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転生とらぶる

作者:青竹
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魔法先生ネギま!
  0398話

 俺を狙って集まってくる精霊の群れを狙い、下方からグリが放ったカマイタチブレス。その威力はさすが俺の血で変化、あるいは進化したといえる物だった。
 光の精霊の首を切断し、影の精霊の胴体を切り裂き、地の精霊の脚を切り落とし、火の精霊を打ち砕いて空へとその姿を散らしていく。
 精霊の類は基本的に通常攻撃の類は殆ど効果が無く、気や魔力を通した攻撃でしかダメージは与えられない。その精霊達にダメージを与えているという事は、グリの放つカマイタチブレスはただの物理現象ではなく何らかの魔力が備わっているという事なんだろう。……いや、歴としたドラゴンの1種なんだしそれ程不思議な話でもないんだが。
 俺を中心にして集まっていた精霊達が、纏めてグリのカマイタチブレスによって切り刻まれ、砕かれていくのを上空から眺めていた。
 そう。上空から、だ。
 先程グリに指示を出した後、虚空瞬動で上空へと退避してカマイタチブレスの有効範囲から逃れたのだ。そして、今俺の眼下では無数の精霊達が目標である俺の姿を見失ったのか多少混乱している。
 ……まぁ、俺の乗ってる飛行魚を何の手掛かりもなく群れて追って来た程だ。恐らく俺の何らかの要因が精霊達を引き寄せているんだろうが……今の俺には数秒の混乱で十分だ!

『燃える天空』

 術式兵装白炎ノ宴の能力の1つ、焔ノ宴。それは呪文詠唱をする事無くあらゆる炎系統の魔法を自由に、連続して発動出来るというものだ。つまり、敵が眼下に、それも一塊になっている今の状況で広域破壊魔法である『燃える天空』を連続で発動出来るということ。

『燃える天空』『燃える天空』『燃える天空』『燃える天空』

 上下左右、そして真ん中と5発の燃える天空を連続して撃ち放つ。
 その結果、この上空周辺が灼熱地獄へと姿を変える。

「……」

 火以外の精霊が周辺一帯から消滅し、唯一残った火の精霊もまたグリのカマイタチブレスや飛行魚から飛んできたあやかの氷瀑で消し飛んでいく。
 だが……

「……しつこいな」

 思わず呟く。
 俺の視線の先にいるのは、まるで湧いて出て来たかのような精霊の群れ、群れ、群れ。
 まるで終わりなど無いとでもいうように再び大量の精霊がどこからともなく現れて俺へと向かって集まってくる。

「生命ノ宴!」

 その言葉を叫ぶと同時に、俺の身体から白炎で構成された無数の鳥や蝙蝠、あるいは虫といった存在が姿を現して精霊の群れへと向かっていく。
 それでもさすがにあの数を全てどうにかするというのは無理で、少なくない数の精霊達が炎獣達の隙間を抜けて俺へと向かって来る。
 そのまま深紅の角の効果で炎を生み出し、数十匹の精霊を消し炭へと変えながら地上へと降下していく。
 そう、そのまま付いて来いよ……
 そんな俺の目論見通りに殆ど全ての精霊が俺の後を追いかけてくる。
 中にはどういう変化があったのか、俺ではなく飛行魚へと向かっている精霊もいるが、9割以上は俺の後を追いかけ……

「くたばれ!」

 地面に近い位置を飛び、その後を追いかけてくる精霊達。だが、地上近くという事は上空とは違い、地面へと影が出来る。そして影があれば俺の側頭部から伸びている角でそれを操る事も十分可能なのだ。
 俺の叫びと共に、2本の角の力で影へと干渉。飛行魚が飛んでいたのはどこかの山だったらしく現在の俺はそんな森の中をまるで木を縫うようにして飛んでいる。そんな俺を追いかけてきた精霊達は、その木々から伸び上がった影がまるで網のように展開して群れの先頭部分にいる精霊達を纏めて包み込む。

「潰れて弾けろ!」

 その言葉と同時に、影が中に包まれている精霊ごと瞬時に圧縮され、100匹近い精霊が拳大になるまで小さく纏められる。
 しかし……

「ちぃっ、諦めるって事を知らない奴等だな。俺の何にそんなに……っ!?」

 ズグンッ!

