【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第四三幕 「相棒探しは計画的に」
前書き
遂にあの少女が牙を剥く・・・!?
前回のあらすじ:フラグは意外と折れやすい
「ぜぇー・・・ぜぇー・・・こんなに息を、切らしたのは、いつ以来かな・・・」
ユウは息も絶え絶えになりながらなんとかIS整備室へたどり着く。彼の髪の毛に葉っぱや折れた枝が引っかかっていることからもとんでもない逃走劇を繰り広げたことは想像に難くない。
ここの来たのはもちろん理由がある。実はここで鈴と簪の二人と待ち合わせしているのだ。要件はずばり『新技開発』のためである。
アンノウン事件後、3人はよく整備室で自分たちのISに備わる力を如何に上手く運用するかを研究していた。簪の『合体攻撃』を見たことによって鈴とユウは「第3世代兵器の新しい運用法を確立できないか」と考えたのだ。そして今日はその試みがようやく形になりそうとのことらしい。
「二人とももう来てるかな・・・あれ?鈴しかいない?」
ユウはついでに二人のどちらかにパートナー申請を頼んでみる予定だったのだが、何故か整備室には体操座りしている鈴しか見当たらない。その鈴もどこか遠い目をしており、こちらの存在に気付くと驚くほど緩慢な動きで立ち上がった。その瞳には暗い影が落ちている。
「鈴?いったいどうしたのかな?簪ちゃんは?」
「ユウ・・・ユウーーー!!!」
「え!?な、何!?」
突然泣きながら飛びついてきた鈴の普段見せない姿ににほんのちょっぴりだけドキッとしながらも、ユウは取り敢えず鈴を抱きとめた。なにやら他人に聞かれたら誤解を招きそうな光景に見えなくもない。小さな肩が震えている。いったいどうしたというのか・・・ははぁん?さては一夏が余計な事を言ったな?などと勝手に当たりを付けるユウに鈴は震える声で囁く。
「あたし、護れなかった・・・あたしには!」
ん?これは珍しく当てが外れたかな?どうも一夏関係ではなさそうである。
「いやいやそれだけじゃ何言ってるか分からないよ。取り敢えず深呼吸して事情を話してくれないかな?」
「うん・・・すー、はー・・・・・・あのね?」
ユウは落ち着くよう促し、どうやら少しは冷静さを取り戻したらしい鈴は事情を説明しだした。
~
「いきなりタッグとか言われてもねぇ・・・」
パートナー申請用紙をぺらぺらと弄びながら鈴はため息をついた。
鈴は友達が少ない。いや、この言い方には語弊がある。話し友だちと言える程度の人間はいるが、タッグ戦で背中を預けられるほど信頼できる友達が少ないのだ。
パッと考えただけで挙げられるのは一夏、残間兄弟、シャル、簪くらいのものだ。他にも実力者、専用機持ちはいるが・・・アンノウン事件以来暇があればいつもの2人と整備室に籠ってばかりいた鈴はそれ以外の女子たちと付き合いが短い。正直に言えば頼みにくい。
「・・・誰と組もうかしら。取り敢えず一夏は却下。ジョウも参加しないから除外ね」
元々は鈴から「トーナメントで優勝したら付き合え」という条件を出したのだ。それは「一夏より強いことを証明する」という意味合いも含まれている。
一夏の中での自分は未だに中学時代にあった頃と変わらない子供なのだろう。国籍の違いで虐められていたあの頃のままだと。だが、母国に戻ってから自分は努力を重ね、成長した。一夏に守られていた貧弱な自分ではなくなったつもりである。その成長した自分を見せつけて、もう昔の私ではないことを一夏に示したいのだ。簡単に言えば“私はこんな女になった!だからお前も私を昔と同じ子ども扱いするのは止めて、私を一人の女として見てくれ!”という事だ。
だから一夏と組む選択肢はない。一緒に居たくもあるが、一夏の協力で優勝というのは鈴の思いに反するものだ。
「なら次はシャルかな・・・うん、タッグの相方としてはこれ以上なく心強いわね」
鈴は何度かシャルの練習する姿を見たことがある。あの改造ラファールの性能、高速切替を用いた多彩な実弾武器の選択。射撃の腕もISの扱いの上手さは流石代表候補生と言った所か。同じクラスでよく話をするから彼女の性格も少しは知っている。冷静な判断能力に加え察しが良くかなり寛容なため余計な気を遣わなくていい。
射撃中心の戦い方をするようなので後方支援を任せるには申し分ないパートナーだ。
「・・・だけど、肝心のシャルがいないのよねぇ~」
