転生とらぶる
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魔法先生ネギま!
0397話
前書き
ここから数話程、話の都合上ステータスを省略させて貰います。
戦闘準備を整えて甲板へと出た俺が見たのは、まさに精霊の群れとでも呼ぶべき存在だった。この飛行魚を追ってきているのは100や200どころではない。1000や2000でもまだ足りない。それこそ1万、10万といった数だろう。そんな数の精霊がただひらすら真っ直ぐにこちらへと向かって来ているのだ。幸い飛行魚もかなりの速度を出している為にまだ距離はそれなりに空いてはいるが、その差も徐々に縮まってきている。
俺に近しい火の精霊や影の精霊。それらと対を成す存在の水の精霊や光の精霊。だというのに、特にお互いがぶつかり合う事も無くまるで1つの生き物であるかのように群れとして纏まっている。あれではまるで……
「群体ですわね」
俺の思いをそのまま口にしたのは年齢詐称薬の効果が消え、アーティファクトの鮮血の鞭をその手に持ち、黒いパーティドレスを着たあやかだった。俺が1番最初に仮契約を結んだ従者。ある種のカリスマで俺の従者達を纏めてくれる、まさに司令塔。
「ああ。まさに群体、あの数で1つの生物とでも認識出来るような感じだな。あやか、鮮血の鞭を。今のうちに広域破壊用の魔法を込めておく」
「はい、お願いしますわ」
差し出された鮮血の鞭の剣先へと触れ、俺が使える中で最も広域破壊に向いた魔法である『燃える天空』を9つの剣先全てに込める。魔力をたっぷりと込めて唱えた魔法だったので、俺のSPも300程度まで減っていた。だが、幸い俺にはSPブーストがあるのでその減ったSPも見る見る回復していく。
「悪いな、広域破壊が可能で強力な魔法となると俺の手札には『燃える天空』くらいしかない。それを使えば確かにあの精霊共にかなりのダメージは与えられるだろうが、火の精霊に関しては殆ど効果が無いだろう」
「心配いりませんわ。私はあのエヴァンジェリンさんの弟子ですのよ? 氷の魔法はどちらかと言えば得意分野です」
「それに、いざとなったら私があやかや他の皆を守るから大丈夫よ」
そう口に出したのは虹色領域の腕輪をその腕に装備し、真っ赤なドレスをその身に纏っている千鶴だ。バラエティに富んでいるネギのパーティと違い、どちらかと言えば攻撃に特化している俺のパーティの中で防御と回復を一手に引き受ける防御の要。
「それに私の歌があれば、もしかしたら精霊達を鎮める事も出来るかもしれないしさ」
次に口を開いたのは、薄い、シースルーの赤い衣装を身に纏っている美砂だ。その首元にはアーティファクトであるセイレーンの瞳が掛かっている。
補助に特化した、千鶴とは違った意味での俺のパーティの生命線。
「うーん、火の精霊は私にはちょっと相性が悪いかな。あ、でもそれ以外の精霊なら何とかなるかも」
最後に口を開いたのは美砂と同じようなシースルーの衣装を着ている円だ。美砂との違いはその衣装の色が赤ではなく紫という事だろう。そしてその両腕と両足にはアーティファクトの純炎の涙を嵌めており、炎を自由自在に操るというそのアーティファクトは、あやか達の中でも最高火力として機能してくれる。同時に、空を飛ぶ事も可能なので機動力もまた非常に高い。
こうして、俺の従者達4人も戦闘準備を整え……ん?
