銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百五十八話 ヴァンフリート星域会戦 その7
前書き
お待たせしました。いよいよ次回でヴァンフリート会戦も終了ですが、ラインハルトの胃が持つかキルヒアイスの毛根が持つかの状態に。
宇宙暦794年 帝国暦485年4月3日
■自由惑星同盟 ヴァンフリート星域 銀河帝国軍総旗艦 ヴィルヘルミナ
「ケスラー艦隊より入電、叛乱軍基地の制圧完了、捕虜の移送も終了したとのこと、また罠の準備も終了したとのことです」
オペレーターが嬉しさを滲ませた声で報告をあげる。
「どうやら、卿の秘蔵っ子は活躍したようだな」
難しい顔をしながら報告を聞いていた装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将に宇宙艦隊司令長官エッシェンバッハ元帥が茶化すように話しかける。
「元帥、ランズベルク准将は未だ未だといえますな」
「卿の基準では何時までもヒヨコ状態なのだな」
オフレッサーの態度にエッシェンバッハが笑う。
この遣り取りによって、緊張気味の艦橋内に笑いが起こり、司令部要員の緊張が程よく解れた。流石、数十年も戦場で暮らしてきた2人であるから素早く緊張をほぐす事を考えついたのである。
「ケスラー提督に連絡“これより第三段階に入る。卿の艦隊は所定の位置にて待機し第四段階に備えよ」
エッシェンバッハの命令に総参謀長グライフス大将が通信参謀に命令を伝えている。
「レーテル艦隊の準備も終了したとのことです」
続いてヴァンフリート4=2で後方基地攻撃を擬態するレーテル提督の艦隊からも準備が済んだとの報告が入る。彼の艦隊は、ヴァンフリート4=2の極冠氷海を持続性核融合弾で溶かし、その水面に戦艦型ダミーバルーンを浮かべ、如何にも一個艦隊が停泊しているように見せる仕掛けを行っていたのである。
この作業は、ラインハルトが命じられ、フレーゲル達からは“下賤な俄男爵に相応しい泥仕事だ”と散々馬鹿にされたが、渋々命令には従ったが、益々フレーゲル達、門閥貴族に対する怒りを溜め込んでいった。
準備完了の報告を聞き、エッシェンバッハの命令が下る。
「レーテル提督に命令“貴艦隊は作戦通りに行動せよ」
「はっ」
更にエッシェンバッハは命令を出す。
「全艦隊、敵艦隊が餌に食いつき次第、ヴァンフリート4=2へ順次進撃せよ」
司令長官の命令が復唱され、全艦に歓声が上がる。
■自由惑星同盟 宇宙艦隊総旗艦 アイアース
繞回進撃を行っていた同盟軍は、各艦隊間の連絡すら不能になるほどバラバラに進撃した結果、総司令部直属艦隊とその他の艦隊との間隔が異常なまでに広がり、どこにどの艦隊が居るのかすら判らなく成っていた。
「第五艦隊旗艦リオグランテ応答せよ、第五艦隊旗艦リオグランテ応答せよ」
「第六艦隊旗艦ペルガモン応答せよ、第六艦隊旗艦ペルガモン応答せよ」
「第十二艦隊旗艦ペルーン応答せよ、第十二艦隊旗艦ペルーン応答せよ」
「第五艦隊応答なし!」
「第六艦隊も行方不明だと!」
「第十二艦隊の位置は此処だが」
「それは昨日の位置情報だ、古すぎて使えんぞ!」
艦橋では参謀達が各艦隊の位置が判らないと大騒ぎしていた。
その喧噪をイライラしながら、総司令官ロボス元帥は眺め、総参謀長グリーンヒル大将は困惑しながら見ているしかなかった。
ヴァンフリート星系は恒星ヴァンフリートが不安定なために電波の通りが悪い為連絡がし辛くそのために各艦隊の連絡が滞ってしまっていた。その為、旗艦アイアース旗下の艦艇が著しく不足し、総旗艦が孤立する恐れが生じていた。
「仕方ない、連絡艇を出すしかない」
「時間は掛かるがそうするしかないだろう」
