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銀河英雄伝説~悪夢編

作者:azuraiiru
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第三十三話 少し頭を冷やしてこい!




帝国暦 488年 4月 2日  帝国軍総旗艦  ブリュンヒルト  エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



少し胃がもたれるな、さっき食べた昼食の量がちょっと多かった。おまけに脂っこいし。帝国軍って男所帯だからな、食事とかって量が多めで油、塩胡椒はバンバン使いますって感じなんだな。こんなのばっかり食べてると若いうちから成人病になりそうだ、気を付けないと。

貴族連合軍は原作通りガイエスブルク要塞に根拠地を構えた。ブラウンシュバイク公が総司令官だからオーディンからガイエスブルク要塞の間に軍事拠点を設けてこっちの足止めを図るのかと思ったけど戦力はガイエスブルクに集中したようだ。シュターデン、結構いい仕事をするじゃないか。馬鹿をやってくれることを期待してるのに……。

本当なら小手調べとか言って馬鹿貴族共が出てくるはずなんだ。アルテナ星域会戦が起きても良いんだが貴族連合軍にそれらしい動きはない。ちょっと信じられないんだが貴族連合軍は意外に統制が取れているのかもしれない。という事でこれからレンテンベルク要塞の攻略をしなければ……。あの要塞は放置できない、しかし原作通りならオフレッサーが居る……。

ベーネミュンデ侯爵夫人の一件をフェルナーから聞きだした。大体想像通りだと言いたいんだが現実は俺の予想を遥かに超えた。先ずベーネミュンデ侯爵夫人は自殺じゃない、ここまでは予想通りだ。だがフェルナーの話によれば彼女の死に貴族達は全く関わっていないのだと言う。

じゃあ誰が? 俺の疑問に対してフェルナーはベーネミュンデ侯爵夫人に仕えていた十人の侍女、彼女達の合意による殺人なのだと答えた。侍女達にとってベーネミュンデ侯爵夫人は決して悪い主人ではなかった。豊かな領地を持ち領地経営にも資産状況にもまるで関心を持たない主人……。

おだてておけば上機嫌で不都合が有ればアンネローゼの所為にすれば良かった。極めて扱い易い主人だったのだ。彼女達は主人を適当にあやしながら主人の金をちょろまかして自分達の懐に入れていたようだ。正規の収入の他にも余得のある仕事、ベーネミュンデ侯爵夫人の侍女は悪い仕事じゃなかった。

不都合が生じたのはグレーザーが怯えて手紙を出した事、そしてリヒテンラーデ侯がそれに過激に反応した事だった。全ての領地を取り上げられ辺境への流刑、冗談ではなかった、とても付き合うことなど出来なかった。だが辞めると言えば侯爵夫人が自分を見捨てるのかと怒り狂うのは目に見えている。そうなれば何を仕出かすか分からない。彼女達の目から見てもベーネミュンデ侯爵夫人は常軌を逸していた。

侍女達はベーネミュンデ侯爵夫人の事を尊敬していたわけではない、敬愛していたわけでもない、そして恐れていたわけでもなかった。どうしようもない馬鹿だと内心では軽蔑していたのだ。これ以上は付き合いきれない、邪魔だから死んでもらおうという事になった。世を儚んでの自殺、そういう事にすれば良い、彼女が飲む温めたミルクに毒が入れられた……。それがベーネミュンデ侯爵夫人の死の真相なのだそうだ。

では俺の襲撃事件とベーネミュンデ侯爵夫人は無関係なのか? それに対するフェルナーの答えはイエスだった。あの襲撃事件を計画したのはフレーゲルとシャイドだったが二人はベーネミュンデ侯爵夫人の名前を使っただけなのだという。彼女には相談しなかったし接触もしなかった。

ちなみにフレーゲル達は仲間内ではいまだに爵位付で名を呼ばれているらしい。フレーゲル達がそれを要求しているのだと言う。笑えるよな、今度会ったらフォン・フレーゲルと名を呼んでやろう、或いは元男爵かな、さぞかし怒り狂って出撃してくるだろう。

