銀河英雄伝説~悪夢編
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第二十九話 これから必要になるのは喪服だろう
帝国暦 487年 11月 30日 オーディン アンネローゼ・ヴァレンシュタイン
「戦闘は終わったようです。宇宙艦隊は戦闘終結を宣言しました」
「そう」
「最終的に反乱軍は五割を超える損害を出して撤退したそうです。一方的でした」
「そう」
「多分、年明け早々には艦隊はオーディンに戻ってくるでしょう」
「……」
年明け早々には戻ってくる……。
「あまり嬉しくはなさそうですね、姉上」
「そんな事は無いわ、ラインハルト」
「でも軍が勝ったと言っても艦隊が戻ってくると言っても嬉しそうじゃ無かった」
ラインハルトが、ジークが探る様な視線で私を見ている。
「年内には戻ると聞いていたの、年明けと今聞いたから未だ先だなと思って……、ちょっとがっかりしたのよ」
「……そうですか」
ラインハルトが不満そうな表情を見せた。この二人は私が不当な扱いを受けたと思っている。夫からも不当な扱いを受けていると思っている。そしてその事で苦しんでいると……。
宮中から不当な扱いを受けなかったとは言わない、望んで入った後宮では無かった、なぜ責められるのかと不満に思う事も有る。でも夫から不当な扱いを受けたとは思わない。確かに財産は失ったが安全を得たのも事実なのだ。爵位も財産も失った私には貴族達も関心を示さない。生活に不自由を感じているわけではない、煩わしさからは解放されたとホッとしている。
そう思うと夫はどうなのだろうと思ってしまう。あの襲撃事件で大怪我をした。右腕は重い物を持てなくなり右足は足首から先を失い歩くのにも不自由をしている。そして皇帝からは厄介者になった女を押し付けられた……。不当に扱われているのはむしろ夫の方だろう。
「これからどうなるのかしら」
「さあ、後継者を決めないまま亡くなりましたからね。すんなりとは収まらないと思います」
「……」
皇帝フリードリヒ四世が死んだ。まだ正式には発表されていないが皆が知っている。私とラインハルトにはヴェストパーレ男爵夫人から報せが有った。
何の感慨も無かった、ああ死んだのだと思った。悪い人では無かったし世間で言われている様な愚かな人でも無かった。だが強い人では無かった、酷く弱い人だったと思っている。そしてその弱さゆえに酒と女に逃げる事しか出来なかった人だった。皇帝には一番不向きな人だった……。
「ブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯も次期皇帝の座を巡って大変なようです。有力な貴族に応援を頼み見返りは娘との結婚を提示しているとか。このままでいくと女帝夫君は何人、いや十人以上になりそうですよ」
「……」
ラインハルトが皮肉った。例えどれほど滑稽に見えようとブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯も引くに引けないのだろう……。
「最終的にはリヒテンラーデ侯の決断が次期皇帝を決めるだろうと言われていますが侯はどちらを選ぶか迷っているそうです。まあどちらを選んでも選ばれなかった方は収まらないでしょう、まだまだ帝国は混乱するでしょうしそれを抑える事になる軍の存在が重みを増すだろうと思います」
「……」
「残念ですね、総参謀長は」
ラインハルトが変な笑みを浮かべている。
「何が残念なの」
「平民ですからね、元帥への昇進は無いだろうし宇宙艦隊司令長官への就任も無いでしょう」
「ラインハルト」
窘めたがラインハルトは止まらなかった。
「姉上だってお分かりでしょう、私達でさえ爵位の無い貴族として蔑まれたんです。総参謀長ならなおさらですよ。このままずっと上級大将のまま馬鹿な貴族の御守りをさせられるのかな、憐れな。退役前に御情けで元帥にしてもらえれば良いが……」
