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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第13話 第二次ダレダン星域会戦


広大な漆黒の海……宇宙。
その中を1隻の白き戦艦が多数の艦影を従えながら航行していた。

戦艦ブリュンヒルデ。

ブリュンヒルト級戦艦の2番艦として建造させたこの艦は、銀河帝国軍宇宙艦隊総旗艦、皇帝御召艦という経歴を経て、現在では皇帝アドルフ1世の妹であるマリナ・フォン・ハプスブルク大将の旗艦となっていた。

さて、そのマリナ・フォン・ハプスブルク大将は8100隻の艦隊を率いてエルデタミア共和国ダレダン星域へと向かっている。

作戦名:三叉槍(トライデント)(アドルフ命名)。

このなんの捻りもない名称の作戦は、ダレダン、ベトラント、レイスナティアの3星域へ同時に侵攻することで、敵に戦力の分散を強いて各個に撃破することを目的としている。

無論、敵が出てくるとは限らないが、ダレダン星系を制圧すればティオジア連星共同体(とエルダテミア共和国)は惑星ヘイルガットに住む民衆を見捨てたと喧伝でき、ベトラント星域のテンボルト要塞の陥落はロアキアの遷都先であるロムウェの喉元に剣先が突きつけられるのと同義。
また、レイスナティア星域は無人星域なので出て来なければそのまま通過してロムウェを突くだけのことである。

「予想に反して戦力を集中してきた場合、即撤退って……まあ、ロアキアがこちらに援軍を回す可能性は無いでしょうけど、あのバカ兄らしい杜撰《ずさん》な作戦よね。」

ブリュンヒルデの艦橋で頬杖をつきながら愚痴るのはマリナ・フォン・ハプスブルク大将。
この艦隊の司令官である。

「ですが、3方面からの侵攻というのは悪い策ではありません。兵力の分散とも言えますが、この作戦は敵にも兵力の分散を強いてますので」

マリナにそう返答したのは、参謀長のベルンハルト・フォン・シュナイダー中将。
かつてメルカッツ提督の副官をしていた人物であった。

「それでも、杜撰なのに変わりはないわ。兄の頭が残念なのもね」

シュナイダーは返答に窮する。
本来なら、いくら妹とはいえ皇帝をバカにした発言は諫めねばならないのだが、アドルフの頭が残念なのは周知の事実なので彼は何も言えなかった。

「そういえば、クナップシュタインがバドエルと戦いたいって意気込んでたようだけど、私の見立てでは同数の兵力ならクナップシュタインに勝ち目は無いわね」

「クナップシュタイン提督とグリルパルツァー上級大将(死後特進)の実力はほぼ互角でしたから、そのご懸念はもっともと思いますが……兵力ではクナップシュタイン艦隊が上回っております。そうそう遅れをとるとは……」

「確かに、兵力差で優位に立っていればクナップシュタインでも勝利を掴めるでしょうけど、数で劣る敵が真正面から挑んで来ると思う? それに、レオーネ・バドエルは連星艦隊の総司令官でしょう? その気になれば1個艦隊ぐらい動かせるでしょうね」

「なるほど……そこは盲点でした」

「まあ、私が叩きつぶせば問題無いわね。レオーネ・バドエル……グリルパルツァーを倒したその手腕、見せてもらおうかしら」

そう言ったマリナの目は、得物を狙う鷹の目であった。


* * *


宇宙暦807年/帝国暦498年 7月19日。
ダレダン星域へと侵入したマリナ艦隊は既に待ち構えていたティオジア軍バドエル艦隊と睨み合う。

ティオジア軍の指揮官バドエルは数多の激戦をくぐり抜けてきた歴戦の勇士であり、帝国軍の司令官であるマリナは実戦経験こそ少ないものの演習やシミュレーション上とはいえ銀河帝国の名立たる名将たちを尽く連破した新進気鋭の天才である。

この両者が今、激突しようとしていた……。

「撃て!」

「ファイエル!」

両軍が睨み合っていた時間はそう長くは無く、直ちに砲撃が開始される。

マリナ艦隊8100隻に対し、バドエル艦隊は7400隻。
艦数ではマリナ艦隊が多少上回るものの、それほど大きな差というわけでもない。

マリナ艦隊は両翼を交互に出してバドエル艦隊の両翼に攻撃を加えるが、バドエルも柔軟に対応し、戦線は早くも膠着状態に陥った。

「そろそろ頃合いかしら、敵の中央に砲火を集中させなさい!」

両翼の動きに気を取られていたバドエル艦隊は、この突然の猛攻に面食らった。

マリナ艦隊による攻勢は6時間に及んだが、それを耐え切ったユリアヌスの防戦能力はやはり群を抜くものがあった。

「中々固いわね。下手に無理押ししても反撃に遭うだけ……ここらが潮時かしらね。全軍、いったん退くわよ」

嵐のような攻撃の後の唐突な撤退行動に、ティオジア軍は唖然と見守るしかなかった。

否、バドエルであれば付いていけたかもしれないが、それを全軍に求めるのは酷な事である。
特に、先程マリナ艦隊の猛攻を支えきり消耗しているユリアヌス分艦隊は逆撃に打って出る余力を残していなかった。

