銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百五十七話 ヴァンフリート星域会戦 その6
前書き
大変お待たせしました。
いやー今日は倉庫整理中に本が崩れてきて、世界の艦船を20冊ぐらい1.8mほど上から右側頭部に連続で当たって、痛い痛い、こぶが出来ました。
詰め込み過ぎの倉庫は危険だわ。
宇宙暦794年 帝国暦485年 4月2日
■自由惑星同盟 ヴァンフリート星系 ヴァンフリート4=2 同盟軍後方基地
弾火薬庫の火災が収まった後方基地には、次々と帝国軍の強襲揚陸艦が降下していく。その中には装甲擲弾兵として実績も人望も得る様になって来たランズベルク伯アルフレッドの姿が有った。彼は、装甲擲弾兵と一緒に降下するその他部隊の隊員にも同時に命令を出す。
「良いか卿等、我々は誇り高き銀河帝国の軍人である。降伏した敵は、叛乱軍と言えども、捕虜として丁重に扱うようにせよ。又略奪暴行は厳禁とする。此に違反した物は、例え貴族と言えども軍規に基づき厳格な処分を下す」
ランズベルク伯の言葉に装甲擲弾兵は皆、ニヤリと笑いながらトマホークなどの武器を掲げ肯定の“おう”というかけ声を上げる。しかし、その他の兵員は呆れた表情でランズベルク伯達、装甲擲弾兵を見ていた。
曰く、“雲の上におわす伯爵様が、装甲擲弾兵とは驚きだ”等であった。
強襲揚陸艦が着地すると、その中から完全武装の装甲擲弾兵が次々に吐き出されていく。彼等は一様に緊張した趣で、ヴァンフリート4=2の大地に足を着けていく。
早速指揮官のランズベルク伯が率先して後方基地から派遣されてきた同盟軍兵士と話し始め、基地の中へと入っていく。
窮鼠猫を噛むの諺のように、基地側の破れかぶれの罠の危険もあったが、指揮官ランズベルク伯が、出発前に『万が一、敵が謀って自分が捕虜になるような事があれば、基地を自分事消し去って頂きたい』と、ケスラー中将に言っていたのである。
そして、ランズベルク伯は、基地司令官セレブレッゼ中将に面会しに行った。
ランズベルク伯が通されたのは、司令官室で其処には、セレブレッゼ中将と副官サンバーク少佐とローゼンリッター連隊副連隊長シェーンコップ中佐の三人が待っていた。早速敬礼を行うランズベルク伯、そして答礼する3者。
「銀河帝国軍准将アルフレッド・フォン・ランズベルクです」
20代半ばまで行っていない風貌のランズベルク伯にセレブレッゼ中将は驚きを隠せない。
「准将……」
そう言って一瞬詰まってしまったが、気を取り直し答礼を行う。
「自由惑星同盟軍中将シンクレア・セレブレッゼです」
自信満々な風が、体全体から発せられているランズベルク伯と、自信が全く無くチワワの様にオロオロしているセレブレッゼ中将の姿を見ながらシェーンコップは考えていた。“フォン持ちとは言え相当な場数を踏んだ人材だな。帝国にも面白い人間が居るものだ”とランズベルク伯に興味を持つようになっていた。
シェーンコップがその様な考えをしている中、ランズベルク伯とセレブレッゼ中将との間で、降伏に関する事柄が話し合われていく。
「中将、我々は卿等を名誉ある捕虜として扱う事を、皇帝陛下に誓い履行いたします」
セレブレッゼ中将は、そう言われても、帝国と言えば自分達を叛徒と呼んでいる事も有り、中々信用できないと言う表情で口ごもる。
「私としては、降伏には異存がないが、階級に適した正当な処遇を求めたい、無論生命の保証は第一にお願いしたいが」
この期に及んで自分の生命の保証を先に話すセレブレッゼ中将の態度にサンバーク少佐とシェーンコップは呆れていた。
そんなセレブレッゼ中将を見ながらランズベルク伯は“叛乱軍にも自らの命が惜しくて部下の事など後回しな人物がいるのものだ”と考えていたが顔には出さずに、労うように話しかける。この辺は貴族として生まれて以来の社交辞令で切磋琢磨された感性で如何様にも対応できるのであるから。
「中将、ご安心を先ほど申したように、我々は皇帝陛下より、卿等全ての生命を保証し名誉ある捕虜として正当な処遇をする事を申し遣わされております。この事違える事はございません。ご婦人の方は特にご安心頂きたい、このランズベルク伯アルフレッドの命に替えても無体な目には遭わせは致しません」
