IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~
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第一章『セシリア・オルコット』
第九話『戦いの決着』
前書き
ハーメルンからそのままの投稿になっているので、ここからIBGM指定が入りますが、推奨程度なので、お好きに聞いてください。
○意地と意地のぶつかり合い
鋼のレジスタンス(第二次スーパーロボット大戦Z 再生編)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm17939950
セシリアは自分の手から逃げた標的を待っていた。
気の緩みは無い、もう相手を見下げることはやめた、今は精一杯勝つだけ。
頭の中でそんなことを、何度も何度も反芻し、討つべき相手が向かってくるのを待った。
今さらながらデタラメな対戦相手だと、セシリアは振り返る。
祖国で激戦を勝ち抜き、ただ“矜持”と“誓約”を胸にIS学園に代表候補生として入学した。
手にしたのは主席入学の名誉、そして確かな“思い”の再認識。
だがそれを、新年度初日に阻んだ“男”が出てきた。しかも理由は“男”というその珍しさだけ。
自分が死に物狂いで勝ち取ったものが、ただの『珍しさ』に負けた気がした。それをどうしても認めたくなかったし、認めさせるわけにはいかないと怒りが込み上げてきた。
だからこそ“名門たるオルコットの娘”という誉れのもとに、自分の努力こそ正しいと見せつけようと考えた。所詮は「女尊男卑」時代の弱い男、実力をチラつかせれば――。
だが“男”は屈しなかった。それどころか、自分の神経を逆なでしてくる根性を見せたのだ。
だから見せつけてやろうと思った、自分がなぜ“選ばれた存在”になれたかを。
そしていざ戦いがはじまると、自分のペースで事が進んだ。だが思った以上に相手は勝負事に対する場数を踏んでおり、自分の十八番であるビット攻撃も思った通りに当たらない。それどころか、目下の悩みの種である“武装の同時運用の未習得”さえ見抜かれている節があった。
そして34分以降の、あの悪夢の展開が自分を襲った。
混乱する頭を冷やしながら、どうにか相手を捉えようと食い下がった。だが“風の怪物”へと化けた相手は、自分の術中をことごとくする抜けて反撃に打って出てきた。こうして、かつてないほどに自分は追い詰められた。
ゆえに“名門たるオルコットの娘”という矜持を、自分の“縁”を、本国での最終実戦試験のときと同じように“封印”した。
IS操縦者として、連合王国の精鋭として、ただの「セシリア・オルコット」として、全力をもって相対する覚悟を決めた。
苦手な接近戦も、一か八かの賭けも油断なく行使した。相手が不完全であるうちに、わずかな勝機を逃さないために。
だが、その足掻きももうすぐ終わろうとしている。
自分の手をすり抜けていったあの飛び方で、相手はきっとその力を『完成させた』にちがいない。勝機はもはや、風前の灯である。
それでもセシリア・オルコットは諦めていなかった。
勝つために。自分を証明するために。
(――来ました!)
上空から、自分が放ったスターライトmkⅢの光の軌道を逆走して、青い“風の怪物”がその姿を現した。
(さぁ、今度こそ閉幕ですわ、真行寺修夜――!)
――――
《目標捕捉、距離100m!》
ほぼまっすぐに、修夜は二度目の垂直下降でセシリアに突撃していった。
「そのまま突っ込んでくるのは、予測済みですわっ!」
言うや否や、セシリアはブルー・ティアーズのビットを展開し、迎撃の態勢に入る。
だが前半のような遠隔操作による包囲ではなく、両肩の前に二機ずつ砲門のように並べ、一斉にレーザーを発射する。
「なるほど、そうきたか。だが――!」
修夜はすぐさま体を捻りながら横へと逸れ、レーザーの射線から外れる。
しかし、避けたと思った瞬間に次々とレーザーの嵐が修夜に襲いかかる。
見ればセシリアは、その場からほとんど動かないまま体だけを修夜に向け、砲台と化したブルー・ティアーズのビットを巧みに操作してこちらを狙い撃ってきていた。
両者の距離、およそ60m。
ビット兵器は本来、自分から近づいて攻撃を加える。ゆえに射程は短く、修夜との感覚では当たるものも当たらない。それはセシリアも百も承知であり、これで修夜に勝てるとも思っていない。
(さぁ、これ以上近づけるものならやってみなさい!!)