フレーゲル達にとってもベーネミュンデ侯爵夫人は信用できる相手ではなかった。名前だけ使って最終的には自分達の代わりに罪を被せるつもりだったらしい。当初の標的がアンネローゼだったのも犯人が侯爵夫人だと思わせるカモフラージュで狙いは最初から俺だった。そんな事で騙せるのかと俺は思ったがベーネミュンデ侯爵夫人ならあの二人は可能だと思ったようだ。

たまたま両者の行動が同日に起きた事が事件を複雑にさせた。フレーゲルとシャイドはこれでは侯爵夫人に罪を被せられなくなるのではないかと慌てたがベーネミュンデ侯爵夫人の侍女達はむしろ好都合だと考えた。ベーネミュンデ侯爵夫人が世を儚んで自殺したと言うよりも誰かを道連れに自殺したという方がしっくりすると考えたのだ。侍女達は口を揃えてベーネミュンデ侯爵夫人はアンネローゼを殺そうとしたが警備が厳しいので標的を俺に切り替えたと証言した。

では殺された侍女とその恋人は何なのか? 当然だが侍女達は真実を知っている。誰かが侯爵夫人の名を使って俺を襲撃させたと知っていたわけだ。殺された侍女はフレーゲルが真犯人だと気付いて恋人と相談してフレーゲルを強請ったらしい。

どうやらフレーゲルは襲撃事件の翌早朝、侯爵夫人にTV電話で連絡を入れたようだ。善意の第三者として侯爵夫人に事件を教えた、そんな役割を考えていたのだろう。ところが侯爵夫人が死んだと侍女に聞かされて驚いてしまった。その時、何か不審を持たれる様な事を口走ったらしい。その侍女が殺された侍女だった。

強請られたフレーゲルは最初は金を払った。本当は殺す事で口封じをしたかっただろうがベーネミュンデ侯爵夫人の元侍女が殺されたとなれば怪しまれると考えた様だ、必要以上に危険を冒すことは無いと思ったのだろう。だが侍女達の方がそれに悪乗りした。

一度で止めておけばよいものを二度、三度と強請ったらしい。堪りかねたフレーゲルはブラウンシュバイク公に泣きついた。泣きつかれてブラウンシュバイク公は驚いたらしい。フレーゲル達は爵位を奪われている。今度騒ぎを起こせば命を失いかねない、馬鹿げた事はしないと考えていたのだ。

それにブラウンシュバイク公はあの軍法会議の後、厳しく連中を叱責したのだとフェルナーは言った。もう少しで自分まで反逆行為に加担したと言われるところだったのだ、怒りは相当に大きかったらしい。公は連中が馬鹿げた事はしないと考えていたのだ。

だから俺の襲撃事件もベーネミュンデ侯爵夫人の犯行だと信じていた、或いは信じようとしていた。これについてはフェルナーも同じ思いだったらしい。聞いた時には耳を疑ったと首を振りながら話してくれた。だがブラウンシュバイク公の思いは裏切られた。激怒したブラウンシュバイク公はフレーゲルにその二人を殺せと命じた。自分の蒔いた種だ、自分の手で刈り取れと言ったらしい。そしてその後始末は自分がすると言った……。

叱責されたフレーゲルは侍女とその恋人を自らの手で殺した。自ら殺さなければ気が済まなかったのだろう。フェルナー、アンスバッハ、シュトライトがブラウンシュバイク公の命令で後始末に動いた。警察に手を回し通り魔による殺人事件とする一方で残りの侍女達に警告を与えた……。

フェルナーが俺の館へ無謀な襲撃を行ったのも嫌気がさしたからのようだ。どう見てもフレーゲルやシャイドのような馬鹿者と一緒に戦っても勝てるとは思えない、それならイチかバチかで襲撃してみようと思ったそうだ。投降が遅れたのは自分の仕事の内容が惨めに思えて出てくる事に抵抗が有ったのだとか、気持は分かる、俺だって話を聞いているだけでウンザリするんだから。

