕闇の化神》ウィルヘイムの相手をお願いしていたはずのカグラだ。
さすがに【神聖爵連盟】副官の相手はキツかったのか、自慢のエセ巫女服の白衣の左腕の所がべったりと目も覚めるような鮮血の赤に染まっている。
あそこまでの大量の血液が出ていて、かつそれが消えていないという事は、かなりの深度の心意攻撃を浴びたということだ。
神経が丸ごと捻じ切れるような痛覚フィードバックに苛まれているはずなのに、その端正な顔には一片の曇りもない。
「大丈夫ですか?レン」
「……それ、そんな格好してる人だけには言われたくない」
まぁ、そうは言ってもレンの格好だってカグラと似たり寄ったりなのだ。いや、それ以上といってもいい。
あちこち突かれたりぶっ叩かれたりぶん殴られたりしているせいで、全身埃だらけ、あちこちざっくり切れたり穴が開いてたりして、とてもじゃないが大丈夫なようには見えない。
しかし、それらを全部ひっくるめて、呑み込んで、レンは己の指示を全て的確に、忠実に実行してくれた相棒に短く問う。
「……………終わった?」
「……えぇ、終わりました。立派な散り方だったと思います」
「………そ」
それだけだった。
たったそれだけの言葉で、この戦いの全ては終わった。
激しさと、余波の残る戦場の痛々しさに、眼を硬く瞑って。
黙って手を差し伸べてくるカグラの手をありがたく頂戴し、レンは手を取ってよっこらせと立ち上がった。
途端、ふらりと平衡感覚が揺らぎ、倒れそうになるところを危うくカグラに支えられる。
「ほら、言わんこっちゃない」
う、とカグラの腕の中でレンは呻く。
すっかり魂が疲労し、疲れ切ってしまっている。
《心意》エネルギーという物は、言い換えれば人間の魂の底から出る渇望、飢え、欲望その物なのだ。それをほぼ無尽蔵に出し続けていれば、魂はどんどん擦り切れていき、そして疲弊していく。
「う~ん、ちょーっと張り切りすぎたかなぁ……。あっはっは」
少年は笑う。
脳裏を、頭蓋が割れるような痛みが走り回っているくせに、それをおくびにも出さずに、紅衣の衣を纏う少年は何でもないように笑う。
カグラに心配をかけさせないようにではなく、自分に言い聞かせるように、騙すように笑う。
それを全部見透かすように、カグラは身を屈めてレンの顔を覗き込むようにしてみる。
純和風の日本人らしい風貌に似つかわしい漆黒の瞳の奥に宿る炎が目線と交錯する寸前、レンはそれから逃げるように顔を背け、背中の肩甲骨に意識を集中させた。
ケットシー特有の薄黄色の翅が展開し、身体全体を仮想の重力に逆らう浮遊力が包む。
ふわり、と浮かび上がったレンをいまだに気遣わしげに見ながら、カグラも自分の翅を広げて追随してきた。
「カグラ、飛行時間はあとどれくらい残ってる?」
「そうですね。かなり激しく動いたので、………五分くらいですかね」
「んー、全力出したらアルンにぎりっぎり着く、かな?」
「しかし、今のレンの身体は────」
言い募ろうとしたカグラの言葉を
「まったく、ヒトの家の前で何をしているんだ?君らは」
ボッ!!!と、レンはその言葉が空気の振動として鼓膜が震える前に両腕を神速の勢いで振るっていた。
あれだけの超速戦闘の後だ。そう簡単には意識がシフトしない。
それが幸いし、レンは最大限に最適化された動きで両腕を振るった。
しかし────
────リイィィィィィーンンン────
辺り一帯に響き渡るほどに涼やかな、場違いな鈴の音が響いた。
そこまで認識した時、レンの視界は初めて巨木の森の上空に浮かぶ一人の女性の姿を視認した。
肩甲骨ほどまである薄紫色のロングヘアに同色のフードマントを肩に引っ掛け、その下には今にもはちきれんばかりの豊満な胸を無理やり押し込んだ漆黒のレザースーツを着ている。
その姿を全て認識する前に、レンのワイヤーは確かに女性を真っ二つに切断したはずだ。しかし、鋼糸がそれを断絶する寸前、その姿がまるで映像投影機に映し出された映像のように
ブレた。
「……………ッ!」
まるで空気を斬ったかのように、すり抜けるワイヤーをレンは信じられない物でも見るかのように見つめた。
それに完璧に合わせたコンビネーションで、カグラもほぼ同時にその姿を斬る。がしかし、《冬桜》のその刀身さえも、その姿はいとも簡単にすり抜ける。
驚愕に喘ぐカグラの呼気を無視し、レンはすでに限界まで疲労した知覚を限界まで張り詰めさせた。
「カグラ!右前方二時の方向!!」
「はいっ!」
空中で翅を使って鋭く、鋭角な方向転換をなしたカグラが刀身に炎のような心意の光を灯らせてレンの指示の方向に振り払う。
振り払って、薙ぎ払う。
ギャギイイィィィーンンンッッ!!