堂々とした態度のランズベルク伯の姿に益々、サンバーク少佐、シェーンコップの興味は増した。更にシェーンコップの悪戯で、この会見が基地全体に流れた結果、ランズベルク伯の格好良さと、対照的なセレブレッゼ中将の格好悪さが目立ちまくった。
自分達の指揮官の情けなさと自己中心的な言動に依って、ランズベルク伯に対する悪感情が減り、特に婦女子ではランズベルク伯の精悍な姿とその言動に安堵感を得る事になる。その後、捕虜として帝国へ移送された際にも約束通りに一切の危険な行為に遭わなかった為、“約束を守る人、格好いい人、素敵な人”と言う話が流れたのであった。
ランズベルク伯アルフレッド、原作での平民であろうとも分け隔て無く付き合える帝国貴族中でも希代の良点を持つ男が、オフレッサーの指導で一皮も二皮も剥けた為、恐ろしいほどに優秀な人材に育ったのである。尤も私生活では相変わらずサロンで下手な詩を書いているのであるが、それは仕方が無い事である。テレーゼは何れ、メックリンガーに師事させるつもりであるが。
その後、武装解除が行われ、順番に降下してきた輸送艦、病院船に次々に乗船し護衛の元で星系外の安全地帯に移送されていった。
無論シェーンコップ達ローゼンリッター連隊も一切の報復等は行われず、返って装甲擲弾兵連中からは、勇者を称える行為として酒や肴を差し入れされて、皆、唖然としてしまった。
酒を受け取った後、シェーンコップにリンツが話しかけていた。
「副連隊長、なんだか拍子抜けですな」
「帝国産430年物か、此奴は良い味だ」
リンツの話を聞いているのか聴いていないのか、シェーンコップはワインを飲みながら韜晦してみせる。
「確かに、旨いワインですが、皇帝の話というのは本当なんでしょうかね?」
「本当だろうな、あの男は、伯爵だそうだ、貴族が皇帝の言葉と称して嘘を言ったんじゃ、ばれたら家名断絶とかざらに有るからな」
「その点を考えれば、他の兵は安心できるのでしょうが」
「我々ローゼンリッターは、帝国の裏切り者で怨嗟の的ですからね」
シェーンコップとリンツの会話にデア・デッケン中尉とブルームハルト中尉が入って来た。
二人の言葉にリンツが渋い顔をする。
「二人とも、態々不安を煽るような真似をするんじゃない」
「まあ、二人の言いようも判る気はするがな」
「副連隊長」
「隊員の中には“こんな豪華な酒を出すのは我々に対する最後の晩餐だ”と言っている兵も居ますし」
「そうそう、他の兵と違い、うち等は一寸前まで皇帝陛下の臣民でしたからね」
デア・デッケン、ブルームハルトの話しに、シェーンコップが答えた。
「恨み骨髄まで達すると言う訳か」
「副連隊長、笑っている場合ではありませんぞ」
「俺はあの、ランズベルク伯を信じるさ、あの男なら嘘は言うまい」
「そうでしょうか?」
「まあ、最後の晩餐だかなんだか知らないが、折角只で貰ったんですから呑まなきゃ損ですよ」
結局ブルームハルトの軽口で話が締めくくられ、そのままローゼンリッター連隊に対して報復や侮蔑を行う者もおらずに、戦闘終了まで宴会が続く事に成った。
宇宙暦794年 帝国暦485年 4月2日
■自由惑星同盟 ヴァンフリート星系 ヴァンフリート4=2 同盟軍南極観測所
仲間を見捨てる形になったヴァーンシャッフェ大佐はゾルゲ少尉達と共に南極点観測所への逃走を続けていた。
「帝国軍追撃はないんだろうな?」
「現在各センサーに反応がありません」
「そうか」
ホッとする大佐は暫くするとウトウトとし始め寝てしまった。此はゾルゲが大佐に軽い睡眠薬を密かに投与していた為であり、帝国側の追撃を受ける準備を行う為であった。
五時間ほどして、騒がしさに大佐が目を覚ますと車内のゾルゲ達が必死の表情で話しあっていた。
「どうしたのだ?」
「大変です、故障して機動不能な状態になってしまいました」
その言葉に驚く大佐。
「何だと、こんな所で故障などしていたら逃げ切れんぞ、直ぐに修理を始めるんだ」
「既に始めていますが、この所とみに補修部品の品質にバラツキが多くて」
「いいから、何とかするんだ!」
兵の苦労も知らずに怒鳴る大佐を皆が冷めた目で見ていたが、実情を知るゾルゲ他数人は細工が済んだとほくそ笑みながら、帝国軍の捕虜として、追撃してくる予定の迎えを待つのであった。
その僅か1時間後には、帝国軍の巡航艦が現れ威嚇砲撃を行い降伏を勧告した。