「ラインハルト! いい加減にしなさい!」
私の叱責にラインハルトが不満そうな表情を見せた。
「私は総参謀長を高く評価しているんです。私なら総参謀長を元帥に昇進させて宇宙艦隊司令長官にしますよ。平民だからといって差別などしない。それに貴族達に唯々諾々と従っている総参謀長が歯痒いだけです。私だったら……」
「ラインハルト、口を閉じなさい。辺境警備の一少将が口にする事じゃないわ、身の程を知りなさい」
口は閉じたけど不満そうな表情は消えていない。
「ジーク」
「はい」
「ラインハルトが愚かな事を言わないように注意してね」
ジークが答える前にラインハルトが口を開いた。
「大丈夫ですよ、姉上。姉上の前だから言ったんです、他では言いません。そうだろう、キルヒアイス」
「はい、御安心ください、アンネローゼ様」
「だといいのだけれど……」
溜息が出た。
この子は夫を嫉んでいるのかもしれない、蔑み憎んでいるのかも……。これまではフリードリヒ四世がその対象だった。でも私が夫に下げ渡された事で、フリードリヒ四世が死んだ事でその対象が夫に移った……。相手が皇帝だからこれまではそれを抑える事が出来たと思う。でも夫に変わった今、それを抑えられるだろうか……。
帝国暦 488年 1月 5日 オーディン 新無憂宮 国務尚書執務室 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
オーディンに戻ると俺とグリンメルスハウゼン老人は新無憂宮にある国務尚書の執務室に呼ばれた。待っていたのはリヒテンラーデ侯の他に軍務尚書エーレンベルク、統帥本部総長シュタインホフの二人の元帥だ。久しぶりに見ると懐かしい感じがしたが気のせいだろう。
「グリンメルスハウゼン伯、この度の反乱軍撃破、真に見事であった」
「有難うございます」
「最終的にはどの程度の損害を与えたのかな?」
国務尚書がグリンメルスハウゼン老人に声をかけると老人が俺を見た。答えろって事か? さっきあんたに説明したのはこのためなんだけど……。国務尚書、軍務尚書、統帥本部総長、皆が俺を見ている。仕方ない、答えるか……。
「艦隊戦力は八個艦隊の内二個艦隊を降伏させその他の艦隊にも大きな損害を与えました。五割を超え六割に近い損害を与えております。これを反乱軍の宇宙艦隊全体で見ますと反乱軍は約四割の戦力を損失したと判断できます」
執務室に満足そうな声が溢れた。アムリッツア会戦が無いから原作に比べれば少ないんだけどね、満足してくれて嬉しいよ。
「その他にも辺境星域に進駐していた陸戦部隊、通信部隊を捕虜にしました。捕虜の数は艦隊乗組員も合わせれば二百万人に近いと思います」
「二百万か……」
国務尚書が溜息を吐いた。まあ分からないでもない、辺境星域の有人惑星にはそれより人口の少ない星も有る。
「真に見事な勝利であった、亡きフリードリヒ四世陛下もさぞお喜びであろう」
国務尚書が労うとグリンメルスハウゼンが“恐れ入ります”と答えた。少し声が湿っている。あの皇帝の死を本気で悼んだのはこの老人ぐらいのものだろうな。二人の娘も何で自分の娘を後継者に選んでくれないのかと怨んだかもしれん。でも一人でも悼んでくれる人間が居たんだ、それでよしとすべきだろう。どう見たって名君とは言い難いんだから。
「卿は新帝陛下の事をどう思われるかな、新帝陛下は先帝陛下の嫡孫、唯一の男子でもあられる。皇位を継がれるべき方だと思うのだが貴族達の中には不満を漏らす者が居るので困っているのだ」
探る様な口調だ、聞いていてあまり楽しい口調じゃない。ついでに言えば不満を漏らすなんて生易しいレベルでは無いだろう。声高に騒いでいるのが事実だ。
「先帝陛下は後継者をはっきりとは決めませんでした。その事で一部の者が騒いでいるのでしょうがそれは決める必要が無かったからではないかと私は思っております」
