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オリ主達の禁則事項

作者:夢一夜
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神様の事情と裏の理由

 ここでは無く…どこでもない場所…いわゆる神の国と呼ばれる場所に、長く延びる回廊が存在した。
 そこを歩くのは秋晴だ。
 ただし彼一人ではない。
 その手には銀の髪を掴み、髪にはその持ち主である安置がくっついている。

 安置の顔は見事にボコボコで、以前の面影が微塵もない。
 あわせたカウンターがよほどいい角度で入ったのだろう…白目をむいて意識を無くしているようだが、秋晴は遠慮なくずるずると安置を引きずって行く。
やがて、一人と荷物一つの向かう先に回廊の終点が現れた。

 終点には祭壇のように高くなっている場所がある。
既になれた物なのか、秋晴は止まる事も迷う事もせずに進み、階段を昇り始めた。
 途中で安置が階段に引っ掛かるが、それに関しては無視している。

「魂の回収完了しました」
『御苦労さまでした秋晴』

 秋晴が宣言すると、何処からともなく声が聞こえた。
 女性の物だが、同時に山のように大きく、すべてを包み込むような優しさを感じさせる声だ。
 次いで起こるのは光の収束…秋晴の眼前で光が固まり、巨大な人型を作っていく。
 現われたのは、古代中国の女帝のような衣装を着た女性だ。
 無垢な少女にも…あるいは年上にも見える年連を図りずらい容姿をしているが、女性の持つ妖艶さと言った者は感じない。
 むしろその性質は真逆、声に感じたのと同じ、全てを受け止める女性の大らかさを感じさせるが…実際の話として彼女は大きかった。
おおよそだが身長は30メートルはあるだろうか?
祭壇の上に立ってやっと彼女の腰の部分の高さしかない…尤も、二人の立場関係を考えればこの位置取りは正当だ。

『何時も私の“子供達”が迷惑を掛けます』
「いえ、大母神様の事情は理解していますし、これが俺の仕事ですので…」

 彼女は全ての母である。
 生まれ、始まるという概念から派生した存在…故に発生というプロセスを経たものはたとえ何であろうと彼女の子供という事になる。
 神だろうが何だろうが例外はない。
そんな大母神が、一人の人間に頭を下げることがあるなど、世の宗教家たちは思いもするまい。
 だが、彼女はその名前の通り母の概念が形をとった存在なのだ。
 ならば“バカ息子”の罪を詫びるのもまた母の役目と言えなくもない。

「えっと…そちらの方が…?」
『ええ、今回の騒動を起こしたバカ息子よ』

 大母神の背後に隠れるようにして、もう一人の神がいる。
 中年くらいの見た目に長い鬚、中華風の衣装…なるほど初見で何の知識もなく閻魔大王と言われれば信じるかもしれない。
 つまり、死んだ安置に力を渡し、“自分の管理するネギま!の並行世界”に送り込んだ張本人という事になる。
 微妙に前かがみになって尻を抑えているのは…理由は思いつくがそこは指摘しない方がいいだろう。
 おそらく“お仕置き”のせいだ…中年の涙目と言うのはなぜこんなに気持ち悪いのだろうか?

『…何こっち見てんだよ!!』
『こんバカ息子が!!』

 秋晴を威嚇してきた閻魔大王(偽)の頭に拳骨が落ちた。
 もちろん大母神の拳だ。

『誰があんたの尻拭いばしてやったと思っちょるとか!!ダメっちゅうとるのにしてから!!まだお仕置きが足らんて言うとか!!』
『ひ~ごめんかーちゃん!!!!!!』

 目に映る者を正確に描写するのなら…年下に見える大母神が閻魔大王(偽)を脇に抱えて尻を叩いている。
 やはりお仕置きと言えば尻たたきなのか?
 そのまま目にも止まらぬ速さで尻を叩く事小一時間…閻魔大王(偽)がマジ泣きのしすぎで涙が枯れた所でやっと大母神の溜飲は下がった。

