神葬世界×ゴスペル・デイ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一物語・後半-日来独立編-
第五十章 その場所へ想い走らせたならば《1》
前書き
セーランは行く結界の元へ。
そのなかに、救い出す者がいるから。
震える結界。
押され、しかし日来の者を阻む結界は震えるだけで、それ以外は何もなかった。
押すのは南と東の二方向にいる日来の者達で、始めはある程度の人数だったが、時期に戦闘を任されていた組から増援が来た。
戦闘系の学勢の組である四組の学勢は、三年生の百数名のみが戦闘を行い、残りの一年生、二年生、一部の三年生は結界の破壊に回された。
社交院も殆ど同じ動きだ。
黄森の天桜学勢院覇王会隊長と副隊長がいる北側には五十名程を残して、残りは東側へと回した。
不利になるが、結果を壊すことを最優先したのだ。
そして空の戦場。
全長十七キロもあるジズ級超大型連結式航空船・日来を、ワイバーン級戦闘艦を中心に包囲する形で砲撃を行っていた。
対する日来は防御壁により砲撃を防ぎ、魔法術師によって戦闘艦を撃沈している。
日来には砲撃により所々機関がやられ、黒煙を幾つかの場所で上げている。
だがその大きさに見合って、常に堂々としていた。
一方の黄森、辰ノ大花側は連携が乱れつつも、なんとか今の戦況を保っていた。
社交院を中心とした黄森は、経験の差もあり日来の者を押している。
反対に辰ノ大花の者は、複雑な心境のなかで戦っており、本来の力を引き出せていない。
絡み合うように着々と変化が生まれ、新たな変化によって古い変化は踏み潰される。
この波に乗れなかった者達から、次々と負傷していき、戦場から弾き出されていった。
そんななか、南側から結界の破壊に挑む日来学勢院の学勢達がいた。
大きな列が四つ。
元々は一列であり、あまりにも状況が変わらないので二列にしようとしたところ、増援が来たためにこうなったのだ。
指揮を取っているのは獣人族のレヴォルフで、彼の指示の下、皆は攻撃を結界に向かい行う。
時折、強烈な一撃をルヴォルフ自身が叩き込み、まるで硝子を割ったような爆音が生じた。
ただの打撃だが、威力の方は言うまでもない。
結界を破壊するよりかは、それは士気を上げるために必要な行動だった。
先に行く者に付いていくのが人の性質。
それを利用していた。
だが、どんなことをしても結界は壊れなかった。
まるで厚い岩盤を殴っているようで、もう十数発放っているルヴォルフの拳は震えていた。
けいれんに近い形だ。
結界に放つ攻撃は、壊れない結界に反射して自身に威力が返ってくる。
打撃ならばそれは尚更で、打撃が強ければ強い程拳に負担が掛かる。
キツいなと、拳を握りルヴォルフは思う。
ニチアによって強化系加護を受けたが、それでも結界はびくともしない。
強化系加護を受けたのも百五十数名。ここと東側と分け合ってなので、加護を受けられなかった者は自身で強化系加護を掛けるしかない。
「どうにかならんのか」
言うレヴォルフは攻撃を行っている仲間達を見て、ふと思う。
既に自分達は西貿易区域に辿り着いていると言っても過言ではなく、宇天長の解放時間が早まるのは確定的でもあった。
これは推測でしかないが、早まるならば午後十四時が妥当だろう。
これを元に考えると、今は午後十三時四十五分を切っている。
残された時間は残り十五分。
たったそれだけでは、到底結界は壊せる筈もない。
奥歯を噛み締めて、なんとも言えない苛立ちを得る。
「本当に壊せんのかよ……」
誰かが言った。
それに呼応するように、
「くそ、もう無理だ」
「こんなでけえもん、短時間で壊せって言うのが無理あるだろ」
次々に口にする。
多くは一年生だ。
無理も無いと、レヴォルフは思う。
彼らはまだ入学して半月も経っていない。弱音を吐くのは当然と言えば当然だろう。
だが、四組の三年生はそれを許さなかった。
