P3二次
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Ⅲ
「俺に用、ね」
明け方に、俺の家へ行き寝泊り用の着替えなどを持って来るように舎弟に頼んでいた。
その時についでに携帯も持って来させるように頼み、開いてみたら公子からのメールが入っていた。
何やら九日の夜から十九日まで入院していたらしい。
そして何やら用があるので会えないかと言って来た。
「まあ、昨日までならばよかったんだが……」
生憎と俺にもやることがある。
忙しいので無理だと返すとすぐに返事が来た。
では都合の良い日は?
それに対しての返答は不明、だ。
何時復讐代行サイトの人間が来るか分からないから、どうとも言えない。
既に昨夜のうちに依頼を俺の情報を書き込んで送信したそうだが……
「しかし、そんなに俺を殺したいかねえ」
都合の良い日が決まったら連絡をくれと言うメールに返事を返しながらぼやく。
報告によると速攻で喰いついたらしい。
だったら直接殺りに来れば良いのにと思わないでもない。
「あ、起きたんすね。これ、夜飯っす」
ピザを持って来たバーテン、コイツ俺が起きてなかったらどうする気だったのか。
冷めたピザなんぞ喰いたくないぞ。
「おう」
「つーか裏瀬さん寝すぎっしょ」
昼頃に寝て今は二十三時半、確かに寝すぎだろう。
「それより誰かにメールっすか?」
「ん、ああ。もう終わったがね。ちょっと顔洗って来るからお茶か何かよろしく」
「っす!」
起きてすぐに携帯をチェックするよりやるべきことがあるだろうと思わなくもない。
寝起きで頭が働かないと言うのは問題だ。
「キノコとシーフード、それにサラミ……乗せりゃいいってもんじゃねえだろ」
シンプルなシーフードでも良かったのに何でこんなミックス系をチョイスしたのか。
冷めていないからまだ美味しく食べられるが、冷めていたら悲惨だぞこれ。
「ジンジャーエールで良いっすよね? それとこれも」
「そう言うのって普通、行く前に聞くもんだろ。まあ、いいけど」
ジンジャーエールが並々と注がれたグラスと、アタッシュケースが机に置かれる。
「しかし、こんなもん居るんすか?」
「備えあれば何とやらってね。もしかしたら代行人ってのは忍者かもしれねえだろ?」
アタッシュケースを開くと中には御法に触れるブツが収められていた。
白銀のそれはコルト・アナコンダ――平たく言って拳銃だ。
「忍者ねえ……分身とかするんすかね?」
「かもしれねえな。生憎とニンジャブレードの扱いは知らねえもんで、これに頼るしかないのさ」
軽く確かめてみたが整備は既に終わっていた。
手際が良いのは嫌いじゃない。
「死なんといてくださいよ?」
「さあな、確約はしかねる」
死が既知かどうかはまだ試したことがない。
だがまあ、もし既知でないならば――――悪くはないのかも。
「そこは嘘でも大丈夫って言ってくださいよ。んじゃ、俺ホール戻るんで何かあったら内線ください」
呆れたように溜め息を吐くバーテン、言っても無駄だと理解出来るくらいに付き合いは長い。
「ああ、色々とサンキュな」
バーテンが去った後で気付く。
「……俺、アイツの名前知らねえや」
薄情だと思わないでもないが、所詮俺はこんなものだ。
向こうも分かって付き合っているんだろうし気にする必要はないだろう。
「ふぅ……ごっそうさん」
半分ほど食べてもう腹は膨れてしまった。
口の中の脂っ気をジャンジャーで流し込み一息。
ふと、携帯のランプが点滅しているのが目に入る。
開いてみるとメールが一件、風花からだった。
「ふむ、アイツらはキッチリやってくれたみたいだな」
内容はイジメがなくなったことへの礼だ。
もっとも、こんな手段で片付けたからにはアイツも相当浮くだろう。
元々友達がいない奴だったが、更に孤立するのは予想に難くない。
「……それを気にする性質でもないだろうがな」
そこで画面の時計表示が零を四つ示す。
途端に雰囲気が変わり、あの時間になったことを肌で感じる。
こうなると電化製品はまるで意味を持たなくなり、暇が加速してしまう。
テレビを見ることもネットをすることも、音楽を聴くことも出来ない。
「ああ、そうだ――外に出りゃ暇を潰せるかもしれない」
公子と出会った日に初めて見た化け物。
あれが外に居るかもしれないから、暇は潰せそうだ。
身体に弾帯を巻き、コルトを手にホールへと出たら、
「おや? ジン、彼は」
この時間帯にあり得ないものを見つけてしまった。
「せや、コイツがターゲットやけど……」
「象徴化していないとは驚きましたね」
上半身裸のロン毛、生え際の怪しい眼鏡、白のゴスロリ着たメンヘラっぽい女。
満貫レベルの不審人物がどうしてこんなところに?