その弾幕に対し、修夜は60m周囲を距離を縮めるための隙を探りながら旋回する。
(突きの雨の次は弾幕か、ホントに芸達者なヤツだ――!)
自分にできる戦法を考え出して躊躇なく選択する、そんなセシリアの発想力と度胸に修夜は素直に感心した。
(すげーよ、セシリア・オルコット……)
それが今の修夜の、率直な彼女への気持ちだ。
自らの師に地獄のシゴキを施され、ときに死ぬ気の実戦訓練もやらされた修夜。だからこそ、彼女のこの土壇場での強さが本物であることを察することが出来た。そのためには、血反吐を吐く努力も必要なことも知っている。
(だから受け取れ……)
修夜は、この戦況を壊すために動いた。
「いくぜ、コイツが俺の最善の戦略だああぁっ!!!」
叫ぶと同時に旋回しながら加速し、修夜はセシリアとの距離を詰める。
一方のシルフィも、主人が発する強い思考を感じ取り、自らミサイルランチャーを現出する。
《もう、マスターって無茶し過ぎいぃ~っ!!》
シルフィは盛大に愚痴ると同時に、狙いをセシリア“だけ”に定め、小型ミサイルをありったけばら撒きはじめる。
「その程度でっ――!!」
迫りくるミサイルの雨に対し、セシリアは飛び上がりつつビット砲台で片っ端からミサイルを撃ち落とす。
ミサイルは次々とビットに撃墜されて、セシリアの前方はに煙が何層にも立ちはじめる。
セシリアは考える、修夜の戦略の本命が何かを。
そして現状から、彼女の出した答えは――、
「破壊されたミサイルの煙を、煙幕の代わりにした陽動など、わたくしには子供だましですわ!!」
そう言い放つを直感的にスターライトを煙幕とは反対の、死角である自分の背中の上方に向ける。
それが修夜が、自分に対して使ってきた決め手だったからだ。ならば、必ずそこに来るはずだとセシリアは、それに賭けた。
だが――
「騙して悪いな…、ド正面からだぜっ!!」
体の正面、つまり自分の顔の後ろ側から煙を突き破って修夜が現れる。
その二人の距離、およそ10m。
セシリアは体を背後にひねった状態のまま、急いで左へと仰け反るように一気に後退し、さらに慌ててミサイルビットを展開する。
それを修夜は、煙の中で換装したイーグルハンターで撃ち落とし、再びセシリアに詰め寄る。
(こうなれば一か八か――!!)
セシリアはブルー・ティアーズのビットに、封印していた遠隔攻撃の指示を発する。それを受け、ブルー・ティアーズはビットを射出し、すぐさまレーザーを撃ち放ちながら修夜に迫る。
「効かねぇよっ!!」
それを見ても修夜はレーザーを機敏に避けながら突撃を敢行する。その避け方も、それまでの完全回避ではなくかすり傷を厭わない接近手段としての荒い避け方である。
なおも後退しながら15mほどの距離を保ち、ビットを操作するセシリア。
「コイツもここで終いだっ!!」
叫ぶと同時に、修夜はビットに照準を合わせる。
(あぁっ……!!)