おや、爺さんが妙な事を言いだしたな、他の三人も不思議そうな顔をしている。
「ブラウンシュバイク公爵家のエリザベート様、リッテンハイム侯爵家のサビーネ様、いずれも姫様方であられます。直系の男子を差し置いて皇位に就くなどあり得ますまい。敢えて決めなんだのはそういう事では有りますまいか」
「なるほど」
リヒテンラーデ侯がグリンメルスハウゼンの答えに一瞬虚を突かれたが直ぐに“そうであろう、いや、そうに違いない”と言って頷いた。軍務尚書も統帥本部総長も満足そうに頷いている。
なるほどなあ、そういう考え方も有るか。筋は通っているからブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯も反論は難しいな。大義名分を得た、そんな感じか。リヒテンラーデ侯が喜ぶはずだよ。どうした爺さん、フリードリヒ四世が死んで覚醒したか。
「見事な伯の見識、恐れ入った。どうであろう、その見識を陛下のために役立ててはくれぬか」
「……」
「陛下はまだ幼い、陛下の御守役を卿に頼みたいのだ。そうなれば先帝陛下もお喜びであろう、どうかな、受けて貰えぬか」
上手い! 座布団二枚は上げられるな。御守役なら常に宮中に居なければならんから宇宙艦隊司令長官は辞める事になる。この爺さんには野心も無いから幼君を預けても安全だろう。年寄りには子守が良く似合う、エルウィン・ヨーゼフ二世も爺さんになついで少しは性格が良くなるかもしれん。
「有難い御話ですが私は引退したいと考えています」
「引退……」
「はい、フリードリヒ四世陛下が亡くなられて何と言うか虚しくなりまして……、この先は領地に戻り静かに余生を送りたいのです。お許しを頂きたいのですが……」
リヒテンラーデ侯が軍務尚書、統帥本部総長に視線を向けた。二人が軽く頷くとリヒテンラーデ侯がそれに答えるように頷いた。
「そうか、残念ではあるが仕方ないな」
「お許しを頂きました事、有難うございます」
皆神妙な顔をしているが内心では大喜びだろうな。まあ大喜びでは無くてもホッとしているのは間違いない。俺だってようやくこの老人から解放されたという思いが有る。大体誰も引き留めないんだから……。
「つきましては後任の宇宙艦隊司令長官ですがヴァレンシュタイン上級大将にお願いしたいと思っております」
おいおい爺さん、何を言い出すんだ。リヒテンラーデ侯もエーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥も驚いているぞ。いかんな、このままだと俺が言わせていると勘違いされかねん。危険視されるのは御免だ。
「閣下、小官はその任に就ける立場では有りません。何を仰るのです」
「いやいや、卿以外に適任者はおらんじゃろう。卿が平民だという事は分かっているがその武勲は誰もが認めるところ、それに卿は先帝陛下よりグリューネワルト伯爵夫人を下賜されたのじゃ、その信任は並みの貴族など到底及ばぬ。元帥、宇宙艦隊司令長官に就任する資格は十分に有る。……如何でしょうかな」
強引だな、爺さん。あんた、本当にグリンメルスハウゼンか? 俺が驚いているとリヒテンラーデ侯、エーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥も少し驚いたような表情で顔を見合わせている。
「……どう思うかな?」
リヒテンラーデ侯がエーレンベルク、シュタインホフ元帥に問い掛けた。二人は未だ顔を見合わせている。
「小官は反対は致しません」
「小官も軍務尚書と意見を同じくします」
「なるほど、……ではヴァレンシュタイン総参謀長を元帥に階級を進め宇宙艦隊司令長官にしよう」
不承不承だな。爺さんに押し切られた、そんなところか。