 その瞬間、再び俺の中でナニカが脈動する。
 空中でバランスを崩しかけたが、咄嗟に虚空瞬動を発動。そのまま森の上へと脱出する。
 馬鹿な。今まで闇の魔法を使い終わってからの脈動はあったが、術式兵装をしている途中でなんて事は無かった筈だ。
 くそっ、もしかして本格的にやばいのか?
 そんな風に小さく舌打ちした時だった、その声が聞こえてきたのは。

「アイヤー、炎の化け物アルか?」

 懐かしいその声。それは、バトルジャンキー染みたバカレンジャー所属のバカイエローにしてネギの武術の師匠。即ち。

「古菲!?」

 思わず漏れたその声に、岩山とも表現出来る存在の上でこちらの様子を窺っていた古菲が驚愕の表情で俺を見る。

「私を知ってるアルか? いや、その5本の角と羽は……」

 何やら呟いているが、既に後ろからは大量の精霊が迫ってきている。このままここに古菲を置いておく訳にもいかずにその横をすり抜け様に身柄を掻っ攫う。

「ちょっ、こら。何をするアルか。人掠いは重罪アルよ!」

 ジタバタと暴れつつ、何やら構えを取りつつ俺へと狙いを定め……

「後ろを見て現状を認識しろ、バカイエロー!」
「なっ。何でその名前を……って、後ろアルか?」

 ひょい、とばかりに空を飛んでいる俺の後ろへと振り返る。
 そこにいたのは、火、水、風、土、光、闇、雷等、他にも見た事もないような種類の精霊も多数。それが群れをなして俺を追いかけてきているのだ。

「な、なななななな、何アルか、アレ。キモいアルよ!」
「あのまま岩山の上にいたら、お前もあいつらに襲われていただろうよ」

 正確には襲うんじゃなくて俺を追って通り過ぎた精霊に轢き殺されるみたいな感じか?

「ともかく、大人しくしてちょっと待ってろ」
「……けど、このままで私は火傷しないアルか?」
「安心しろ。俺の身体を構成している炎は俺の意志に従って傷つける相手を選ぶ」
「取りあえず分かったアル」

 自分がどれだけ危険な立場にいるのか理解したのだろう。そのまま暴れるのを止めて大人しくこちらへと身を預けてくる。

「……見つけた」

 再び上空へと戻り、飛行魚を見つけ……ズグンッ!
 ちぃっ、またか!
 胸の中に生まれた脈動に一瞬空中でバランスを崩しながらも、羽を大きく羽ばたかせてバランスを取る。

「グリ!」
「グギャアアアアアアアアッ!」

 俺の叫びに応え、背後から追って来ている精霊達の群れの横から風の障壁を展開させたグリが突っ込み、精霊達を蹴散らしていく。同時にカマイタチブレスを吐き、十数匹の精霊を纏めて切り刻む。
 グリがそうやって時間を稼いでくれている間に、俺は何とか飛行魚の甲板の近くへと戻ってきていた。

「ぐっ!」

 ズグンッ、ズグンッ、ズグンと俺の中で次第に大きくなって来ている脈動に、思わずバランスを崩して甲板への着地に失敗して倒れこむように……

「円!」
「え? ちょっ、くーちゃん!?」

 咄嗟に空中で精霊へと向かって炎を作りだしては数匹ずつ纏めて燃やし尽くしていた円へと、腕で抱えていた古菲を放り投げる。
 幸い円は古菲を空中で上手くキャッチしたらしく、突然現れたクラスメイトに驚きつつも一度甲板へと降りてくる。
 その様子をみながら、俺は甲板の床を多少削りつつ動きを止めることに成功したのだった。

「ぐっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 身体の中で未だに蠢く脈動が、まるで俺の体力や魔力を奪っているかのように消耗が激しい。

「クギミー、久しぶりアルね」
「クギミー言わない……っていうか、何でここにくーちゃんが……っ!? ア、アクセル君!? 千鶴、来て! アクセル君が!」

 甲板へと膝を突いて息を整えている俺を見た円が叫び、慌てて千鶴が駆け寄ってくる足音が聞こえて来る。

「アクセル君を中心に半径1mに領域を指定。橙の石よ、その力を示せ」

 千鶴のその声と共に、俺を中心にして橙の色をしたドームが形成される。
 だが、そのドームの中でも俺は回復せずに膝を突いたまま体内の脈動に耐える。

「そんな、橙の領域でも回復出来ないなんて……」

 千鶴のその呟きを耳にし、膝を突いている状態から甲板へゴロンとあお向けになる。

「む、無理だ……俺のこれは、別に精霊にダメージを受けた訳じゃない……」

 ズグンッ、ズグンッという脈動に耐えながら千鶴達へと声を掛け……飛行魚へ行かせまいとしているグリの横をすり抜けてこちらへと向かってくる精霊数十匹が目に入ってきた。

「……生命ノ宴っ!」

 倒れこんだままの俺から、こちらもまた数十匹の鳥や蝙蝠とあるいは虫といった炎獣を形成して精霊を迎え討たせる。

「アクセル君!? あぁ、これはどうしたら……千鶴さん、駄目ですの?」
「……ごめんなさい。橙の領域を使っても回復する様子がないのよ」
「それではっ!? ……いえ、すいません。千鶴さんを責めるべき事じゃないですわね」
「アクセルさん……ええいっ、精霊共よ。私達の邪魔をすると言うのなら容赦はしません!」
「アクセル君!? ちょっ、これどうしたら……」

