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八条学園怪異譚

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第三十九話 狸囃子その十

「すぐに返すから」
「うむ、ではな」
「あの、ちょっといい?」
 愛実は茉莉也と狸のやり取りを見ながら狸に対して問うた。
「あんたちょっと他の狸とは違うけれど」
「ふむ、気付いたか」
「だって大きいし」
 最初に指摘したのはその大きさだった。
「それにいい服着てるし」
「特別に仕立ててもらった、京都の西陣織だ」
「お金あるのね」
「あるぞ、祖父さんと同じだけな」
「お祖父さんって?」
「団三郎狸だ」
 四国の狸達の棟梁である、その力は絶大なものだと言われている。
「わしはその孫の団十郎という」
「歌舞伎役者と同じ名前ね」
「祖父さんが好きなのでな」
 その歌舞伎をだというのだ。
「この名前を貰った、いい名前だろう」
「ええ、羨ましい位にね」
「好きな演目は助六だ」
 団十郎狸は演目の好みも話した。
「とはいっても上方歌舞伎が一番だな」
「そっち派なのね」
「四国に生まれ関西に住んでいるからな」
 だからだというのだ、上方歌舞伎が好きである理由は。
「それでじゃ」
「上方歌舞伎派なのね」
「和事はよい、よく九尾の狐さんと歌舞伎の話をする」
「仲いいのね、狐さんとは」
「うむ、同じイヌ科だし変化だしな」
 それでだというのだ。
「いつも仲良く遊んでいるぞ」
「それはいいことね」
「とはいっても狸の社会は狐さん達とは違って試験はない」
「お役人の世界みたいじゃないのね」
「どちらかというと任侠だ」
 そちらになるというのだ。
「江戸時代の賭場やテキ屋みたいな感じだな」
「それってヤクザ屋さんじゃない」
 聖花は賭場やテキ屋と聞いてこう言った。
「賭場とかだと」
「まあそっちに近いのう」
「狸さんの世界ってヤクザ屋さんなの?」
「いやいや、あんなに柄は悪くはない」
 団十郎狸もこのことは否定する。
「間違ってもな」
「そうなのね」
「そうじゃ、わし等はただ集まって遊んでいるだけじゃ」
 それだけだというのだ。
「別に誰かに迷惑をかけたりゆすったりはせん」
「ショバ代とかもなの」
「人間さん達の世界とは違う」
「お金が絡まないからなのね」
「ヤクザ屋さんは金に汚いな」
 人間の世界の話である、そうした裏稼業の世界が金に汚いうえに五月蝿いのはそれにたかって生きているからであろう。
「わし等は遊んでいるだけだからな」
「それじゃあ別に怖いことはないのね」
「うむ、ない」
 それはだというのだ。
「だから安心してくれ」
「だといいけれどね」
「それでじゃが」 
 団十郎狸は話題を変えてきた、お猪口に自分から酒を入れながら。
「あんた達そばは好きか」
「あっ、たぬきそばね」
「それよね」
「そう、狐さん達はうどんでな」
 それでだというのだ。 
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