今では司令部の中で生き生きと働いている。元々能力は有るし適応力も高い、当初は白い眼で見られることも有ったが今では十分に溶け込んでいる。まあフェルナーには後々やってもらう事が有るからな。ようやく駒が揃ってきた、そんな感じだな。



帝国暦 488年 4月 10日  帝国軍総旗艦  ブリュンヒルト  エルネスト・メックリンガー



総旗艦ブリュンヒルトの会議室に有るスクリーンにはレンテンベルク要塞が映っている。貴族連合軍の重要な拠点だ。イゼルローン要塞、ガイエスブルク要塞には及ばないが百万単位の将兵と一万隻の艦艇を収容する能力を持っている。さらに戦闘、通信、補給、整備、医療などの多機能を備えているため無視は出来ない。要塞を攻略してこちらの後方支援の拠点とする必要が有るだろう。

「全力を挙げてレンテンベルク要塞を攻略します」
司令長官の言葉に会議室に参集したメンバー、各艦隊司令官、総司令部の要員が頷いた。司令長官が私を見た、作戦を説明しろという事だろう。機器を操作してスクリーンをレンテンベルク要塞の設計図の画面に切り替えた。内乱が必至と判断された時点で軍務省から提供された資料だ。

「見ての通り、レンテンベルク要塞は小惑星を利用して作った軍事要塞です。この小惑星をくりぬいて建設された要塞の中心部に核融合炉が有り、これが全要塞にエネルギーを供給している。つまりレンテンベルク要塞の駐留艦隊を排除し陸戦隊を使ってこの核融合炉を奪取すれば要塞の死命を制する事が出来る」

私の言葉に皆が頷いた。スクリーンに映る設計図は核融合炉の位置が赤く点滅している。機器を操作した、要塞外壁から核融合炉までの最短距離の通路が青い線で表示された。直線の多い通路であることが分かる。
「要塞外壁から核融合炉へ向かおうとすればこの青い線で表示された通路、第六通路を使うのが最短ルートです。ここを通って核融合炉を奪取する……」

また皆が頷いた。
「ここで問題になるのは攻略法が限定される事です。火力を集中すれば通路の制圧は難しくありません、しかし誤って核融合炉を直撃すれば誘爆を招く危険性が有る。つまり我々は白兵戦によって通路を突破、核融合炉を制圧しなければならないという事になります」

彼方此方から溜息を吐く音が聞こえた。
「総参謀長の仰る事はもっともだが敵もそれは理解しているだろう。となれば当然だが第六通路に備えは有る筈だ。陸戦隊はその備えに突っ込むことになる。被害は無視出来ない物になるのではないかな。裏をかいて別なルートを使う事は出来ないだろうか?」
ワーレン提督が意見を具申してきた。何人かが頷いている。

「その事は総司令部でも検討しました。だが別ルートはかなりの遠回りになります。そして核融合炉に行くまでの道順も複雑になる、例えばこれです」
別ルートを表示させた。黄色のルートが表示されるが明らかに青のルートに比べれば距離が長く何度も角を曲がる事が分かる。また会議室に溜息の吐く音が満ちた。

「この黄色のルートは第六通路の次に核融合炉までの距離が短い通路です。だがどう見ても攻略用のルートとしては適当とは思えません。距離が長いし何度も通路を曲がらなければならない。要塞側から見れば防御の準備がし易く伏撃もかけやすいという事になります。第六通路を使うのが最善の攻略法でしょう」

私が話し終わっても誰も意見を言う人間は居なかった。司令長官に視線を向けると司令長官が頷いて口を開いた。
「質問が無ければ第六通路を制圧する事でレンテンベルク要塞を攻略します。要塞攻略の担当者はロイエンタール提督とミッターマイヤー提督にお願いしましょう。他の司令官は待機を」
艦隊司令官達が頷いた。