こいつ等は俺が元帥になる事も宇宙艦隊司令長官に就任する事も喜んではいない。こいつ等は味方じゃない、いやむしろ敵だろう、油断は出来ない……。そして爺さん、俺は知らんぞ。あんたは俺に剣を与えた、そして敵もだ。俺は剣を抜く事を躊躇う人間じゃない、その剣に血を吸わせる事もだ。
「有難うございます」
「有難うございます、懸命に努めます」
「うむ、励むが良い」
取りあえず終わった。グリンメルスハウゼンと共に帰ろうとすると俺だけ残れと言われた。
グリンメルスハウゼン老人が立去るとリヒテンラーデ侯が表情を厳しくした。他の二人も厳しい表情で俺を見ている。侯が口を開いた。
「宇宙艦隊を早急に編成せよ、これまでの様に九個艦隊等では困る、十八個艦隊揃えるのだ」
「はっ」
「ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯が妙な動きをしている」
「と言いますと」
「これまで対立していたがここにきて密かに手を結んだらしい」
「なんと、真でございますか」
「うむ」
ワザと驚いて見せるとリヒテンラーデ侯が渋い表情で頷いた。
「しかし一体何をしようと言うのでしょう? まさかとは思いますが武力による簒奪でしょうか?」
「おそらくはそうであろう、本人達もその周囲も歯止めが利かなくなっておるようだ」
溜息を吐いて首を振った。出来るだけ野心の無い有能なだけの軍人に見せろ。それ以外は不要だ。
「宇宙艦隊を整えよと御命令を受けましたがそれは貴族達の暴発を未然に防ぐためでしょうか、それとも暴発した貴族達を鎮圧せよという事でしょうか?」
俺の問い掛けに三人が顔を見合わせた。答えたのはエーレンベルクだ。
「鎮圧だ、この際帝国の膿を出し切ろうと考えている」
二度、三度と頷いて見せた。それにしても膿か、適切な表現だな。
「となると反乱軍の動きが気になります」
「それ故宇宙艦隊を早急に整えよと命じているのだ! 遅れればそれだけ連中の介入の危険度が高まる!」
「はっ」
今度は畏まってみせるとエーレンベルクが満足そうに頷いた。
「ヴァレンシュタイン、卿を宇宙艦隊司令長官、元帥にするのは卿なら勝てると思うからだ、決して後れを取る事は許さん」
「分かっております、御信頼を裏切るような事は致しません」
「うむ」
最後はシュタインホフだ、好い気なもんだよな。
「早期鎮圧のために一つお願いが有ります」
三人が顔を見合わせてからこちらを見た。リヒテンラーデ侯が“何だ”と問い返してきた。
「今回の戦いで辺境星域にはかなりの負担をかけました。彼らの苦労を労って欲しいのです」
「具体的には卿は何を求めておるのだ?」
「辺境星域の開発を」
俺が答えるとリヒテンラーデ侯が渋い表情をした。金かかるからな、嫌がるよな。
「ここで彼らの負担を労わないと貴族達が暴発した時、辺境がそれに同調する可能性が有ります。反乱を早期に鎮圧するためには辺境星域の不満を解消しておく必要が有ります」
「……」
「最悪の場合は今後反乱軍が押し寄せた場合、辺境星域は本当に彼らに味方しかねません」
俺の言葉にリヒテンラーデ侯がエーレンベルク、シュタインホフに視線を向けた。視線を受けてエーレンベルクが
「ヴァレンシュタインの言う通りです、今後の事を考えれば何らかの対応は必要です」
と答えるとシュタインホフが頷いた。リヒテンラーデ侯の表情が更に渋いものになった。
「言っている事は分かるが財源が……」
「今回の戦いで反乱軍の艦艇を一万三千隻以上鹵獲しました。これを売却すればかなりの金額になります。役立ててはいただけないでしょうか?」
俺が提案するとジロリとリヒテンラーデ侯が俺を睨んだ。
「簡単に言うでない。今年はそれで良いかもしれんが来年以降は……、いや内乱が終結すれば財政に余裕は出るか……」
