ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十一話:嫌いじゃない
私の隣に座った男性、おにいちゃんは、十年前の時点で確か十四歳。
現在、二十四歳ですか。
うん、年齢的にもまだまだおにいちゃんでいける歳ですね!
ちなみに、ビアンカちゃんは『おねえさん』だったにも関わらず、彼が『おにいちゃん』であるのは。
血の繋がらない美幼女に『おにいちゃん』て呼ばれるなんて、ある種の男の夢だよね!
という私の残念な妄想を体現した結果であり、深い意味は無い。
「おにいちゃん、か。名前で呼んでくれないかな。アラン、て」
「おにいちゃんは、嫌ですか?」
男の夢じゃないのか!
この、ロマンがわからないというのか!
ていうか、名前は覚えてませんでした!!
いや、変な意味でなく。
おにいちゃんとしか、呼んでなかったので。
「嫌、ではないよ。ただ、名前でも、呼んでみてほしいなって」
「わかりました。アランさん」
私に名前を呼ばれ、顔を赤らめて嬉しそうに微笑むアランさん。
……うーむ。
まさか、まさかね。
「ドーラちゃんが無事に戻ってきて、本当に嬉しいよ。男の格好で、最初はその意味でも驚いたけど。本当に、綺麗になったね」
「ありがとうございます。アランさんは、……大人に、なりましたね」
逞しくなったとか、格好良くなったとかは、お世辞にも。
いや、いい人そうというか、実際のいい人ぶりが外見に滲み出て、大変に感じが良くはあるんですけれども。
たぶん普通に暮らすなら、良き夫、良き父親になりそうな。
……うん、普通に暮らすなら、良かったんだけど。
旅する私の相手には、無理かな。
無理して連れ回したら、それだけで死んでしまいそう。
「そうだね。僕も、大人になった。ドーラちゃんは、……旅を続けるのかい?」
「はい。母を、探したいので」
「そうか。うん、聞いたよ」
私がシスターに話したことは、他の人に話していいと言ってあったのでね。
ヘンリーも、話したのかもしれないし。
聞いてるなら、手間が省けて良かった。
「……少し、二人で話したいんだけど。いいかな?」
……まさか、ですね。
うん、わからんでは無い。
今はどうだか知らないが、少なくとも十年前の時点で、村には彼より年下の女性は、私しかいなかった。
妹のように可愛がっていた相手が、死んだと思ってたらひょっこり帰ってきて、大人になって綺麗になっていて。
妹に対する気持ちが恋愛感情に変わったとしても、なんら不思議は無い。
これ以上に思い入れる相手というのも、田舎の村ではなかなか巡り会わないだろうし。
あっちからしたら、運命的なものすら感じているかもしれない。
十年ぶりに再会したその日に感じた気持ちなんて、勘違いみたいなものかもしれなくても。
明日には旅立つ相手を前に、焦って行動に出るのも、仕方がない。
周りを見ると、目で何かを訴えかけてくる、おばさま方。
……ダメならダメで、ちゃんと振ってやってくれ、と。
……了解でーす……。
ヘンリーを、横目で確認します。
こちらを気にしてる様子はありますが、おじちゃん達に捕まって、なかなか戻ってこられないようです。
歳を重ねてやや萎んだがまだまだ頑健な師匠と、一回り大きくなったお弟子さんの、薬師の筋肉師弟にガッチリ両脇を固められてます。
おじちゃん達も、共犯の可能性がありますね。
まあ、変に引き摺らせないためには。
やっぱり、ちゃんと振ってあげたほうが、いいんだろうし。
邪魔が入らないうちに、さっさと済ませるか。
ということで、アランさんとふたりで席を立ち、酒場を出て階段を上がり、宿の外に出ます。
外に出て少し歩いたところで、アランさんが口を開きます。
「旅は。やめるわけにはいかないのかい?」
「はい」
そっちか。
うん、この人が、着いてくるという選択肢は無いよね。
死んじゃうもんね。
「お父さんに。パパスさんに、そうしろって言われた?」
「……いいえ」
痛いところを突くなあ。
一番、言われたくないところなのに。
「そうだよね。パパスさんなら、そうだろうと思った」
親馬鹿ぶりを、曝してたフシがあるからなあ。
そりゃあ、わかるか。
前を歩いていたアランさんが立ち止まり、振り返ります。
「ドーラちゃん。旅は、やめて。村に残らないか?」
残って、どうしろと言うのか。
わかるけど、答えるなら、ちゃんと言われてからでないと。
「村に残って。結婚して、家庭を持って。平凡ながらも、幸せに暮らす。そんな選択があっても、いいと思う」
そうだね。
そういう選択をする人がいても、いいと思う。
私が、そうでは無いだけで。
「……村に残って。僕と、一緒にならないか」
アランさんが、私の目を真っ直ぐに見詰めて、真剣な口調で言います。
……勘違いかも、しれなくても。
何の憂いも無く幸せに見えただろう十年前の私の表面しか知らなくて、この十年のことも、前世のことも。
何も、知らなくても。
それでもこの人は、この人なりに、真剣なんだ。
もしも私に、そこまで旅にこだわる理由が無かったら。
そうしたら、違う答えもあったかもしれないけれど。
「ごめんなさい」
真っ直ぐに見詰め返して答えた私を、また真っ直ぐにアランさんも見詰め返します。
「……僕では。ダメ、かい?」
どっちの、意味で?