何て疑問に思うほど俺も抜けてはいない。
「よう、おたくらアレかい? 復讐代行人ってやつなのかな?」
ターゲット云々言っていたから試しに問うてみたが、
「ええ、そうですよ」
驚くほどあっさりと肯定されてしまう。
「ちょ……おいタカヤ!」
「ジン、うるさい」
「お前はだぁっとれチドリ!」
ロン毛がタカヤ、禿がジン、ゴスロリはチドリと言う名前らしい。
何となく偽名臭いが問題はそこじゃない。
「あなたは裏瀬――――」
「ああ、俺が裏瀬だ。お前らのターゲットのな」
「ほう……その物言い、まるで私達を誘っていたかのような口ぶりですね」
「そうさ。俺はお前らに会いたくてね。俺に怨みを持ってる人間を焚き付けたのさ」
種が割れてしまえばガッカリと言う他ない。
恐らくはこの時間帯を利用して人間を始末していたのだろう。
あの棺桶状態の人間をどうやって殺したかは知らないが……そこはどうでも良い。
「成る程、この時間に殺せば終わった後では事故やら何やらで処理されるってわけね」
今分かっていることから推測してみたが、そう的外れな見解でもないはずだ。
答えは如何に? 目でタカヤに問うと奴は薄っすらと笑った。
肯定と言うことだろう。
「あなたは聡明な方のようだ。さて、その出で立ちは私達を迎え撃つ――と言うわけではなさそうですね」
「ああ、偶然さ」
「でしょうね。先ほどの態度を鑑みるに、この接触は予想の範疇にはなかったようですし」
俺がコイツらを見ているように、コイツもまたしっかりと俺を見ていたようだ。
何とも油断ならない――――と評するべきか否か。
イマイチ判断がつかないな。
「おたくらの方が詳しいだろうけど、この時間って化け物が出るんだ」
「シャドウのことですか。それで?」
「暇潰しにそのシャドウとやらに会えないかなと思って武装してたら、おたくらに出くわしたってわけよ」
「ですが、我々に会いたいとも仰っていたように記憶していますが?」
「それはそれさ。確かに会いたかったが、今日来るとは――この時間に来るとは予想していなかった」
まったくの偶然だ、そこには何の意図も含まれていない。
ただ、やはり――――既知だった。
こうして顔を突き合わせて話をしていると、前にもこうしていたと感じてしまう。
「では、この出会いは数奇な運命によるものだと?」
「そこまでロマンチックなことは言わないさ。ただ、出会うべくして出会ったとは思うがね」
俺がコイツらを探していて、コイツもまた俺を探していた。
となれば出会うべくして出会った――当然の帰結と言えるだろう。
この程度では既知を打破するには至らなかったのが至極残念だが。
「おいタカヤ、無駄話しとる場合ちゃうやろ。どうすんねん?」
「ジン……おかしなことを言いますね。どうするもこうするも、決まっているでしょう?」
ねばっこい殺気が俺に絡みつく。
タカヤの虚無を閉じ込めたような瞳が俺を見つめている。
「依頼者は利用されたようですが、怨みを持っていることに変わりはない」
「……せやな。すまん、変なこと聞いてもうた」
やる気満々、結構なことだ。
既知であることは分かったが――俺も暇をしていた。
それに、どうにもこうにもコイツらが気に食わない。
目を見ているだけで吐き気がする。
幸いなことにこの時間の中で死んだ人間は事故として処理されるらしい。
コイツらのお墨付きもあるから間違いはないだろう。
だったら、処理やら何やらの手間も要らない。
やらない理由がないならば、やることに何の躊躇いもない。
「良いぜ、だったら場所変えようや。クラブの中じゃ狭くてしゃあねえ」
「アホ抜かせや。自分に都合のええ場所ら行かせるかい」
「構いませんよ」
「タカヤ!?」
「ここでやって面倒なことになるのは私達も同じでしょうしね」
遮蔽物の多い場所、加えてこっちは一人で身軽。
数の利を活かすならば最初の時点で問答無用で仕掛けてくるべきだった。
理解が追いつかない状況で戦いに雪崩れ込んでいたら――さて、どうだったか。
「じゃあ着いて来な」
「ええ、エスコートを頼みますよ」
「気持ち悪いこと抜かすな」
先導するために背を向けて歩き出す。
不意を突いて脇の下から曲芸撃ちでもかましてやろうと思ったが……中々に隙がない。
向こうも背後から撃つべきか否かと迷っている気配があるが、俺と同じように攻めあぐねているようだ。
タカヤが所持しているのはチラっと見ただけだが、かなり有名なハンドガンだった。
S&W M500、大口径の化け物。
狩猟用のそれは人体に撃ち込まれたら穴が開く程度では済まないだろう。
「エセキリストが……随分おっかないもんを使ってやがる」
エスカペイドを出てしばし、開けた場所に辿り着く。
ここらならば存分に暴れられるだろう――お互いに。
「……タカヤ、アイツもペルソナ使いよ」
改めて向かい合った時に、今まで沈黙を貫いていたチドリが口を開く。
ペルソナ――仮面?
