ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第六十話 剣の一つの究極は――
「さて、今はどういう状況なんだ?」
突如湖から這い上がってきた影――ソレイユは周りを見渡してからキリトとリーファに向かって口を開いた。だが、いまだ状況が呑み込めていないのか茫然としている二人に代わってユイが答えた。
「にぃに!そちらのサラマンダーたちはパパを倒すために対策までして来ているです!」
「ふぅーん」
ユイの言葉に少しばかり考える仕草をしたソレイユは、おもむろにサラマンダーの集団に向きなおりゆっくりとした足取りで距離を詰めていく。それを見たユイが大きな声を上げた。
「な、何してるんですか、にぃに!?」
「いや、要はあいつら敵なんだろ?」
「そ、それはそうですけど・・・」
絶体絶命の危機に直面しているにもかかわらず、のんびりとした雰囲気を出し続けるソレイユ。なぜこんな状況下でそんなのんびりできるのか、とユイは困惑を深めた。高性能なAIであるユイをもってしてもソレイユという人物を理解することはできないらしい。いや、逆に高性能なAIだからこそ、常識にとらわれないソレイユの行動が理解できないのだろう。
「なら倒すだけだ。来るもの拒まず、去る者追わずってね」
そう言うと再びゆっくりとした速度で足を進めるソレイユ。そして、とうとう理解が追い付いたのか、考えるのをやめて敵となりうるプレイヤーを排除しようと思ったからなのか、ついにサラマンダーたちが動き出した。最後方にいたメイジのリーダーらしき人物が魔法を唱え始めると、そのそばにいたメイジ達も、はっとしてから同じ魔法の詠唱を始める。そして、ここに来てようやく状況を飲み込めたのかキリトが復活した。
「下がれ、ソレイユ!そいつらの戦法は――」
「物理攻撃特化型モンスター戦用のフォーメーション、だろ。見ればわかる」
「じゃ、じゃあ・・・」
「それに、お前のほうも何か考えがあるみたいだしな」
そう言ってソレイユはゆったりとした歩調でサラマンダーの群れに歩いていく。そして、サラマンダーたちの魔法がソレイユに襲い掛かる。しかし――
「甘いのなんのってな」
と言いうと、ソレイユは迫り来る火の球を紙一重で躱していく。ある程度追尾性能を備えた曲線弾道魔法とはいえ、直角には曲がらない。だからこそ、ソレイユの様な回避行動ができるのである。
そして、火の玉の嵐が収まるとそこには無傷なままでソレイユが歩いていた。それを見たサラマンダーたちは怯んだ。
「まっ、こんなもんでしょ」
そう言って、ソレイユは腰に差してある≪ザ・ネームレス≫を抜いてから、サラマンダーたちを一瞥すると地面を蹴る。
ソレイユの標的となったサラマンダーたちは迫り来るソレイユに慄いて逃げ出そうとしたが、部隊のリーダーが叫んだ。
「陣形を崩すな!相手は一人だ!」
その言葉を聞いた前衛陣は改めて持っていた盾を構えてソレイユの攻撃に備える。それを見たソレイユは――
「甘いなぁ」
瞬時にサラマンダーとの距離を詰め、ニヤリと笑って言った。そして、ソレイユは盾を構えた三人のサラマンダーを間合いに納めると、大きく一歩踏み込み抜刀していた刀を左下から切り上げた。
当然、それを盾で防ぐサラマンダー。しかし――
「その程度でおれの剣を防ぐことは無理だ」
その言葉の直後、右端のサラマンダーがポリゴン片と化した。何が起こったのかわからないといった表情でリメインライトとなった。隣にいたサラマンダーも後ろで魔法を使用していたサラマンダーも、そして味方であるはずのキリトたちもソレイユのしたことに理解が追い付いていなかった。
「隙だらけだぞ」
「・・・ひぃっ!?」
そして、今度は右下から隣にいたサラマンダーに斬りかかった。咄嗟に盾を構えるサラマンダーであったが、虚しくもそれはソレイユには通じなかった。グラスが砕けるような音を残し、また一人リメインライトと化した。
盾で防いだにもかかわらず、なぜリメインライトと化すのか、その場にいる全員がわからず驚愕している。そこにソレイユの声が響いた。