「……ごめんなさい」
片方の意味でなら、違うけど。
もう片方なら、そう。
一緒に旅が出来ない相手を、してくれない相手を、どうやっても私は選べない。
「……僕が。嫌い?」
そんなわけ無いって、わかってるくせに。
正直に答えたら期待を持たせるようになってしまうこの聞き方は、ずるい。
「……君が旅を続けることを、パパスさんは望んでない。君のお母さんだって、きっと」
そんなこと、わかってる。
だけど私が、そうしたいから。
「……ごめんなさい」
どうして私は、謝ってるんだろう。
したいと思うことを、しようとしてるだけなのに。
それは、やっぱり悪いことなんだろうか。
私の大事な人たちが、誰もそれを望んでくれないなら。
応援、してもらえないなら。
アランさんが、困ったように微笑みます。
「そんな顔をしないでくれよ。苛めて、泣かせたいわけじゃないんだ」
私は、どんな顔をしてるんだろう。
「わかったよ。僕が悪かった。もう、いいから」
「……ごめんなさい」
この人は、悪くない。
心配して、想ってくれただけだ。
だけど、それなのに。
すごく、悲しい。
「……諦めるって、決めたところなのに。そんな顔をされると、抱き締めたくなるな」
どんな顔か、わからないけど。
こんな時こそ、演技力を発揮して。
笑えたら、いいのに。
「ドーラちゃん。おにいちゃんで、いいから。最後に、抱き締めても、いいかな?」
どう答えたらいいんだろう。
この人のことは、嫌いじゃない。
状況が違ったら、違う答えを返してたかもしれない。
でも抱き締めるって、それは
迷って、答えることも動くこともできずにいるうちに、アランさんの手がゆっくりと、私が避けられる程度にゆっくりと、でも確固とした意志を持って、伸びてきて。
動けない。
……けど。
…………嫌だ!
アランさんの手が私に届く寸前に、後ろから手を掴まれて強く引き寄せられます。
「……ヘンリーくん」
「ここまでは、待ったが。これ以上は、黙って見てる気は無い」
私の手を引いて背後に隠して、ヘンリーが私とアランさんの間に、立ってました。
「……そうだね。それは、僕の役目じゃ無かった。僕は、もう戻るよ。ドーラちゃん、それじゃ。本当にごめんね」
悲しげに笑って、アランさんが宿に戻っていきます。
いつの間にか息を詰めていたことに気付いて、大きく吐き出して。
目の前にある広い背中に、呼びかけます。
「……ヘンリー」
「謝るなよ。お前は、悪くない」
なんのことを、言ってるんだろう。
また面倒をかけて、謝ろうとは思ったけど。
まるで、私が。
誰かにそう言って欲しいと思ったことを、言ってくれたような。
「アイツが言ったのは、アイツの都合だ。お前が、自分を責める必要なんて、無い」
「……ヘンリー」
やっぱり、そういう意味で、言ってくれたの?
振り返ったヘンリーの顔を、見上げます。
見上げた顔が、苦々しく歪みます。
「……本当、なんて顔してるんだよ。アイツが、こんな顔させたのか。……くそっ、待たないで、さっさと邪魔すれば良かった」
本当に、どんな顔をしてるんだろう。
と思う間に、ヘンリーに抱き締められました。
「そんな顔、するなよ。大丈夫だ。俺が、いるから」
「……ヘンリー」
あの人のことは、嫌いじゃない。
状況が違えば、結婚してたかもしれない。
ヘンリーのことも、嫌いじゃない。
でも、私は、ヘンリーを選ばない。
なのに、なんで。
嫌じゃ、ないんだろう。
……十年、一緒にいたからだ。
慣れてるからだ。
だから、安心するんだ。
それだけだ。
本当は、振り払わないといけないのかもしれないけど。
もう少しだけ、このままでも、いいかな。
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