もう一度機器を操作してスクリーンにレンテンベルク要塞の実物を映した。さらに或る部分を拡大する。
「外壁から第六通路に侵入するにはここが最短の場所になります。駐留艦隊を排除した後はここの外壁を破壊し要塞内に突入してください、後程データを送ります」
私の言葉にロイエンタール提督とミッターマイヤー提督が頷いた。

「ロイエンタール提督、ミッターマイヤー提督」
「はっ」
司令長官が呼びかけると二人が司令長官に視線を向けた。
「貴族連合軍にはオフレッサー上級大将が参加しています。余り想像はしたくありませんがレンテンベルク要塞には彼が居るかもしれません。充分に注意してください」
「はっ」
会議室の空気が瞬時に固まった……。


要塞攻略開始後、ロイエンタール、ミッターマイヤー提督は僅か一時間で駐留艦隊を排除する事に成功した。要塞の壁面を破壊すると強襲揚陸艦が接舷し陸戦隊を要塞内部に送り込む、要塞の攻略は間近と思われたがそれ以降四時間経っても要塞は、いや第六通路は制圧できずにいる。

ヴァレンシュタイン司令長官の予測が当たった。装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将が自ら第六通路を守っている。第六通路にゼッフル粒子を充満させ軽火器さえ使えない状況にしているのだ。既に攻撃側は三度の攻撃をかけたが三度とも失敗に終わった。今は四度目の攻撃を行いそれが失敗しつつあるところだ。総司令部の空気は重苦しいものになっている。

「馬鹿な、既に四時間が経っている、何故オフレッサーは交代しない? 装甲服を着用しての戦闘は二時間が限界な筈だ、いかにオフレッサーと言えど連続して四時間も戦えるはずが無い!」
「薬物を使っているのだろう、このまま何時間でも戦い続けるぞ」
ヴューセンヒュッター大佐とシュライヤー大佐の会話に彼方此方から呻き声が漏れた。拙いな、このままでは士気に影響しかねない。ここだけではない、この状況を注視しているであろう全軍にだ。

「総参謀長、ロイエンタール、ミッターマイヤー提督に無理はするなと伝えてください。それと手が空いたら私に連絡するようにと」
「直ぐ繋いだ方が宜しいのではありませんか?」
私が緊急性を訴えたが司令長官は首を横に振った
「現場は今混乱しているでしょう。あの二人にはそちらの収拾を優先させます。私への連絡はそれからで良い」
「はっ」

二人から連絡が来たのはさらに三十分程経ってからだった。二人とも面目無さそうにしている。
『申し訳ありません、第六通路は未だ攻略できずにいます』
ロイエンタール提督が報告すると司令長官が苦笑を浮かべた。
「相手がオフレッサーです、そう簡単にはいかないでしょう」
司令長官の労(ねぎら)いに益々二人が面目無さそうな表情をした。むしろ叱責された方が心の内で毒づく事が出来るだけ楽だろう。

「閣下、オフレッサー上級大将が通信を求めて来ています!」
オペレーターの言葉に皆が訝しげな表情を見せたが司令長官は平然としていた。
「如何されますか?」
問い掛けると司令長官はフイッツシモンズ大佐にスクリーンを見るなと命じた。オフレッサーは血と肉で汚れているからと。その上で私に繋ぐ様にと命じた。

『黒髪の孺子(こぞう)、スクリーンを通してでも良い、俺の顔を見る勇気が有るか!』
スクリーンにオフレッサーの巨体が映った。装甲服は人血でどす黒く汚れ各処に肉片がこびり付いている。艦橋の彼方此方で恐怖に呻く声が聞こえた。司令長官はこれを予測したのか、確かに女性に見せられる物ではない。

「有りませんね、オフレッサー上級大将。卿はあまりに不細工で私の美意識には到底耐えられない。本当に人間ですか?」
皆が驚いて司令長官を見た。私も信じられない思いで司令長官を見た。この状況で司令長官はオフレッサーを嘲弄している。