「茶々丸はどうした?」
「はい、ここにいます。私も皆さんのお役に立つよう精一杯頑張らせてもらいます」
あやか達の後ろから現れて、ペコリと頭を下げる茶々丸。その手は既に銃と剣へと姿を変えており、いつでも精霊の群れに対処出来るようになっている。
俺の従者達+1。そして俺。……こうして見ると、俺の炎にあやかの鮮血の鞭に封じ込められた『燃える天空』、そして円の純炎の涙。……妙に火の属性に偏ってる気がしないでもない。
「茶々丸、あやか。敵を狙う時は火の精霊を優先的に狙ってくれ。言うまでも無いがあやかが火の精霊を狙うのは氷の魔法でな」
「分かりました。エヴァンジェリンさん印の氷の魔法をお見せしますわ」
「はい、アクセルさんのオーダー通りに対処させてもらいます」
2人が頷いたのを見て、ドアの近くにいるリュボースにも声を掛ける。
「リュボース、この飛行魚の連中にも火の精霊を中心に狙うように依頼してくれ。火の精霊以外ならこっちで何とか出来るだろうが、基本的に俺達のパーティは火属性の攻撃が多いんでな」
「はい、すぐに知らせてきます」
「いや、ちょっと待て。それと、これからグリフィンドラゴンを召喚する。そいつは味方だからくれぐれも誤射はしないように言い聞かせておいてくれ」
「分かりました」
ペコリ、と頭を下げると早速船内へと引き返していった。早速船長へと伝言を伝えにいったのだろう。
その後ろ姿を見送ってから、魔力を集中させる。
『我と盟約を結びし者よ、契約に従いその姿を現せ!』
その呪文を唱え終わった瞬間、俺の背後に魔法陣が展開してそこからニョキッとばかりにグリフィンドラゴンが姿を現す。
普通のグリフィンドラゴンが俺の血を吸収した事により変異した姿。その下半身は獅子から竜へと代わり、より竜の因子を色濃く現している。また、同様にその背には鷲の翼の他に竜の羽が1対ずつ生えており、合計4枚の翼や羽を持つ。
そしてその頭部からは後頭部から前へと伸びるようにして漆黒の角が伸びていた。
「ガアアァァァァァァッッ!」
美砂曰くグリちゃんの雄叫びが周囲へと響き渡ると、飛行魚の中がざわめく。リュボース経由で知らされていたとは言っても、さすがにいきなり目の前にグリフィンドラゴンが出て来れば驚くのだろう。
「……さて」
戦いの準備は、1つを除いて既に完了している。
その最後の1つである闇の魔法をどうするか、だな。
正直、この飛行魚を追って来ている精霊の群れをどうにかするというのを考えると、白炎ノ宴の特殊能力である炎獣を自由に生み出して使役出来る生命ノ宴や、魔法を詠唱無しでSPのある限り無尽蔵に使える焔ノ宴は殲滅戦に非常に向いているのだ。
しかしここ最近闇の魔法を使った後に感じるあの脈動。副作用か何かなのかは知らないが、それでも良い兆しでないというのはさすがに予想出来る。
ただ、それでも確実にそうでないと判断出来ていないのは念動力が特に危機を知らせてこないからだ。今まで幾度となく俺の命の危機を知らせてきた念動力が感知していないという事は、あの脈動は危険な物ではないのでは? という希望的観測も少なからずある。
「……けど、さすがにこの状況で全力を出さないというのはちょっとな」
俺に出来る事をやらなかった為にあやか達が致命的な傷を受けたりしたら、俺は俺自身を決して許せないだろう。故に。
『アリアンロッド 契約に従い、我に従え炎の覇王、来れ浄化の炎、燃え盛る大剣、ほとばしれよソドムを焼きし火と硫黄。罪ありし者を死の塵に……燃える天空! ……固定、掌握! 術式兵装白炎ノ宴!』
掌の中で握りつぶされた『燃える天空』が俺の霊体と融合すると同時に俺の魔力を大量に注ぎ込んで己の身すらも白き炎で再構築して白炎ノ宴の発動を完了する。
ステータス画面のSPの所を見ると、あやかの鮮血の鞭に魔法を封じたSPが回復していたのが再び減少し、280まで減っている。だが、それすらもSPブーストの効果で目に見えて回復していく。
このSPブーストがあるからこそ、まだ精霊の群れが飛行魚に追いついていないのに白炎ノ宴を発動したのだ。あの数と戦いながら悠長に闇の魔法を使っている暇が無いだろうというのもあるが。
そしてこちらの戦闘準備が整え終わった頃、精霊の群れもまたその速度で飛行魚まで残り300m程度まで近づいて来ている。
「頃合い、か。あやか、円、茶々丸。俺に合わせて敵に一斉射。千鶴は最初は黄の領域で精霊達から魔力を収奪。ただし、近づいて来たら守護領域を展開。美砂は敵の速度を低下させる歌を。グリ、お前は好きに暴れろ」
俺の指示にあやか達は小さく頷く。
「ガアアアアアアア!」
