ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十二話:お風呂で一人反省会
ヘンリーに抱き締められたままその場に立ち尽くすこと、しばし。
黙ったまま、動くことも喋ることもしない私にどう思ったのか、ヘンリーが声をかけてきます。
「……ドーラ?大丈夫、か?」
どうだろう。
だいぶ、落ち着いたような気はするけど。
「うん。大丈夫」
でも、いつまでもこのままというわけにはいかないし。
いい加減、戻らないと。
ヘンリーが少し体を離し、私の顔を覗き込みます。
「……マシにはなったが。まだだな」
また、抱き締められて。
……そんなに、顔に出るのか。
でも、本当に。
いつまでも、甘えてるわけにはいかない。
気合いを入れて笑顔を作り、ヘンリーの胸を押します。
「もう、大丈夫。ありがとう」
ヘンリーが探るように、また私の顔を覗き込み。
「……そうか。……戻るか?」
「うん。戻ろう」
「部屋に、戻るか?」
「ううん。酒場に、戻ろう」
何があったかみんな大体わかってるだろうから、一度も顔を見せずに引っ込んだら心配させてしまうし。
「そうか。……無理、するなよ」
「うん」
体を離されて、包み込まれてた安心感のようなものが失われて、心許ないながらも一人で歩き出そうとしたら、手を引かれて。
「……ヘンリー。大丈夫だよ。一人で、歩けるよ」
誰も、見てないんだから。
絡まれたり、しないんだから。
「いいから。行くぞ」
あんまり、甘やかさないで欲しいんだけど。
私は、一人で歩かないといけないんだから。
「大丈夫だって」
「俺が、したいから。いいんだよ」
そうか。
役得ってヤツか。
昨日のことを思えば、振り払うのも今さらだし。
どうせ、あと少しのことだし。
それなら、あと少しくらい。
甘えても、いいか。
酒場に戻ると。
「おら、アラン!飲め飲め!」
「はい!今日は、飲みます!」
「そうだそうだ!飲んで、忘れちまえ!」
「そうよ!女はドーラちゃんだけじゃないのよ!」
「そうそう!あそこまでのは、なかなかいないとしてもね!」
「うう……」
「ちょっと!」
「ご、ごめん!大丈夫よ、もしかしたらどこかに、いないこともない、かもしれない、可能性が微粒子レベルで存在」
「うわーん!!飲んでやるー!!」
散々励まされ、浴びるように酒を飲まされてるアランさん。
「キャー!スラリンちゃーん!かーわーいーいー!!」
「ピキー!」
いつの間にか飲まされてしまったのか、ノリノリで跳ね回ってるスラリンに、囃し立てるおばさま達。
すっかり、出来上がってました。
「……どうしよう、これ」
「……いいんじゃないか?もう、戻っても」
「……そうだね」
私、飲めないし。
素面でこれに混ざるのは、正直キツい。
「ヘンリーは」
「戻るよ、俺も」
「スラリンは」
「後で回収しとく」
「……お願いします」
「おう」
私が、やるべきなのかもしれないが。
酔いつぶれた集団に女の身で踏み込むと、また余計な面倒が起こりそうな気が。
そんなわけで、奮い立たせてた気持ちが一気に萎えて、そのまま惰性でヘンリーに引っ張られて部屋に戻り。
「風呂、沸いてるってよ。入るだろ?先、入れよ」
オラクルベリーの大きな宿と違って、お風呂はひとつしか無くて、性別関係無く順番に入る形なんですけれども。
だからなぜ、私でなくヘンリーに言う。
……仕方ないか、さっきまでの状況では。
「うん。じゃあ、上がったら声かけるね」
「いや。待ってる。外で」
「……大丈夫だよ。この村に限って」
「いや。落ち着かないから。俺が」
過保護だなあ。
こういうとこ、パパンを思い出すわー。
パパンと違って、本当にやりたいことは普通にやらせてくれるから、いいけど。
ということで、小さな宿の、部屋からお風呂までの短い距離すらヘンリーに付き添われ、お風呂に入ります。
体を洗い、それなりの広さの湯舟に浸かり、まずは手足を伸ばして。
「……はあーー……」
溜め息と共に、膝を抱えます。
辛い。重い。へこむ。
もしかしたら勘違いでも、本気で好意を伝えてくれた相手を振るのって、辛い!へこむ!!
