ソードアートオンライン VIRUS
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黄昏の戦闘
「何でアンタはあの時言い返さなかったの?」
ダイン達が言ったあと、シノンがスコープを覗きながら言った。あの時というと雇い主に傭兵が逆らうな的な会話の時のことだろう。
「ん?ああ、まあ所詮雇われただけだからな。ダインの野郎が俺の意見を飲み込まなくて死んだ時は死んだ時で俺のせいじゃねえし。それに、もう金積まれてるからある程度はあいつの言うことはきかなきゃならないだろ。実際あれだけ言われたら、金返して倒しても良かったんだけどな」
そう言ってヘッドセットをつける。ダインたちがそろそろ指定のポイントに着いたのを確認したからだ。
「まあ、別にアンタはアンタの好きなようにやればいいと私は思うけどね」
シノンもそう言うとヘッドセットをつける。アウラもすでにヘッドセットをつけてスコープで相手の位置を確認している。自分も邪魔にならない位置に移動してダイン達がしっかりとポイントについているか確認するとレシーバーに向けて話す。
「ダイン、こっちは問題なしだ。そっちは?」
『ああ、問題ない。相手の距離を報告してくれ』
「了解。敵のコース、速度ともに変化なし。そちらとの距離は四百。こちらからの距離は千五百」
『……まだ遠いな。アウラ、シノン、その距離から狙えるか?』
「問題なし」
「大丈夫」
二人はダインの問いにそっけなく返すとトリガーに指をかけた。
『よし、狙撃開始』
「了解」
「わかった」
シノンとアウラは互いに自分のターゲットである奴らを狙う。自分の役割は特にないのでただダイン達の周辺で何かないかを確認するぐらいしかない。それと索敵を入れているのでこの周辺に敵がいないかの確認もしている。そして二人の銃口は同時に火を噴いて弾丸が発射された。シノンはそのライフルの威力のためは撃った時の衝撃を踏ん張った両足で堪えている。
自分はその光景を見た後、素早く自分の手に持っている双眼鏡を覗き標的がどうなったかを確認する。
そこには一人は胸から肩、頭部までもが微小のオブジェクトとなっていて消滅している。これはシノンの持っている銃の威力だろう。確か《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》だったような気がする。その武器は、この世界で相当レアな武器らしい。自分は昔はそういうのがわからなかったのでアウラに聞いたとき、同じ狙撃手であるなら喉から手が出るほどほしいらしい、と言っていた。
もう片方は、シノンが撃った標的とは違って派手ではないが、弱点でもある心臓付近を貫いていてかなり大きなダメージを与えていた。こちらはシノンと違って一撃では倒せなかったがこれほど削っておけば後はすぐ近くにいるダイン達が楽に処理できるだろう。
そして、このことで慌ててるであろう敵を見る。案の定一人が死亡、もう一人が大ダメージを受けたことに残りのメンバーは慌てている。だが、マントの大男は違った。その光景を見ても慌てようともせずに撃たれた方向、つまりこちらを見ている。やはり、あいつのほうが不特定因子だったようだ。そう思ったと同時にシノンとアウラの銃口から再び弾丸が発射される。
発射された弾丸は、弾丸予測線の中を真っ直ぐと進んでいく。そして案の定、打たれる場所がわかっている弾をすぐに体を僅かにずらして回避した。それを見ると双眼鏡から目を離して後ろに隠してあるバギーのエンジンをかける。これでもしも戦闘に加担する時にはすぐに出発できる。
「第一目標撃破成功。第二目標失敗」
「以下略」
シノンはすぐにダインに向けて言った。その後をアウラが言うとすぐに応答が帰ってくる。
『了解。アタック開始。ゲツガは遊撃である程度動けるようにしておけ。ゴーゴーゴー!!』
それを合図に地面を蹴って駆け出していく音がかすかに自分の耳に届く。ようやく戦闘が開始したのだ。こちらもダインの次の指示が来るまで同じ場所で待機しておき、双眼鏡で再びあちらがどうなっているかを確認する。
四人がようやく動き出して物陰に姿を隠している。更にダメージを受けたレーザーライフルを持った男も起き上がるとすぐに遮蔽物に隠れるために移動していた。こいつはもう回復するだろうなと考えながら次に大男を見る。大男は丁度自分の迷彩柄のマントを持ち上げるところだった。
「あっ……!!」
「あれは……」
男がマントから姿を見せた時、武器を手にも腰にもなかった。しかし、今までバックパックと思っていたマントのふくらみだった部分に無骨であり、精緻でもある金属オブジェクトがあった。その武器は戦争映画をよく見ている人なら一度は目にした事はある銃、いや、銃というよりも兵器と言ったほうがいいのかもしれない。秒間百発近く撃つことが出来る化け物じみた銃。機関銃、《GE・M134ミニガン》。