ヴァーンシャッフェ大佐は為す術もなく、帝国軍の捕虜となり、恥をさらす羽目になり、“部下を見捨てて逃げた臆病者”として捕虜達から冷たい目で見られる事になり、完全にローゼンリッター連隊員からの支持を失った。
全てがテレーゼの掌の上で踊らされた事であった。
宇宙暦794年 帝国暦485年 4月3日
■自由惑星同盟 ヴァンフリート星系 レーテル艦隊旗艦バンベルク
バンベルク艦内で、ラインハルトが自室から艦橋へ向かう最中にフレーゲルの従兄弟であるヴェルナー・フォン・シャイド大佐が待っていた為、途端に機嫌が悪くなる。
「おや、此は此はシェーンヴァルト男爵、今日のご機嫌は如何ですかな?」
「たった今、悪くなった所だ」
「それはそれは、体が丈夫でないようですな。流石は顔だけで寵姫になられたグリューネワルト伯爵夫人の弟君ですな」
「なに」
アンネローゼの事を馬鹿にされたラインハルトは拳を握りしめ殴りかかろうとする。その遣り取りをフレーゲル男爵達はにやつきながら物陰から眺めていた。何故ならラインハルトに先に殴りかからせ、加害者として処分する気であった。
「それに、武勲もなく出世だけするとは、私のような陛下と何の繋がりもない一男爵とは大違いですな」
「貴様!」
「どうしましたか?図星で八つ当たりですかな?」
普段であれば、キルヒアイスが居て、どうにかする所であるが、生憎と此処にキルヒアイスが居ない為、とうとうラインハルトが我慢できなくなり殴りかかるために腕を振り上げた。
“バシッ”と言う音と共に、ラインハルトの拳が握られた為、事態の推移に驚く面々。
「シェーンヴァルト准将、此処は戦場だ、無用な戦闘は止める事だな」
其処には、頭髪をオールバックに決めたキルドルフ少将がシャイド男爵を殴ろうと振り上げたラインハルトの拳を掴んでいた。
「なにを……」
何が起こったのか判らない状態の面々。
「フッ、キルヒアイス大佐はこんな事では激昂せんと思うぞ」
ラインハルトは、姉を馬鹿にしたシャイドを殴らせないキルドルフを睨み付ける。
「黙りか、おい其処に隠れている連中出てこい、出てこないならオフレッサー閣下を卿等の屋敷にお邪魔させるぞ」
呼ばれたフレーゲル達は巫山戯るなと隠れ場所から出てくる。
「装甲擲弾兵風情が、何を言うか」
開口一発フレーゲルが過去の事を忘れたかのように威張りくさる。
フレーゲルが出てきた事で、ラインハルトは自分が罠にはめられそうに成っていた事にやった気が付き、それを阻止してくれたキルドルフを睨み付けるのを止めた。
「フレーゲル男爵は、誇り高き帝国貴族でしたな」
「それがどうした、下賤な平民のくせに!」
「何処ぞの男爵様と違って、小官は武勲を立てて、恐れ多くも皇帝陛下により直接、帝国騎士に任命されていますので、先祖の功績に胡座をかいて、男爵だの伯爵などと言っているお方よりよほど皇帝陛下に尽くしております」
キルドルフの言いようにフレーゲルが切れる。
「黙れ黙れ!お前など叔父上に頼めば頸を切る事ぐらい簡単だ!」
「ほう、公爵夫人の逆鱗に触れ永久追放されたのではありませんかな?」
事情通のキルドルフにかかれば、フレーゲルのはったりなどへのカッパ状態であり、次第にフレーゲルが喚くだけになった。
その間にキルドルフ配下の装甲擲弾兵が集まりフレーゲル達を威嚇した為、捨て台詞を残して逃げていった。
「貴様等、覚えておれ!このままではすまさんぞ!」
その言葉を聞きながら、装甲擲弾兵達は、中指を立て“一昨日来やがれ”と叫んでいた。
キルドルフに助けられる事に成ったラインハルトは、素直に礼を言えず、キルドルフから一方的な言葉を掛けられただけで別れたのである。
「准将、少しは我慢を覚えた方が良いぞ、何時までも赤毛の友人が隣にいるかわからんのだからな」
「キルヒアイスが、離れる事など無い!」
返事を聴かずに手を振りながらキルドルフは去っていった。
一人残されたラインハルトはキルドルフに対して感謝の気持ちより“余計な事を”という感情が湧いてきてしまってしまっていた。
此は人生経験が全く足りない為のコミュニケーション不足が原因と言えた。
後書き
この世界のラインハルトは原作に比べて圧倒的に人生経験と武勲が足りませんから。
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