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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第三十四話「只今絶賛遭難中」

 
前書き
お待たせしました。ようやく一話完成……。
今回はあの原作キャラが登場します! 

 


 うぉっちゅ! オラ、レイ!


 なんやかんやあって『禍の団』とかいうよく分かんない組織に入団しました。いえーぃ!


 単独行動が認められたので、早速ぼかぁ旅立つことにします。オーちゃんもついて来たそうにしていましたが、彼女は彼女でやることがあるらしく渋々断念しました。


 久しぶりの一人旅! いやー、何年ぶりだろう?


 一昔前は世界各地を旅していたけれど、ここ十数年はずっとこの街に居座っていましたね。だから久しぶりの旅行でテンション高めです。やっふー!


 ……ごめんなさい、嘘です。テンション高めなのは旅立ってから一カ月まででした。


「うぅ……ひもじいよぉ……お腹すいたよぉ~」


 なんとなく北に向けてあてもなく旅すること一週間。食料がつきました。


 勢いで飛び出しちゃったのは良いけど、そういえば僕、お金は三千円しかなかったとです。手持ちの食料もチュッ○チャッ○ス三十本と板チョコ十枚だけです。


 ああ、なんて馬鹿だ……イッセー並みに馬鹿だ、僕は。レ○クでも言ってたじゃない。ご利用は計画的にって。あれ、違うっけ?


 まあ、いいや。なんだって。


 とにかく今重要なのは――。


「ご飯食べたいぃ……」


 食欲を満たすことだけ。


 その辺の木の枝を削って杖を作り、よたよたと覚束ない足取りで獣道を歩く。


 いま僕が居る場所は――わかんない。


 とりあえず、北へ北へと歩いていたら、いつの間にか見知らぬ樹海に足を踏み入れていました。恐らく海外だと思います。


 右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見ても、木、木、木、木。


 変わらぬ景色に空腹がプラスして、僕の精神力はマッハで下降しています。


「あるうひー♪ もりのなか♪ くまさんと♪ 出会いたいー……♪」


 だめだ頭の中がふわふわする。なにを口ずさんでいるのか自分でも分かんないよ……。


「おかしになぁれぇー」


 近くなった木に指を向けるが、何も起こらない。


 あう……、とうとう虚現も使えなくなっちゃった。息をするように無意識に使っていた能力も発動しないくらい集中力が欠けるなんて……ちょっとやばいかも。


 このくらいじゃ死なないけど、死にそう。自分でもなに言ってるのか分かんないし……。


 項垂れていると、後方から突風が吹きぬけた。


「ふわわわわ~……」


 強力な風力によって僕の身体が持ち上がり、地についていた足が離れる。あまりの空腹に体重も激減してるの。今の僕はピニール袋と同等の重量さ。


 まさに風に攫われるビニール袋のように僕の身体が空を舞う。


「あぴゃー」


 自力で戻る術を持たない僕はあまりにも無力だ。


 そのまま風に身を任せるしかない僕はしばしの遊覧飛行を楽しんだ。





   †                    †                    †





 北欧の秘境、バルハラ。


 彼の地、ヴァルハラに因んで名づけられた土地は自然豊かで、澄んだ空気が満ちている。


 故郷であるこの地から出たことはないけれど、私――ロスヴァイセはこの地が大好きだ。


 この地で生まれた私はヴァルキリーとして大成し、勇者様と結ばれるのが昔からの密かな夢だったりする。


 私だけの勇者様。ピンチの時には颯爽と駆け付けてくれて守ってくれる。そんな人と結ばれるのがヴァルキリーの本懐であり、憧れであり、目標でもある。


 しかし、つい最近まで、その夢を諦めかけていた。


 ヴァルキリーに求められるのは容姿もさることながら、主神オーディン様の戦力としての価値である。オーディン様の先兵として戦場に赴く胆力、そして敵を打倒するだけの力を求められる。