連絡不能の各艦隊に向かって連絡艇が次ぎ次ぎに出発していった。
そんな中、無駄飯ぐらいのヤンこと、ヤン・ウェンリー大佐は足をコンソールに投げ出しながら、暇そうになにも仕事をしないで、事態の推移を考えていたが、端から見ると役立たずにしか見えなかった。
■自由惑星同盟 第五艦隊旗艦 リオグランテ
「何、帰還命令だと」
第五艦隊司令官ビュコック中将は、副官ファイフェル少佐が持ってきた帰還命令書を読みながら、参謀長のモンシャルマン少将に話しかけた。
「少将、この状態での帰還は危険だな」
「そうですな、このまま反転した場合、敵艦隊の鼻先を掠めることに成りかねません」
「そうなると、此処はこのまま進撃した方がよさそうだ」
二人の話を横で聞いていた、副官のファイフェル少佐がビッコックに問いかける。
「では、総司令部にはどう連絡なさいますか?」
ビュコックは少し考えながら答える。
「迷子に成った、第五艦隊は迷子に成った。いや連絡は不要だな。シャトルの連中には酒をたんまり飲ませて寝てもらってしまえ」
ビュコックは敢えて総司令部の命令を無視することにしたが、その事がどの様な結果をもたらすかこの時点では判らなかった。
その後、進撃を続けた第五艦隊は、ヴァンフリート第四惑星に近傍を通過しつつある中で、ヴァンフリート4=2後方基地から緊急連絡が入ってきた。それは一方的に全方位に流された物であったが、後方基地が帝国軍一個艦隊によって攻撃されつつあると言う物であった。
「ヴァンフリート4=2の後方基地からの緊急通信です」
ファイフェル少佐から渡された、救援要請の電文を読んだビュコックはモンシャルマンに渡す。
電文を読み、驚くモンシャルマン少将。
「これは、司令官、如何為さいますか?」
「罠かも知れん、しかし見捨てる訳にもいかんだろう」
ビュコックは本質的には戦略家ではなく戦術家であって、その気質が罠の危険性を配慮しつつも、ヴァンフリート4=2宙域へと艦隊を急行させる事を決断させた。
幕僚達に自分の判断を伝え艦隊をヴァンフリート4=2上空への急速移動を指示した。
そしてモンシャルマン少将に自分の考えを伝えた。
「少将、こいつは出発点こそ、単なる遭遇戦に過ぎないかもしれんが、或いは低気圧の中心みたいに、嵐を呼び集める事に成るかもしれんぞ、その結果がどうなるか、生きて見届けたいものだな」
指令を受けたファイフェルがエマーソン艦長に聞こえるように大きな声で復唱する。
「進路変更、110°目標ヴァンフリート4=2」
ビュコックは後方基地を助けるべく艦隊を4=2へと向かわせたが、まさかその緊急電自体がケスラーの仕掛けであり、無人と成った後方基地からの自動発信だと気が付かなかった。此により同盟軍はテレーゼが考案し、ケーフェンヒラー大将が味付けした嫌らしく狡猾な罠にはまったのである。
4月5日
■ヴァンフリート4=2宙域
銀総旗艦ヴィルヘルミナでは同盟軍第五艦隊がヴァンフリート4=2へ向かうことが確認されると、歓声が起こった。
「閣下、敵艦隊は罠に掛かりつつあります」
「うむ、全艦隊、順次進撃せよ」
エッシェンバッハの命令にホイジンガー艦隊を先鋒に順次4=2宙域へと進撃していく。
ヴァンフリート4=2へ接近した第五艦隊は直ぐさま偵察型スパルタニアンが発艦し偵察に向かった。程なくして、4=2後方基地付近で地上戦闘マシン同士の戦闘が確認されたが、量的にも帝国軍に押されているのか、次々に同盟側の装甲車両が撃破されていくのが判った。
無人状態にもかかわらず、戦闘しているように見える絡繰りは、偵察用スパルタニアンが近づくの後方基地の早期警戒レーダーで感知し、その指令でケスラー達が置いた無人で動けるように改造した地上攻撃メカが、一定の時間になると主砲やミサイルを発射して、如何にも後方基地を攻撃しているように見せていたのである。