『貴様……』
オフレッサーは呻くと司令長官を罵倒し始めた。“帝室の厚恩を忘れた裏切り者”、“卑劣漢”、“背徳者”、“運が良いだけの未熟者”、だが司令長官はその罵倒を聞いて笑い出した。声を上げて笑っている。演技とは思えない、本当に可笑しそうに笑っている。皆が先程まで感じていた恐怖を忘れて呆然と司令長官を見詰めた。

『貴様……、何が可笑しい!』
「可笑しいから笑っています。もう終わりですか? もう少し続けてくれると嬉しいですね、戦場は娯楽が少ないのです」
『貴様……』
オフレッサーの顔が怒りでどす黒く染まった。だがニヤリと笑うとまた話し始めた。

『あの女を下賜されたが爵位と所領は返上したようだな、それだけは褒めてやる、分をわきまえた賢明な振る舞いだ。元々平民にも劣る貧乏貴族だからな、伯爵夫人などと片腹痛いわ。平民の卿には似合いの女だろう、精々可愛がってやるのだな』

司令長官が吹き出した。指揮官席で腹を押さえながら笑っている。オフレッサーが猶も罵倒を続けたが司令長官が通信を切らせた。
「総参謀長、笑い死にしそうです。オフレッサーがあんな愉快な男だとは思いませんでした」
そう言うとまた笑い出した。

「閣下!」
鋭い声が上がった。ミューゼル少将が顔面を紅潮させている。姉を馬鹿にされて怒っているのだろう。
「何が可笑しいのです! あの野蛮人に愚弄されたのですぞ、笑いごとではありますまい!」
斬り付けるような口調だった。良く見れば怒りで震えている様だ。

「可笑しいですね、あの程度の事で私を怒らせる事が出来ると考えているんですから」
「……」
ミューゼル少将が言葉に詰まった。顔面が益々紅潮する。それを見て司令長官が苦笑を浮かべた。だがミューゼル少将はその事に益々檄した。

「閣下! 小官を前線に派遣して下さい! あの蛮族に……」
「その必要は有りません」
ヴァレンシュタイン司令長官は少将に皆まで言わせずに却下した。口籠る少将に司令長官が言葉を続けた。もう笑ってはいない。

「ミューゼル少将、卿はロイエンタール、ミッターマイヤー両提督の力量に疑問を持っているのかな?」
平静な口調だったがヒヤリとするような冷たさが有った。少将の顔が強張った、彼だけではない、司令部の皆が肩を竦めるようにして司令長官とミューゼル少将の遣り取りを聞いている。スクリーンに映る二人の提督は明らかに不愉快そうな表情を浮かべていた。

「戦場で相手を挑発し怒らせる事など初歩の初歩、あの程度の挑発で感情を乱すなど一体何を考えているのか」
「……」
「私が卿を司令部に入れたのは卿がアンネローゼの弟だからではない、それだけの能力が有ると思ったからです。私の期待を裏切らないで欲しいですね、ミューゼル少将」
「……申し訳ありません」

ミューゼル少将の謝罪に司令長官がふっと息を吐いた。
「ミューゼル少将、自室にて二十四時間待機しなさい。自分の言動をそこでもう一度省(かえり)みなさい。その上で司令部に復帰する事を命じます」
「……はっ」
少将が顔を強張らせて艦橋から出て行った。

ミューゼル少将にとっては屈辱だろう、だが当然の処分ではある。周囲にも縁故による特別扱いはしないという意思表示にもなる、間違ってはいない。
「キルヒアイス少佐、何処に行くのです」
司令長官の言葉に皆が少佐に視線を向けた。キルヒアイス少佐が司令部から外れ艦橋の外に出ようとしている。ミューゼル少将を追おうとしたのだろう。

「ミューゼル少将の事は放っておきなさい。彼は子供ではない」
「……」
「自分の仕事に戻りなさい、ミューゼル少将の御守りは卿の仕事ではない」
「……はい」
少佐が俯いて司令部に戻った。それを見届けてから司令長官がスクリーンに視線を向けた……。



 
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