金属質な音が響き、今度は確かな手応えとともに《冬桜》が止められた。
正直、レンの指示通りに振りぬいただけで、そこに何がいるのか全く分からなかったのだが、振りぬいた後だからこそ、カグラは気が付いた。
そこには、何もなかったのだ。
何もない空間に壁があるかのごとき手応えだけがあり、空中に刀身が縫い止められているのだ。一種異様な光景である。
だが、その空間が突如、ジジッというノイズ音とともに一つの人影が滲むように現れた。
それは、先程確かにレンとカグラが斬った紫色の髪の女性。そして、このALOでは古代級のスペックを持つ《冬桜》の刀身を受け止めているのは、その細めの手の中に握られている少し長めの細長い鉄扇だった。
眼を見開くカグラの目の前で、女性は
「残念。惜しいな」
そう言いながら鉄扇を振り払った。
あまり力を込めているように見えなかったのに、そこから圧倒的に漏れ出でる圧力に押し負け、カグラとその女性は半ば無理やりに距離を置いた。
睨み合う両者。
ゆっくりと納刀し、いつでも引き抜けるように抜刀の構えを取るカグラの横に、翅を震わせて飛び上がってきたレンが並ぶ。
それを薄紫色の髪を持つ女は、何もせずに手の中にある鉄扇を玩びながら妖艶な笑みを整った顔に浮かべている。
それを数秒間たっぷり眺めた後、レンは心の内を全て吐き出すように静かに言葉を吐き出した。
「………なんで、おねーさんがここにいるの?《幾何学存在》シバ」
《幾何学存在》
それは、アルヴヘイムに点在する十人の強者どもに与えられた《存在》達の一角。
初代プーカ領主に選ばれたくせに、束縛を嫌い、とっとと二代目に全権を丸投げしたALO始まって以来の希代の変わり者。
しかしその実力は本物のようで、あちこちを放浪していてはその武勇を轟かせている。
レンのその問いに、シバという名を持つ《十存在》が一角の女性は、ひょいっと肩をすくめた。
「それはこっちが訊きたいことなんだがな、《終焉存在》。自分の家で優雅に夜のお茶を飲もうとしたら、天地がひっくり返ったかと思うくらいの衝撃があったのだからな。まさか君と────」
ちら、と《幾何学存在》の名を冠された女性はカグラに視線を向ける。
「《炎獄》がいるとは思っていなかった」
「家?」
「あれだ」
少し力を入れたら折れそうな細い人差し指の先を追っていくと、今の今まで命を賭して戦っていた戦場、見上げるほどに高い巨木が密集する森の、本当に目と鼻の先にちんまりとした木造のロッジがあった。
小さいと言っても、立派な屋根からにょっきり生えている煙突から輪っか状の煙がポッポッ、と一定のリズムで吐き出されている。こう言っちゃなんだが、ジャ〇おじさんの工場みたいだ。
「へぇ~、あんなトコに住んでたんだ」
「まぁな。こじんまりとしてるが、茶ぐらいは出せる。寄っていくか?」
淡々と、無表情に言ったシバの端正な顔をレンは数秒じっと見て、そして────
「うん」
素直に頷いた。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「あぁ~、エクストラエディション良かったなぁー♪」
なべさん「ホントですなぁ。リアルタイムで見れなかったからニコ動で見たらめちゃくちゃ長くてビックリしたよー」
レン「数字だけ見たら映画かよって長さだったからね」
なべさん「まったくだ。んー、だけど中身の約四分の三が本編の総編集だったっていうオチはちょっと……」
レン「でも最後のほうの本編は?」
なべさん「大変素晴らしかったです!アスナさん水着ありがとう!!」
レン「それに最後の方では意味深な終わりかたしてたしね」
なべさん「そうなんですよ!長い動画も終わってカテゴリ検索のページに戻ったら、なんとSAO二期決定!ってあるじゃないですか!!いやはや、なんのお年玉だこれと思いながら部屋のなかを躍り狂いました(笑)」
レン「ホントだよねー。PV見たら余計にテンションMAXになるよねー」
なべさん「いえす!これで今年の生き甲斐ができたよ」
レン「近いうちに死ぬぞ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー!」
──To be continued──
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