「てめら、それマジで言ってんのか!」
その一言から始まった。
「この戦いにはな、日来の未来が掛かってんだぞ!」
「な、なら先輩。宇天長を救出する必要が何処にあるのでしょうか」
「まさか、てめらそれを考えずに来たのか。ったく、まだ青いから仕方ねえな」
鋭い目付きの、名の知らない者が言う。
この騒ぎで一時攻撃が止み、皆は彼の言葉に耳を傾けた。
「宇天長を救うってことはな、この辰ノ大花を救うってことなんだよ。このまま宇天長が解放されれば、宇天長は委伊達家唯一の生き残り。つまり宇天長が解放されれば辰ノ大花を納める家系がいなくなり、代わりに黄森よって納められるだろうよ」
間違っていない。その通りだ。
後輩達の数にしてみれば少ない三年生達は皆、そのことを口には出さない。
「日来が存在し続けるには他地域の協力が必要だ。宇天長を救出したなら辰ノ大花にとてつもねえ借りを作ることになる。それに辰ノ大花が日来に協力すれば、辰ノ大花と仲のいい嗚虎に協力を仰ぎ易い。世界から危険視されてる日来に協力してる辰ノ大花でも、嗚虎はそう簡単には辰ノ大花と縁は切れねえよ」
何故ならば、
「奥州四圏は五つの地域によってなってるだろ? 黄森と朱鳥天は繋がりがある。黄森は元は朱鳥天に属していたある一族が築いた地域だからな、当たり前だな。そして色宝甲盾は中立態勢をずっと取っている。辰ノ大花と縁を切ったなら頼れるならそこだが、中立ってことは日来にも手を貸す可能性があるってことだ。じゃなきゃ中立じゃ無くなっちまうからな」
改めて理解させるのは、そう悪いものではない。
むしろあのまま好き勝手に発言されたら、こちらもやる気が出ない。
一息付いて、また話し始める。
「結局、辰ノ大花から縁を切ったら損するのは嗚虎の方だ。仲のよかった辰ノ大花から縁を切って、わざわざ仲の悪い黄森か朱鳥天と関係を持つことはしないだろうからな。
いいか? 宇天長を救出することで、日来は確実に利益を上げられる。てめら日来に残ったんだったら腹くくれ。高等部かはもう大人の仲間入りなんだよ。何時までの子ども染みた考え持ってると張り倒すぞ」
言い返す後輩はいなかった。
空気を読んでか、単に出来無いからか。
どちらにしろ、空気が少し重くはなった。
一年生にはこの空気はあまりにも重たいものだ。だから後輩に気を遣う。
レヴォルフは手を叩き、皆の視線を集める。
皆の視線が集まると、腕を組み、真っ直ぐ向いたまま。
「出来るか出来無いかは俺達三年生でも何も言わん。皆、得意不得意、器用不器用あるからな。だがな、やるかやらないかの二択で、やる方を選び、選んだにも関わらず投げ出す者には怒りをぶちまけるぞ。
お前達は何故日来に残った。日来にいたかったからではないのか。それゆえにこの戦いに身を投じ、自身の手で日来を救おうと思ったのではないのか。お前達がどう思っているかは知らんが、俺はそうだ」
低い、獣の声が聞こえる。
「ここまで来て諦めるのか、お前達は。俺はごめんだ。意地でもこの結界を壊し、宇天長の元へと俺達の長を向かわせる。俺達の長が、結界の破壊を諦めた皆を見たら、どう思うだろうな」
推測だが、
「きっとあいつは笑うぞ。しょうがないと言いながら笑い、皆に笑顔を配ろうとする。しかしな、あいつは馬鹿長呼ばわりされているが……それでも一人の人間だ。好きになった者の元へ行けずに、もう会えないと解った時、悲しみ苦しむだろう。ここで諦めたのなら、長に一生の傷を負わせることとなる」
理解出来たのか、一年生の表情が暗くなる。
やる気が下がったのではない。
自身の浅はかな考えを、愚かだったと反省しているのだ。
そこから来た表情だ。
「一年生には知らない方のが多いかもしれんが、俺達の長は他人を頼っているようで頼らない。頼れない、と言った方が正しいのかもしれんな。あいつはな、昔は口数の少ない子どもだったそうだ。長になるなど皆が思わない程のな。しかし、あいつは変わった。今までの自分を改めて、今の馬鹿長呼ばわりされるまで明るくなってな」