・・・・・

翌20日、再編成を済ませたマリナ艦隊は前日と同様に攻勢を仕掛ける。
しかし、その勢いは前日と比べて明らかに劣っていた。

「んん~? 攻勢を掛けてきた割には積極性に欠けているな……。それに、敵の数が前より少なくねぇか?」

「先日に比べて若干少ないような気はしますが……」

「………そうか、しまった! これは罠だ、伏兵に注意しろ!」

バドエルはマリナの思惑に気付いたが、しかし、少しばかり遅かった。

「右方より敵の新手が出現!!」

「ちっ、遅かったか」

マリナ艦隊の別動隊1000隻がバドエル艦隊右翼のラミン分艦隊へ向け突撃を開始。
側面を突かれたラミン分艦隊は艦列を乱し、マリナ艦隊左翼も攻勢を強めてくる。

「閣下、このままではラミン分艦隊が崩れるのも時間の問題ですぞ」

「分かっている。全艦、最大戦速!」

バドエルは自らの直率部隊で以って、帝国軍別動隊の更に側面を突く。
だが、それすらもマリナの計算の内であった。

「ふふ、やるじゃない。だけど、それも予想済みよ。敵の左翼部隊に攻撃を集中させなさい」

そう言って、マリナはバドエル艦隊左翼に攻勢を加える。

ラミン分艦隊は元より、バドエルの直属隊も出払っている今、カルデン分艦隊を唯一支援可能なのはユリアヌス分艦隊だけである。
だが、ユリアヌス分艦隊は先日の帝国軍の攻勢で消耗しており、マリナの直属部隊から直に圧力を掛けられている現状では支援のしようも無い。

高速艦艇のみで編成されているカルデン分艦隊はその分防御力が弱く、マリナ艦隊の攻勢の前に次々と数を減らしていった。

「ちっ、敵さんもやってくれるぜ!」

「閣下、このままではカルデン中将が」

「ああ、カルデンの部隊を後退させろ」

「しかし、それではユリアヌス隊が半包囲されてしまいます」

「そうなったらなったで、態勢を立て直したカルデン艦隊が襲い掛かるまでだ。ユリアヌスならその間ぐらいは持ち堪えてみせるだろ。それに、敵もかなり陣形が乱れているからな。そのまま分断して各個に撃破するさ」

バドエルの命令に従って、カルデン分艦隊は後方へ退き始める。

「ふーん、敵も思い切った行動にでたわね」

「このまま追撃を行いますか? もしくは中央の敵を半包囲して撃滅するのも可能かと思われますが」

「いえ、追撃を行えば戦線が延び切ってしまうし、敵中央を半包囲しても敵左翼が戻ってくれば逆撃をくらうわ。今回はここまでね」

そう言って、マリナは攻撃を切り上げて部隊を退かせた。

「ふぃ~、なんとか切り抜けたか」

「危ない展開でしたな」

「ああ、ここまで危なかったのは久しぶりだぜ。おそらく、敵は次もカルデン隊を狙ってくるだろうから先に先手を取る。そーゆー訳でおっさん、速攻を頼んだぞ」

『またかよ。だが、任せておけ』

その頃、マリナたちも次の攻撃のための構想を練っていた。

「このまま、防御力に難のある敵左翼を叩いて右から順に潰していくのが良策と思われますが」

「そんなこと敵も想定済みでしょうね。あの部隊は防御力が低い分、機動力が高い。私だったら先手を取って襲撃を掛けるわ」

「では……」

「先ずは右翼の防備を固めることね。その上で敵右翼を砕く」

「右翼ですか?」

「中央もダメ、左もダメなら右しか無いでしょう。前の奇襲での損害も少なくないだろうし。……シュービット中将に連絡を」

「はっ」

旗艦ブリュンヒルデのスクリーンに分艦隊司令のシュービット中将の姿が映し出される。

「シュービット、敵右翼は中々用兵に秀でてるけど、そんな時だからこそあなたの攻撃力が必要なの。あなたの隊は最大戦速で突撃し、敵右翼を砕きなさい!」

『はっ、お任せを』

「上手くいくでしょうか?」

「さあ? それは相手しだいね。レオーネ・バドエル、聞いてたよりも手強い相手だけど……」

戦闘が再開されると、バドエル艦隊左翼のカルデン分艦隊が真っ先に速攻を仕掛けたが、マリナ艦隊右翼が事前に防備を固めていたことにより攻撃は不発に終わる。
だが、流れを掴むという意味ではこの速攻は悪くなかった。