 そして、立派なヴァルキリーになるには、ヴァルキリー養成学校で卒業する必要がある。


 養成学校は四年制であり、私は現在三年生。同級生は皆、二十歳のピチピチナの女の子。私は年下の十七歳だったりする。


 なぜ、私だけ歳が違うのか。答えは至極簡単で、飛び級したからだ。


 自分で言うのもなんだけど、頭の出来は悪くないと思う。本が好きだった私は幼少の頃から歴史書や哲学、魔術書など分野を問わず読み老けていたし。難解な学問書などに好んで手を伸ばしていた。さらには生まれ持った魔力保有量が人の倍以上あったという点も、飛び級に影響していると思う。


 人事部課長から直々のスカウトを受けた私は奨学金制度を紹介された。


 両親は幼い頃に事故で他界しており、家族はおばあちゃんのみ。あまり苦労を掛けたくない私にとって、この話は渡りに船だった。


 入学筆記試験では異例の歴代一位。魔力測定試験ではランクAを叩き出した。


 ヴァルキリー養成学校での飛び級は前例がなく、多くの人が私に期待してくれた。


「あなたはきっと、大成するわ」


 学園長直々にお言葉を頂いた。


「ライバル出現ね。年下だからって遠慮なんかしないわよ?」


 次期生徒会長にはライバル宣言を頂いた。


 多くの人が私に期待の眼差しを向けた。


 しかし、現実は――。




 ――私は、学園一の落ちこぼれなのだ。





 生まれ持った魔力は高いはずなのに、なぜか魔術を行使しようとすると術式が起動しない。どんな初級魔術でも必ず失敗に終わる。


 これはヴァルキリーとして致命的だ。


 ヴァルキリーの戦力としての価値は、如何に魔術の扱いに長けているか。その一点を求められる。


 ヴァルキリーとしての未来を奪われた気持だった。


 これは身近な話にも関わってくる。


 学校の授業にはもちろん実技がある。しかし魔術が扱えない私は毎年単位を落とす羽目になった。


 学園長の温情で、留年という形で時間を与えてはもらえたけれど、それは限られた時間内で打開策を見つけられなければ退学になると、言外に案じているようなもの。


 それでも、私はあきらめなかった。ヴァルキリーとして大成し、勇者様と添い遂げる幼少からの夢を閉ざしたくなかったから。


 病院に通った。ヴァルキリー専門のカウンセリングにも通った。けれど、返ってくる答えは……異常なしの一言。


 なら、私の勉強不足なのだろうか? そう思った私は寝る間も惜しんで魔術書を開いた。


 学校の図書館に籠り、多くの魔術書を紐解いた。北欧式から西洋魔術、初級魔術から最上級魔術、歴史書にまで手を伸ばした。が……結果は変わらなかった。


 どんなに努力してもダメ。


 考えられる限りの手を尽くしてもダメ。


 クラスメイトも「大丈夫だよ」だとか「頑張ればなんとかなるよ」と声をかけてくれていたけれど、いつしか皆の見る目が変わってきた。


「まだやってるよ」


「いい加減諦めればいいのに」


「もともと才能ないんじゃないの? 才能がモノを言う世界なんだから。あんなに頑張って……みっともない」


「ていうか、入学できたのってなんで?」


「あれじゃない? 人間界で言うところの裏入学ってやつ?」