しかし、その代償もあった。
「だが、明るい性格に至るまで、一人で全てをやってきた。そのまま成長し、だからあいつは人を頼れなくなったんだ。何もかも一人でやろうとする。人はそれを“自ら進んで”の言葉で解決しようとするが、それは違うぞ。頼る方法が分からないから、あいつは一人でやろうとする」
これはネフィアから聞いた話しだ。
自分は中等部中頃から日来学勢院に転入してきたため、明るい性格の彼しか知らなかった。
だから、彼にそんな過去があったと知った時は、彼の強さを感じると同時に、何時かは何処か一人で行ってしまうのだろうと思った。
しかし、ネフィアが覇王会に務めるようになり、覇王会の手伝いに誘われ、彼と関わるうちに、人間性に感心させられた。
自分の思ったことを行動に移していた。
それは自分には出来無いことで、羨ましかった記憶がある。
高等部では同じクラスであったため、趣味もお互い共有することとなった。
今は妹系エロゲーのことは置いといて。
とにもかくにも、彼とは案外同じ時間を過ごしている。
それによって知ったことは多く、人の話しでは聞けなかった一面も知れた。
だからこそ、友人として彼を宇天の長の元へと送り届けてやりたい。
またそう言う理由もあるが、今回は初めて彼が自分自身のために頼み事をしてくれた。
皆にとって、自分にとってはそれは初めてだった。
ならばなんとしても、成功させなければならない。
「想い人ができ、初めてあいつは俺達を頼った。いいか、俺達は頼られているんだ。お前達は自身を頼ってくる者を突き飛ばす人間か!」
「違う……!」
誰かが、言った。
まだ声が若かった。
「私達はそんな人間じゃない」
「そうだ! おれ達は日来を守るため、そしておれ達の長のために戦ってるんだ!」
「ここで諦めたら示しが付かない。だから、もう諦めません!」
それを聞き、ルヴォルフは頷く。
「よく言った、一年生」
青いなりに、彼らは発言した。
その発言は彼らにとって、後の自分を支える太い柱となることだろう。
先輩ら二、三年生は口に笑みを覚える。
口には出さず、心のなかで後輩の意志を受け止めた。
「ならば行くぞ、ここで諦めては全てが無駄になる!」
「「おお――――!!」」
彼らの声が合わさり、雄叫びとなって戦場に響く。
それは遠くにまで届き、離れた仲間の背を押した。
逆にそれを聞いた黄森と辰ノ大花の者達は、物怖じしたように一瞬足が強張った。
攻撃を止めていた手が震え、士気を一気に底上げした。
彼らを止められるものは誰もいない。
勢いそのままに、陣形を整え結界へと攻撃を再開させようとした時。
気のせいだろうか。
何処からか、叫ぶ人の声が聞こえる。
その声は平面上から聞こえたものではない。
下でもない。
上。
宙から聞こえるものだ。
●
民家の屋根を駆け、飛び、流魔操作によって流魔線を遠くの民間へと繋げて一気に縮める。
それで得た推進力で宙を行くセーランは、
「ほほおおお――うううう!」
と叫んでいた。
宙を飛んでいるのが癖になり、もう足を着く方が珍しいくらいだ。
宙で前転をしたり、後転したりアクロバットな動きを混ぜている。
風を巻きながら進んで行き、かなりの距離を行っていた。
今はもう西貿易区域が目の前にある。
だから流魔線を民家の間に立っている縦長い柱に繋げ、巻き取るように流魔線を縮めて大きく大ジャンプを行った。
高い。
十メートル行っているかどうかの、高いジャンプだ。
飛んだまま、セーランは西貿易区域へと突っ込もうとした。
が、ふと右を向けば仲間がいた。
結界を壊しに来た者達で、何やら攻撃の手を止めていた。
きっと結界を壊してくれたに違いない。
頼もしい仲間を持ったものだと、感心しながら、
「おっ先に失れ――い」
「おい馬鹿! 待て!」
地上でセーランを見付けたルヴォルフが慌てた様子で、言葉を掛けたが構わない。