小さく弾ける音と主に、イーグルハンターの弾丸がついにブルー・ティアーズの一機目のビットを撃墜する。
すかさずビットを後退させようと、セシリアは攻撃命令を解除する。
だが時既に遅く、次々とビットはイーグルハンターの餌食となって爆散していく。
「くぅ…、まだですっ!!」
今度はミサイルビットを一気に放出するセシリア。
「その程度、ビットに比べれば遅すぎるぜっ!」
イーグルハンターが全自動で弾を吐き出し、ミサイルビットをことごとく散らしていく。
《今ので、イーグルハンターは打ち止めだよ…!》
「だが向こうのミサイルも、大方は打ち止めだ!」
修夜は拓海から、ISの小型兵器が搭載できるミサイルの、平均的な限界値を聞かされたことがあった。
修夜は撃ち落としたミサイルビットをざっと数えており、それが拓海の数値と合致したのだ。
突撃は今しかない。
「シルフィ、仕上げるぞ!!」
《これで終わらせよう、マスター!》
シルフィは使いきったイーグルハンターを改良領域戻し、代わりにスラッシュネイルを現出せせる。それを握った修夜は、さらなる急加速とともにセシリアに詰め寄った。
両者の距離、残り8m。
修夜のシールドエネルギー、残り120。セシリアは依然として、128。
「スターライトっ……!」
どうにか下がろうとスターライトを展開し、急いで撃つ姿勢にはいる。
「させるか。最後のミサイルだ、コイツも持って行け!!」
だが構え終える前に、修夜からの二発のミサイルが至近距離で発射され、思わずスターライトを手放して引き下がる。ミサイルはこぼしたスターライトが偶然にも盾となり、直撃を避けることが出来た。これで残る武器はお互いに、ただ一つ。
セシリアのシールドエネルギー、残り121。
「イ…、インター…!!」
最後の手段である接近戦に備えようとするセシリア。しかしエアリオル・ソニックの急加速は、それを許そうとしなかった。
スラッシュネイルを構え、振り抜く姿勢にはいる修夜。
両者の距離、およそ1m。
すなわち、修夜にとっての必殺の間合い。
「こいつで……」
振り抜かれる、とどめの一撃。
《これで!!》
「――終わりですわ…!」
修夜は寸の間、セシリアの言葉と力強い顔に違和感を覚えた。
そしてその違和感の原因が、自分の頭上に居ることに気が付いた。
(――っ?!)
修夜は思わずそれを仰ぎ見た。
ブルー・ティアーズのビット、その最後の一機を。
あのビットの退却時、実は修夜に撃たれた4機のビットのうち、この一機だけは寸手のところで生き残ることが出来ていた。
否、『生き残らせたの』だった。
そのためにセシリアは残る3機のビットを犠牲にし、ミサイルビットをその前後でありったけ展開してみせたのだ。
修夜が武の道に通じているといえど、大量の弾幕を処理するなかで押し寄せる物体を、正確に把握しきるのには今一歩だけ未熟だった。
修夜の動きが、瞬きのあいだだけ鈍り、正面から気が逸らされる。
その好機をセシリアは見逃さなかった。
――バシュッ!
その音に修夜が視線を移すよりも早く、修夜に見つかっていないラスト1発のミサイルビットが、修夜の眼の前で発射される。
――どぉおん!!
炸裂したミサイルビットは、セシリアごと修夜を爆撃して本懐を遂げ、レーザービットはセシリアの盾となって壊れた。
ふらつきながらも姿勢を正そうとするセシリア。
その自慢の金髪も、先の爆発で煤汚れてしまっている。
だが、そんなことは些細なことでしかない。
最終的なシールドエネルギーの残量、14。
彼女は確かな確信を得ていた。
(……これで、ホントに…………)
「――終わりだ、セシリア・オルコット」
少女は耳を疑った。
その声を確かめるべく、仰天した彼女の眼の前にいた者。
――真行寺修夜
そのまま、セシリアはスラッシュネイルでの唐竹割りをまともに受ける。
鳴り響くブザーの中、セシリアは斬撃の余韻だけを感じながら、自らの敗北を知ったのだった。
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