「いやー、出来てよかったわ。優秀だな、まったく」
褒めているのか呆れているのかよくわからない言葉を述べるソレイユ。しかし、今ここにいる全員にとってそれはどうでもよかった。
「な、なにを、した・・・」
後ずさりしながら残った前衛のサラマンダーはソレイユに聞いた。それにソレイユは笑みを浮かべながら口を開いた。
「“剣の一つの究極は刀を己の一部とすること。そして、さらなる至高は己と刀が一つになる境地”。ある有名な剣術家が残した言葉だ。刀身一体とはよく言ったものだな。まぁ、お前らに言ってもわからないと思うがな」
皮肉気に笑うソレイユ。そして、盾を持った最後のサラマンダーを容赦のかけらもなく斬り捨て、ソレイユは後方へふり向き言った。
「んじゃ、あと頼むわ。キリト君」
ソレイユの向いた先にはグリームアイズに似た悪魔がいた。
◆
あれから十分と経たずにサラマンダーたちは全滅した。しかし、リーファが相手の情報を聞き出すために尋問要員を一人だけ確保しようと、最後に残ったサラマンダーを食おうとしていたキリトに待ったをかけた。
「さぁ、誰の命令かとか色々はいて貰うわよ!」
「こ、殺すなら殺しやがれ!」
「この・・・」
その様子をソレイユはメニュー画面をいじりながら横目で見ていた。なかなかはく気配を見せないサラマンダーだったが、悪魔と化していたキリトが黒い霧に包まれると元の菅とに戻ったキリトが現れた。
「いやあ、暴れた暴れた」
のんびりした口調でそう言いながらキリトはサラマンダーのもとに歩み寄っていくと――
「よ、ナイスファイト」
と言って相手を褒めた。まさか褒めらると思っていなかったサラマンダーは目をまるくした。そんなことお構いなしにキリトは言葉を続ける。
「さて、ものは相談なんだがキミ。これ、今の戦闘で手に入れたアイテムなんだけど、俺たちの質問に答えてくれたら、これ全部キミに上げちゃおっかなーなんて思ってるんだけどなー」
メニューウインドウを見せながら言うキリト。すると、生き残ったサラマンダーはきょろきょろと周りを見渡した後、キリトに確認するように聞いた。
「・・・マジ?」
「マジマジ」
にやっと笑みをこぼしながら言うキリトを見たサラマンダーもにやっとした笑みを浮かべる。交渉は成立したようである。
◆
サラマンダーから事情を聞いた後、ソレイユたち一行はルグルーへと足を運び現在は必要なアイテムの買い揃えと軽いウインドウショッピングを楽しんでいる。
「そう言えば、ソレイユ君」
「ん~?どうした?」
リーファの呼びかけにソレイユは立ち止まり振り返る。
「さっきの戦闘で盾を持っていたサラマンダーたちを簡単に倒してたけど・・・あれってどうやったの?」
「あー、あれね」
キリトのようにパワーに頼らないで戦うリーファの視点で考えれば、ソレイユのような技術は身に着けておきたいと考えても不思議ではない。
「あの時も言ったが、有名な剣術家が残した言葉を実行しただけだ。そう、おれがやったのはたったそれだけのことだよ」
あれだけのことを成しといて“たったそれだけ”としか言わないソレイユ。そう言える実力者がはたしてこの世界に何人いるだろうか、とリーファは戦慄するしかなかった。もはや別次元の強さだと思わざるを得なかった。“剣士”としての格の違いを見せつけられたような気さえしたのだ。
一人の剣士が導き出した一つの究極。それが“刀身一体”。これは剣士だけにあてはまることではない。武器を持つもの全てに言えることである。己が手にする武器を道具として扱っているうちは未熟者であり、武器と一つになれてこそ初めて熟練者と言えるのである。
「まぁ、あれだ・・・」
「あれって?」
聞き返すリーファにソレイユは微笑みながら口を開いた。
「おれが強いってだけのことだよ」
後書き
知ってる人は知っている、ソレイユの言い回しの元ネタを!
ある漫画に感銘を受けたので、引用してみました!
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