言いたいことがあるなら、映画面|《モニター》を使ってくるだろう。
だから無視し、結界へと突っ込んだ。
「あらぶ!?」
そして、結界に激突した。
当たり前だ。
まだ結界は破壊されていないのだから。
ルヴォルフはそれを言おうとしたのだが、セーランは聞く耳を持たず行ってしまった。
ため息をつくルヴォルフは、結界に衝突し、落ちるセーランを見た。
別にセーランのことなのだから、あれくらいの高さから落ちたところでなんともない。
思い、地上に落ちたセーランは落ちるや否や、走りルヴォルフ達の元へと行った。
額は赤くなり、痛そうだ。
「お、お前ら、結界破壊したんじゃなかったのかよ!?」
「してたらとっくに連絡が行ってる筈だ」
「あ。あー……まあ、ねえ……」
一拍置いて、
「やっぱ馬鹿長だな」
「ああ、やっぱり馬鹿長だ」
「変わらず馬鹿長ね」
「何時もの馬鹿長ですねえ」
口々に言う。
そして笑う。
何かがおかしくて、皆は声を出して笑った。
意味が分からないセーランはただ戸惑うしかなく、一人だけ置いていかれたような気がした。
「く、くそう! 俺だけ独りか、ぼっちかこの野郎うう! 俺も交ざるぞ、そこに交ざるぞ。誰か俺を受け止めてえええ」
セーランはジャンプして、群れをなす仲間への落下していく。
目標は女子の群れだ。
筋肉質の男子には興味は無い。
落ちてくる長を、誰が受け止めるのかと地上は騒いでいる。
君がやってとか、オレは嫌だとか、ここは先輩方がとか、ここで先輩に頼るなとか。
長の嫌われっぷりが目に見えて分かる。
ので、誰もセーランを受け止めることはしなかった。
「おい、お前ら長をなんだと思ってるんだよ!?」
地面へと落ちた。
着地しようとしたが、バランスを崩して額から行った。
土の地面に額がぶつかり、音は立たなかったものの、見るからに痛そうだった。
くそううう、と何やら聞こえるが、気にしない方向で行く。
呆れながらも、うつ伏せになっているセーランに向かって、
「時間の無駄だ。時間が無いというのに呑気だな」
「ところがどっこい、これを見よ」
立ち上がるセーランは、スボンの左ポケットに手を突っ込む。
「助けてー、狸右衛門――!
もうしょうがねえなあ、伸男君はー」
盗賊アニメの狸右衛門の毎回言われる台詞を言いながら、八頭に渡された短刀を掴む。
手を出し、握られた短刀をかざし、
「ピキュン、シュシュシュシューン! タッタカタッタ、タータタ――ン。
結界を壊すらしいなんか古いような重たい変な文字が書いてある布に巻かれた短刀――!」
効果音を口ずさみ、皆に短刀を見せ付ける。
掲げた短刀に皆は目をやり、おお、と言葉を漏らす。
鈍く光るそれは、確かにただならぬ雰囲気を感じる。
くすんだ黄色の柄の短刀を、ルヴォルフへと向ける。
刀先が指すのはルヴォルフの身体で、セーランは短剣を宙で一回転させて柄と刃を逆にした。
「結界を壊すのはお前達の役目だ。目の前にいたからルヴォルフ、お前が代表でやれ」
「俺がか?」
「おう。やりたそうな顔してたしな」
本人は気付いていないのか、首を傾げて渡された短刀を受け取った。
見た目によらずずっしりとしていて、内なる力を感じた。
持っただけで分かるこの力。
この刀にある能力ではなく、外部から与えられた能力だろう。
なんとなくそう感じた。。
握り、短刀を見詰めながら思った。
「結界を壊す担当に結界を壊す短刀を託す、なんつってな!」
「「は?」」
「ひでええ、お前らひでえけど息ぴったりで羨ましいぞ!」
いいギャクだと思ったのにと、内心思うセーランは地団駄を踏む。
ギャグを否定されたのと、仲間が異様に仲良くなっていることをすねているのだ。
皆はそんな長に呆れて物言えないが、ほっとくのも面倒なので数人がなだめる。
「ほら、いじけないでくださいよ」
「あんたのこと嫌いなわけじゃないんだから」
「誰も長のこと嫌いじゃありませんから」