 そんな従者達の声を聞きつつ、何とか上半身を起こす。
 その途端、再びズグンッという脈動が体内で起こるが今はそれに構っていられる場合じゃない。この精霊の群れを何とかして飛行魚から引き離すなりあるいは消滅させるなりしなければならない。

「俺の事は取りあえず置いといて……今はあの精霊共が……先だっ!」

 その叫びと同時に、炎獣を潜り抜けて俺へと接近してきた風の精霊の方へと顔を向け喉に魔力を溜めて吐き出す。

「ガッ!」

 ヘルマンの使っていた永久石化光線。ただし、今回は魔力の溜めが十分ではなかったので、その射程距離は短く俺へと迫ってきていた風の精霊とその背後にいた水の精霊数匹を石化させるにとどまる。

「……」

 そして風の精霊は無言のまま石化して甲板へとその身を落とし、水の精霊は同様に石化したまま地上へと落下していった。

「ちょっ、アクセル君。余り無理しないで!」

 美砂がそう言いながら俺の背を支える。
 そうしてようやく安定した姿勢で周囲を見ると、そこには既に飛行魚を覆い隠すかのように精霊が群がってきていた。その後方ではグリも必死になって風の障壁を纏いながら精霊に突撃したりカマイタチブレスを放ってはいるのだが、それでも暴走する精霊の数は減っているようには見えない。
 いや。実際にはかなりの数が減ってはいるのだろうが、精霊の数が膨大な為に傍目からは減っているかどうかが分からないのだ。

「ええいっ、しつこいですわね!」

 あやかの鮮血の鞭が、飛行魚に……否、甲板にいる俺へと迫ってくる雷の精霊を打ち砕き。

「敵の先頭にいる風の精霊を中心に半径5mに領域を指定。黄の石よ、その力を示せ」

 あやかの鮮血の鞭で対処仕切れない為にすり抜けてきた風の精霊を中心に千鶴が魔力を吸収する領域を使用して精霊を纏めて消滅させ。

「アクセル君をやらせはしないっ!」

 円が空中で縦横無尽に炎舞とでも呼ぶのに相応しい動きで炎のラインを幾重にも築き。

「アクセルさんは絶対に守り抜きます!」

 茶々丸が魔力の籠もった銃弾を連射しながら、同様に魔力が通っていると思われる剣で水の精霊を切り裂く。

「アイヤー、あの炎の人、アクセル坊主アルか? それならクラスメイトとして守らない訳にはいかないアルね」

 そして古菲の放った気の籠もった一撃により、雷の精霊が消し飛ぶ。

「絶対……アクセル君は絶対に守って見せるわ!」

 美砂がセイレーンの瞳の効果を最大限に発揮させ、精霊達の動きが著しく阻害される。

「くそっ」

 ドクンッ、ドクンッ、ドクン。
 激戦と言ってもまだ生温いようなそのやり取りを、俺は自分の中で未だ収まらないままに耐えながらただ眺めているしか出来なかった。
 そしてそんな俺だからこそ見つけられたのだろう。皆の意識が甲板の周囲から襲い掛かってくる精霊達に集中していた為に、人間の最大の死角である上空から襲い掛かってくる精霊達の姿を。
 本来であれば人間では無いガイノイドの茶々丸や、気というものを操る古菲であるならば気がつけたかも知れないその奇襲。だが、周囲の状況に対応するのが精一杯の状況ではそれに気が付く事が出来ず、当然のように精霊の群れの中で奮闘しているグリも同様な訳で……

「さ……せるかああぁっ! 生命ノ宴!」

 唯一動ける俺が何とか対応するしか無かった。ブツン、と途切れそうになる意識を気力で必死に維持しつつ竜……というよりは龍の炎獣を上空へと解き放つ。

「GYAAAAAA!」

 その細長い身体をくねらせつつも、炎獣の龍は上空から襲い掛かってきた10匹以上の精霊達を噛み砕き、燃やし尽くす。
 それを見て、安堵したその瞬間。本当に一瞬だけ気を抜いたその瞬間にソレは訪れた。

 ドクンッ!

 今までの中で最も強いその脈動。その余りの力強さに、一瞬にして俺の意識は失われそうになり……その瞬間、脳裏にレモンの悲しそうな顔が。コーネリアの怒ったような顔が。マリューの心配そうな顔が浮かんでは消えていく。
 そしてあやか、千鶴、円、美砂の4人と麻帆良で過ごした騒がしくも賑やかな日々。まるで走馬燈のように思い出が脳裏を過ぎり……最後に再び眼に涙を湛えたレモンの姿が現れ、消えていく。
 そのレモンの姿に、俺は強く念じる。ひたすら強く念じ続ける。
 俺は死ねない。こんな所では絶対に死ねない。必ずホワイトスターに生きて帰るのだから!
 強く、強く、ただひたすらに強く念じ続け……俺の意識は闇へと溶けていくのだった。 
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