そんな中、第五艦隊を追撃してきた帝国軍主力艦隊は狭い宙域の戦闘用マニュアルを作成し、艦隊運動をそのパターンで行い、味方が必要以上に集まらないようにしながら、新開発のIFF(敵味方識別装置)により味方艦が射線上に入ると自動的に発砲が出来なく成るシステムを使い、的確に同盟軍の艦艇に攻撃を加えていく。
同盟軍側は余りに狭い宙域により、戦術的展開が困難ながら、名将ビュコックの手腕で一進一退の攻防を繰り広げている。
帝国軍側は、狭い宙域に進入せずに4=2上空に第五艦隊が居座るように調整を行いながら押したり引いたりしながら攻撃を加える。アステロイドベルトに隠れるレーテル艦隊は完全に機関をミニアムにし小惑星にアンカーを打って停泊状態で待機している。帝国軍は余裕を持って同盟軍の全艦隊が集まるのを待っているのである。
第五艦隊ではビュコックとモンシャルマンが話していた。
「敵も中々、痛い所を突いてくるの」
「はい、地上部隊はそのまま捨て置くようですな」
「こちらが攻撃し辛いとわかっておるのだろう」
「そうですな、あの近距離では艦載砲は後方基地ごと吹き飛ばしてしまいますから」
「その為に、敵は態々4=2から引いている訳だな」
「弱りましたな」
「そろそろボロディンが何とかしてくれるはずだて」
「総司令部に救援要請だされないのですか?」
「少将、儂は士官学校を出ておらんで、総司令部のエリートさん達には受けが良くなくてな。その点、ボロディンなら儂の言いたい事を判ってくれるからの」
「なるほど」
エッシェンバッハの命令で、ノラリクラリと同盟軍第五艦隊と戦闘を続ける中、遂に両軍が待ちわびた同盟軍の増援が現れた。
第十二艦隊到着の報がもたらされると、ビュコックは苦笑しながら自分の耳朶を摘んで呟いた。
「やれやれ、ようやくボロディンが来てくれたか、だが、彼には迷惑なことじゃろうて」
ビュコックの連絡で到着した第十二艦隊司令官ボロディン中将は、あまりの混雑にあきれ顔で呟いた。
「艦隊戦を行うにはヴァンフリート4=2宙域は狭すぎる」
それでもボロディンは艦隊を何とか広げ戦闘可能な状態まで艦形を直したところで、第十二艦隊を押し出す形で、第六艦隊が進撃してきた為、ボロディンの苦労も水の泡と成ってしまった。
同盟艦隊の押し合いへし合いを確認したエッシェンバッハ元帥は不敵な笑みを浮かべて、畏怖堂々と命令を下した。
「全艦、総攻撃用意、レーテル艦隊、ケスラー艦隊突入せよ!」
グライフス大将が復唱し、艦橋中に響く。
待ちに待った命令にオペレーターも嬉々として命令を伝達する。
アステロイドベルトでは、命令が伝わると、レーテル中将がノロノロと命令を出し、銀河基準面から見て第十二艦隊の側面下方から攻撃を行い始める。突然の襲撃に混乱中の第十二艦隊に次々と爆炎が上がり一瞬で千隻近くが撃沈された。
第十二艦隊旗艦ペルーンでは攻撃を食らった瞬間直ぐさまボロディン中将が命令を出していた。
「不味いぞ、これは、しかし未だ未だ。先方は第五艦隊に任せ、本艦隊は90°回頭し側方から攻撃して来る敵艦隊に攻撃を集中し敵艦隊の楔の先端を挫け!」
奇襲を喰らいながらも名将ボロディンは直ぐさま押し合いへし合いの中艦隊を回頭させ、お世辞にも鋭い攻撃と言えないレーテル艦隊の攻撃を挫こうとする。
元々帝国軍でもお荷物扱いで練度も低く、貴族の指揮官が多いレーテル艦隊であるから、レーテル提督の命令も聞かずに、各貴族の勝手な命令で攻撃はてんでバラバラで集中した攻撃が全くできないで居る。そんな体たらくをラインハルトはイライラしながら見ていたが、腹の中では罵声を浴びせていた。
“阿呆共、俺に指揮権を渡せば、十分で敵を粉砕して見せるものを!何だこの攻撃は、赤ん坊よりタチが悪い!”