「天然ものかいな。けど、自覚はしとらんみたいやな。楽で結構なこっちゃ」
顔に出ていたのだろうか? ジンが口の端を歪めて嘲りを浮かべている。
「何を言ってるんだ?」
言葉と同時に発砲、ゴチャマンの基本は弱い奴から潰すこと。
狙い違わず弾丸はチドリの眉間へと向かうが、
「これはこれは、油断ならない方だ」
毛細血管のような翼を生やした奇怪な少年の姿を形作る何かに防がれてしまう。
そうか、恐らくはアレが――ペルソナ。
「ホンマやで。甘く見るのはあかんみたいやな」
言うや、ジンはどこからか手榴弾を取り出し俺に向けて投擲する。
その動作に淀みはなく、極自然な動きだった。
「随分と殺り慣れてるみたいだ……な!」
走って手榴弾までの距離を詰めて飛びあがる。
爆発まではタイムラグがある――ゆえに手は打てるのだ。
衝撃で爆発しない程度の力加減のまま空中で手榴弾を蹴り返す。
オーバーヘッドもどきのそれは見事成功してタカヤらの方へと向かって行く。
「そちらも随分と場慣れしているようだ」
すぐさま三人はバラける。
破裂する手榴弾の爆音をBGMにタカヤは発砲。
宙にいる俺がそれを躱すことは出来ないが――――
「カルキ!!」
もう一人の俺《ペルソナ》ならば防ぐことは出来る。
俺の声に呼応して顕われたのは外套を纏った英雄、彼は手に持った剣で弾丸を切り払った。
「自覚しとらんかったんちゃうんか!?」
「それを言ったのはジンじゃないの」
「ハ――名前を知らないだけで使えないとは言ってねえだろボケが」
着地し体勢を整える。
軽いジャブの応酬はこれで終わり、これで仕切り直しだ。
「ほう……見事なものだ。あなたは中々に面白い御仁のようですね――ヒュプノス」
ヒュプノスと呼ばれたタカヤのペルソナから炎が放たれる。
俺を焼き尽くさんとする極炎――だが、妙に心は冷えていた。
「お前のイカレてるファッションほどじゃないさ」
カルキの剣が炎を薙ぎ払い、俺の横に逸れていく。
風圧だけで炎を防ぐ――どうやら俺のペルソナのスペックは高いらしい。
「な、なんつー出鱈目や!?」
驚きに目を見開いているジン。
「流石は自ら目覚めたペルソナ使い……と、そう言うべきでしょうか」
タカヤとチドリは驚いてはいるようだが、表情にあまり表れていない。
感情が薄いのか死んでいるのか――――まあ、どうでもいいことだ。
「お褒めに預かり恐悦至極。もっと褒めてくれよ」
剣を持った手とは逆の手を翳すカルキ、放たれたのは極光の雷。
ヒュプノスはそれを躱すことも出来ず、モロに喰らってしまう。
「ッ……見たところ、抑圧――封印? されているようですが、その状態でこれほどの力を持つとは」
ペルソナのダメージは本体にも伝わるのか、タカヤの顔が苦痛に歪んでいる。
もう一人の自分《ペルソナ》である以上、それは当然と言えば当然なのだろうか。
「とは言え、同じ自ら目覚めた者にしては……彼とも毛色が違う。チドリ?」
「……ごめん、よく分からない。分かるのは全力を出せてないってことだけ」
全力を出せていない?