馬鹿じゃないの?
逆ハーとか、馬鹿じゃないの!?
無理。完全に、無理!
本命でも無い男をコロコロと掌で転がすとか、私には、無理!!
やっぱりアレだわ、イケメンもいい人も、普通に好きだけど!
本気で入れ込まれてしまう可能性が非常に高い以上、私のハーレムメンバーは、女性限定で!
男は、いいよ!
一人で、いいよ!!
でも、その一人を探す段階で、やっぱりこんなことはあるわけで。
ていうか、完全に選ぶ立場みたいなこと考えてるけどさ。
普通に考えて私、条件悪くない?
結婚相手として。
いくら、美女でも。
当面、旅を続けるつもりなんだからさ?
例えば私に惚れて結婚したいと思ってくれる相手でも、大体においてそれは、私が旅をやめる前提なわけで。
今日の、アランさんのように。
お互いの利害が一致しないから無理なだけなのに、それでもあくまで私が断る形になるわけで。
相手にすれば私に惚れてるわけだから、旅をやめてくれ!ってなるけど、私からすれば別に惚れてないわけだから、私を好きなら一緒に来て!とはならないから。
着いてこられそうも無い相手を、例え惚れてたとしても、無理に連れて行きたくはないが。だって、死ぬから。
……え?何?
惚れられた側が、自分を曲げて合わせることを求められて、断ったらこっちが悪い感じになるの?お高くとまってる的な?
……酷くね?それ。おかしくね?それ。
普通に家庭を築きたいなら最初から、普通に家庭に入ってくれそうな相手を選べば良くね?
私がいくら美女だからって、家庭に入れたいなら、最初から惚れるべきでは無くね?
はっきりした目的を持って旅してる女とか、男の側で、検討段階で弾くべきじゃね?
それも、私が悪いの?
結婚相手に最低限求めるべき条件すら忘れさせてしまうほどに、美女過ぎるのが、悪いの??
……よし、気を付けよう。
旅に着いてこられないような男を、本気で引っかけてしまわないように、今後は気を付けよう。
アランさんは、仕方ないよね!
不可抗力だよね!
幼馴染みというか昔馴染みフラグは、勝手に立つ上になかなか折れないからね!
あとアランさんの場合は、保護者的視点というか。
一方的な好意の押し付けじゃなくて、そうすることであわよくば私が旅をやめて、平穏に過ごすことができれば、みたいな意図を感じたからね!
村のみんなが協力してたのも、きっとそういうことだよね!
しかしそこで弾くと、候補はかなり限られそうだなあ。
私、結婚できないかも。
フロルスくん(仮)も、いなそうな感じだし。
まあ、いいか。
パパンとママンを助けたあとでも、遅くは無いだろう!
多少年増でも、美女だし、王族だし!
なんとか、なるって!!
と、気を取り直したところで、体もすっかり温まったのでお風呂を上がり、髪を乾かしたりなんだりを済ませて廊下に出ます。
廊下で待ってたヘンリーが、別にいいのにまた部屋まで送ってくれて。
「髪。乾かすなら、声かけてね」
「ああ。後で行く」
別に拭いとけばいい気もするが、頼んでないとは言っても散々面倒みてもらってるし、折角のイケメンの髪が変に跳ねてるのもあまり見たくないので、これくらいは。
お風呂に戻るヘンリーを見送ろうとして、また過保護なことに部屋に押し込められ。
荷物を整理し、地図を見ながら明日の予定を考え、そうこうしてるうちに戻ってきたヘンリーの髪を魔法で乾かして。
「スラリンだけど」
「もう回収した。風呂にも入れて、もう寝てる」
うーむ。
結局、お風呂も添い寝も取られてしまったか。
まあ、いいか。
この先、いくらでも機会はあるんだし。
「ありがとう。じゃあ、おやすみ。ヘンリー」
「ああ。おやすみ、ドーラ」
明日からも、気持ちを切り替えて、頑張ろう。
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