『ほら何ばしよっと!!秋晴に謝らんね!!』
『ごめんなさーい』

 閻魔大王(偽)が平謝りに秋晴に謝罪する。
 確かに閻魔大王ではないが、紛れもなく神々の末席に名を連ねる一柱である。
 人間である秋晴に頭を下げるなど、本来ならばまずないのだが…母の力は偉大だ。

 子を守るのが母の仕事なら、叱るのもまた母の仕事だろう。
 ちなみに今更ではあるが、大母神は怒る時には関西弁になる…ただこれは大母神も意識的にやっているのではなく、自然となってしまうらしい…関西弁の方が迫力があるのは確かだ…若干九州弁も混じっているような気もする。

『あんたぁ罰としてこの魂ばちゃんと輪廻の内側に返して来んね』

 大母神が指差すのは完全に忘れ去られていた安置だ。
 持っているのが面倒になった秋晴が祭壇の隅に放置しているが、未だに目を覚まさない。

『ええ~めんどくさ』
『ごちゃごちゃいとったらまたしばくぞ!!それから今後5000年は顔見せんな!!他の神と接触も許さん。自分の世界の管理だけしちょけ、定期的に確認すっけん!!勿論また同じ事したらこんなもんじゃすまさんぞ!!』
『うひぃ~!!』

 とっくに枯れたと思っていた涙をまた流し、閻魔大王(偽)は退場した
 すでに数回似たような物を見た秋晴は、その後ろ姿を見送った。

『さて…毎回騒がせてすいませんね、秋晴』
「はぁ…」

 視線を前に戻せば、先ほどまでのキジョは夢か幻だったのではないかと思うような大母神がいた。
 この豹変と言うか二重人格ぶりにも割となれが来ているので驚かない。

 大母神が軽く手を振ると、祭壇の中央に二枚並んだ畳が現れた。
 その上には湯気を立てる湯呑がある。
 おそらく茶だ。
 視線を戻せば大母神がその場で膝をつき、こちらと目線が合うようにしてくれている。
 その手に在るのは勿論自分用の特大湯呑だ。

 中のお茶を溢さないように大母神がその場に座れば、大母神と秋晴の視線がちょうど同じ高さになる。
 別に隠しているわけではないが、この祭壇の中途半端な高さの理由を知る者は神の中でも少ない。

『禁止しているのに、時々思い出したように誘惑に負けてしまう子が出てしまいます』
「はぁ…」

 やはりというかパターンというか…さっきの閻魔大王(偽)の愚痴が始まった。
 大母神の憂いに、どう答えればいいか分からない秋晴は曖昧な返事を返しながら畳に上がり、自分用のお茶をすする。
 緑茶か…。

『…最初は本当に間違いだったのに…』

 過去…それは生まれたての神が起こしたいくつかのミスが原因だった。
 基本的に神とは世界を管理する存在である。
 それぞれに自分の世界を持ち、発展させようとするものだ。
 各々の神が担当する世界にはそれぞれ違いがあり、特色がある。

 科学技術が発達する世界…魔法が発達する世界…あるいは人間が存在しない世界など…その神の持つ“神格”次第では複数の世界を持つことも可能である

 神は己の属性や考えによって世界を運営していくが、しかし生まれたてのその神にはそんなノウハウがなかった。
 元々、生まれたての神はすべからく他の神が運営する世界を回り、運営のノウハウを学んでそれをもとに自分の世界を作るのだが、その途中…とある世界でその神の為に一つの命が散る事件が起こった。

―――これが一つ目のミス。

 自分を助けるために死んだ人間を見た神は混乱した。
 人生というか、神生経験が少ないために純真過ぎたという事もあるのだろう。
 とっさにその人間の魂をその世界の神の許しなく回収してしまった。

―――これが二つ目のミス。

 即座に回収した魂をその世界の担当する神に渡し、輪廻に戻してもらえばいい物を、その神は焦ったあまり、“作ったばかりの自分の世界の輪廻”にその魂を放りこんでしまったのだ。
 つまり俗に言う転生物と言う奴の最初の人間である。

