ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第六十一話 目指すべき場所は――
「そう言えばさあー」
「ん?」
ウインドウショッピングにいそしんでいたリーファに向かってのんびりした口調でキリトが口を開いた。
「サラマンダーズに襲われる前に何かメッセージ届いてなかった?あれ何だったの?」
「・・・・・・あ」
「今思い出しましたって顔だな」
口をあんぐりとあけたリーファにソレイユがツッコむ。慌ててメッセージウインドウを開くリーファ。しかし、目的の人物はALOからログアウトしてしまったのかフレンドリストの名前はグレーになっていた。
「何よ、寝ちゃったのかな」
「なら、一度現実にもどってそっちで連絡を取ってみたらどうだ?」
ソレイユの言葉にリーファは少し考える仕草をしてから口を開いた。
「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるから、キリト君たちは待ってて。あたしの体、よろしく。――それから、ユイちゃん」
「はい?」
「パパたちがあたしに悪戯しないように監視しててね」
「あ、あのなあ!!」
まだ先ほどのことを引きずっているのか、そんなことをいうユイに言うリーファ。キリトは心外だ、というように首を振るうキリト。そのキリトに向かって笑うリーファ。そして、手近なベンチに腰掛けるとログアウトしていった。
「さて、と」
そういって何かのアイテムを実体化させながら中身の入っていないリーファに近づいていくソレイユ。それを見たユイがソレイユに注意を促す。
「にぃに?リーファさんに何しするんですか?」
「いや、ちょっとな」
そう言って実体化させた棒状のアイテムの端っこをつまみ、キュポッという音を立てながら実体化させた棒状のアイテム――すなわち、マジックのふたを開けた。
「悪戯するなって言われると、したくなる性分なものでね」
「そうなんですか・・・って、違います!!悪戯する気満々ですか!?」
「もちろん」
「普通に肯定しないでください!!」
ちなみにキリトはここにいない。近くの屋台に何か喰い物を買いに行っている。すなわち、ソレイユを止められるのはユイのみということである。しかし、悲しいかな。そのユイすらソレイユを止められるかどうかわからない、いや十中八九止められないだろう。
「だめです、にぃに!リーファさんに悪戯しないように言われてるです!!」
「知らん」
そして、リーファの顔は無残なことになってしまった。どんな顔になったかは想像にお任せするとしよう。当然、リーファが戻ってくる前にそれは消しはした。しかし、ちゃんとスクリーンショットを残しておくソレイユの抜かりなさを褒めるべきか呆れるべきか迷うところである。
◆
リーファがALOに戻ってきてから最初に眼にしたのは、落ち込んでいるユイの姿とそれを必死で慰めているキリト、そして何食わぬ顔でその光景を見ているソレイユだった。
「ど、どうしたの?」
「ユイの名誉のために言えんな」
原因であるソレイユだが、それを感じさせることなくリーファ言う。ソレイユの言葉に疑問を抱きながらもリーファは言う間も惜しんで口を開いた。
「キリト君、ソレイユ君――ごめんなさい」
「え、ええ?」
「ん~?」
「あたし、急いでいかなくちゃいけない用事が出来ちゃった。説明してる時間もなさそうなの。たぶん、ここにも帰ってこれないかもしれない」
そう語るリーファからただならぬ雰囲気を察したのか、顔を引き締めてリーファの眼を見つめるキリト。その姿を横目に見るソレイユ。そして、キリトは一度頷いてから口を開いた。
「そうか。じゃあ、移動しながら話を聞こう」
「・・・・・・え?」
「それでいいな、ソレイユ」
「ご自由に」
キリトの言葉に肩を竦めながら答えるソレイユ。それを見たキリトはリーファに向かって聞いた。
「どっちにしてもここからは足を使って出ないといけないんだろう?」
「・・・・・・わかった。それじゃ、走りながら話すね」
そう言って三人はルグルーを出て湖にかかる橋を走っていく。そこで聞かされたのはシルフとケットシーの階段をサラマンダーが邪魔をしようとしていることだった。ALOを始めて日の浅いキリトは各種族の勢力図がわからないためリーファにいろいろ聞いている。その隣でソレイユはルシフェルがまだサラマンダー領主モーティマーと交渉していないことを悟った。しかし、別にそれとこれは無関係であるため特にルシフェルを責めたりはしない。だが、ソレイユとしてもシルフとケットシーの領主が討たれてしまうのはソレイユ的に見てもあまりよろしくない。
そこまでソレイユが考えたところで、リーファは足を停めてしまう。それを見たキリトとソレイユも足を停めた。
「世界樹の上に行きたい、っていうキミの目的のためには、サラマンダーに協力するのが最善かもしれない。サラマンダーがこの作戦に成功すれば充分以上の資金を得て、万全の態勢で世界樹攻略に挑むと思う。スプリガンなら、傭兵として雇ってくれるかもしれないし。――今、ここで、あたしを斬っても文句は言わないわ」
そう言うリーファ。それを聞いたキリトは呟くような小声で口を開いた。
「所詮ゲームなんだからなんでもありだ。殺したければ殺すし、奪いたければ奪う。そんなふうにいう奴には、いやっていうほど出くわしたよ。それもこの世界の一面だと思う。でも、そうじゃないんだ。仮想世界だからこそ、どんなに愚かしく見えても守らなきゃいけないものがある。俺はそれを――大切な人に教わった・・・・・・自分の利益のためにそういう相手を斬るよなことは、俺は絶対しない」
