クラディールに憑依しました
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それぞれ動き出しました
俺はキリトを連れて最前線の転移門広場に来ていた。
「――――仕事って言うのは?」
「コレはアルゴに金を渡して調べさせた、ビーストテイマーに関するクエストのレポートだ」
メニューから操作して調査報告の一覧をキリトに送る。
「報告の一番下を見ろ」
「…………――――――思い出の丘!? 死んだ使い魔が復活できるのか!?」
「NPCからの情報だ、間違いないだろう――――ただし」
「――――ただし?」
「その場所は次の階層だ、それも制限時間が何時までなのかが分からない。一日か一週間か一ヶ月か……」
「なるべく早い方が良いって事か」
「そのとおり――――まずはボス攻略――――その前に、遅れた分のレベル上げをやって貰うぞ」
「――――わかった」
………………
…………
……
第三十五層、迷いの森。
「あの、リズベットさん。一体何処まで行くんですか?」
「もう少しよ、この次のフィールドね」
リズがケイタ、テツオ、ササマル、ダッカーを案内した場所は、大勢のプレイヤーと怒号が飛び交っていた。
「オラァ! どうしたッ!! その程度でへばってんじゃねぇぞッ!!」
「…………あの、リズベットさん? 此処は?」
「此処はね、攻略組予備軍――――中層プレイヤー育成所って所ね、あ――――エギルー!」
リズが手を振った先で、巨大な影が動いた。さっきから全員に檄を飛ばしていた男だ。
「おう! リズ、連れてきたのか、そいつらがそうか?」
「ええ、タップリと仕込んでやって――――こっちはエギル、攻略組の一人よ此処の責任者って所かしら」
「オレは武器やアイテムの売買もやってるからよ、ご利用の際はよろしく頼む。色も付けとくぜ」
「精々ぼったくられないように気を付けなさい」
「おいおい、ウチは安く仕入れて安く売捌くのがモットーなんだ、言掛かりは止めてもらおうか」
「どうだかねー」
「あの、俺達は一体此処で何をすれば?」
「キリトが抜けて、狩場の適正も何も知らないでしょ? サチから話を聞く限り、此処で経験を積むのが一番だと思ってね」
「それじゃあ、俺達は?」
「此処で適正のある武器の選別とか、効率的な狩りの方法とか、そういうのを習って、いつかは――――攻略組に成れるかもね」
「俺達が……攻略組に……?」
「あ、そうそう、大事なこと忘れてたわ――――はい、コレ」
リズがメニューを操作して片手剣と大盾をケイタに渡した。
「――――これは?」
「あいつから――――クラディールからの伝言よ『本当に仲間を守りたいなら、棍を捨てて自分で守って見せろ』って。
まあ、他人に指図されるのが嫌なら、聞かなかった事にして売り払うと良いわ」
「――――あの、伝言お願いします。俺、上手く出来るか分らないけどやってみます、自分の手でみんなを守れるように」
「そっか、がんばってね」
「――はい」
………………
…………
……
最前線、血盟騎士団のギルドホームではサチの引越しが行われていた。
その片隅で、シリカはアイテムストレージを眺めている。
『ピナの心』そのアイテムは、あのトラップでシリカの代わりに散った――――ピナの羽だった。
「あたしを一人にしないでよ…………ピナ」
………………
…………
……
「コレでサチの荷物は全部?」
「うん。元々荷物は少なかったから、手伝ってくれてありがとう、アスナ」
「…………本当に血盟騎士団に入って良かったの? シリカちゃんはしっかりお仕事してたから、今はする事が無いのに」
「何て言ったら良いのか…………私も今回の事が良い機会だと思ってるから」
「良い機会?」
「うん。私はずっと月夜の黒猫団に、キリトに頼りっきりだったから――――自分から変わるなら此処かなって。
弱い自分に泣くのも――――もう変えられないんだ、涙が枯れても、ずっとこのままなんだって諦めてたの。
だから、この変化は、私にとっては良い機会だって思う事にしたの」
「――――そっか、一緒にがんばろうねサチ」
「うん。臨時職員だけどね」
「サチさえ良ければずっと居て良いんだよ?」
「………………それは――――どうかな? 此処まで一緒にやって来たし、もう少し考えさせて」
「――――うん。ゆっくりで良いから、今は――――血盟騎士団のユニフォームを着ましょう」
「――え?」
「ほら、規則規則。更衣室に一名様ご案内ー!」
「え!? ちょっと!? アスナ!?」
「着替えたら直ぐにお仕事教えてあげるから――――わたしも迷宮区に戻らないといけないし」
「――! それが本音!?」
暫くして、白の赤のラインの入ったユニフォームに着替えたサチとアスナが更衣室から出てきた。
「うんうん、よく似合ってるよサチ」
「そうかな?」
「後でみんなに見せて感想を聞かないとね」
「…………それはちょっと遠慮したい……かな」
「まあまあ、凄く似合ってるから、絶対大丈夫」
「うー。あんまりからかわないで」
「ごめんね――――これから事務の人を紹介するから」
アスナがサチを連れて訪れた部屋には、大量に山積みされた紙が所狭しと机や床を埋めていた。
「…………アスナ、今やる仕事は無いって言ってたよね?」
「うん…………その筈なんだけど……?」
「いやー、おおきにおおきに!!」
丸顔の男が山積みされた紙の奥から出てきた。
「ダイゼンさん。この紙の山は何ですか?」
「いやー、洒落にならん記載ミスがありましてな、全部ひっくり返してるとこですわ。
――――あれですなぁ、その子がクラディールが言ってた新しく入った?」
「はい、サチと言います。よろしくお願いします」
「丁寧なお辞儀。しっかりした子です――――助かりますなぁ」
「…………それじゃあ、ダイゼンさん。わたしは迷宮区に戻るので後はよろしく」
ビシっ! っと敬礼してアスナは神速で逃げ出した。
「ええッ!? アスナ!? アスナー!?」
遠くに聞こえるサチの悲鳴を聞きながらアスナは走り続けた。
「――――がんばってね、サチ。わたしも、わたしに出来る事をがんばるから――――」
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