―――これが三つ目のミス。

 結果から言うと…その人間は世界に劇的な変化を起こした。
 自分の世界から持ち込んだ技術、知識を広め、生まれたての神の世界を大いに発展させたのだ。

―――これが四つ目のミス…と言うか誤算。

 神の持つ神格と言う物は、所有する世界に影響を受ける。
 異世界の人間と言うファクターを受け、急速な発展を見せた世界の影響は、生まれたてで最も低い位階だった神の神格を一気に中位の上位置まで引き上げる事になったのだ。
 神と同じく作られたばかりの世界であっただけに、文化レベルも低く、他の世界よりも多くの伸び白があったのも大きかった。

『その後、皆が揃って真似をし出して…』

 当時を思い出した大母神が疲れた声を出す。
 神格と言うのは本来そう一気に変化しない。
 数百年、数千年かけて、担当の神が徐々に世界を発展させていくものだ。
 いきなり急速な変化しないのは、神自身が直接世界に干渉できない事が大きい。

 神は担当する世界と繋がっている
 つまり、世界はそれ自体が担当する神の一部でもある。
 故に、それに強制的に手を入れる事は自分で自分を手術することに等しい。

 フィクションに時々自分で自分を手術する天才外科医が出てくるが、あれは空想の中にのみ存在するからこそ可能なのであって、仮に可能であってもまずする奴はいない
 どんなに簡単な手術だろうと失敗する可能性が高すぎる。

 そのため、神は信託と言う形で間接的に導こうとする。
 ちなみに、悪魔という存在はいない。
 いるのは神だけだ。

 両者の差は、神託を受けた人間が成功したか失敗したかで別れる
 要するにいい目を見た人間が神と呼び、失敗した人間が悪魔と呼ぶだけであって二つは同一の存在だ。
 故に、数多の宗教に在る神と悪魔の最終戦争など起こりようがないのだが、それを知らない人間は、特に信者を集めたい宗教関係者を中心に世界の終末を煽る…真実を知る者から見れば実に滑稽である。

そういった人間にはしりようのない事情から、神の神格はそうそう一気に上がらない…ただし、生まれたばかりの神がやった方法なら話が違う。
 自分の世界ではない世界からの来訪者…それは強烈なカンフル剤となりうる特異点だ。
 
 すでに高い神格を持つ神には必要ないが…秋晴が閻魔大王(偽)を偽物と見破った理由はここにある…まだ低い位階の神にとっては数百年の退屈な世界管理をショートカットする裏ワザに見えたのだろう。
 転生者やトリッパー達がいくつかの世界を跨いで現れ始めた。

『最初の方は良かったのですが…』

 数柱の神が己の位階を上げる事に成功した。
 だが同時に“失敗”も出だした。
 いきなり手に入れた力に溺れる者…あまりにも自分勝手すぎて世界を発展させるどころか衰退させる者…安置のように神のお墨付きだと言う事で横暴を働く者…終いには貰った力で世界を崩壊させる者まで現れ始めたのだ。

…神は間違わない…違う、神だって間違う。

 伝承や伝説を紐解けばそんな例などいくらでもあるだろう。
 何を持って間違いとするかは各々に基準があるだろうが、世界を衰退させた揚句に崩壊させるという事態はどう言いつくろっても間違いだし、そうなるとそれを管理する神もただではすまない。

 先にも言ったとおり、世界は神とつながっている。
 それが崩壊するという事は、神がその力の一部を失うに等しい。

 さらに最悪な事に、オリ主が暴走した時、該当世界の人間ではほとんど対抗できない事がほぼ同時に判明した。
 原因はオリ主の能力だ。
 オリ主たちの能力は基本その世界の神から付加された力だ。
 つまり、その世界の加護を得ているに等しい…それに対し、たとえ主人公とはいえ世界の一部である以上、太源がバックについているオリ主には勝てない…勘違いをしてはいけない…オリ主が強いのではなく、その能力が強いのだ。