「おいおい、ゆっくり来てると思ったらあいつの持ってるミニガンの重量で出せる最高速度に合わせて来てたってことかよ」
苦笑しながら双眼鏡から見えるミニガンを持つ男を見た。大男は右手を背に回してミニガンのハンドルを握ると巨大なその銃はレールをスライドして自分の右側前方に体勢を整えてから構えると今までと違い、獰猛な笑みを浮かべた。
「やべえな」
そう呟くとすぐに双眼鏡の倍率を下げてギンロウと他三人のアタッカーを見る。アタッカーのギンロウたちを抑えようとレーザーブラスターで対抗しているがまだ距離があるため、一メートルぐらいの距離で空間が水面のように波紋を浮かべてレーザーを減衰させる。そしてそのレーザーのお返しとばかりに実弾系の短機関銃から弾丸を飛ばし、岩から乗り出していたブラスター使いの一人とレーザーライフル一人を倒してから更に進んでいく。
それと同時にミニガンを持つ大男もぐっと腰を落とすとミニガンの砲身が回転し始めて、そこから火が吹くとギンロウのアバターが分解され、消滅した。この間、僅かコンマ三秒ほどだ。
「くそが!あれじゃあ不利だろ!」
そう叫ぶとバギーを発進させる。助ける義理はないがあくまで依頼人と傭兵の関係。金を貰っているならそれ相応の仕事をしなければならない。銃を片手にスピードを上げるために、スロットルを煽る。前輪が浮きながらもそのまま後方の車輪が地面でしばらく空回りするが一気に飛び出す。その時に後ろにシノンとアウラ掴まる。
「おい、定員オーバーだぞ!どっちか降りろ!」
「三人乗せても走るでしょ!三人乗せたって私の走る速度よりは早いんだからそのまま発進!!」
「同意!!」
二人はそう言ってそのままアウラが小さい体を自分の体に密着させてその後ろにシノンガギリギリのところに座る。三けつなんて実際は犯罪だからやめたいところだここはゲームだからそんなの関係はない。溜め息を吐いてから後ろの二人にやけくそに言った。
「わーったよ!今出せる最大のスピード出すからしっかりと掴まっとけ!!」
ほんの数秒で交線エリアまで来るとすぐにダイン達を補足すると厚いビルのコンクリート壁にバギーを止めるとシノンたちを下ろして、ダイン達の近くにある遮蔽物に飛び込んだ。その後を追って二人も別々の遮蔽物に隠れる。そしてダインは自分を見てから言う。
「奴ら、用心棒を雇ってやがったんだ」
「野郎だろ、ベヒモス。北大陸を根城にしていて、金はあるが自信のないスコーロドンに雇ってもらっては用心棒の真似事なんかしている。あの銃を見てピンと来た。ったく、めんどくせえ奴を連れてきたもんだぜ」
一度、敵の居場所を確認すると斜め後ろにある遮蔽物に向けて二発の弾丸を撃つ。一発目は壁にめり込み、ニ発目はその銃弾を弾かれて少し先にある遮蔽物に食い込んだ。そして最後にもう一発打ち込むとその二つの埋め込まれた弾丸に弾かれて丁度顔を出したブラスターの一人の肩を貫く。しかし、それでも倒すことは出来なかった。
「で、どうする?」
「そろそろミニガンの残弾が怪しいはずだから残っている全員でアタックすれば派手な掃射はためらうかもしれない。そこを着いて排除するしかない。SMGの二人は左、私とダインは右から回り込んで、アウラとM4はここからバックアップ、ゲツガはバギーに乗って相手の気を引き付ければ何とかなる」
「賛成」
自分がダインに聞くとシノンが案を出す。その案にアウラが賛成する。
「……無理だ、ブラスターだって三人残ってるんだぞ。突っ込んだって防護フィールドが薄くなってダメージが上がる……」
「ブラスターの速射は実弾系ほどのスピードじゃない、半分は避けられる」
「それに人数はこっちが有利だ。多分、ミニガンは機動力のあるバギーに乗っている俺から狙ってくるだろう。その間にブラスターを殲滅できれば勝てる」
「無理だ!突っ込んだってミニガンにずたずたにされるだけだ。それにゲツガにバギー機動力があったってあの弾丸の雨を全弾回避するのは不可能だ。一撃でも食らえばほぼHPが全損するだけ。……残念だが、諦めよう。連中に勝ち誇られるくらいなら、ここでログアウトして……」
リーダーがここまで自暴自棄になって、子供のかんしゃくと変わらない提案を言うと思わなかった。そしてその数秒後更に喚いた。
「なんだよ、ゲームでマジになんなよ!どっちでも一緒だろうが、どうせ突っ込んでも無駄死にするだけ……」
「なら死ね!」
シノンが反射的に叫ぶ。と同時に自分はウィンドウを動かして金をダインに返して言った。
「これで契約は破棄だ。俺はこれからは好きなようにさせてもらう。シノン!作戦をダインを抜かした奴で行くぞ!行けるか?」
「行ける!けど、時間が要る!三秒稼いで!その間に私とアウラで始末する!出来る、アウラ!?」
