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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第二十八章


第二十八章

 二人はそれを見た。そこに書かれているものとは。
『歴史を探せ』
 であった。この一文であった。
「歴史、ですか」
「と言われましても」
 二人はその言葉にかえって考え込むしかなかった。それだけではこの街では容易にわかるものではなかった。ここは悠久の歴史の街ローマなのである。
「場所があまりにも多い」
「いや」
 ここでアンジェレッタの頭の中に何かが宿った。突如として。あのインスピレーションであった。
「来ました」
「何かを感じられましたか」
「はい」 
 彼女は答える。
「それは」
「それは?」
「血です」
 それが彼女が聞いた言葉であった。
「血とは!?」
「感じたのですがこれは」
 何故感じたのか彼女自身でもわかりかねていた。一体それが何なのか。すぐにはわかりかねぬ厄介なものであったのだ。こうしたものを感じる場合もあるのだ。
「どういうことなのか」
「水晶はありますか?」
 速水はここで彼女に尋ねた。
「よければそれで」
「はい」
 水晶を出してきた。宙にそれが浮かび上がる。
 そこに思い浮かんだものをあげる。そこにはローマの様々な場所が浮かんでいた。
「ローマの街ですか」
「これは一体」
 アンジェレッタにもその理由がまだわからなかった。
「成程」
 だが速水にはすぐにわかったようであった。これは彼の天性の才能故であろうか。
「これで彼女の出る場所がわかりましたよ」
「といいますと」
「貴女御自身が前に仰ったではないですか」
「私がですか!?」
「はい」
 速水は述べた。
「その通りですが」
「といいますと」
 左の人差し指をその整った唇に当てて考える顔になった。理知的な顔であった。
「どういうことでしょうか」
「ですから血です」
「血・・・・・・」
「ローマは多くの血が流れた都市でもあると。私に話してくれたではないですか」
「あっ」
 言われてようやく気付いた。そこであった。
「そういえば」
「そういうことです。では話が進みましたね」
「はい、彼女が出る場所は」
「ローマにおいて血が多く流れた場所なのです。そこに現われます」
「魔性の存在らしいですね」
 そこまで聞いてあらためて述べた。話の流れは速水が掴み、進めているといった感じであった。
「それならば納得がいきます」
「それでは」
「ええ」
 彼女にもわかってきた。速水はそれも見越して話を進めてきているのである。
「彼女の出る場所が絞れてきました」
「ローマの限られた場所ですね」
「はい」
 速水はアンジェレッタのその言葉に頷いてきた。
「実はこのローマはかっては今程大きくはありませんでしたね」
「そうです」
「ですね。大きくなったのはやはり近代からで」
 それまでは城壁に囲まれていた。帝政の頃からそれは変わりはしない。これは多くの街に言えることだがローマもまだ近代になって急激に膨張したのである。そうした意味で今のローマはかってのローマよりも遥かに巨大化した街なのである。
「そうしたことも踏まえますと出没する場所はさらに限られます」
「それでですね」
 速水はそれを受けて述べた。
「今までの出没場所をチェックしていこうと思うのですか」
「今までの」
「そうです。それでまた何かわかるでしょう」
「そうでしたら」
「はい、これで占いでわかる部分は終わりました」
 速水は言う。冷徹に。
「後は。地図と睨めっこといきましょう」
「ええ。それでは」
「ここは退室ということで」
「わかりました」
 彼等はその部屋を後にした。そしてそのままアンジェレッタの書斎に行き地図を見るのであった。

 
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