言われてみれば確かにカルキの出で立ちは少々おかしい。
武器であるはずの剣には鎖が巻かれ、全身を覆う白い外套にも鎖が絡みついている。
発現したのは公子と出会った時だったが……いや、今は良い。
全力を出せずとも連中を殺す力があると分かっただけで十分だ。
「どっちでもええわ! 相手はまだ素人同然、このまま押し潰したる!!」
鞄を振る遠心力で回転し、ジンはペルソナを召喚。
独楽が3つ重なったような珍奇な外見は、どうにも笑いを誘う。
「ハ! やってみろや!!」
言いながらジンへ向けて発砲、同時にカルキでチドリを襲う。
「――――メーディア、テトラカーン」
炎の噴き出す盃を手にした異形の頭を持つペルソナが出現。
カルキの一撃をモロに受け止めるが――――
「ッッ!!」
凄まじい衝撃が俺に奔る。
反射? 中々に厄介な業を持っているものだ。
痛みに顔を顰めながら接近してきたタカヤへ向けて回し蹴りを放つ。
「キャッ!」
その間にカルキがもう一撃、メーディアへ向けて剣を振り降ろすと今度は通じた。
一回コッキリの業らしい、だがまだ使えるであろうことは念頭に置いておくべきだろう。
「わしを忘れてもらったら困るで!」
「ハ! 忘れちゃいねえよ」
至近距離で撃とうとしているタカヤ、その銃身に拳を当てて射線を逸らす。
銃口はこちらへと向かって来ているジンに向けられている。
それによりタカヤとジン、二人の間に一瞬の硬直が訪れた。
ペルソナを使っての戦闘には連中の方が一日の長があるだろう。
だが、単純な喧嘩だけならば劣っているわけではない。
「小賢しい真似を……!」
タカヤの金的に蹴りを入れた後、すかさず奴の銃を弾き飛ばす。
ここだけは当たればただでは済まない。
膝から崩れ落ちた奴にそのままトドメを――――刺さずに走る。
「んな!? チドリ、狙いはお前や!!」
タカヤが頭であるのは間違いない。
だからこそ、そいつを落とそうとすれば死にもの狂いでジンが邪魔をするだろう。
だったら、それよりも確実に落とせる場所を狙うのが一番良い。
「往生しなよ?」
残弾数は四、リロードする暇もないから節約していたが、十分だ。
四発もあればチドリを仕留められる。
走りながら銃口を向け引き金を――――
「! メーディア!!」
引く瞬間にメーディアから紫色の煙が噴き出し、俺に付着する。
刹那、眩暈と吐き気が俺を襲い、狙いが逸れてしまう。
指をかけた引き金を止めることも出来ず、弾丸はチドリのすぐ横を掠めるだけに留まった。
「――――ッッ!!」
ふら付く俺に更なる追撃、脇腹に奔った痛みに振り向けば銃を構えたジンがいた。
タカヤのS&Wを拾って撃ったのだろう。
幸いなことに銃器の腕前は並みだったらしく、直撃は避けられた。
だが、肉が抉れて血が止め処なく溢れだしている。
痛みのせいでペルソナも消えてしまい、
「ガハッ……!?」
メーディアの一撃を喰らってしまう。
鉄球をぶつけられたような衝撃で咄嗟に盾にした右腕の骨が砕ける。
「……退きますよジン、チドリ」
「何でや!? 今がチャンスやろ!!」
「手負いの獣に噛みついて痛い目を見るのはこちらです。見なさい、彼の目を」
タカヤからは既に交戦の意思は消え失せていた。
「御見事、その姿勢に敬意を評します。あなたが何を求めているか知りませんが、それを掴めるのを祈っていますよ」
「余計なお世話だっつの」
「フフ、そうですか。影時間に身を置く者同士……いずれまた会うこともあるでしょう、それでは失礼」
それだけ言ってタカヤは何処かへ去って行った。
残されたジンとチドリも少しの逡巡の後にその背を追って去ってしまう。
「あぁ……クソ、血を流しすぎた……!」
カルキを召喚し、傷口を焼く。
肉の焼ける臭いが鼻をつき、痛みが全身を凌辱するが仕方ない。
出来るかもしれないと思って実際にやってみたが力加減が面倒なうえに、非常に痛い。
原始的な止血方法なんてやるものじゃないと実感した。
とりあえず、
「……影時間終わったら医者行こう」
餅は餅屋に任せるのが一番だ。
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