「キリト君・・・」
キリトの言葉にリーファが感動していると、キリトはソレイユに向かって口を開いた。
「ソレイユはどうなんだ。ここでリーファを斬るっていうんなら俺も相手になるぜ」
身構えるキリトにソレイユは溜息を聞かぶりを横に振った後、口を開いた。そこには多分な呆れが含まれていた。
「いや、おれの目的はもともと領主なんだけど・・・」
「は?」
「え?」
ソレイユの言葉に驚くキリトとリーファ。そんなことお構いなしにソレイユは言葉を続けていく。
「昨日、お前らがログアウトした後領主館を訪ねたらいないって言われたんだよ。できるだけ早く次に行きたかったからお前らと一緒にシルフ領出て来たんだ。あとでまた行こうかなとか考えながらな。でも、シルフとケットシーが同盟を組むとなると領主の調印が必要になるだろ。ならそこに行けば俺の目的は無事に達成できるという訳だ。反対する理由はないな」
「じゃ、じゃあ、これからその調印式に向かうってことでいいのか?」
「ああ」
それを聞いたキリトは肩に乗った小妖精のユイに向かって言った。
「それじゃあ、ユイ、走るからナビよろしくな」
「りょーかいです!」
「ちょっと手を拝借」
「え、あの――」
そう言って未だに状況が呑み込めていないリーファの手を掴むキリト。その後、ソレイユに目配らせをする。それを受け取ったソレイユははいはいと言いながら地面を蹴った。数瞬遅れてキリトも地面を蹴る。
「わぁ―――――――っ」
結構な速度で走っているキリトに掴まれているリーファは悲鳴を上げた。本来ならここに登場するMobはそれなりにレベルがあるはずなのだが、先頭を走るソレイユが全部斬り裂きながら走っているためトレインという非マナー行為は避けられている。だが、今のリーファにそんなことを気に掛ける余裕はなかった。
「出口が見えたぞ」
ソレイユの言葉がリーファの耳に届いた直後、視界のすべてが白で埋め尽くされ、次いで足元から地面の感覚がなくなった。
「ひえぇぇぇぇっ!?」
だが、そこはそこそこ古参であるプレイヤー。即座に翅を使い体制を整えた。体制を整えられたことに案著した後、改めて状況を把握するとキリトとソレイユを睨みつけた。
「――寿命が縮んだわよ」
「どれくらい?」
「え、えっと・・・」
ソレイユのふざけた疑問に返答ができないリーファ。先ほど睨めつけていた覇気もうはどこにも見られない。そして、キリトは雲海の彼方に見える朧げな巨大な影を見据えていた。
「あれが・・・世界樹か・・・」
畏怖の念のこもった声音で呟いた。
「そんなことしてる時間、ないと思うんだけど?」
「・・・ああ、そうだな。こうしちゃいられない。リーファ、領主階段の場所ってのはどの辺りなんだ?」
「ええと、蝶の谷っていう山脈の内側の出口で行われるらしいから・・・あっちにしばらくとんだとこだと思う」
「了解。残り時間は?」
「会談が一時からだから・・・二十分って所!」
「急いだ方がいいかもな・・・」
「そうだな・・・ユイ、サーチ圏内に大人数の反応があったら知らせてくれ」
「はい!」
◆
「それにしても、モンスターを見かけないなあ?ソレイユ、何か知ってる?」
「知らん」
「あ、このアルン高原にはフィールド型モンスターはいないの。だから階段をわざわざこっち側でするんじゃないかな」
リーファの有難い解説にソレイユは納得し、キリトは納得すると同時に少し悔しがっていた。そこで、ユイが叫んだ。
「プレイヤー反応です!前方に大集団――六十八人、これがサラマンダーの強襲部隊です。さらにその向こう側に十四人、シルフ及びケットシーの会議出席者だと予想します。双方が衝突するまであと五十秒です」
その言葉が終わるのと同時にソレイユたちの視界にもその光景が何とか目視できた。五人一組でくさび型のフォーメーションを組み、密集して飛行している。その集団が向かう先には長いテーブルと左右七人ずつ座れる椅子が据えられていた。会議をしていると思われるシルフ、ケットシーの領主族の首脳陣はサラマンダーの軍勢に気付く様子はなかった。
「――間に合わなかったね・・・ありがとう、キリト君、ソレイユ君。ここまででいいよ。キミ達は世界樹に行って・・・短い間だったけど、楽しかったよ」
そう言ってダイブしようと翅を鋭角に畳んだ時、キリトの右腕がリーファの手を握った。慌ててリーファがキリトの顔を見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」
そう言って、ユイを胸ポケットに入れると羽を思いっきり震わせて猛烈な加速を開始した。それを見ていたソレイユはやれやれと言ったような表情をしていた。
「んじゃ、俺たちも行こうぜ」
「ちょ・・・・・・ちょっとぉ!!なによそれ!!」
少しばかり感傷的になっていたリーファが色々と台無しにされて思わず抗議のために叫んでしまったが、悲しいかなそれを気にする者などいなかった。
そして、目指す先ではようやくサラマンダーの大集団の接近に気が付いたシルフとケットシーだが、時はすでに遅かった。空中に包囲網を展開するサラマンダー集団。陣営が展開し終えると、先頭にいた一人がさっと手を上げ――振り下そうとしたその瞬間、クロ隕石と化したキリトが両陣営の間に割って入り、馬鹿でかい声で叫んだ。
「双方、剣を引け!!」
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