「ロスヴァイセって顔だけは綺麗だし身体つきもいいから、上の人を誑しこんだんじゃないの?」


「うっわー……身体売るとか、ヴァルキリー以前に女として終わってんじゃん……」


 憐憫、侮蔑、的外れな嘲笑。


 負の言葉、負の視線、負の感情。


 これらが怒涛の嵐のように私を中心に吹き荒れた。何より心情的にきつかったのは……唯一無二の親友だと思っていた女の子も私を蔑視の目で見ていたことだった。


 泣いた。生まれて初めて泣いた。


 涙が枯れるまで、声を大にして泣いた。


 それからだろうか、夢を諦め始めたのは。心の奥底に無意味だと思う自分がいて、それが無気力に繋がった。


 だから、学校から今期の実技試験で結果を残さなかったら退学になると最後通知が来ても、大して心は動かなかった。


 けれど、そんな私に転機が訪れた。


 激的な出会いが訪れた。


「夢を諦めるなんてもったいないと思う」


 それが初めて聞いた彼の言葉だった。


「僕もキミの夢、手伝うよ。それはきっと素晴らしいことだと思うから」


 そう言って手を差し伸べてきてくれたのは、隣接する学校――英雄養成学校に在籍する男の子だった。


 まるで絵に描いたようなさわやかな風貌をした好青年。俗にいうイケメンというやつだった。


 恋に落ちた。一瞬だった。……一目惚れだった。


 けれどそれは、顔でも容姿でもなく、彼の心に惹かれたから。


 初めて私の夢を肯定して、応援してくれた彼の言葉が、言葉に表せないほどうれしかったのだ。


 生まれて初めて接する同年代の異性。それも初恋の人を相手に頭の中が沸騰しそうだったけど、ある日、勇気を出して、この内なる胸の思いを打ち明けた。


 ――好きです、付き合ってください!


 何の捻りもない言葉。今思えばもっと気を利かせたことを言えなかったのか赤面する思いだが、彼は私の言葉に笑顔で以て頷いてくれた。


 そして始まった、初めての交際。


 世界が輝いて見えた。


 なんでこんなちっぽけなことに悩んでいたんだろうと思えるくらい、充実した毎日だった。


 私は見つけたんだ。私だけの勇者様を。


 私は叶えたんだ。夢の一部を。


 彼が運命の相手だと確信して疑わない。彼こそが、私の待ち望んだ勇者様なんだ!





   †                    †                    †





 そして今日。交際し始めて丁度一か月になる記念日だ。


 先週から楽しみにしていたデート。


 いつもより朝早くに起床して、お弁当作りに四苦八苦しながらもなんとか完成させた。日頃から料理なんてしないから結構時間と食材を無駄にしたと思うけど、食べられるはずだ。味見もしたし。


 記念日と言ってもデートはありふれた恋人たちがするような内容だった。ショッピングを楽しんだり、図書館に行ったり、水族館に行ったりと、終始笑顔が絶えなかった。


 こんな何気ないデートが楽しい。一日が充実していると実感できる。


 そして、時刻はお昼。


 お昼ご飯の場所は彼が良い場所を知っているとのことなので着いていくことに。場所はどこかの森の中みたい。


 入口には看板があり『魔力放出禁止区域』と書いてあった。どういう意味なのだろうか?