そしてグリフィンドラゴンのグリは翼と羽の両方を羽ばたかせて素早く空へと浮かび上り、高く鳴いて了承の意を伝える。
「じゃあ……行くぞ!」
まず最初に放たれたのはあやかの鮮血の鞭に封じ込められている『燃える天空』だ。数発が同時に放たれたその一撃は、精霊の群れの先頭に位置していた精霊達のうち、火の精霊以外を尽く燃やし尽くす。
「グルアアァァァァッ!」
そして群れの先頭で唯一生き残った火の精霊へと精霊達の真下へと移動したグリのカマイタチブレスが放たれてその身を切り刻んだ。
「行け、炎獣達よ!」
そして群れの先頭にいた精霊達が一掃されたのと同時に、俺の生命ノ宴により純白の炎で作り出された鳥型の炎獣が突っ込んでいく。
「GYAAAAAA!」
火の精霊に対しては殆ど効果は無いか、その他の精霊に対しては接触してはその炎で燃やし、同時にその口から炎の球やブレスを吐いては精霊達へと攻撃を仕掛けていく。
「円!」
「分かってる!」
俺の呼びかけに鋭く返事をし、同時に純炎の涙の効果により空中へと浮き上がって大きく手を振るう。同時にその手の動きに沿ったかのように空中に炎のラインが引かれ、そこへと突っ込んで来た精霊達を燃やし尽くす。だが……
「駄目っ、数が多すぎる!」
幾ら激しく燃えさかる炎でも、そこに無数とも言える精霊が我が身が焼けるのも構わずに突っ込んでくれば自然とその炎のラインは小さくなっていく。そしてそれは水や氷といった精霊が突っ込んだ場所程顕著にその結果を現す。
「千鶴!」
「分かってる。先頭にいる火の精霊を中心に半径5mに領域を指定。黄の石よ、その力を示せ!」
円が作りあげた炎による防衛線を突破してきた精霊。それは当然の如く、その防衛線を形成しているのと同種である火の精霊だ。そして千鶴はその火の精霊を中心にして魔力を吸収する黄の石の力を発揮する。
「!?」
特に言葉も発せずに、そのまま魔力の全てを領域へと吸収されて消滅していく火の精霊。
「やった!」
それを見ていた美砂が喜びの声を上げるが、その希望はすぐに打ち砕かれた。
何しろ、その黄の領域は半径5m。直径にしても10m程度の範囲しかないのだ。数万匹を越える精霊達が群体の如く向かって来ればそれに対応出来る領域の範囲が狭すぎる。
そしてその領域を抜けた火の精霊。そして数は少ないが他の精霊達が飛行魚の甲板へと迫ってくる。
「美砂!」
「任せて!」
意識を集中して、この戦場へと響き渡る歌声。その声を聞いた精霊達は例外なくその動きを鈍くする。
そして……
「茶々丸!」
「お任せ下さい」
右手を変化させた銃から放たれた銃弾が、火の精霊を中心にしてその身を撃ち砕いていく。
基本的には精霊には普通の銃弾は通用しないのだが、恐らく超や葉加瀬による改造の結果か。
「後は各自今の要領で。あやか、指示を任せるぞ。俺は少しでも精霊の数を減らす為に討って出る」
「はい、私に任せて下さい。アクセル君、ご武運を信じております」
ニコリと笑いながらも、炎の防壁を抜け出てきた火の精霊へと向かって『氷瀑』を放ち、飛行魚へと迫ろうとしていた集団を文字通りに消滅させる。
「任せろ」
背から生えている羽をバサリ、バサリと羽ばたかせ、空中へと浮かび円の炎の防壁、そして千鶴の黄の領域の抜け出て来た精霊達へと突っ込んでいく。
「……」
狂乱しているが、それでも尚一言も発さずにこちらへと向かって来る多数の精霊の群れ。その群れへと向かい、鳥や蝙蝠といった炎獣を作りだしては消滅させていく。
氷の精霊の胴体へと鳥の炎獣がぶつかり、その胴体を貫通する。雷の精霊がその速度で俺へと近付こうとすれば蝙蝠の炎獣がそれを受け止めるかのように己の身を盾にして防ぎ、同時にそれに接触した雷の精霊を燃やし尽くした。
そんな精霊と炎獣達の戦いを眺めつつ、風の精霊の頭部を白い炎で構成された腕で薙ぎ払い、光の精霊の首を鷲掴みにして次の瞬間には燃やし尽くす。
「……何だ? 俺に向かって来ているだと?」
そう、何故か今の精霊達は飛行魚では無く俺へと向かって集まってきているのだ。それも、まるで誘蛾灯に誘われるかのように俺を中心にして精霊の群れがまるで渦を巻くかのように集まってきている。これは……この精霊の群れは俺を狙っていたのか!?
何が理由なのかは知らないが、それならそれで戦いようはある。
「グリ!」
「グガアアァッッ!」
その短い言葉だけで俺の意図を察したのだろう。空中に浮かんでいる俺と、その俺を中心にして群がってきている精霊の群れへといつの間にか俺の下方へと潜りこんでいたグリが下から上空へと向かってカマイタチブレスを解き放つのだった。
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