彼女も相方を探しに行ったのか、将又別の理由なのかは知らないが、彼女の姿が教室内に見られなかった。今から探すのもいいが、生憎今日は自分も用事がある。
それは、自分のISである甲龍の第3世代兵器、“龍咆”の強化とユウの“新技”の手伝いだ。
アンノウン事件ではっきり分かったが、“龍咆”には衝撃砲を撃ち出す以外の運用方法がある。なまじ自国の技術だから思いつかなかったが、今まで砲身の形成にのみ使っていた空間圧縮技術を用いた全く新しい運用法があるのではと鈴は考えた。それを実行するために簪、ユウと3人共同で甲龍を改良したそれを今日テストすることになっているのだ。
「そうだ!簪に相方してもらおうかしら?あの子も射撃は得意だし何かと後衛向きよね」
マイクロミサイルに荷電粒子砲、接近戦用の武器も持っているから臨機応変に動ける。甲龍も遠近両方こなせるので案外面白い立ち回りが出来るかもしれない。
そう考えながらIS整備室の扉を開けた鈴の目に入ってきたのは・・・
「うふ、うふふふ、逃がさないよぉ・・・?君は僕とタッグを組むべきだ。いや!キミこそ僕の相方に相応しいよ!」
「いや、あの、待ち合わせが・・・」
「いいじゃないか待ち合わせなんて後でいくらでも埋め合わせが利くだろう!?さあ、僕と一緒に行こうよ!」
「え、その、今日の用事は急ぐ必要が・・・」
「君だからいいんだ。君にこそ頼みたいんだ。お願いだよ、簪ちゃん!!」
「・・・!り、鈴、助けて・・・!」
「えっと~・・・Do you 状況?」
何故か壁ドンで追い込まれている簪と、若干危ない笑みを浮かべるシャルの姿だった。
シャルはいつもの柔和な笑みではなくマッドな人っぽい他人を不安にさせる系の笑い方をしており、その瞳にもどこか狂気的な意思が宿っているように見える。
「つまりね、鈴。この出会いは運命なんだよ・・・運命なら、受け入れるしかないよね?という訳で簪ちゃんは貰っていくね?」
「いやいやいや言ってることが支離滅裂よシャル!?」
「じゃあ甲龍にはミサイル積載してあるの?」
「へ?いや後付で付けることはできると思うけど・・・」
突然何故ミサイルの話が出てくるんだと思いつつも返答する鈴。
IS用ミサイルはコストの割に使い勝手が悪く、世界的に見てもマイナーな武装だ。速度を重視すればホーミング性が下がって競技で使いにくく、逆にホーミング性を向上させると弾速が下がる。数を使った火力押し戦法だと拡張領域をやたら食うのでやはり実用的ではない。軍用となると話は少し違ってくるが、それはそもそも運用する状況が競技用と大きく違うからこそなのでやはり競技用ISにミサイルを搭載する酔狂は鈴の知る限り簪くらいしかいない。
その返答にシャルは一人でうんうんとしきりに頷く。
「なるほど、ますます決まりだ!さぁこっちだよ簪ちゃん!僕の秘蔵の武器を見せてあげるよ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと・・・!?」
ぐわしっ!と簪の右腕を鷲掴みにしたシャルは問答無用と言わんばかりに簪を連行していく。
鈴は焦った。今日実験する第3世代兵器の発展運用実験にはプログラム系に秀でた簪の協力が不可欠である。そしてパートナー候補がいきなり二人減るというのも鈴にとっては待ったをかけたいところだった。シャルが何故ミサイルがどうとか言いながら簪を連行しているのかは分かりかねたが、とにかく止めねばと思った鈴は簪の左腕を掴んで引き留めた。結果、鈴とシャルが簪を引っ張り合う構図に。互いに自分の目的を為そうと腕をぐいぐいと引っ張る。
「どうしたのよシャル!本人の意思を聞かないなんてアンタらしくもない!一度落ち着いて順序立てて説明を・・・」
「この学園には失望した・・・どいつもこいつも浪漫を解せぬ連中ばかり・・・でも簪ちゃん!キミは違う!キミが、キミだけが!!」
「駄目だこれ会話成立させる気がない!?」
「うう・・・二人、とも・・・痛い・・・!!」
苦悶の表情を浮かべる簪に2人ははっとした表情になる。簪は体が弱い訳ではないが流石に同年代の人間二人に思いっきり腕を引かれれば痛くもなるだろう。
「ご、ごめん!」
急いで手を離す鈴。だが・・・シャルは良く見ると手を掴んだまま。そのことに鈴が気付くか気付かないかのわずかな間にシャルは行動に移った。しまった、と自分の失態に気付いた鈴だが時すでに遅く、簪に伸ばした手はもう彼女に届かない距離となってしまった。