「え、それマジで!? なら今日俺、君のために戦うから!」
「え? えええ!?」
近くにいた二年生の女子学勢の肩に手を置き、セーランは言う。
当然、いきなり言われた後輩はわけが分からない。
ここで止めに入ったのはロロアだ。
「止めてくださいよ、困っているじゃありませんか。これから告白する人の台詞とは思えませんねえ」
「別腹ですから!」
「何かですが!?」
こちらもわけの分からない返答をされて、ついツッコんでしまった。
くすくすと何処かから笑いの声が聞こえる。
戦闘中というのに、こんな感じでいいのだろうか。
ロロアは心配になる。
そんなロロアの心を見透かしたように、彼女の肩をセーランは数回叩く。
三回。
セーランが三回叩く時は、大抵彼自身も同意らしいことは美兎から聞いている。
だから彼も、少しは心配はしているみたいだ。
悪ふざけはこれまでにしておいて、
「頼むぜ」
「了解した」
ただ一言。
それだけで行うことは理解出来る。
ルヴォルフは短刀を握り、正面を西貿易区域へと向ける。
彼と西貿易区域を阻む形となった者達は二つに分かれ、間に一つの道をつくった。
誰もがルヴォルフの方を見ている。
変に緊張している自分に気付きながら、息を一回吐く。
それから間も開けずに、
「おおおおおお――――――!!」
叫び、駆ける。
短刀を握る右手は腰の位置に。
獣人族のため、辿り着くまでに時間は掛からなかった。
刺す勢いのまま、ルヴォルフは握る短刀を結界へと突き刺した。
そして起こる拒絶の現象。
日来の者のみを阻む結界が、短刀を阻んだ。
押し返してきたため、力一杯押し込んだ。
雷撃に似たものがほとばしり、激しい流魔光で辺りを照らす。
眩しい。
目を細目ながらもルヴォルフは短刀と結界を見て、様子の方を伺った。
結界の向こう側に、刀先が突き出ている。
行うまでは半信半疑だったが、徐々に刀先が入った部分から結界にひびが入っていく。
最初は小さな。しかし後にしたがってひびが広がっていった。
鉄を切るかのような高い音。
結界が短刀の侵入を阻み、弾こうと無理に力を掛けてくる。
ルヴォルフが更に力を掛け、結界に短刀を突き刺した時。
起こった。
短刀の刃を包んでいた布が解け、なかから刃が現れた。
刃と峰のある、流魔によって黒に染まった刀。
だが、その短刀から走ったのだ。
無数の蛇が。
黒い蛇が短刀から一気に放たれ、結界の表面を走った。
一つ二つではない。
数百という、とてつもない数だ。
それら全てを結界は阻み、戦場に騒音と閃光が放たれる。
何が起こっている、と口に出す者もいれば、ただ単と見ているだけのものもいる。
巨大な西貿易区域に張られた結界には、無数の蛇が渦を巻くように流れていた。
誰もがその光景に目を奪われるなかで、結界は阻みの限界を迎えて突如として壊れた。
硝子を割ったような冷たい音と共に、半球状の結界が消えた。
結界は崩れ落ち、地上に落ちる前に流魔となって消えていく。
同時に、ルヴォルフが握っていた短刀は砕けた。
役目を終え、刀であることを捨てたのだ。
再び、別の形になることを願って。
後書き
八頭の渡した短刀により、見事結界は壊れました。
もう無茶苦茶な短刀ですが、この作品では特に珍しくもありません。
何せ神の存在が明らかになってますからね。
大抵は神が起こした何かだろうなと、皆思ってしまうわけです。
それはそれで凄い世界だなと思ってしまいます。
主人公は出たはいいけど、ヒロインは出てないという事態。
書いていて面白いなあ、と一人思っています。
だってなんらかの形でも主人公やヒロインは出てきますからね。
これも見所の一つなのでしょうかね?
結界は日来の者をなかに入れないという条件の下張られ、しかしその結界が壊された今。
やっとラストへと進めます。
もうそろそろで連載一年となりますが、まだまだ頑張りますよお!
短い後書きですが、読んでくれてありがとうございます。
では、また来週。
ページ上へ戻る