万華鏡
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第三十九話 読書感想文その六
「堅苦しい作品多いよな」
「というかそういう作品ばかりよね」
景子も言う。
「教科書っていうせいか」
「谷崎も教科書に出るけれど」
彩夏も話の中に入って来た。
「何か真面目な感じよね」
「実際は違うのよ」
里香は琴乃以外の三人にも話した。
「谷崎は耽美でね」
「それじゃあ教科書の作品は」
「真面目な感じの作品をあえて選んだのよ」
それで載せているというのだ。
「教科書ではね」
「そうなのね」
「そう、どの作家もね」
谷崎だけではないというのだ、教科書に載せる場合はだ。
「真面目な作品ばかり選んでるから」
「じゃあ織田作之助も?」
琴乃は美食倶楽部があった本に一緒に載っていたこの作家の作品のことを問うた。
「犬そっくりの顔の忍者の先生が出て来る」
「あっ、そういう作品もね」
「載らないのね」
「そうなの、どうしてもね」
「あの作品も読んだけれど」
美食倶楽部だけではなかった、琴乃が読んだ作品は。
「面白いのに」
「教科書に求められるのは面白さじゃないの」
「勉強になるかどうかなの」
「そう、それね」
まさにそれだというのだ。
「教科書だからね」
「ううん、そうなの」
「そう、面白い作品じゃなくて」
勉強になるかどうかだというのだ。
「だからそこは諦めてね」
「勉強するしかないのね」
「まあ。作品は選ばれてるから」
「どう選ばれてるの?」
「勉強になるだけじゃなくて」
それ以外にもだというのだ。
「その作家の代表作、いい作品も選ばれてるから」
「そうなのね」
「だから教科書っていってもね」
つまらないかというと、違うというのだ。
「やっぱりためにはなるのよ」
「否定はしなくていいのね」
「それはしなくてね」
いいとだ、里香は四人に言った。
「むしろそのまま素直に読んでいいから」
「いいから。ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「教科書の作品は刺激的なものはないから」
谷崎の多くの作品にある様なそれはだというのだ。
「そこはちゃんと踏まえてね」
「読んでいってなのね」
「そうしていくのね」
「そう、じゃあ琴乃ちゃんも無事読書感想文を書けたし」
笑顔の琴乃を見ての言葉だ。
「二学期を幸せに迎えられるわね」
「ええ、本当にほっとしてるわ」
心からだ、琴乃は喜んでいた。
それでだ、琴乃はこうも言った。
「今日の部活も心配なく過ごせるわ」
「夏休みの宿題が全部終わったから」
「そう、ほっとしてね」
こう彩夏にも言う、その笑顔で。
「よかったわ、じゃあね」
「部活もね」
「何の気兼ねもなく楽しめるわ」
それだけ夏休みの宿題が終わったことが嬉しかったのだ。それで琴乃は残り少ない夏休みを楽しむことにした、だが。
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