 彼に先導されるまま進むこと五分。開けた場所に出た。中央には小さな泉があり、木々に囲まれているため新鮮な空気に満ちている。


 彼が言う通り、とても良い場所だ。


 適当な場所を見つけレジャーシートを敷く。いよいよお手製弁当を披露する時が来た。


 緊張で手が震えそうになるけどなんとか堪え、巾着袋を取り出す。


「あ、あのね、お弁当を作ってきたんだ」


「お弁当って、ロスヴァイセが?」


「う、うん……その、食べてくれる?」


 巾着袋から取り出したのは大小のお弁当箱。大きいのが彼ので小さいのが私だ。


 彼は驚いたように目を丸くしていたが、ふと頬を緩ませた。


「ありがとう、ロスヴァイセ。嬉しいよ。だけど――」


 そっとお弁当を脇に退けて、彼の手が頬に添えられる。


 そして――。


「今はロスヴァイセが食べたいな」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


「えっ……?」


 思わず目をきょとんとさせた私に彼は変わらず微笑みながら言葉を続ける。


「付き合い始めて一か月も経つんだ。そろそろいいだろう?」


 いつの間に互いの肩が触れ合うほど接近していた彼は私の肩に手を添えると、軽く押した。


 抵抗する間もなく彼に押し倒される。ここにきてようやく、私の脳は事態を把握した。


「えっ……えっ、えっ? ちょっ、ちょっとまって……!」


「待たない。散々待ったんだ、もう限界だ」


 彼の猛禽類を思わせる鋭い目が私を射抜く。荒い息遣いが聞こえる。


 徐に胸元に伸びた手が、がばっと服をたくし上げた。お気に入りの下着に包んだ胸が露出した。


「――」


「おぉっ! これがロスヴァイセのおっぱいか……色白でなんとも美味しそうだ」


 声も出ないとはこのことか。


 突然の行動に絶句した私に構うことなく彼は感嘆の息を零した。


 無造作に胸を鷲掴みにされた。


「……っ! い、いや――」


「ん~、いい触り心地だ。夢にまで見たロスヴァイセのおっぱい……感無量だね」


 恐怖で引き攣る声。彼の普段と変わらない態度が余計に混乱を招いた。


「さてさて、こっちはどうかな?」


 彼の手がスルスルと下に伸びる。


 スカートの中に手を指し込まれた。下着に指が触れる。


「やめてっ!」


 ここにきて、ようやく拒絶の言葉を発することが出来た。


 覆いかぶさる彼をドンと押し返し、もたつく手足を動かして後ずさるように距離を取る。


 恐怖で震える口から、乱れた呼吸が繰り返された。


「………………ってぇな」


 彼の口から聞いたことのない声音が漏れた。見れば地面に擦れたのか、肘から軽く血が滲み出ていた。


 彼の伏せていた顔が上がる。その表情を見た途端、思わず凍りついた。


「いってぇなあ、このクソアマッ!」


「ひっ……!」


 聞いたことのない怒声。反射的に首がすくんだ。


「人が優しくしてりゃ調子こきやがって……血ぃ出ちまったじゃねぇか!」


「あ、あの……ご、ごごごめ――」


「せっかく人がてめぇの錆びれたバージン貰ってやろうと思ったのによぉ、なに拒絶してくれちゃってるわけ?」


 彼の口から信じられない言葉が出た。


「…………え?」


 ポカンと馬鹿みたいに口を開けて呆ける私に、忌々しそうに舌打ちする。


「てめぇは落ちこぼれだが身体だけはそそる身体つきをしてやがる。顔も見れる形だしよ。俺の恋人に加えてやろうと思ったんだけど」


 ニヤッと顔を歪ませる彼。


 その顔は、見たことがある……。


 私の身体を舐めまわすように見てくる男たちと同類の、ソレだ。


「予定変更だ。てめぇは公衆精液便所に調教してやる。ビッチはビッチらしく男たちの性のはけ口にされるんだな。お古はいらねぇし」


「あ……あ、あ……」


 歪んだ顔のまま私に手を伸ばしてくる彼。


 恐怖で麻痺した身体は動いてくれない。


 一体、なにがなんだかわからない……。


 これは、なに?


 今日は楽しいデートじゃなかったの?


 彼はなにを言ってるの?


 私はなにを見て、なにを聞いてるの?





 もう、なにがなんだか分からない……。





「あ……、お、おべ……と」


 不意に彼の脇に置かれたお弁当が目に入った。


 朝早く起きて作ったんだ。


 他ならない彼のために。


 食べてもらわなきゃ。


 お弁当箱に手を伸ばし、彼に差し出す。


「あ、あ……の、つつつくた、の。たべ、て」


 おかしいな、呂律が回らない。


「あ?」


 彼はおかしなものを見るように眉を跳ね上げた。


「――いらねぇよこんなもん」


「ぁ……」


 手を払われた。


 弁当箱が地面を転がる。


 せっかく作った中身が、ぶちまけられた。


「わっかんねぇ女だなぁ。普通こんなことされて弁当差し出す奴がいるか? 頭の中沸いてんじゃねぇのか?」


 つまらなそうに耳の穴をほじっていた彼は、まあいいやと言葉を続けた。


「さっさと洗脳魔術かけちまうか。あー、早く○○○○してー」


 彼の掌から魔方陣が展開される。


 私は未だ呆けた頭でそれを眺めていた。青白い光が綺麗だと思った。


「んじゃ、バイバイ、ロスヴァイセちゃん。目が覚めたら精液便所だから、せいぜい沢山使ってもらえよ?」


「……」


 魔方陣の輝きが強くなる。魔方陣から延びる魔力の糸が私へと向かい――。


「グギャァァァァァァァアアアァァァァァ――――――――――――――――ッッ!」


 天を裂くような咆哮が、轟いた。

 
 

 
後書き
彼の名前:クズザキ・カスオ
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