そのイライラを助長させる存在近くにいるノルデン少将でノホホンとしながら的外れな言動ばかりである。
「中々敵も天晴れな反撃だな」
「うむ、此処は反転が必要なのでは?」
更に五月蠅くレーテル中将にあれこれ意見する為に叫んでいるフレーゲル男爵達。
「何をしているのだ、あの攻撃は!中将もっと突撃せんか!」
「えええい!何だあの陣形は美しくないではないか!」
この連中のせいで、ラインハルトの怒りのバロメーターはMax状態になっていたが、姉上の為に爆発するわけにも行かずに、ストレスが溜まり続けていた。
■自由惑星同盟 第六艦隊 旗艦ペルガモン
ビュコックがエッシェンバッハ率いる三個艦隊三万九千隻を一個艦隊一万三千隻であしらい、ボロディンがレーテル艦隊一万二千隻を減ったとはいえ同数の一万二千隻で有利に戦闘する中、最後尾に位置する第六艦隊ではムーア中将が攻撃しようにもできない状態に苛つきながら、参謀達に当たり散らし、どうにか攻撃できないかと考えさせていた。
「どうだ、何とか成らんのか!」
「ヴァンフリート4=2宙域は狭くて、前に出る事は不可能です」
「それを何とかするのが参謀だろうが、この役立たずが!」
しかし、考えが纏まる前に第六艦隊は突然の攻撃に見舞われた。
オペレーターの声が艦橋に響いた。
「六時の方向に艦影」
「六時だと、ロボス閣下がいらっしゃったのか?」
悲鳴のようなオペレーターの声が艦橋に響いた。
「艦隊撃ってきました!」
「馬鹿な、此方は味方だ、撃つなと言ってやれ!」
「違います!艦型確認ワレンシュタインクラス、敵艦隊です!」
オペレーターの報告に“馬鹿を言うな”と怒鳴るムーア中将だが、後方の艦隊は次ぎ次ぎに攻撃を加えて来る。あっという間に、三千隻ほどが爆沈し其処でやっと敵だと判ったムーアは敵前回頭を命令した。
「全艦、180°回頭!敵艦隊に艦首を向けよ!」
参謀の一人が止めるがそれを無視しする。
「提督、回頭などしたらそれこそ袋だたきです。此処は無茶を承知で全速でアステロイドベルトへ突入し敵の勢いを削ぐ事が肝要です」
「五月蠅い、俺は卑怯者には成らん!」
「提督!」
「此奴を連れて行け!」
未だ意見する参謀を他の参謀に命じて艦橋から追い出したムーアの命令通りに第六艦隊は敵前回頭するが、その側面に次々に攻撃が集中していく。僅かな時間で、第六艦隊は七千隻を超す喪失をだす。
「戦艦ホースロー撃沈、戦艦ナルサス通信途絶、第三分艦隊旗艦アルスラーン撃沈、エステル少将戦死……」
ひっきりなしに入る損害情報に流石にムーアも驚き狼狽え顔が青くなり始める。
そんな中、オペレーターが悲痛な叫びを上げた。
「直撃来ます!」
■ヴァンフリー4=2宙域
第六艦隊を痛撃したのは、ケスラー率いる艦隊一万五千隻で、先鋒は言わずと知れたシュワルツ・ランツェンレイター三千隻で、旗艦シュワルツ・テーゲルではビッテンフェルト少将が全艦通信で叫んでいた。
「良いか、栄えある先鋒に我等シュワルツ・ランツェンレイターが選ばれたのだ、テレーゼ様の為にも敵艦隊を完膚無きまで粉砕せよ!」
艦隊中に“おう!”の声が響き渡り、その声に負けないほどの凄まじい攻撃の暴風を第六艦隊へ叩き付けていった。
「やれやれ、ビッテンフェルトだけで済んでしまいそうだな」
『全くだな、彼奴はこう言う一番に強いからな』
ミッターマイヤーとロイエンタールがそれぞれの旗艦でシュワルツ・ランツェンレイターの暴れっぷりを見ながら、話し合っていた。
結果として第六艦隊はシュワルツ・ランツェンレイターだけの攻撃だけで瓦解した。何故なら旗艦ペルガモンからの指令が途絶えた為、旗艦撃沈と判断したこの時点で生き残っていた先任者のマスカニー准将が撤退命令を出し、残存艦は我先にとアステロイドベルトへ逃げ込んでいったからである。
シュワルツ・ランツェンレイターは目測だけで一万隻近い敵艦を撃破していた。此処に同盟軍第六艦隊は全滅に等しい損害を得た事になった。
第六艦隊を撃破したケスラー艦隊の前には、レーテル艦隊を痛撃している第十二艦隊の無防備な側面が見えていた。
後書き
黒猪暴れまくりです。
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