 ならば力をあたえた神ならばとも思うが…元々、自分で世界に干渉できないから送り込んだオリ主だ。
 その排除に神が動く事もまた世界崩壊の危険に繋がる。
同時に、ある程度以上の力…世界の崩壊を回避できる程度の神格を持つ他神の干渉も同様だ。
神々は世界を救い、発展させるために送り込んだはずなのに、世界に仇なす敵となったオリ主たちの横行を、文字通り見ているしかなかった。

 何より、衰退した世界、崩壊した世界では必要以上の命がまとめて消える事となり、それを特に嘆いたのが大母神だ。
 神が彼女の子供なら、その世界は彼女の孫である。
 苦しみ、死んでいく世界に大母神の涙は止まらなかった。

 やっと事態が収束した所で、大母神がこの方法を禁止したのは当然と言えば当然だろう。

『それなのに…未だにあのような子が出てしまう…何度育て方を間違ったと思った事か』
「…やはり命の危険がないのが大きいのでしょう」

 神は不死だ。
 確かに、世界が崩壊すれば神はその力の一部を失うし痛みも伴う。
 しかもその痛みは世界が再生するまでの数百年は続き、癒される事はない…しかしその程度の時間は悠久の時を生きる神にとっては我慢できない物ではないのだ。
 世界が再生すれば、また同じように管理して行くだけ…神の負うリスクは“その程度”でしかない。
 先ほどの閻魔大王(偽)の受けた5000年の接触禁止にしても、神にして見ればちょっと長いと感じる位、自分のした事の反省を促す程度の時間だ。
 その長い長い繰り返しの中に変化を求める時、悪い事だと分かっていながら誘惑に魅力を感じてしまった時、神は人と同じように欲望に負ける。
 
『何時も嫌な思いをさせてごめんなさい』
「いえ、確かにバカの相手をすると疲れますけど、大したことはありません」

 オリ主にはバカ…夢見がちな人間が選ばれやすい。
 更に言うなら思考が柔軟でもあまりものを考えない人間が好ましい。
 理由は二つほどあるが、どちらも都合がいいからだ。

 第一に、転生やトリップなど死んだ直後に別の世界に行かないかと言われて、そんな常識はずれな事を受け入させやすいし、異世界に行かせやすい。
 
 第二に、これが重要なのだがほどほどに頭の良い人間は自分と言う存在が世界に与える影響を考えて、積極的に動かなくなる可能性がある。
 
 例えば、未来で刑事になる人間を、邪魔だからと排除したとする。
 この際手段は問わない。
 重要なのは、その人間が刑事にならなかった運命をたどった世界においては、本来捕まるはずだった犯罪者が野放しになり、解決するはずだった事件が未解決になるかもしれないと言う事だ。
 究極的に、死ぬはずの人間が生き残り、生きているはずの人間が死ぬ事もありうる。

 所謂、バタフライ効果という奴だ…どこぞのオリ主がたいした事もないのにこの言葉を使うが、その本当の危険性は同一時間軸では無く、未来に置いて何が起こるか分からなくなる事に在る。
その結果としてより良い結果になる可能性を否定はしないが、逆に原作より悪い結果にもなりかない運任せな行為だ。

 特に今回のように、物語を下地にした世界において安置のように主人公を強制退場させてなりかわろうとする行為は相当の理由がない限り最大級のタブーであり、大母神が定めだたオリ主の禁則事項、その第壱条に該当している。

 主人公の排除が第一の危険行為にあたるのは、彼等は多くの場合で世界の存亡にかかわる事になるからだ。
 つまり世界の衰退と崩壊にダイレクトに関わってくる運命…というよりも関わることが決定している。
 「それなら俺が代わりにやってやる」…と安置辺りは言うだろう…実際言っていたが、はっきり言ってそれは不可能だ。
 確かに最初のうちは“原作知識(カンニング)”で上手くやるだろうが…“原作”を外れた時点で連中は役立たずになる。
 映像として描かれていない部分にも当然生活があり、エピソードがある。
 中には主人公だから、主人公にしか解決できない事もあるだろう…それに直面した時、オリ主たちは対応できなくなる。