「問題なし!」
「了解!で、お前らはどうする!?ここで無残に散るか、最後まで抵抗してみるか!早く選べ!」
そう叫ぶと、三人のアタッカーは若干つっかえながらも答える。それを見ると弾道予測線が見えないときを狙って一度後退してバギーを置いているコンクリート壁まで下がるとバギーのエンジンをかけてフルスロットルでバギーを発進させて壁から出る。その音を聞きつけたミニガンは自分を標的にするために砲身をこちらに乱射しながら向けてくる。
「当たるかよ!」
叫んで亜音速で飛び回る銃弾の雨から逃げる。そして、こちらに敵が集中した瞬間に、素早くアウラとシノンが顔を出してこちらに光学銃の銃口を向けていた一人の頭を吹き飛ばし、もう一人は貫かれて消滅する。それに気付いた、残り一人は応戦するためにアウラとシノンの方向に向けてブラスターを連射する。だがすぐに身を潜めていた二人にはそのレーザーは当たらなかった。この隙に、すでに行っている三人が残り一人を片付けてくれるだろうと思っていたが意外にもミニガンがその三人の動きに気付いていたようで一瞬だけ方向を変えて三人に向けて乱射していた。
SMGの二人が被弾して消えたが、もうM4を持った一人は被弾せずにそのまま遮蔽物に隠れているブラスターのところまで辿り着いた。そして遮蔽物で隠れた一瞬、その遮蔽物の奥から鳴り響く実弾系の銃声。これで残りベヒモスだけ、そう思ったが倒れて出てきたのは、M4を持ったパーティーメンバーだった。
そして、生き残ったブラスターは体を出す。だが、持っている物はブラスターではなくミニミ、最初に倒した奴の武器を拾ってそのまま所持していたようだ。それに気付かなかったM4の奴はその銃で撃たれて倒されたようだ。これは完全に予想外。そして、ベヒモスはそれを見ると勝てると確信の笑みを浮かべた。
「早く出てきて蜂の巣になりやがれぇ!!」
自分を狙ってない隙にM500を撃ったが、揺れて安定しないため、狙った場所とはずれて当たる。だがそれでもHPはあまり減っていない。ベヒモスはようやく自分の方に砲身を追いながら乱射する。それにアウラとシノンも応戦しようとするがミニミによって妨害されていて身動きが取れていない。
このままじゃ本当に負ける。そう思ったとき、雄叫びを上げながら一つの影が飛び出した。その影は今まで何もしていなかったダインであり、その手には大型のプラズマグレネードが握られていた。そしてそのまま、線を抜くと同時にようやくそちらにミニミを向けたプレイヤーに打ち抜かれる。だが、すでにダインの手にはプラズマグレネードはなく、ミニミを持っている奴の頭に投げられていた。そして地面に落ちる前に空中で大きな閃光を上げたかと思うと同時に熱風が自分の肌を焦がす。目を一瞬だけ瞑って閃光を避けたおかげで何とか視界は奪われることはなかった。そして、次に目を開けたときはミニミを持った奴のアバターは存在していなかった。
(ナイスガッツだ、ダイン)
ダインに向けて短いエールを送ると残り一人となったベヒモスを倒しにかかろうとする。
ベヒモスは、一人になったことを知ると自分以外に狙いをつけずに僅かにずれながら背を壁に預けて背後からの狙撃を当たらないようにした。
「もう、テメェーだけでも蜂の巣にしてやる!」
後は弾丸がなくなるまで自分を倒そうとすると感じでそのまま砲身を動かして自分を狙う。だが、狙撃がなくとも数はこちらが有利だし、場所さえ移動すれば、狙撃などできる。戦いに慣れているものの追い込まれて視野が狭くなっているのだろう。
「残念だけど俺はそんな状態にはなりたくないんでね」
砂の上を綺麗にドリフトをして、そのままベヒモスに向けて突っ込み始める。
「アホが!もうテメェは終わりだよ!!」
そう言って斜めにベヒモスに進むことによって完全な的になった自分を狙って撃ちまくる。だが自分は破壊されている巨大な柱をそのまま乗り上げると回転して進行方向とは逆方向に飛ぶ。そして見事に着地する。
「俺はどんな道を使うぜ。しかも、そろそろ五百発。お前のミニガンは弾切れだ」
そう呟くと同時に砲身は回転するだけで銃弾は出てこなくなる。それと同時に壁の後ろの柱から二つの人影が銃を構えながら出てくる。もちろん、シノンとアウラだ。走って近づいてきたのだろう。そして二人はベヒモスの頭にライフルの銃口を向けて構える。
「ここはあたしが倒すから」
「譲れない」
「別に誰が倒したっていいだろ。早くやれ」
そう言ったと同時にベヒモスの頭をニ発の銃弾が貫き、ベヒモスをポリゴン片に変えた。
後書き
最後は弾の無駄ェ……
スコーロドンはシノン以外全滅で傭兵のゲツガとアウラだけが生きてました。
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