魔法少女リリカルなのはSCARLET ~紅い狼の伝説~
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第1話 大きすぎる器
前書き
自分の正体を知らない
それは不幸であると同時に幸せでもある
無論、知らずに生きていけた場合のみの話だが――――
―???―
気がつくと辺り一面が白かったのは、きっと雪の中で寝たからですね、はい、おやすみなさい・・・
「ってちょっと待てぇえええええい!」
・・・何ですか、人がせっかくいい気持ちで寝ていたというのに。それも雪の中でですよ。子供の頃から夢見ていたもののうちの一つがやっと実現しているんですから邪魔しないでもらえます?
「いやいや、そういうわけにもいかないんじゃが。それに雪の中じゃないからここ!」
そう言われて自分が寝ていたところを改めて見てみましたが・・・むう、確かに雪ではありませんね。
「どこですか、ここ?」
「ここは境界じゃよ、あの世とこの世の」
・・・はい?あの世とこの世の境界?
「じゃあ俺は・・・」
「そうじゃ、死んだんじゃよ紅神司。お主は20年の人生に終止符を打ったんじゃ」
そうか・・・“やっと”死んだんだな、俺。
「そして、本来なら魂のリセットが行われて生まれ変わるのじゃが・・・」
爺さん(顔見て気づいた)は俺の顔をじっと見た。
「俺の顔に何か?」
「いや、そうではなくてな、魂のリセットを行いたくても行えない事態が起こったんじゃよ」
そう言うと爺さんは、懐から透明な瓶を二本取り出した。右手にはよくある小瓶、左手にはその四
倍はありそうな瓶を持って・・・訂正、浮かせている。
「お主ら人間全員の魂の器の内側には、この瓶の中のように、一種類の液体、つまり人格や魂といった情報が備わっている。これは本来、器一つにつき一種類の人格や魂しか宿らんのじゃよ。ほれ、こんなふうに」
じいさんが右手に持っ・・・浮かせている瓶の中には真紅の液体、それも瓶のふたギリギリのところまで満たされている。これが魂を表しているなら納得だ。
「じゃがな」
そう続けたじいさんは、もう片方の大きな瓶に目を向けた。
中には先程の小瓶と同じくらいの量の黒い液体、だが、瓶が大きすぎるために、瓶の半分より下、体積から考えると四分の一くらいまで注がれている。
「このように魂の器が大きすぎる例があるのじゃよ。そうなると人間一人の魂では、到底器を満たしきれん。そういう者たちは、器に合うように魂を作り替えられて誕生するんじゃ。俗に言う“英霊”は全員、こんな感じの魂なんじゃよ」
「待て、俺は英霊の魂については興味ないんだが」
「いいから話を聞け!・・・そして、お主の魂の器もこのように大きく、考えようによっては英霊に成り得たかもしれなかったのじゃよ」
「成り得た?成れなかったじゃなくて?」
「うむ、お主が持つ魂の器の大きさは、英霊になるには十分だったのじゃが、中に入った魂そのものが小さくてな、使えたはずの力が使えずにそのまま死亡。しかも器に合わない魂は、たとえ死んだとしても、英霊のように“座”に送られるわけでも、リセットされるわけでもなく、そのまま、ここ境界をさまよい続けるというわけじゃ」
「・・・にわかに信じがたいが・・・爺さんが言うなら本当なんだろうな」
「そうじゃ・・・って、今ワシのことを爺さんと呼んだか!?わしゃ神じゃぞ!?」
「んなこと最初からわかってるっつーの。別に爺さんでもいいだろ、呼んで減るわけでもあるまいし」
「まあそうなんじゃが・・・と、話が逸れた」
自分で逸らしたんだろうが。
「お主のような例は初めてでな、たとえ強制的にリセットしたところで、“こちら側”に何が起こるかわからんのじゃ。そういうわけで・・・」
「・・・?」
「お主にはこのまま“転生”してもらう!」
じいさんは俺を指差してニカっと笑って言った。
・・・転生か。
「といってもどの世界に転生するかはワシにもわからん!出来たところで魂の変革、お主らで言う能力の強化程度がやっとじゃ」
「案外出来ること少ないんだな、神様なのに」
「下手に手を出して魂を壊してもシャレにならんからな、まあ元はといえばわしらの方で起こった手違い、お主の望む能力を言ってみるが良い。幸いにも魂の器は大きすぎるのじゃから、たいていの能力は付加できるぞ?」
そうか・・・それならまずは・・・
~能力選定中~
「・・・っし、これくらいかな」
「なんじゃ、つまらんの、この程度しか付け加えんのか。もっと強くしてもいいんじゃぞ?乖離剣の六爪流とかやらんのか?」
「やらねえよ。それやったら世界崩壊とかじゃすまねえって」
俺に英雄王や独眼竜を超えろというのか・・・
「まあ良い、能力付加はいつでもそちらからできるからな、好きな時に付け加えるが良い」
「ああ、そのときは頼らせてもらうよ」
「では、行ってこい、紅神司!」
そう言うと爺さんは俺を見えない“何か”で突き飛ばした。その瞬間俺の意識は途絶え、すぐに目の前が真っ暗になった・・・あ。
結局魂の器の問題、全然解決してねえじゃん・・・
どうすんの、これ?
―司のいなくなった???もとい“境界”―
「・・・ふぅ。よし、うまくいったな」
あやつが転生するのを確認したあと、ワシはようやくため息をつくことができた。まあ、無理もないじゃろう。
「まさか“特異点”がこんな形で見つかるとはな」
そう、今さっきここにいたあやつこそ、今後あの世界を修正しうる存在。あの大きすぎる魂の器も、あの魂自体も、全てはこれから起こることのために用意されていたのじゃろうな。
「しかしこの短時間で既に人格を二つ共有しているのがわかるとは・・・」
大きすぎる器の中、あやつの魂の色が“黒”という時点で薄々気付いてはいたが・・・まさか多重人格者だったとはな。
本来魂は全て何かの色に染まっている。純粋な何かの色に。じゃが、本来一種類しか器の中にない魂が、あのように黒、それも、ひどく澱んだ黒に染まることは、魂の中に人格を複数共有している以外に考えられん。
「果たしてこれが吉と出るか凶と出るか・・・」
もう時間がない。“アレ”の活動を止めるには、この十年で決着をつけなくては・・・そのためにも・・・・あやつに頑張ってもらうしかないか。まあ・・・大丈夫じゃろうな。
「あとは頼んだぞ、紅神司、いや―」
―“抑止の王”ツカサよ―
後書き
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