リヒテンラーデ侯が呟き考え込んでいる。そうそう、来年以降は馬鹿貴族共の財産を没収するんだから財源は有る。開発資金の捻出は十分に可能だ。今後は同盟軍が攻め込んでくる可能性が有る、その地域を敢えて開発する。その意味は大きい、辺境も政府が自分達の事を考えてくれていると理解するだろう。
「良いだろう、卿の提案を受け入れよう。なんども言うようだが早急に艦隊を編成して貰おう、反乱軍が介入する前に内乱を終わらせなければならん」
「承知しました」
執務室を出て廊下を歩いているとグリンメルスハウゼンが居るのが見えた。どうやら俺を待っていたらしい。急ぎ足で近付いた。
「閣下、先程は御推挙、有難うございました」
「いやいや、当然の事をしたまで。礼を言われるようなことではない」
「……」
「むしろ礼を言うのはこちらの方だ。これまで良くこの老人を助けてくれた、感謝している」
「総参謀長として当然の事をしたまでです。むしろどこまで閣下を御支えする事が出来たのか、心許なく思っております」
「いや、卿は本当に良くやってくれた。礼を言う」
出来れば礼を言う前に辞めて欲しかった。悪い人物じゃないんだが、組織のトップには向かないよな。廊下を歩きだした、この老人と歩くのは悪くない、ゆっくり歩いてくれるからな。
「卿の様に能力の有る人間にとっては帝国で平民に生まれるというのは苦痛だろうの」
「……そのような事は」
「隠さずともよい、私の様な凡庸な人間でも貴族と言うだけで元帥にまでなれる。だが卿を元帥にと言えば皆が顔を顰める、面白く有るまい」
「……」
言葉に詰まると老人が笑い声を上げた。
「私に出来るのはここまでだ、後は卿自身の力で未来を切り開くがよい」
「未来ですか……」
「うむ、卿自身が望む未来をの」
「……貴族の方々にとっては面白くない未来かもしれませんが」
俺の言葉に老人がまた笑った、上機嫌だ。
「それも良い。……卿が選んだ司令官達は皆平民か下級貴族であった。貴族達が顔を顰めておったな。随分と文句を言われた」
「申し訳ありません、御迷惑をおかけしたようです」
「いや、構わん。力有る者が上に立つのは当然の事、例え貴族といえど力無き者は滅ぶしかない。どうせ滅ぶのであれば精々華麗に滅びれば良いのだ」
「……その御言葉は」
老人が三度笑った。面白そうな表情で俺を見ている。
「驚いたかの、先帝陛下の御言葉であった」
「……」
「内乱が起きる、その中で力有る者だけが生き延びれば良い、それが先帝陛下の御意志。ブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯もリヒテンラーデ侯も先帝陛下の掌の上で踊っているだけの事……」
そして俺も踊らされる一人というわけだ、クソ爺が……。
老人二人がゲームの駒を選んだ。ゲームの名は帝国の覇権。選ばれた駒はブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、リヒテンラーデ侯、そして俺。多分ラインハルトは途中で脱落したのだろう、駒としては全くの平民である俺の方が面白いとでも思ったに違いない。元帥府を開いて俺に人を集めさせたのもそれが理由だ。
「卿自身が望む未来を作ろうとするのであれば最後まで踊る事じゃ。踊り疲れれて倒れれば未来も消える。どうじゃな、踊れるかな?」
老人が試す様な目で俺を見た。負けられない、そう思った。俺はこの老人に選ばれたゲームの参加者なのだ。
「踊ります、踊り切ります」
老人がまた笑った。
「楽しみだの、卿がどのように踊るのか。期待しておるぞ」
「はっ」
「ブリュンヒルトは卿に譲る、好きに使うがよい、私には必要ないものだ」
「御好意、有難うございます」
感謝するよ、御老人。先ずは白の貴夫人を黒く塗ってやろう。これから必要になるのは喪服だろうからな……。
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