 元もと、ちょっと力を持っただけの基本一般人が、元々の高いスペックに加え、原作にない場所で日々の練習や積み重ねを経た主人公よりうまくできるはずがないのだ。
最終的に手に負えなくなるのは当然と言える。

 二次元ではなく、三次元の存在となった以上それは当然の話なのだがそれを理解していないマニュアル世代のオリ主たちは「テンプレ通りいかない!!」と騒ぎ出す。
 現実が二次創作のように都合良くいけば苦労はしない。
 最後は自力で対応しなければいけない山積みの問題を前にして、安置のようにパニックを起こして、責任を放り出し、逃げだす者もいる。

 好き勝手やった後始末を誰がすると思っているのか…酷い時には原作を全く読んだ事が無く、二次創作のトンでも設定の知識だけで原作介入して人間関係や社会体制をめちゃくちゃにした挙句、秋晴が回収に行った先で「あはは、まってたよ~。神様の使いだよね?失敗しちゃったからリセットしてもう一回チャレンジさせて、あっ能力は別のにしてね」と言いだしたオリ主に会った時には、秋晴の意志を待たずに体が動き、奴の鼻骨をへし折っていた。
 そう言う輩に歪ませられた世界にも命はある、生活がある…それらを誰より見捨てられないのが大母神だ。

『本当なら私自らがやるべきことなのに…結果として貴方を私の我儘につき合わせてしまっているわ…』

 欲望に負けた神の過ちを正すのが…秋晴の役目だ。
 暴走したオリ主を止める術は該当世界の人間にも神にもない。
 唯一の例外が、同じように“神に力を付与された人間”…これ以上の悲劇を止めるため、大母神が定めた世界崩壊につながる禁則事項…それに違反したオリ主を捕まえ、本来の輪廻に戻すそのために大母神が選び、“いくつかの力を授けた”人間…秋晴は大母神が選んだオリ主なのだ。
 
「俺は自分で毒を制すための毒になる事を選んだんです。もう俺の世界みたいなのは嫌ですから…」

 そう言って…秋晴は儚く笑う。
 その笑みに大母神は何時も心を打たれるのだ。

 秋晴のいた世界は何処にもない。
 心ないオリ主が自分の欲望を優先させ、好き勝手にふるまったせいで衰退し、崩壊した世界において、秋晴は最後に生き残った人間だった。
 崩壊の後に再生した世界はあるが、秋晴のいた世界とは似ているだけの別の世界である。

『秋晴、貴方は私達神を恨まないのですか?』
「はは、その質問も何度目ですか?まあ一時期はそんな事もあったようななかったような…でもオリ主全員がそうってわけじゃない事も知りましたし…まあ今回のような馬鹿は徹底的にやりますよ。潰してから輪廻に戻します」
『秋晴…あ…』

 尚も声を掛けようとした大母神が何かに気づいた。
 それが何かを問うまでもなく、予想のついた秋晴が薄く笑った。

「仕事…ですね?」
『ええ、魂が一つ、世界を渡った気配がしたわ、戻って早々悪いと思うけど、行ってくれるかしら?』

 大母神は命令しない。
 その神格と存在を考えれば、秋晴に顎で指示してもいいはずなのだが…彼女はいつもお願いの形をとる。
 決して秋晴に強制はしない…秋晴が拒否すれば役目からの解放だって受け入れる…それが秋晴を彼自身が嫌う存在とする時に決めた彼女なりのけじめだ。
 もはや慣れたやり取りだが、未だに続いているこのやり取りが、秋晴は割と気に入っている。

「それじゃあ行ってきます」
『ええ、子供(神)の事は任せておいて…きっちりしばいたらあ…』

 さっそく怒れる母親モードに入った大母神に背を向け、秋晴は歩き出した。
 そうやって、自分が主人公になる世界を持たない…失ってしまった英雄は…今日も馬鹿を殴って世界を救う。



 
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