「じゃ、簪ちゃんは貰っていくよ~!!」
「ええ!?ま、待って・・・まだ二人にデータさえ渡してな・・・」
「ちょっとぉ!?そこはほら大岡越前守の名裁きよろしく私が・・・じゃなくて!」
鈴にとっては痛恨のミス。恐らくシャルは簪の声を聴いた瞬間私が咄嗟に手を離すことを見越して簪の腕をつかんだまま待っていたのだ。つまり、最初から交渉の場に持ち込む気が無かったのだろう。
咄嗟に伸ばした手は簪が同じくこちらに伸ばした手の指先と触れ合い、そして―――届かないまま無情にも扉は閉まってしまった。
「あ・・・ああ・・・!」
確かにシャルは特別付き合いが長い訳でも、親密な訳でもなかった。それでも彼女の普段の態度やジョウと仲がいいところを見て、いい子なのだろうと心根では評価していた。その信頼が、こんな形で裏切られるとは思っていなかった。
悔しい。こんなことになることを見抜けなかった自分が、シャルの心を動かせなかった自分が、簪の手を離してしまった自分が、ただどうしようもなく無力で、悔しかった。
==シャルロット・デュノアand更識簪 (強制的に)タッグ結成==
「という事があったのよ!!」
「じ・・・じゃあ、僕たちは今日の運用実験は簪ちゃん抜きでやるしかないってこと・・・?」
「しかもタッグでシャルと簪が除外されたわ・・・さっき学内情報で確認したけど、2人はもうタッグ申請を済ませてたわ」
「ど・・・どうするの!?だって今回の実験で使うプログラムはその殆どが簪ちゃんの担当だったじゃないか!これじゃ実験そのものが成り立たない・・・」
「・・・ううん、簪と連絡は取れないけど、さっき打鉄弐式からコア・ネットワーク経由でメッセージが送られてきたわ」
そう言いながら鈴はISと接続したデータ操作端末の画面をユウに向ける。そこには短く「うけとって」というひらがな5文字のメッセージだけが書かれていた。そのメッセージと一緒にプログラムファイルが添付されている。
「これは・・・もしかして」
「さっき確認したけど、これには簪の組んだ私たち用の更新プログラムが入ってた・・・あの子を助けられなかった私の・・・ううん、私達のために、最後の力を振り絞って送ってくれたんだと思う」
シャルロットに誘拐された簪が残した最後のメッセージ。このデータがあれば実験自体は出来る。
ただ、そこには最もこの実験に貢献した彼女の姿はない。あの様子から見て、もう彼女は大会が終わるまでは此処に戻ってはこれないだろう。何より既に大会の開催まであと3日しかない。実験とプログラムの見直し、微調整などを考えれば時間の余裕は全くない。彼女を取り戻す時間も、だ。
ユウは無力感にさいなまれた。友達を助けに行けない己の無力さ、もう少し早くここについていればという意味の無い仮定、彼女を見捨てなければ大会の仕上げに間に合わないという残酷な事実がユウの心臓を締め上げる。
「簪ちゃん・・・君は、君って子は・・・!最後まで僕たちの事を思って・・・!!」
俯くユウに、鈴は意を決したようにずいっと目の前に立った。
「ねえ、ユウ・・・アタシとタッグ組まない?」
「・・・鈴と?」
「うん。あたしたち二人で実験してさ、新しい力を手に入れてさ・・・それで大会でシャルを倒して簪を取り戻そうよ!無理やり連れて行って戦わせるなんて間違ってるって、あたしたちの思いでシャルの目を覚ましてあげようよ!」
ね?と優しく声をかける鈴の姿にユウは少なからず衝撃を受けた。彼女だって簪を助けられずに辛い思いをしたはずなのに、彼女からは経って前へ進もうという強い意志が感じられた。
専用機持ちで代表候補生、ついでに中学時代からの友達である鈴。一度一緒に戦ったこともあるしタッグの相方としては申し分ない。それに、彼女の言葉は悲哀に沈んでいた自分の心に少しだけ暖かさを灯してくれた。思いが同じなら、道は交わる。
「・・・・・そっか。そうだね。このままなんて間違ってる・・・簪ちゃんの託してくれたデータを無駄にしないためにも・・・!!」
「シャルの目を覚まして簪を開放するために・・・!!」
2人はその場で固い握手を交わした。その固い意志を湛えるかのように力強く、互いの掌はその燃える情熱を表すかのように熱かった。
==残間結章and鳳鈴音 タッグ結成==
後書き
簪、無茶しやがって・・・
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