事実、戦局全体の流れはバドエル艦隊に傾きつつある。
しかし、その流れはシュービット中将麾下のマリナ艦隊左翼が攻勢に転じたことで逆向きに転じることになる。

攻勢に強いシュービット艦隊の猛攻にバドエル艦隊右翼は徐々に押され始め、中央のバドエル本隊やユリアヌス隊の支援が必要になったのである。

結果として、マリナ艦隊右翼を攻めていたカルデン分艦隊は一時的に孤立しかけることとなった。

「不味いな、このままでは俺たちだけ孤立しかねん。攻勢を緩めて味方との連携を保て」

今は攻めている立場とはいえ先程の戦闘による損害も大きく、無理に攻勢を継続して孤立してしまえば逆にこちらが撃破されるとの判断である。

が、帝国軍としてはそこに付け込まないという選択はない。

「敵左翼部隊の攻勢が鈍りつつあります」

「そう、今が好機ね。右翼のビューフォート中将の部隊に反転攻勢を掛けるよう伝達しなさい」

「この気に敵左翼も潰すつもりですか?」

「もちろん、勢いの止まった高速部隊なんて唯の的よ」

マリナの言葉通り、スクリーンの向こうではカルデン分艦隊は反転攻勢に移ったビューフォート隊の前に為す術なく打ちのめされていた。

「思ったより順調そうね。どうせならこのまま中央も砕いてしまおうかしら?」

「しかし、敵中央を担当している部隊の指揮官はミュラー提督に匹敵するほどのやり手です。容易に崩せるとは思えません」

「でしょうね、だから『アレ』を使うわ。こんな時の為に兄に言って無理やり配備させたんだから」

「なるほど……そう言えばアドルフ陛下も多用しておられましたな」

「兄の二番煎じってのが気に入らないけど……あれは確かに有効な戦術よ。さすがの私もあれを初見で見切るのは不可能だわ」

「その点からすれば、ヤン・ウェンリーは化け物ですね」

「艦隊の僅かな動きの変化からあれを察知して損害を最小限に止めるなんて人間技じゃないわ。『魔術師』の異名は伊達じゃ無いってことね。それに、シミュレーションとはいえ私が勝てなかった唯一の人物よ」

ブリュンヒルデの艦橋でそのような会話が為されている間にも、戦況は刻一刻と変化する。

急激な変化は、マリナ艦隊のアースグリム級戦艦マツシマ、ハシダテ、イツクシマの艦首にある主砲から極太のビームが発射されたことによって起こった。

『敵の攻撃激しく戦線の維持不可能』

『アルラン隊壊滅! 我が隊も敵の攻撃を受け被害甚大、救援を請う!』

旗艦ザッフィーロの艦橋に凶報が相次いで入ってくる。
そのいずれもが、自軍の劣勢を伝えるものだ。

「ユリアヌス隊の被害甚大!」

「カルデン隊、ラミン隊も押されています!」

「敵全軍、更に前進してきます! このままでは敵の攻勢を防ぎきれません!」

「……両翼を後退させろ」

「はっ?」

「両翼を後退させろと言ったんだ」

「しかし!」

「俺に考えがある……」

・・・・・・

「ふふ、かなり手間取ったけど。これでチェックメイトかしら」

「中央がまだ持ち堪えていますが、敵の全面崩壊も時間の問題でしょう」

「そうね………」

この時、マリナは何かを感じた。
それが何なのかはマリナ自身にも分からない、得体の知れない感覚であった。

「えっ!? これは……」

気を取り直して、スクリーンに目をやったマリナは絶句する。
いつの間にか、バドエル艦隊の陣形が紡錘陣形へと変化していたのである。

バドエルは両翼をただ単に後ろに後退させるのではなく、中央寄りに斜めに後退させることでマリナに気づかれずに紡錘陣形を構築したのであった。

「よし、このまま中央突破だ! 全艦突入しろ!」

バドエル艦隊が一纏まりになって突撃してくる。

マリナ艦隊は各部隊がバラバラに追撃していた為、これを阻止するだけの重陣を形成するのは不可能だ。

「くっ、この勢いを押し止めるのは無理ね……道を空けて敵の勢いを受け流しなさい」

マリナは敢えて突破させることで被害を押さえることにした。
無理に立ちはだかったところで止められないのなら、止めないというのも一つの手である。

「まさかあの状態から中央突破へともっていくとは……」

「………三度目のぶつかり合いが引き分けに終わった以上、これ以上の継戦は無意味ね。全軍に撤退命令を出しなさい」

かくして、ダレダン星域における二度目の会戦は終了した。

マリナとしては無理に勝利に拘る意味も無く、バドエルとしても撤退する帝国軍を無理に追撃する意味は無かった。

ロアキアへの帰途の途中、ブリュンヒルデの艦橋でマリナは一言つぶやく。

「レオーネ・バドエル……あなたの名前は忘れない。次は叩き潰してあげるわ」





==後日談==

第二次ダレダン星域会戦の結果を聞いたアドルフが連絡を入れてモニター先のマリナを『何、引き分け? m9(^Д^)プギャーwwwwww』と態々からかっていた。

それを黙って聞くマリナ。
しかし、後ろで握られていた拳はプルプルと震えている。

次にアドルフとマリナの兄妹が直接対面する時……その日がアドルフの命日であった。
 
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